【一般区分】 ◆優秀賞 田口 慎一郎
私は障害とともに生きていく
田口 慎一郎(熊本県)
「貴方の症例は発達障がいに該当します」
医師から告げられたその言葉に、当時の私はハンマーで殴られたような衝撃を受けた。仕事でミスが続き、上司から『おまえは普通ではないから病院に行け』と言われての受診だった。幼少からの学校生活や学生時代のバイトではなんの問題も無かったのに、突然評価が一変した。別に私個人は障がいに対し差別的な意識を持っていたつもりはない。ただまだ組織や社会のノウハウがない時期での認定だったから、合理的配慮の名の下に、突然それまで行っていた仕事が取り上げられたのは辛く、望まぬことも色々と起きた。
「君が障がいを隠してここにいるのは詐欺みたいなもんだ」
少し語句をマイルドに変えてはいるが、こんな言葉を言われたこともあった。
最初の内は私も妻もどうしていいか分からず、いくども喧嘩をした。忘れ物をするたびに、
「私は一々配慮なんてしてられない!」
と妻は癇癪を起こした。私だってそうしてもらいたい。しかし無情にも、ノートに失敗の数を記録していくと、確かに私のミスや忘れ物の頻度は普通の人の3倍は多かった。
だけど私は諦めたくはなかった。自分が障がい認定される前から、障がいを持つ人を他人より劣っているとは思っていなかったからだ。
思い出していたのは学生時代に打ち込んだ柔道の恩師が語った彼の師の話。大師匠にあたるその人は、目が殆ど見えないのに相手の重心や脚の動きを見切る達人、俗に言う『心眼』の持ち主だったそうだ。生物はある部位を喪失すると、残された部位の使用頻度が上がり元よりも強靭になりやすい。身体障がいでもこうした『成長』を遂げた人の話はよく聞いた。では『脳の一部の機能だけが人と異なる』自分の成長するものは何なのか……。私は私と同じ症例を持つ人について色々と調べ、本を読みあさった。
その結果、多くの天才・偉人とされる人の中に私と同じ人がいた。普通の感覚や視野は持てない。けどだからこそ見える狭い視野に超人的な集中力を発揮し、前人未踏の領域まで達して結果を出した人たちだ。
彼らのことを調べると、皆自分の才能を伸ばすためのたゆまぬ努力と、必ず周囲の協力者への感謝があった。親や学校の先生、チームの仲間、そして配偶者……。
私は妻にこのことを話した。別に自分を天才だと驕る訳じゃない。ただ自分にはもっと出来ること、そしてどうしても出来ないことがあることを知って欲しかった。妻はあっさり了承してくれた。というより妻も妻なりに対策を考えてくれていたのだった。
それから私達夫婦の生活スタイルは徐々に変わっていった。妻は私が忘れ物をしやすいからと荷物持ちをしてくれたし、私が集中力が続かない日だというと車の運転を代わってくれた。私も妻の代わりに文書を読み込んだりパソコン関係の手続をする時は積極的にしていった。生来活字の読み書きが好きな私はそういうことが得意だったし、改めて自分を見つめ直すと、そうした文章や情報関係の分野では、自分の記憶力や語彙力が妻よりもずっと秀でていることが分かった。
私生活が徐々に安定してくる頃には、職場の方もより的を射た支援をしてくれるようになった。『君はパソコンに強いから○○をお願いしたい』と頼られることが増えたし、そうしたチャンスには必死に期待に応えようと努力した。苦手分野でもなるべく腐らずに頑張り、自信が無いときは『終わりましたがミスが無いか確認をお願いします』と言える体制ができた。結果として、障がい認定される前より落ち着いて仕事が出来るようになったと思う。
障がい者支援において、『障がいとは生まれ持った個性』という言葉をよく聞くが、ある意味では正しい。けど私はそこで止まってはとてももったいないと感じている。健常者だって生まれ持った個性はあり、皆それを伸ばして武器として仕上げてはじめて社会で活躍していくのだ。ならば障がい者も同じであろう。視覚に頼らず世界を見る才能、腕力で脚と同じかそれ以上に車椅子をこぐ才能、自分が好きなことに世界の誰よりも一生懸命になれる才能……。それらは社会で立派に必要とされる才能に違いない。
障がい者の方へ
貴方が持つのは人より劣っているだけのものではありません。必ずそれにより人より秀でる可能性を秘めたものなのです。だから腐らず、諦めず、前を向いていってください。
障がい者を身近に持つ家族・友人・職場の人達へ
彼らをただ劣った人と見ないでください。出来ないことと同じだけ、『彼らだからこそ出来ること』があるかもしれないのだから。
私は今、妻との間に子供も産まれて一家の大黒柱となった。もう障がいがある無しでいちいち迷ったり苦しんでいる暇はない。妻や職場の皆が私を支えてくれたように、私も妻や子を支え、職場に恩返しをしなければならない。そのための武器が今の私にはある。
私は、障害(さいのう)とともに生きていくのだから。