【一般区分】 ◆佳作 乙訓 和之(おとくに かずゆき)
共に生きる乙訓 和之(兵庫県)
中学校の体育大会。最後の競技は、「大縄跳び」でした。三分間に学級全員で連続何回跳べるかを競うもので、得点も高く学年順位に大きく影響する。そのため、どの学級も熱が入る競技で、二十年程前に担任した私の学級も例にもれず盛り上がった。学級は、特別支援学級の生徒を含め四十一名で、柔道部や野球部等、運動部の元気者がたくさん在籍していた。
九月。体育大会に向けての練習が始まり、大縄跳びの練習時間となった。特別支援学級のAさんとBさんは足も弱く、これまで大縄跳びの経験もなかったので、学級の列に入ろうともしなかった。そして、それが当たり前のように練習が始まった。中学三年生なので練習は生徒に任せていたが、遠くで、その学級の特別支援学級の生徒の見守る中で、練習をしている他の学級を何気なく見ていると、突然の違和感に胸が締め付けられた。「これじゃダメだ…」私は学級の練習を止めて生徒を集めた。「全員で跳ぶぞ!」
体育大会当日。本番前に一分間の練習時間があったが、学級で肩を組み、輪を作り、声を掛け合って一度も練習をしなかった。その様子を見ていた保護者達は「まぁそんな学級もあるよな。勢いとノリだけの学級。」と野次った。でも理由はそうではなく、Aさんの体力の問題だった。練習でも七回が最高で、途中で疲れ、タイミングもずれて引っかかった。Bさんは一度も練習に入れなかったため、本番に賭けた。
本番。ピストル激音が静寂を破りグラウンドに響いた。と同時にどの学級もかけ声を上げた。回し手の柔道部の生徒の「いくぞー!」という力強い掛け声とともに三十九人が宙を舞う。Aさんは友達二人と手をつなぎ、タイミングを合わせて跳んだ。Bさんは僕が背負った。私は「全員で跳ぶぞ!」と言った手前引っかかってはいけないと必死に跳んだ。 「二回、三回…」そしてこれまで一度も跳んだことのない二桁に入り、みんなの声が半音上がったところで誰かが引っかかった。七回の限界を超えたことにみな歓喜し、十二回という最高記録を出した。それから何回か挑戦したが、程無くして終了のピストルが鳴った。
「優勝は三年○組○回!」と発表され、遠くで盛り上がっている他の学級の姿が見えた。担任として中学校最後の体育大会で優勝という良い思い出を残させてあげられなかったと悔やんだが、学級の生徒たちの声で吹き飛んだ。
「私ら価値ある十二回を跳んだんやで!全員(特別支援学級の友達も含めて)で跳んだんや!優勝よりも何倍も価値があるんや!」
それを聞いた瞬間涙が止まらなかった。
「できる」「できない」に分けるのではなく、「どうしたらできるのか」をずっと伝えてきた。できる者だけ集めてできたって何の価値があるのだろう。共に手を取り合ってできるようになることの方が、本当に価値があるのではないかと。
「共に生きる。」年齢や性別、障がいの有無、髪や瞳、肌の色、国籍、言語、文化等は重要ではなく、今、目の前にいる人を正面からしっかりと見つめ、互いに手を取り合い、この一瞬一瞬を共に笑い、共に涙することではないだろうか。