【高校生区分】 ◆最優秀賞 内山 芽衣
言葉を伝える
内山 芽衣 (学習院女子高等科 3年 東京都)
私の学校には、手話同好会というクラブがある。中学一年生の時から所属しているため、今ではもう五年目となり、部活動の中でもすっかりベテランの立場となった。この手話同好会に入ることになったきっかけは、小学生の頃に観た映画だった。その作品の中で、手話を通じて登場人物たちが互いにコミュニケーションをとり、心を通わせる様子に深く感動し、手話というものに対して強い興味を抱いたのだ。そこで、受験の際にオープンスクールに参加し、手話同好会の活動を見学した時、私の心はさらに惹かれた。手話が形そのものを表しているという面白さや、目で見る言語という新しい感覚に、私はすぐに夢中になった。
中学生になってから、私は迷わず手話同好会に入部した。そこでは、優しい先輩たちが指文字や名前の手話などの基本を丁寧に教えてくれた。初めて触れる手話の世界は、私にとって新鮮であり、毎日のように新しい発見があった。特に、歌詞に合わせて手話をつける活動や、文化祭での発表の際に歌と一緒に手話を披露する機会は、手話を通じて感情や思いを表現する楽しさを教えてくれた。表現できる手話の単語が増えていくとともに、私はますます手話にのめり込んでいった。
学年が進むにつれて、私は手話の基本だけでなく、実際に使われている手話にももっと深く触れてみたいという思いが強くなった。そこで、地域の手話サークルに参加してみることにした。そのサークルでは、日常生活の中で手話を使ってコミュニケーションをとっている耳の聞こえない人々、いわゆるろう者の方々が何人かいた。彼らの手話は驚くほど速く、一つの単語を読み取っているうちに文章が流れてしまい、私は会話についていくことが全くできなかった。しかし、もっと驚いたのは、ろう者の方々が手話を使って表現する時の表情だった。例えば、嬉しい時には、彼らはまるで本当にその瞬間に嬉しいことがあったかのように、心からの笑顔を見せて手話を行っていた。また、悲しみや苦しさを表現する際には、顔全体でその感情を体現し、とてもリアルに伝えていた。
その表情豊かな手話を目の当たりにした時、私は自分がこれまでいかに表面的な理解しかしていなかったかを痛感した。学校で手話の単語を覚える時、私はただ形を暗記するだけで、その背後にある感情や意味を十分に考えていなかったのだ。ろう者の方々の手話を通じて、表情も手話表現の一部であり、感情を込めてこそ本当の手話が完成するのだということを学んだ。そして、それは私たちが普段話している日本語と何一つ変わらない、立派な一つの言語であるという認識が深まった。アメリカ人が英語を話すように、ろう者は手話を使って自然にコミュニケーションをとっている。その事実を知り、手話を日本語の一部としてではなく、独立した言語として尊重し始めた。
ある日、手話サークルでフリートークの時間が設けられた。健聴者二人とろう者二人の四人グループに分かれ、一人ずつ手話を始めたきっかけを話すことになった。私の右隣に座っていた方が最初に手話で話し始め、「私」「仕事」「福祉」「興味」「持つ」という単語を使って、自分の手話を始めた理由を語った。知っている単語がいくつかあり、大体の意味を掴むことはできたが、周りがスムーズに手話を理解し、「なるほど」という意味の手話をしているのを見て、私は自分が同じようにできるかどうか不安で仕方なかった。
次は私の番だった。緊張しながらも、「私」「中学生」「から」「学校」「手話」「部」「入る」というように、覚えている単語を組み合わせて何とか自分の思いを伝えようと努力した。すると、ろう者の方が笑顔で「へぇ!すごいね!」とゆっくりと分かりやすく返してくれた。その瞬間、やった!伝わった!と初めて人に手話で思いを伝えられた喜びが心に広がった。この体験を通じて、私は手話が単なる形ではなく、生きた言葉であることを再認識した。
手話サークルに通い始めたばかりの頃は、自分の手話が本当に伝わるのか不安で、ずっと緊張していた。しかし、徐々にサークルの雰囲気にも慣れ、ろう者同士の会話も少しずつ読み取れるようになってきた。今では、日常的な世間話や趣味の話も手話で楽しめるようになり、ますます手話の魅力に引き込まれている。
手話に出会う前の私は、言葉が伝わることが当然のことだと思っていた。友達に「ねえねえ」と話しかければ、「なあに?」と返ってくる。しかし、手話を学ぶことで、言葉を伝えるという行為がとても貴重で、人と人を繋げる大切なものだということを深く理解するようになった。手話も日本語も関係なく、伝える言葉を一つ一つ丁寧に選び、相手にどう伝わるか、どうしたらより伝わりやすいかを常に考えるようになった。これからも、ろう者や難聴者など、手話を使わないとコミュニケーションが難しい人々に対しても、自分の言葉を届けられるように、手話という一つの言語をさらに深く学び続けていこうと思う。そして、手話を通じて、もっと多くの人と繋がり合い、豊かなコミュニケーションを築いていきたいと強く感じている。