【小学生区分】 ◆優秀賞 村松 亜美
大ちゃんの薬
村松 亜美 (静岡市立清水小学校 4年 静岡市)
大ちゃんを見るたびに、私は、何かいい薬はないのかな、大人になるまでに薬ができるといいのになと思う。今日も大ちゃんが首に機関車のキャラクターの絵のついたケースをかけ、お気に入りのベルが入っていた箱を指さし、母に、「ベル」と聞こえる発音で、「ベル、ベル、ベル、…。」と言い続けていた。ここ何週間かの大ちゃんのルーティンだ。こわしてしまったからまた買ってほしいのか、これはベルだと教えたいのか、大ちゃんの言いたいことは家族にもわからないことが多い。
大ちゃんは、私の二才上の兄だ。まだ十分に言葉を話すことができないこともあり、特別支えん学校に通っている。よい悪いがわからず、学校では友達にかみつくこともあるようだ。家でも、テレビやパソコンをこわしてしまうし、家中のかべにクレヨンで落書きすることもある。私のランドセルのベルトをはさみで切ってしまったこともあった。そんな大ちゃんだから、私の方が妹だけれど、大ちゃんのことが気がかりでしかたがない。
「大ちゃんって、ずっとこのままなのかな。」
と、いつか私が言ったら、祖母が、
「大ちゃんも、ずい分成長しているんだよ。」
と言って、小さいころの大ちゃんの様子を話してくれた。そう言えば、大ちゃんはよくヒーターにティッシュをつめこんだり、水たまりにねころんでどろだらけになったりしていたけど、このごろはそんなことはしていない。トイレも着がえも一人でできるし、お風呂やふとんに入る時間もわかっている。楽しみがある日はカレンダーに印をつけている。ひと言で通じることも多くなった。そうか、ゆっくりかもしれないけれど、大ちゃんもしっかり成長しているんだと、うれしくなった。
この間、親せきの人が集まった時、母が、「できるかな。」と言いながら、「二かいにいるお姉ちゃんをよんできて。」と大ちゃんにたのんだことがあった。みんなが見守る中、大ちゃんの後ろから中学生の姉が下りて来て、一同はく手。でも、みんな、しゃべれない大ちゃんがどんな風によんできたのか不思議だった。姉に聞くと、大ちゃんの目や体の動きが用事もなく部屋に入ってくる時とちがったから、何か用事があるのかなと思った、ということだった。「すごい、ゆいちゃん。」とみんなは、またはく手。大ちゃんも姉もわらっていた。そうだ。確かに、大ちゃんの表じょうや動きには声にならない言葉がある。私にもその言葉がわかる時がある。この大ちゃんの言葉は、大ちゃんの身近にいる人にしかわからないかもしれない。でも、反対に考えれば、身近にいて、しっかり表じょうや動きを見ていてあげれば、大ちゃんの言葉は声が出ていなくても伝わるということになる。
姉の話を聞き、私は「薬」を見つけたぞ!と思った。姉がとった行動のように、「身近な人が大ちゃんの声なき言葉を聞こうという気持ちで大ちゃんにかかわっていくこと」、それが、大ちゃんの成長への一番の薬なんだ。