【中学生区分】 ◆佳作 太田 結月(おおた ゆづき)

「知らない」が生む壁
太田 結月 (裾野市立富岡中学校 3年 静岡県)

ある朝のテレビで、障害者の生活と思いが綴られている本が紹介されていてとても気になり、すぐにネット注文をした。読んでみると、今までにない衝撃を受けた。すべてを読解するには、今の私では歯が立たなかったが、作者から私たちへ、強く訴えかけるものがあると感じた。

八月の四日間、障害者支援施設へボランティアとして行かせていただいた。この施設では、幅広い年代の知的障害や発達障害を抱えている方々が働き、通っている方もいれば、ここで生活している方もいる。この四日間で、たくさんの洗濯されたタオルをみんなで畳む作業や、ダンボールを組み立てて固定する作業をしたり、この施設の伝統の、舞台の練習に参加したり、たくさんの体験をした。

今回の体験で、会話の難しさをとても感じた。お話をするとき、一方通行になってしまうことが多く、自分の思いが伝えられないこと、相手の思いを受け止められないことにとても苦悩した。しかし、それは私だけが感じていることではなく、きっと相手の方も感じていることだ。今までの私の、思いを伝えられるというあたり前は、障害を抱えている方からしたら難しい。そのため、思いをわかってもらえないもどかしさを日頃感じることがあるのではないかと、不確かながら思い至った。自分のあたり前を基準に思い込んだことで、視野が狭くなっていた。他のあたり前や考え方を知ることで、自分の考えの視野が広がることを実感した。

タオルを畳む作業をしていたとき、コブになっているタオルがあり、私はそのタオルと闘っていた。そのとき、隣で作業していた方がそれにすぐに気づき、コブを取ってくれた。また、立って作業をしていたときに後ろの方が声をかけてくれて、自分が立ってまで椅子を差し出してくれた。私を気にかけてくれていた方が、すぐに気づいてくれて躊躇無く行動してくれたことが、とても心を温めてくれた。また、職員さんは施設の方々に向けて何かを話すとき、いつもゆっくり大きな声で簡潔に話していた。そのため、舞台の練習に参加したとき、施設の方々は職員さんの説明を一回で理解していた。きっと、どうやって話せばわかりやすく伝わるか考えて、スピードや声のボリュームを工夫しているのだと思う。これまで私は、会話が難しいことを、思いが通じ合えないことだと自分の中で誇張していて、知らないことは傲慢につながるのだと感じた。障害を抱えている方は、長く難しい会話では、思いを伝え合うのは難しい。しかし、伝え方や受け取り方を相手に合わせることで思いは伝わり、心は繋がりやすくなるのだと教えてくれた。

人と人との壁。特に障害を抱えている方とは、壁が分厚く感じていた。しかし、壁はもともとあったのではなく、私が壁を作ってしまっていたのだ。この四日間、たくさんの方が私に自分の言葉で一生懸命に話をしてくれたり、以前特別支援学校へ行ったときも、とても爽やかな挨拶をしてくれたり、親しみ合おうとしてくれた。

共生社会をつくるためには、相手のことを知る必要がある。相手のことを知らないで、自分の価値観や気持ちを押しつけることは、それに反している。互いがわかり合うために、相手のことを知ろうとする歩みが、自他の未来を明るくし、共生社会に繋がる一歩になると、今回の体験が教えてくれた。

ノーマライゼーション。この言葉には、障害者や高齢者の方も含めて、全員があたり前の普通の生活ができる社会にしようという意味があり、共生社会をつくるための一つの目標のようなものだと思う。はじめに紹介した本の作者が、本を読むことはあたり前ではないと強く伝えてくれた。その投げかけに応えることも、ノーマライゼーションだ。今の私にはまだ応えられない。だから、まずは知ること、考えることからはじめてみよう。