【小学生区分】 ◆最優秀賞 臼井 千織
私の願い
臼井 千織 (茨城県立つくば特別支援学校 5年 茨城県)
「待てー!負けないぞ!」
鬼ごっこ。友達を追いかける私。誰の力も借りずに遊ぶ自分の姿をいつも夢に見ていた。
四年前、珍しい病気の私は、お母さんの付き添いで近所の学校に入学した。お兄ちゃんやいとこたちのいる学校に通いたかったからだ。二年間、お母さんは仕事を休んで毎日学校に来てくれた。三年生でようやく付き添いはなくなったが、学校生活は課題が多く、学校に行くのが辛くなった。四年生に進級した時、特別支援学校に行こう、と自分で決めた。決心した後は、心が軽くなった。
転校まであと三ヶ月というある日、お母さんが私に聞いた。
「ちーちゃん、今の学校でやり残したことはないの?」
「鬼ごっこ・・・。」
どうせ無理だろう、と思いながら小さな声で言った。それに対して、お母さんは私がそう言うだろうと知っていたかのように、
「よし!その願い、叶えよう!」
と迷わず、笑顔で答えてくれた。私はびっくりしたのと同時にうれしくて、ワクワクした。
お母さんはその日から、学校の先生や病院の先生、同じ学年のお母さんたちにたくさん相談をしてくれた。そして、車いす大運動会を行うことが決まった。種目は、パラバルーン、鬼ごっこ、リレー。これらは幼稚園から学校生活の中でやりたかったけれど私だけできなかったことだ。危ないから、という理由でやらせてもらえず、悲しかった。ほぼ見学で、本当はみんなと一緒にやりたいのにどうしてできないのだろう、どうしてこんな体なのだろう、と後ろ向きに考えることばかりだった。しかし、今回は参加者みんな車いすに乗って行うことになった。一緒に運動できるなんて初めてで、考えただけでも楽しくて、毎日その日を指折り数えるようになった。幼稚園の先生、支援級の先生や支援員さん。学校でお世話になった担任の先生達。学級の友達や車いす仲間。あっという間に参加者が五十名以上になった。本当にありがたかった。
三月一七日、当日。これまで運動会といってもあまりなかったソワソワした気持ちで、早起きしてしまった。
車いす運動会の会場に入ると、障害の有る無しに関わらず、これまで私に関わった人達がたくさん集まっていた。
「ちーちゃん!頑張ろうね!」
「負けないからね!」
感じたことのない競争心が自分の中でわき上がっていた。いよいよ始まる。
一番心に残ったのはリレーだった。みんなコーンのカーブで苦戦している。直線も左右にふらふらしていた。私はこれまでスタート地点に立ってもドキドキしたことはなかった。いつも付き添いの人が押してくれるので、自分の力は勝敗に関係なかった。大人が押すときは特に、気を使ってビリになることが決まっていた。でも今日は違う。よーい、というかけ声はこんなにきん張するものなんだ、と思った。私のライバルは車いす仲間だった。それをみた友達が
「すごい!どうやったら速くなるの?」
と言ってくれた。学校も学年も違うけれど、私の学校の友達と車いす仲間が車いすの操作を教え合いながら鬼ごっこを始めていた。私は関わりが生まれたことがとても嬉しかった。
その後のバルーンもできる動きを曲に合わせて行うことができた。先生のかけ声で、当時の様子が目に浮かんだ。今はみんなの笑顔の輪の中で、私も一緒にできている。
こんな夢のような時間のおかげで、私は自信を持って転校することができた。もっと障害の有る人と無い人が自分らしく一緒に過ごせるイベントや環境があれば良いと思う。それが私の次の願いだ。そのために私は、障害の有る人と無い人のかけ橋になりたい。