【高校生区分】 ◆優秀賞 奥田 千華(おくだ ちか)

ひよこのストラップ奥田 千華(関西創価高等学校2年 大阪市)

「帰りたい。」これは障害者施設に入った瞬間思ったこと。

一学期、廊下の掲示板に福祉の職場体験のポスターが貼ってあった。参加してみたくて、担当の先生のところに行った。「君ひとりやわ、申し込んだん。」と言われた。職場体験の受け入れ一覧表を見ていると、デイサービスがほとんどだったが、障害者施設もあった。公立の小学校には青空教室というものがあるが、私は私立の小学校に通っていたし、家族にも親戚にも障害者はいない。だから今まで障害者と関わったことがなかった。私は看護師になりたい。障害者と関わることがいつかあるだろう。そう思い、私は夏休みに障害者施設に行くことにした。

申し込んでしばらくすると私を受け入れてくれる施設から電話があった。「駅からだいぶん距離があるので車で駅まで迎えに行きます。」この時は親切だな、しか思っていなかった。なぜ駅から遠いのか。この理由は職員さんが迎えに来てくれた時に知った。「一般の人が嫌がるから山奥にあるんですよ。最近ちょっとずつそうでもなくなってきてるみたいですけどちょい昔に建てられた障害者施設はみんな山奥ですね。」と悲しそうに笑いながら教えてくれた。

車で十五分くらいで施設についた。私が体験した施設は男性二十名、女性十五名、定員三十五名で年齢層は広かった。内職をしている人、ビーズ遊びをしている人、編み物をしている人、いろんな人がいた。私は利用者さんとビーズ遊びをした。そうすると、ひとりの利用者さんが私のところに歩いてきた。がしっ。首を掴まれた。すぐに職員さんが「ダメでしょー。」と言って、利用者を元にいたところに連れて行った。お昼ごはんの時間が近づき、利用者さんが手を洗った後に、ハンカチを渡すことを頼まれた。どうぞ、そう渡した時、がしっ。次は肩を掴まれた。またすぐに職員さんが、「はい行くよー。」と言って、食堂に連れて行った。私も利用者さんと同じご飯をいただいた。だけど、全然食べられなかった。緊張しすぎて、ご飯が喉を通らなかった。ご飯を終えると、利用者さんがいる部屋に行って、またビーズ遊びをしようと思い、廊下を移動していると、後ろに気配を感じて振り返った。私のことを追いかけている利用者さんがいた。びっくりした。「おねえちゃん来て。」そう言ってくれた利用者さんに近づこうとしたら職員さんに、「あの人はちょっと乱暴な人やからちょっとだけ距離おいてしゃべってね。」と言われた。私はたぶんとても距離を置いていたと思う。しばらくすると休憩をもらった。放心状態だった。

休憩が終わると職員さんに同じ法人の施設に何軒か連れて行ってもらった。その移動中に思い切って聞いてみた。「障害者の人が怖くないんですか。」失礼だとは分かっていた。だけどどうしても聞きたかった。そうすると、何も気にしていないような顔で「怖くないですよ。妹が障害を持ってたから。きっと一般の人は何も知らないから怖いんですよ。何をされるか分からないから怖いって思っちゃうんです。」と答えてくれた。私が掴まれたり、追いかけられたことを話すと、「モテモテじゃないですか。」とあまりに豪快に笑われたので、いつのまにか私も笑っていた。職員さんに紹介された施設に利用者さんが作った物を商品にして売っているところがあった。この利益は利用者さんの利益になるそうだ。だから私はかわいいひよこのストラップを買った。そうすると大きく万歳する人、手を叩いて喜ぶ人、何度も頭を下げる人、利用者さん全員が喜んでくれた。私からしたらたったの百五十円だった。でもこの光景を見たとき、買わせてもらってよかったと思った。このひよこのストラップはどんなブランドよりも価値があり、心がこもっている世界に一つだけのストラップだ。帰る時、利用者さんが笑顔で手を振ってくれた。なんだか心があったかくなった。「来て良かったです。ありがとうございました。」職員さんにそう言った。

私は施設にくるまで、障害を持っている人はかわいそうだと思っていた。だけど、今は違う。障害を持っていることではなく、周りに受け入れてもらえない人がかわいそうだと思う。障害者の幸せを一番左右するのは家族支援だと職員さんが言っていた。なかなか受け入れることができない家族もあるらしい。なぜ受け入れられないのか。私たちが原因のひとつになっていないだろうか。障害者に対する偏見が障害者とその家族を苦しめている気がする。私はもっと障害者が住みやすい世界になってほしい。私たちにできることはたくさんある。例えば、障害者が作った商品を買うとか。これは私がしたことだ。すごく簡単なことだと思う。

この職場体験を終えて、障害者と一緒に笑顔になれる私に変わることができた。正直最初は怖かった。だけどそれは私が何も知らなかったから。障害者と関わったことがない人はたくさんいると思う。そういう人はどこかで関わってほしい。きっと心が優しくなるはずだ。