【中学生区分】 ◆優秀賞 木村 涼梨
「支え合うこと」
木村 涼梨 (睦沢町立睦沢中学校 3年 千葉県)
私は施設で暮らしています。この施設には障害をもった子もいます。その中の一人の女の子とは、八年間一緒に暮らしています。その子は四歳の時に入ってきました。四歳なのに立って歩くことも、しゃべることもできませんでした。
その子と出会ったとき私は正直なところ、怖いという印象をもちました。その子は、お風呂の時間になると、お風呂を嫌がって暴れたりしました。その度に、職員がその子につきっきりになります。その子は言葉が話せないので、その時の感情を叫んだり、自分の頭を思いっきり壁に打ち当てたりすることで、表現したのです。
私はなぜこのような行動をとるのか理解できませんでした。しかし、職員の方から「この子がお風呂に入るのを怖がるのは、自分の背丈よりも深いお風呂に入らされるからなの。溺れるんじゃないかって恐れているから。」この話を伺い、その子を怖いと思う先入観はこっぴどく打ち砕かれ恥ずかしい気持ちになりました。
このことから、私は障害をもった人に対して、たんにうわべだけで判断するのではなく、どうしてそういう行動をとるのかを考えなければいけないことを悟りました。
それから、三年ほど経ち、その子が年長になった頃です。その子はクレーン行動といって、職員の方の指などにつかまり、少しですが、歩くことができるようになっていました。夕方、私が宿題をやっていた時のことです。机の横から、その子はひょこっと顔を出してこちらを見ると、はじけたような笑顔。今でもはっきりと覚えています。今までは、その子をそれほど気にしたことはなかったのですが、可愛いと思い、その子のことをもっと知りたいと思うようになりました。ただ、その子は警戒心もあり、怖がらせてしまうとまずいと思い、まずは、その子と私の目線を合わせて挨拶をしました。次に一緒に何かをしようと思い、テレビで流れるダンスを踊ったり、天気のよい日には、屋外に出て田んぼの周りを散歩したりしました。こんなとき、その子はうれしそうに笑ってくれるのです。つい私の頬も緩んでしまいます。
こんなふうに交流し始めると少しずつ、その子と私との関係が深くなるのを日に日に感じました。私はその子とのことで心に焼き付いている出来事があります。職員の方と私とその子で初めて買い物に行ったときのことです。その子は「買い物に行くよ」というと、四足歩行で必死に私たちの所へ来て、即座に泣き叫んだのです。とても嬉しかったのだと思います。車に乗り込み、お店に到着すると、私の手の指にぶら下がり、私より前を歩き出したのです。そして、お店にいたお客さんや売り物をじっくりと見たり、かなり長い時間、笑顔ではしゃぎ回ったりしました。私の指はちぎれそうなくらい痛かったのですが、天使のようなあの笑顔を見ていると、それも忘れました。
現在、私とその子は、職員の方からはハッピーセットと呼ばれています。二人三脚で支え合っているということだと思います。その子は今、自分の力で歩く訓練をしています。「頑張れ」私はその子を心の中でいつも応援しています。ただ、私もその子から笑顔や元気をいっぱいもらって寂しさを吹き飛ばしています。
「みんな違ってみんないい」は私が好きな金子みすゞさんの詩の中の言葉です。健常者の方は障害者の方に対して、「可哀想だな」とか「恐い」とか思わず、受け入れてほしいと思います。そのために、まずは、障害者のことを理解していくことが大切だと思います。障害をもった方の行動の一つ一つには必ず意味があるのですから。また、障害をもった方とふれあうには、同じ目線になることが大切だと思います。そして、一つのことを一緒に汗を流して取り組んでいくとよいと思います。私はこれらのことを行い、一人の人間としてその子と交流できるようになったからです。