【小学生区分】 ◆佳作 田澤 康成(たざわ やすなり)

まほうの笑顔田澤 康成(横浜市立西本郷小学校6年 横浜市)

言葉が出ない。頭にうかんでいるのに、つまって声にならない。どうしよう・・・。

このような経験をしたことがある人は、多くはないと思う。「難発性吃音」の症状だ。「吃音」という言葉は聞きなれない人も多いと思うが、一般的には「どもり」とも言われる。吃音の発生率は人口の一%と言われている。吃音にも種類があり、その中で最初の一音が出ないタイプが「難発性吃音」だ。

ぼくのいとこには知的障がいがあり、どもりもある。とても明るい性格で、人と接するのが好きで、おしゃべりも大好きなのに、最初の言葉がつまる。ぼくにとっては物心ついた頃からいとこが側にいたので、障がいについては特別な事ではなく、どもりについてもいとこの個性と感じ、違和感を覚える事はなかった。

しかし、社会では違った。学校では、どもりをまねされ、いじめられた。電車の中では話好きないとこのどもりに視線を感じる。

それでも、いとこはいつも笑顔だ。言葉が出ない事に苦しんでいるだろうし、たくさんつらい思いをしているはずなのに、いつも笑顔なのだ。競ったり、うらやんだり、にくしんだりすることなく、誰よりもきれいな心をもち、決して人を傷つけることはない。いじめた事を謝りに来た友達にも、いつもの笑顔で「いいよ。」と仲直りしていた。

ぼく自身が落ちこんだり、悲しんだりしている時も、いつも変わらぬ笑顔で側にいて、「大丈夫だよ。」となぐさめてくれるので、自然といやされ、笑顔がもどった。

「この世界の共通言語は英語じゃなくて笑顔だと思う。」これは、「福笑い」という歌の歌詞の一節だ。まさにいとこの笑顔は、障がいもどもりも関係ない、共通言語なのだ。みんなを笑顔にさせるまほうの笑顔と言えるだろう。笑顔があれば必ず通じ合える。そう信じて、そんなまほうの笑顔を持ついとこを誇りに思う。

社会の授業で、基本的人権の尊重について習った。その中には、差別されない権利、すなわち平等権がある。いとこのように、障がいがあっても、その存在に、その変わらぬ笑顔に、きれいな心に、ぼくたちが助けられることがある。だから、障がいがあるというだけで差別されない、互いの事を認めあい共に生きる社会になるよう、ぼくは心から願っている。