国連においては、平成18年12月に、障害者の権利及び尊厳を保護し、取組を促進するため、「障害者の権利に関する条約(仮称)」を採択しており、同条約は平成20年5月に発効している。
我が国は、平成19年9月に同条約に署名しているところ、これまで、平成23年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正、平成24年の障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成17年法律第123号)の制定等、同条約の締結に向けた国内法の整備に取り組んできたものである。
政府においては、平成23年に改正された障害者基本法第4条に基本原則として規定された「差別の禁止」に関するより具体的な規定を示し、それが遵守されるための具体的な措置等を定めることにより、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年4月26日、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案」を閣議決定の上、国会へ提出し、国会では、5月31日に衆議院において、6月19日に参議院において、それぞれ全会一致で可決され成立に至ったものである。
- 1 目的(第1条関係)
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この法律は、障害者基本法の基本的な理念にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、差別の解消を推進し、もって全ての国民が、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的としたこと。
- 2 定義(第2条関係)
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(1) 障害者の定義を、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものとしたこと。
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(2) 社会的障壁の定義を、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものとしたこと。
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(3) 事業者の定義を、商業その他の事業(地方公共団体の経営する企業を含む。)を行うものとしたこと。
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(4) 行政機関等の定義を、国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体(地方公営企業法(昭和27年法律第292号)第3章の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業を除く。10において同じ。)及び地方独立行政法人をいうものとしたこと。
- 3 国及び地方公共団体の責務(第3条関係)
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国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、実施しなければならないものとしたこと。
- 4 国民の責務(第4条関係)
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国民は、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならないものとしたこと。
- 5 社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備(第5条関係)
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行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならないものとしたこと。
- 6 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(第6条関係)
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(1) 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならないものとしたこと。
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(2) 基本方針は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する基本的な方向、行政機関等が講ずべき措置に関する基本的な事項、事業者が講ずべき措置に関する基本的な事項等を定めることとしたこと。
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(3) 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならないものとしたこと。
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(4) 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聴かなければならないものとしたこと。
- 7 行政機関等における障害を理由とする差別の禁止(第7条関係)
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(1) 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならないものとしたこと。
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(2) 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならないものとしたこと。
- 8 事業者における障害を理由とする差別の禁止(第8条関係)
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(1) 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならないものとしたこと。
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(2) 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならないものとしたこと。
- 9 国等職員対応要領(第9条関係)
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(1) 行政機関の長及び独立行政法人等は、基本方針に即して、7に規定する事項に関し、当該行政機関及び独立行政法人等の職員が適切に対応するために必要な要領を定めるものとしたこと。
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(2) 行政機関の長及び独立行政法人等は、国等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならないものとしたこと。
- 10 地方公共団体等職員対応要領(第10条関係)
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(1) 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、基本方針に即して、7に規定する事項に関し、当該地方公共団体の機関及び地方独立行政法人の職員が適切に対応するために必要な要領を定めるよう努めるものとした。
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(2) 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、地方公共団体等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならないものとしたこと。
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(3) 国は、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人による地方公共団体等職員対応要領の作成に協力しなければならないものとしたこと。
- 11 事業者のための対応指針(第11条関係)
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(1) 主務大臣は、基本方針に即して、8に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な対応指針を定めるものとしたこと。
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(2) 主務大臣は、対応指針を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならないものとしたこと。
- 12 報告の徴収並びに助言、指導及び勧告(第12条関係)
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主務大臣は、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができることとしたこと。
- 13 事業主による措置に関する特例(第13条関係)
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行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律の定めるところによることとしたこと。
- 14 相談及び紛争の防止等のための体制の整備(第14条関係)
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国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談及び紛争の防止等に必要な体制の整備を図るものとしたこと。
- 15 啓発活動(第15条関係)
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国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、障害を理由とする差別の解消を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとしたこと。
- 16 情報の収集、整理及び提供(第16条関係)
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国は、障害を理由とする差別を解消するための取組に資するよう、国内外における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うものとしたこと。
- 17 障害者差別解消支援地域協議会(第17条から第20条まで関係)
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(1) 国及び地方公共団体の機関であって、障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するものは、地方公共団体の区域において関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会を組織できるものとしたこと。
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(2) 協議会を組織する国及び地方公共団体の機関は、必要があると認めるときは、特定非営利活動法人等の団体、学識経験者等を構成員として加えることができるものとしたこと。
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(3) 協議会は、情報の交換、障害者からの相談及び事例を踏まえた協議並びに障害を理由とする差別を解消するための取組を行うとともに、それらを行うため必要があると認めるとき又は協議会の構成機関等から要請があった場合に必要があると認めるときは、構成機関等に対し、事案に関する情報の提供及び意見の表明その他の必要な協力を求めることができるものとしたこと。
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(4) 協議会の庶務は、協議会を構成する地方公共団体において処理することとしたこと。
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(5) 協議会が組織されたときは、当該地方公共団体は、内閣府令で定めるところにより、その旨を公表しなければならないこととしたこと。
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(6) 協議会の事務に従事する者又は協議会の事務に従事していた者は、事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならないものとしたこと。
- 18 主務大臣等(第21条から第24条まで関係)
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(1) この法律における主務大臣は、対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣等としたこと。
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(2) 12に規定する主務大臣の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、地方公共団体の長その他の執行機関が行うこととすることができるものとしたこと。
- 19 罰則(第25条及び第26条関係)
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(1) 17(6)の規定に違反した者は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処することとしたこと。
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(2) 12の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処することとしたこと。
本法に関して、衆議院内閣委員会と参議院内閣委員会においてそれぞれ附帯決議が付されているので留意すること(参考1)。なお、以下の事項については、地方公共団体にも関係が深いことから、特に留意すること。