【中学生区分】 ◆佳作 江藤 海輝(えとう みきあ)
優子ちゃん江藤 海輝(宮崎県立都城泉ヶ丘高等学校附属中学校1年 宮崎県)
「おはよう」
優子ちゃんは、毎朝明るい笑顔と優しい声であいさつしてくれる。優子ちゃんのその声を聞くと、一日頑張ろう、と思える。
優子ちゃんは父の妹で、隣に住んでいる僕の叔母だ。生まれたときから知的障がいがある。知的障がい。調べてみるとこう説明されていた。「精神の発達が停止、あるいは不全の状態で、認知や言語、運動、社会的能力に障害があること。」文字にすると、とても大変なことのように思えてしまう。でも、優子ちゃんと毎日接していると、優子ちゃんは優子ちゃんであり、説明とはちょっと違う。
優子ちゃんは、言葉でうまく伝えることがちょっと苦手だ。何か伝えたいことはあるのだろうけれど、言葉がうまくつながらない。そんなときは、黙ってしまう。でも、そんなときは周りが少しだけ想像力を働かせればいい。ああ、優子ちゃんはこんなことが言いたいのかな、優子ちゃんはこう思っているのかな、って想像する。そんなときは優子ちゃんのことをよく見ようとするので、かえってつながっているような気持ちになって、いい。
逆に優子ちゃんが得意なことがある。それは洗い物や洗濯等の家事全般。中学一年の僕は、優子ちゃんにはるかに及ばない。ときどきお世話になっている。もう一つ、優子ちゃんの特技がある。電話番号を覚えること。「さっき言った電話番号は何だったっけ?」と優子ちゃんの前で言えば、それはすぐに解決する。一度耳にしたら、電話番号を正確に覚えている。これは本当にすごいと思う。
「優子ちゃんが妹でいやな思いをした?」と父に聞くと、やはり子どもの頃には周りからいやなことを言われたこともあったみたいだ。口の悪い人もいるから、大変なこともあっただろう。でも、父はとても優子ちゃんを大切にしている。父にとっては優子ちゃんはかけがえのない妹なんだろうな。
優子ちゃんは仕事にも行っている。地元の餃子屋さん。夏は、真っ黒に日焼けし、冬はマフラーを巻いて毎朝自転車をこいでいる姿は、とても逞しい。晴れても雨でも曇りでも、元気に仕事に出かけていく。雨が降っていたらすぐに親に頼ってしまう僕は、恥ずかしい気持ちになる。
中学生になった僕はバスケットボール部に入部した。日々練習が続くが、シュートを外すと、つい「しまった」という思いが顔に出てしまうため、先生から注意を受けることがある。そこは優子ちゃんを見習いたいところだ。優子ちゃんは仕事で疲れていても僕たちの前では絶対に顔に出さない。むしろまるでよいことがあったかのように笑っている。言葉でうまく伝えられない優子ちゃんは、きっと今までたくさんの辛いことを、この笑顔で乗り越えてきたのだろう。僕の小学校の運動会を六年間見に来てくれて、いつも静かに笑顔で応援してくれた。一緒に夕食を食べるときは、いつにも増して嬉しそうな笑顔で鼻歌を歌う。そして、僕が具合が悪いときはとても心配してくれる。よくなったと聞けば、一転、満面の笑顔だ。優子ちゃんの名前のとおり、心が美しく、優しい。
優子ちゃんは障がい者だ。だが、僕が学ばなければならない素晴らしい点もいっぱいもっている。障がい者も健常者も、できること、できないことがそれぞれあるのだから、自分と違うとか、自分より苦手なことが多いといった理由で、差別したり仲間はずれにしたりするのは間違いだと思う。逆に、互いを認め合う、そんな社会になってほしい。
僕は優子ちゃんの笑顔から勇気をもらった。人を勇気づけるのに、たくさんの言葉はいらないことを学んだ。さあ、今日も笑顔であいさつしよう。優子ちゃんも僕も、今日一日を頑張って、気持ちの佳い日を過ごすために。