【高校生区分】 ◆佳作 菱川 玲(ひしかわ れい)

サイクリングとの出会いから菱川 玲(鳥取県立鳥取聾学校高等部 1年 鳥取県)

小学校六年生の時、サイクリング協会のサイクリングに初めて参加した時の気持ちを今も覚えている。野原を走り抜ける心地良さ、風の匂い、体から出る心地よい汗、メンバーとの語らい。サイクリングって楽しいなと思った。また、このサイクリングがこれまでの自分を変えてくれるかも知れないとも思った。

小学校に入学してからの僕は、人間嫌いで集団の中にいることがとても苦痛だった。今思い出しても苦しくなる。人間嫌いになった理由として、二つの理由があったと思う。

僕は、生まれた時に聴覚障がいがあることが分かり、小学校一年生の時に、人工内耳装着の手術をした。人工内耳を装用して、確かに聴こえはよくなったが、聴こえがよくなることは、雑音の入りもよくなるということである。人の声がよく聴こえるようになってとてもうれしかったが、僕はその日から様々な雑音に苦しむようになった。特に小学校の大集団にいる時は、ワイワイ・ガヤガヤの声、椅子のガタガタ鳴る音は耐えられなかった。そのため自然に集団から離れるようになったと思う。

もう一つの理由は、周りの子どもたちが僕の頭に装着された人工内耳をじろじろ見て、「これ何。耳に変なのつけてる。」と騒ぎたてることだった。好きでつけているわけでもないのに、その度に不快な思いをした。

このような理由から、僕は小学校時代の大半を、人との関わりを避けて生活してきた。

六年生のある日のことである。母が僕に
「お母さんも参加するから、あなたもサイクリング協会のサイクリングに参加しない。」と言ってきた。急な話だったので、最初は驚いたが、そもそもサイクリングは好きだったので、参加してみようかという気持ちになった。

サイクリングは集団で走ったとしても、基本は一人で走るので、他の人のことは気にならない。そして、何よりも当時の僕は漫画「弱虫ペダル」に夢中だったのだ。

「弱虫ペダル」は何をしても駄目な主人公が自転車に夢中になり、努力を重ねて強くなっていく物語である。僕は、主人公にあこがれの気持ちを抱き、自分もいつかは主人公のようになりたいと日頃から思っていたのである。

サイクリング協会のサイクリングをはじめてからおよそ五年になるが、今も参加している。メンバーの年齢は、幅広く、中には六十歳代の方もおられる。毎回、二十人から三十人のメンバーが一列になり、三十キロ程度走るのだ。走る時に感じる風、見える景色、そして休憩時間の語らいなど全てが心地よく、サイクリングは僕の生活に欠かせないものになっている。サイクリングに出会えたから僕は立ち直ることができ、今の生活も充実している。

このサイクリングをわざわざインターネットで調べ、紹介してくれたのは母だった。母にどうしてサイクリング協会を勧めてくれたのか尋ねてみた。母の答えは、サイクリングという大好きな活動を通して、仲間づくりをして欲しかったということだった。本当に母に対しては感謝の気持ちでいっぱいである。

僕は、現在、鳥取聾学校高等部一年生である。くらよしから片道約二時間かけて通学している。僕は、陸上部と写真部に属し、生徒会活動にも熱心に取り組んでいる。小学校時代の僕を知っている人は、今の僕を見てきっと驚くだろう。

僕は自分の体験を通して、人は何かのきっかけで変わることができるのだと考える。その時に大切なことは、自分が好きなことと出会い始めようとすること、その時に支えてくれる場や人々が存在することである。

僕は鳥取聾学校高等部を卒業したら、仕事内容として、人々が喜んでくださるような職に就きたいと思う。それは、人に喜んでいただける仕事をすることが、自分自身が強く生きることにつながると思うからだ。

仕事、日常生活、趣味など自分が行うことを通して誰かの支えになれれば、それはとても幸せなことだと考えている。