【小学生区分】 ◆佳作 初田 一心(はつた いっしん)
めざせ! 世界福祉遺産初田 一心(天城町立天城小学校 6年 鹿児島県)
「一心がいてくれて助かったぁ。頼もしくなったねぇ。」
おばが僕の背中をドンとたたいて大きな声で笑った。僕は、
「ただトイレに連れて行っただけだよ。」
と言いながらも、とてもうれしい気持ちをかくせず、にやにやがこぼれてしまった。
僕はこの夏、福岡のおばの家を訪ねた。おばの家に着くと、すぐにいとこたちが迎えてくれた。
「こんばんは。チョコエッグ。」
いとこの塁君が話しかけてきた。チョコエッグを手渡すと塁君は、そそくさと部屋の中に入ってしまった。「やっぱりチョコエッグには勝てないかぁ。」みんなで大笑いした。これが僕のいとこの塁君だ。
塁君は、小学四年生。知的障害と自閉症スペクトラムの症状があり、特別支援学校に通っている。塁君の障害については、僕はよく知らない。でも、塁君のことならよく知っている。塁君は、数字が大好き。どんなに大きな数字でも、英語に変換して言う。しかも、どんな数の倍数でも、暗算して、どんどん紙に書き出していく。この数字を読むときも英語。九の倍数を千近くまで書き出しているのを見ると、感心しつつも、「ちょっと悔しいな。」とも思う。僕が、「これって英語でなんだっけ。」と考えていると、何食わぬ顔をして、
「シックスハンドレッド、フィフティセブン。」
と、塁君は、つぶやいた。
「すごっ。僕の頭の中が分かるの。」
と、僕はびっくりして塁君の顔をまじまじと見たが、塁君は知らんぷり。知らんぷりしているのは無視ではない。ちゃんと聞いている。ただ他のことに興味があって反応しないだけ。これが塁君だ。
こんな塁君と一緒にアスレチックパークに出かけた。とても楽しくて、ついつい大きな声を出してはしゃいでしまった。その時、塁君が乗ってはいけないところに乗ってしまい、係の人に注意されてしまった。塁君は、注意されても知らんぷり。係の人は不機嫌そうに行ってしまった。「そんな言い方しても伝わらないのに。」僕は少し腹が立った。
「だって、塁が悪いことしたんだから怒られるよねー。」
と、おばが笑っていたが、本当は悲しかったんじゃないかなと思う。「どうすればよかったのかなぁ。」と考えていると、
「えっ、みんなのトイレがない。」
と、おばが言った。不思議に思ったけれど、
「僕が一緒に行くよ。」
と言って、塁君の手を引いてトイレに連れて行った。後から合流した母に、おばが、
「一心がいてくれてめっちゃ助かったのよ。みんなのトイレがなくて、男子トイレに私は入れないし。まだ一人で公衆トイレに行かせるのは怖いから。」
と話していた。それを聞いて母も、
「一心、やるじゃない。助かる。」
と言って、珍しくほめてくれた。その後、
「でも、塁にもヘルプマーク必要かもね。」
と、母とおばが真剣に話しているのを見て、僕もいつの間にかうなずいていた。
今回のことで、僕は、環境の整備と「目に見えにくい障害」についての理解の重要性に気付いた。環境の整備については、政治家や大人の皆さんに任せるとして、僕にもできることはないだろうか。人が理解を持ってお互いに関わることができれば、問題は軽減できるかもしれない。色んな人の立場に立ってものを考えることが、全ての人が気持ちよく生活するための土台作りになる。今回、「塁君とトイレに一緒に行く」というたった一つの行動で助かる人がいるということが、僕には大きな自信になった。僕の住む徳之島は、環境整備が十分とは言えない。でも、人はとても温かい。これを生かして、まずは、全ての人が気持ちよく生きることのできる徳之島を作りたい。そのために、僕は始める。自分のできること探しを。