【高校生区分】 ◆佳作 大島 爽楽(おおしま そら)

視覚障がい者との交流を通して大島 爽楽(栃木県立宇都宮中央女子高等学校3年 栃木県)

私が視覚障がい者の方と初めて話したのは高校一年生の時だ。バスを待っていると、視覚障がいを持った男性が大きな声で、「この列の最後尾はどこですか。」と言いながら歩いてきた。初めはきっと誰かが手を貸すだろうと思い黙っていた。しかし誰も声をかける様子もなく、柱にぶつかる男性を見ているだけだった。私は居ても立ってもいられなくなり、男性に声をかけた。「ここで大丈夫ですよ。」私は男性を自分の前に導き無事バスに乗ることができた。声をかけた直後は親切をしたと思い誇らしい気がしたが、何度も思い返しているうちに自分の行動は正しかったのかと疑問が生まれた。男性は列の最後尾に並ぼうとしていたのに、私は長い列を無視して前の方にいた自分のところへ導いてしまったからだ。私はその男性にも列に並んでいた人にも、とても申し訳ない気持ちになった。私は心のどこかで、障がいを持った人だから前に並んでも大丈夫だろうと思っていた。それから何度かその男性を見かけたが、何もできずに誰かが声をかけるのを横目で見ているだけになってしまった。視覚障がい者の方とどう関わればよいかわからなかった。

そんな私に視覚障がい者の方と交流する機会が巡ってきたのは高校三年生の五月頃。盲学校の体育祭でのボランティアに参加した。その盲学校には小学生から高校生までが通っていて、全盲の人や少しだけ見える人などさまざまな視覚障がい者の方がいた。初めに職員の方から生徒の方と関わる際の注意事項を教えてもらった。手引きの仕方や声のかけ方、近づき方など私たちが当たり前にしていることにも注意が必要だった。

実際に盲学校の生徒と交流してみると思っていたよりもうまくコミュニケーションをとることができなかった。私が一番苦労したのは、こそあど言葉が使えないことだった。「そこに石があるから危ないよ。そっちは暑いよ。」この表現では、視覚障がい者の方には何も伝わらない。「右手側に石があるよ。もっと左手側にいた方が涼しいよ。」と、具体的な方向を伝えなければならない。

このボランティアでは、生徒の方と一緒に障害物競走もした。私はここでもまた抽象的な言葉が使えないことに苦労した。低いビニールテープをくぐり、ハードルを飛びお玉でボールを運ぶ流れだったのだが、まずこれらが何メートル間隔くらいで設置されているのかを説明する必要があった。私たちが普段生活している中で、物と物の間隔をメートル単位で表すことはまずないだろう。たいていは「あと少しだよ。結構遠いかもね。」など曖昧な表現を用いる。この曖昧な表現は視覚障がい者の方を困らせることにもなると身をもって体感した。実際、私はこの障害物競走を同い年の女の子と走った。次の障害物まであと何メートルか伝えながら走るのは大変でもあったが、互いに息を合わせることができ楽しかった。一緒に走った女の子も、ビニールテープに引っかかったり、お玉からボールを落としてしまったりしたけれど終始笑顔でいてくれた。私は体育祭が終わる頃には、具体的な言葉を用いて生徒のみんなとコミュニケーションがとれるようになっていた。

この一日を通して私は自分自身のコミュニケーションの仕方にある癖があることに気がついた。それはいかに自分が思っていることを言葉ではなく表情で語っているかということだ。私はもともと人見知りで初対面の人と話す時、どうしてもうまく言葉が出ず表情で相手に汲み取ってもらうことが多かったかもしれない。私は全盲の少年と話す時それを感じた。面白いなら面白い、悲しいなら悲しいと自分の思いをきちんと伝えなければならなかった。

私は盲学校で視覚障がいの生徒や先生と交流することで多くのことを学ぶことができたと思う。特に自分の中で大きく考え方が変わったことがある。それは、視覚障がいの方に対する考え方だ。今までは横目で見て、大変そうだな、かわいそうだなと偏った考えをしていた。しかし、盲学校の生徒と一日一緒に過ごしてみて、そうではないと気がついた。彼らは、自分でできることは自分でするし、できないことは誰かに頼る。私は彼らと話していて本当に楽しかったし、一度もかわいそうだなんて思わなかった。むしろ人見知りしている私を気遣ってくれ、うまくサポートできなくても何事もなかったように接してくれた。逆に健常者のサポートの必要性も感じた。それはかわいそうだからではない。私は実際に盲学校で目隠しをして走ってみたが、想像以上に怖くてなかなか進めなかった。この状況で一人で人混みを歩くことは、視覚障がいの方もやはり怖いのではないかと思う。彼らが声を上げる時は本当に助けが必要な時だ。その時こそ、私たち健常者がサポートするべきだ。

私は今度、視覚障がい者の方がサポートを求めていたら、積極的に手を差し伸べたいと思う。盲学校でのボランティアを経験した自分にしかない知識を生かしたい。もしバス停で出会った男性にもう一度声をかけられたら、「手引きしますか?」と言いたいと思う。健常者と障がい者が互いに協力できる社会になることを願う。