【高校生区分】 ◆優秀賞 田苗 優希(たなえ ゆき)
歩み寄る姿勢田苗 優希(筑波大学附属聴覚特別支援学校高等部 2年 千葉県)
私は生まれつき重度の難聴で、日々補聴器をつけて過ごしている。私の場合、補聴器をつければ全て聞こえるようになるわけではなく、車のクラクション、サイレンの音は区別がつくが人の声は判別できない。そして私は自分の声がわからず自信を持てないため、あまり声を出さないようにしている。
自分は聾者の世界では自分から積極的に話しかけるのですぐに友達を作ることができ、楽しくやっていけるのだが、健常者の世界ではなかなか自分から話しかけられず、相手が障がいに理解があるとわかるまで自分から距離を置いてしまう。
私は大学附属の聴覚特別支援学校に通っており、附属学校の生徒たちの交流会の実行委員になった。三回行われた実行委員会での出来事を述べる。全日とも予め自分からパソコンで要約筆記の情報保障をお願いしたため、全員の話し合いでは情報の面では特に困らなかった。生徒同士で個人的なやりとりも、健常者とはスマートフォンのメモアプリを使ってコミュニケーションをとったのでなんら問題はなかった。実行委員会には私のような聴覚障がい者もいれば、視覚障がい者もいたのだが、どのようにコミュニケーションを取ったらいいのかわからなかった。
実行委員会一回目は、自分の健常者に対する人見知りの性格が顕になってしまい、周囲の人とほとんど話すことができなかった。二回目以降は自分から話さないと絶対に変われないと思い、勇気を振り絞って健常者に話しかけた。そうしたらみんな優しく接してくれ、休み時間では冗談を言い合ったり、ジェスチャーを織り交ぜて話してくれたりと盛り上がった。健常者との心の壁が薄くなってきたと感じた頃、全盲の高校一年生(Aさん)から話しかけられた。Aさんの中で私が存在していることに驚きを隠せなかったが嬉しかった。初めて視覚に障がいがある人と話した。どのようにしてコミュニケーションをとったらよいか悩んだが、自分からはスマートフォンの文字を音声化して自分の伝えたいことを伝えられるようにした。Aさんからはありがたいことに、全て指文字で話してくれた。私と話すためだけに指文字を覚えてくれたのがとても嬉しかった。しばらく話すうちに私はあることに気がついた。私はAさんが話すたびにうんうんと相槌を打っていたのだが、相手は私が相槌を打っているということが見えない。Aさんは時折話し続けていいのか、指文字が合っているのかわからない表情を見せていた。私はどうすれば良いのかわからず何もできなかったが、腕などを軽く握って、「解ったよ」と相槌の代わりに表現すればよかったのではないかと今なら思う。ともあれ障がい者同士が会話する時も、お互いに歩み寄る姿勢なしではやっていけないなと感じた。三回目の実行委員会では「指点字」と言って両手の人差し指、中指、薬指の六本で点字の位置を表現する方法があるよと教わった。次会う時までにまずは点字を覚え、そして指点字を覚えてAさんとよりスムーズに話せるようになりたい。
この実行委員会の集いを通して聴覚以外の附属学校の生徒たちに聴覚のことについて興味を持ってくれ、手話を覚えたい、ぜひ私の学校で手話講座を開いて欲しいなどと言われた。健常者も私たちのことを知りたいのだなと嬉しく思った。私も学校でも希望者を募り、点字や指点字勉強会を開いてみたい。このような些細なことでも積み重なることで、健常者、障がい者、年齢に関係なく、様々な人たちの見えない壁が少しずつ無くなっていくのだと思う。
障がいの有無に関わらず、お互いに歩み寄る姿勢が共生社会への一歩になるのではないかと私は考える。障がい者からの発信も大切だが、健常者もどのような配慮が必要かを聞いたり、考えたりするような、お互い歩み寄る姿勢が大事だ。相手がして欲しいことを予め聞いて、それにできるだけ対応しようとすることが最善策だと思う。私はこれからも健常者、障がい者関係なく、様々な人に積極的に関わっていきたい。そして、私のことをしっかりと伝えるとともに、相手のことを考えながらコミュニケーションを図るように工夫していきたい。