【高校生区分】 ◆佳作 菊地 心愛
特別じゃなくて普通に
菊地 心愛 (茨城県立鉾田第一高等学校 3年 茨城県)
私には、二歳年下の弟がいる。いつも家族を笑わせてくれて学校でも人気者。明るくて友達も多くて、私の自慢の弟だ。
そんな弟には生まれつきの障がいがある。先天性の合指症という病気で、両足の指がくっついていた。弟が二歳のとき、くっついていた指を離す手術を受けた。何時間にも及ぶ大手術だったらしい。当時の私はまだ幼く、なぜ弟が入院しているのかも、両親が涙を流して喜んでいる理由もわからなかった。
半年後、弟が退院して帰ってきたとき、弟の足には大きな手術痕が残っていた。それを見て、私は思わず「宇宙人みたい」と言ってしまった。誰からも責められなかったけれどその言葉は自分でも忘れられず、今でも胸に小さな棘のように刺さっている。
その日から私は、弟と遊ぶときにはできるだけ足を使わない遊びを選ぶようになった。弟が無理に動かなくても良いように、私なりに気を遣ったつもりだった。
弟が小学校に上がるとき、私は密かに心配していた。周囲から「足が変だ」「みんなと違う」などと言われて、いじめられてしまうのではないかと。姉として私が守ってあげなければという責任感もあったと思う。しかしいじめられるどころか、弟は持ち前の明るさで友達をどんどん作り、毎日楽しく学校に通っていた。
そんなある日、弟に「特別扱いしないで」と言われた。弟を障がい者というレッテルでみていたのは、他でもない私だったのだ。弟のためだと思ってしていたことは、弟をかわいそうな存在として扱ってしまっていたのかもしれない。そのことに気づいてから、私は弟をひとりの人間として自然に接するように努力した。
弟は高学年になると野球を始めた。ポジションは外野。走る機会も多く、足に不安のある弟には大変だと思ったが、弟は私の心配をよそに楽しそうにグラウンドを駆け回っていた。最初はぎこちなかった動きも練習を重ねるうちにどんどん上達し、気がつけばレギュラーを任されるまでになっていた。私は観客席から弟のプレーを見ていた。白球を追って走る姿は、以前の弟とは思えないほど力強かった。足のことなんて感じさせないくらい生き生きとプレーする弟の姿に私は胸が熱くなった。
弟は障がいを持っている。けれど、それに縛られていない。きっと最初からそうだったのだ。守られるべき存在、かわいそうな存在と決めつけていたのは私だったのだ。きっと世の中にも私と同じように、相手のためと思いながら、知らず知らずのうちに線を引いてしまっている人がたくさんいるのではないだろうか。障がいがある人に対して「優しくしなければならない」「守ってあげるべき」と思う気持ちは決して悪いものではない。でもその優しさが相手の可能性を狭めたり、自立する力を奪ってしまうこともある。本当に必要なのは、障がいの有無に関わらず、お互いをひとりの人間として尊重する姿勢だと思う。私たちにできるのは、助けることではなく、理解すること。必要な時に必要な手を差し伸べながらも、対等な人間同士として関わっていく。相手のことを見て、その人の声に耳を傾ける、それが本当の意味での共に生きる社会への第一歩なのだと思う。
弟は私の誇りだ。私が弟から学んだのは、違いは決して、劣っていることではないということだ。身の回りの違いに気づき、それを受け止めることから始めよう。無意識の偏見や思い込みは、誰の中にもある。でも、それに気づいた時こそ変わるチャンスだ。弟の姿は、気づきを私に与えてくれた。小さな歩みでも、一人ひとりが意識を変えれば、社会はきっと少しずつ変化していく。弟のように前向きに、そして自分を信じて生きていく人がもっと生きやすい世の中になるように、私も自分にできることを行動に移していきたい。これからの社会が、誰もが自分らしく生きられる場所になるように私自身も、まずは身近な人との関わりを見つめ直していきたい。
小さな気づきが、大きな変化を生むと信じている。