【中学生区分】 ◆佳作 湯澤 杏夏(ゆざわ きょうか)
よりよい未来社会に向かって湯澤 杏夏(宇都宮短期大学附属中学校3年 栃木県)
彼と初めて出会ったのは小学一年生の時でした。母に手を引かれて歩いていた入学式、私の前にいたのは、私が今まで何の抵抗もなく行ってきた「歩く」という動作に奮闘する一人の男の子でした。彼のことは少し気にはしていたものの、別々のクラスになり、初めに担任の先生から「隣のクラスに義足をつけているお友達がいます。皆、仲良くしてあげてくださいね。」と声を掛けられただけで、時々見かけることはあっても、これといった接点はなく、二年が過ぎていきました。
そんな彼との交流が生まれたのは小学三年生の時からです。私たちの学校は、在籍数の関係で、三年次から一クラスになりました。その為、今まで話したことがなかった人とも言葉を交わすようになりました。そして、彼とも席が近くになり、話す機会が訪れたのです。何気なく話していた私達。しかし、その時、何だか妙な冷たい視線を感じたのです。彼とのおしゃべりが終わると、友人に呼ばれました。そしてその友人が発した言葉に私は心底驚きました。「大丈夫だった?」友人は確かにそう言ったのです。続けて彼の難点や彼に対するマイナスのイメージを次々に訴えてきたのです。「何でそう思ったの。」と聞くと「分からないけど、皆が言っているから。」という答えが返ってきました。そう、その友人は、誰かから広まった噂を信じ、彼に理由もなく、偏見の目を向けていたのです。
しかし、時を経て、段々と彼の良さに周囲が気付き始め、次第に仲良くなり、クラスの団結力もより強まっていきました。私が彼の良さを特に感じたのは、小学六年生の時に一緒に活動した「清掃班」での出来事です。私は、一年間一緒に過ごす下級生をまとめることに一抹の不安を感じていました。しかし、そんな不安を抱いていたことを忘れてしまうくらい、その年は、助け、助けられ、絆を深める一年となりました。清掃班では、私が班長、彼は副班長として活動しました。彼は私が目につかないようなところにも気を配ってくれました。私が一年生への対応で精一杯になっていた時、彼は他のメンバーが怪我をしていることにいち早く気付き、保健室に連れていってくれたのです。私はそれからも、彼の大局観に立ったものの見方、臨機応変に対応する力、そして優しさに何度も救われました。また、自分のハンディキャップをものともせず、車椅子バスケットボールチームに所属するなど、彼の積極性、行動力にも感化されました。
さて、私の小学校では、障害者の方々と接する機会が多くありました。全盲の方の講話を聞いたり、盲導犬と触れ合ったりしました。また、難聴の方による手話の教室にも参加しました。どの活動もとても貴重な経験であり、福祉の意味について考える良いきっかけになりました。日本では、平成二十八年に「障害者差別解消法」が施行されるなど、近年障害者の方々への関心が高くなっており、国全体で福祉の体制の改善に向けて努力しているように思います。しかし、講師の方々は、どうしても私達健常者との間に壁を感じると口々におっしゃっていました。確かに、一部ではありますが、障害者の方に対して偏見を持っている人もいます。国全体では意識の改革を望んでいても、一人ひとりが変わらなければ、改善には結び付かないのです。
人は誰でも短所を持っています。しかし、それ以上に長所にあふれています。もしその人に長所がないと考えているのであれば、それはまだ見つけられていないだけ、見いだせていないだけなのです。人はどうしてもその人の短所ばかりに注目しがちですが、だからこそ互いにそれを補い、相手を尊重し合うことが大切なのです。そうすることで世界の調和が実現できると信じています。私は、誰もが自分らしさを発揮でき、安心して過ごせる未来社会を築いていくために努力することを誓います。