【一般区分】 ◆佳作 野田 萌々香
自己紹介
野田 萌々香 (静岡市)
私は大学四年生です。しかし来年度に卒業するのは難しいでしょう。そう……留年が確定……留年確定さん、留、確、さん……んーあの飴を久々に食べてみようかなぁ。おっと、さっそく話が脱線してしまいました。これは私の特性です。どうも私の脳みそは連想ゲームが得意なようです。自己紹介の続きをしましょう。私は二十数年前に生を享けてから、大学三年生の七月頃まで「健常者」として生きてきました。その夏、二十歳にして心すでに朽ちたり……。高校生まではそこそこ順調な人生だったのですが、大学がどうにも自分に合わなかったようで、身の周りで大変多くの不都合が起こりました。簡潔に状況を説明しますと、下宿先に一人寂しく引きこもり、見事に単位を落として留年確定になってしまいました。今となっては黒歴史として笑って話せますが、当時は心も身体も限界でした。「あーこれはマズイぞ。」と病院に行ってみると「ADHD」と診断がつきました。診断書を大学に提出して、今は「障害学生」をやっています。服薬だけでは私の「障害」は決して治りませんので、大学側の「障害」を合理的配慮によって取り除き、再び学業に専念できる環境を整えました。現在は順調です。「自己紹介」第一章、めでたしめでたし。
自己紹介の第二章です。実は私は支援者の立場でもあります。大学一年生から約三年間、障害者施設で夜勤の世話人として働いています。この仕事をはじめた理由は、夜勤のアルバイト代と髪色自由の条件に魅力を感じたからです。そんないかにも学生らしい動機で世話人をはじめた私ですが、気が付けば三年も過ぎていました。思い返すと初っ端からみずみずしいオレンジ頭で出勤して……でも意外と派手な髪色はウケが良くて……一番のお気に入りのヘアカラーは……。あー!また話の軌道がズレました。JAXAもびっくり!えーと、私がここで伝えたいのは、人生で初めて障害と真剣に向き合ったのはこの仕事がきっかけだった、ということです。世話人でもやっていなければ、この先も深く関わらなかったであろう、様々な障害を持つ人たちと出会いました。最初の頃はそれはもう緊張しました。正直、恐れもありました。しかし、そういった気持ちが湧くのは相手をよく知らなかったからです。これまで自分が「障害」に目を向けてこなかったからです。仕事を続けるうちにそういった気持ちは吹き飛び、活き活きと支援に向き合うようになりました。今では、施設の利用者さんと顔を合わせるのが毎週の楽しみです。大学に行けていない間も世話人は続けていました。夜勤の一晩のうちに喜怒哀楽(たまに不穏)を豊かに感じられる仕事は、当時の荒んだ心に効きました。また、自立支援とは何たるか、共生社会は如何にすべきか、と深夜帯に思考に耽るようになってから、自然と学業への意欲が戻ってきました。そして何よりも、利用者さんとの触れ合いが私を支える柱となっていました。「来てくれて嬉しいな。」「のださんなら安心だ。」「のださん、また来てね。」利用者さんがくれる言葉が心を温めます。支援の中で「もう嫌いだ。」なんて言われることもありますけれど、いつも全力で向き合っています。
学生生活の話をもう少ししておきましょう。自己紹介の第三章です。引きこもりの暗黒時代は、お先真っ暗で、ひとりぼっちで、将来への漠然とした不安で、闇雲に同じところをひたすらウロウロしているような感覚でした。しかし、自分の周りが暗ければ暗いほど見上げた星空は綺麗に見えます。自分のありのままを受け入れてくれる環境がすぐそばにあることに、私は気が付くことができました。「障害」のラベルが一枚ペタリと貼られたところで、私はこれからも同じ私です。「普通の大学生」に一番囚われていたのは自分でした。変わらず近くにいてくれる友人がいて、理解のある先生方がいて、信頼できる相談場所があって……。私はとても恵まれています。時々、脳内連想ゲームが止まらずに、負の感情の大渦に巻き込まれることもあります。しかし、自分の居場所を見つけられたので、そんな時もなんとか戻って来られます。
私は大学で「障害学」を学んでいます。障害学は、障害を医療や福祉の枠組みではなく、社会や文化の中で捉える学問分野です。十有五にして学を志す……、私はとうに二十歳を過ぎましたが、ようやく学問に志を立てることができました。「支援者」の立場、「当事者」の立場を併せ持つ私だから見える世界もあるかもしれません。「普通」とは何か、「障害」はどこにあるのか、これまで暗闇で葛藤してきたことを学問に昇華できるかもしれません。これからも居心地の良い大学で精一杯学んでいきたいです。
最後に今後の抱負も書いておきます。私は将来あれみたいな存在になりたいです。あれです、アレ。お花を生けるΣπόγγοςみたいな……あーギリシア語の授業も単位を落としてしまったっけな……スポンゴスだけは強烈に脳裏に焼き付いて離れ……あ!とにかく私は「お花を生けるスポンジ」のような存在になりたいのです。水をたっぷり吸収した柔らかな土台で綺麗な花を支えるスポンゴス!よく学びよく経験して、豊かに蓄えた心で何事も柔軟に受け止められるようになりたいです。私は日々たくさんの人に支えられて生きています。時には私も誰かの安心できる土台になって、その人の想いを支えていける人にもなりたいです。
この先もずっと、ずっと、「障害」とともに―