【一般区分】 ◆佳作 吉澤 正浩(よしざわ まさひろ)
障がい者に対する関心吉澤 正浩(大阪市)
自分自身に障がいがあることに気づくまで、私は障がい者に無関心でした。
ところが、接客業の仕事に就職し、しばらく経過したころ、上司や同僚からいろいろと言われるようになりました。その内容は、ミスをして怒られている時に、周りや時間を気にしてしまうこと、苦手なことから逃げること、報告・連絡すべきことをしなかったりしたことです。周りからは変わった目で見られ、何年たっても成長していないと呆れられ、自分でもどうしたら良いか分からず悩みました。
そんな時、ある同僚が「もしかしたら…」と、精神科があるクリニックに行ってみることを勧めてくれました。診断の結果、私には障がいがあることがわかりました。障がい名は自閉症スペクトラム障がい。発達障がいの一種です。
私の場合の具体的な症状として、周りの音に過敏に反応してしまい集中力が続かないこと、忘れ物が多いこと、段取り良くできないこと、相手にまとめて説明するのが苦手なことなどがあげられます。
その後しばらく仕事を続けていましたが、改善できず退職することにしました。
退職してから意識が大きく変わりました。それは、障がい者に対して無関心ではいられなくなったことです。外出時に見かけた時は、「何とかしてあげたい」と全然知らない他人でさえ思うようになりました。
その後私は就労移行の訓練を受け始めました。二度と失敗したくないという思いから、苦手なことや自身の課題に対して、積極的に取り組みたいと思ったからです。
その中で特に取り組まないといけない課題が二つあります。一つは周りの音に過敏に反応してしまい集中力が続かないこと、もう一つは話をまとめて相手に伝えることです。特に難しかったのは話をまとめて相手に伝えることで、当時の自分には改善できる自信はありませんでした。そんな自分を変えなければという思いはあったものの、改善方法が分からず苦しんでいました。
訓練が進み、自分と同じように通所されている方と何気なく会話をしていく中で、ヒントが見つかりました。自分の課題を克服し、今度は困っている障がい者の相談に乗ってあげたいと目標が決まったのです。目標が決まると、そういう仕事に就きたいという気持ちも沸いてきました。
目標に近づくためにも、まずは自身の課題を改善する必要があります。そこで一歩踏み出す決意をしました。
就労移行の担当の方から、私の課題である二つの課題に対しての改善方法を具体的に教えて頂き、少しずつ行動しました。集中力を高める訓練に積極的に取り組み、相手へ何かを伝える時には内容をまとめてから話すように心掛けました。
訓練開始から一年が経った頃、就職活動を始めて最初に面接を受けた会社から思いがけず内定をいただくことができました。しかし、希望の職種とは少し違ったので、辞退も考えました。ところが、就職活動をサポートしてくださった移行事業所の担当者から、その内定を頂いた会社の面接担当者や他の従業員の方々が、私を高評価してくださっていることを聞きました。求めてくださっている所へ行く。これも一つの縁ですよ。と背中を押され、私はこの会社の戦力になりたい、という思いに至りました。
その会社は障がい者特例子会社で、障がいのある従業員が多く、お互いが配慮をしないといけないという雰囲気の会社です。そういう点において、私が当初希望していた職種と遠くはない環境・仕事かもしれません。
入社後は、同僚や上司の丁寧な指導もあり、職場の雰囲気にもすぐに慣れ、自身の成長を実感でき、充実した毎日を過ごすことができています。
働いていくうちに、自身で気づいたことや、上司からの発言で気づかされることがいくつかあります。
ある日上司から「吉澤君は周りの人の変化によく気が付くね」と言われました。以前の私の課題である「周りの音に過敏に反応してしまう」ことが、急に長所になって私の目の前に現れた瞬間でした。敏感だからこそ逆に人よりも早く周りに反応できる。以前は短所と思ったことが、一転して長所になるという考え方もあるのかと気づかされました。
次に、職場ではいろいろな性格、症状の人がおられますので、関心を持って日常的に観察をしてその人に合った接し方をした方が良い、と気付きました。例えば、きつく言うと落ち込む人に対して、優しい声掛けをすること、たくさん指示されると焦ってパニックになる人に対して、落ち着いて作業を行うよう声掛けすることなどを実践しています。
職場を通して実践を続けるのと並行し、私は、メンタルヘルス・マネジメント検定の勉強を始めました。目的は、メンタル不調で困っている人のサポートをして、何かお役に立ちたいからです。その為にも自分の考え方や気付きだけではなく、資格という客観的な学びも得たいと思いました。
振り返ると、私は前職を退職したのはただ障がいのせいだと思っていましたが、そうではなく、仕事に対して前向きではなかったのかもしれません。私には障がいがありますが、今の会社では、日々前向きな自分を感じます。どのような業務内容であっても、多忙な日であっても毎日が楽しいです。仕事に対する物事の考え方も大きく変わりました。
これからも人様に関心を持つことを忘れず、メンタルヘルスマネジメントの学習と自分なりの実践を続け、微力でも障がいのある人の何かしらのお役に立ちたいと思います。