本編目次へ次ページへ

平成22年度障害のある児童生徒の就学形態に関する国際比較調査報告書

はじめに

 本報告書は、各国における障害のある児童生徒の就学形態、仕組みを把握、検証するとともに、具体的な事例を収集することにより、今後の障害者施策の実施に寄与することを目的として行った調査研究をもとに作成したものである。
 調査研究の対象とした国は、イギリス(イングランド中心)、フランス、イタリア、スウェーデンのヨーロッパ諸国とニュージーランドの5ケ国である。いずれも、2006年12月に国連総会で採択された障害者権利条約を批准し、障害者差別の禁止に積極的に取り組み、また、障害のある子とない子とが共に学ぶ教育=インクルーシブ教育を進めている国々である。
 しかし、インクルーシブ教育に関しては、各国には取組の年代にずれがある。スウェーデンやイタリアは先発国であり、次いで、イングランドとニュージーランドが続き、フランスが後発国となっている。
 日本と違うところは、第24条でインクルーシブ教育を規定している障害者権利条約を批准していること、障害者差別禁止に関する法制度が確立していること、権利擁護や異議申し立ての制度も整っていること、である。特に注目したいのは、特別学校や学級などを残しつつも、インクルーシブ教育の原則を掲げ、その実現に向け、政策や実践の面で努力が成されている点であろう。
 なお、ヨーロッパ諸国の場合、「障害」を含む差別禁止に関わる法制については1953年発効の欧州人権条約や2000年の「欧州基本権憲章」に照らして理解する必要があることを強調しておきたい。
 さて、ユネスコの国際教育局が2008年に開催した第48回教育国際会議のテーマはインクルーシブ教育であった。ここで取り上げられたインクルーシブ教育は障害のある子どもに限らず、現在、公教育から排除されているすべての子どもを受け入れることが、学校教育を中心とする公教育のあり方そのものの変革につながり、差別のないインクルーシブな社会(社会的包摂)を実現することにつながるという観点から提起されたものである。
 同会議が最後にまとめた結論と勧告は4本柱になっているが、最初の二本柱をここに紹介しておきたい。[II]の5については、上述のように、今回調査した各国はすでに達成している。


[I] アプローチ、範囲及び内容

  1. インクルーシブ教育は、生徒や地域社会の多様性、それぞれに異なるニーズと能力、性格や学習意欲を大事にし、あらゆる形態の差別を解消しながら万人のために質の高い教育を提供することを目的とする現在進行中の過程であることを認識すること
  2. インクルーシブ教育政策や方策の実施を強く阻んでいる社会的不平等や貧困に対して、部門間政策という枠組みの下で優先的に取り組むこと
  3. 全ての子どもに優しく、効果的学習を導きやすく、全ての子どもを包摂し、衛生的で安全で、ジェンダー問題に責任のある学校の文化と環境を促進し、学習者自身、その家族や地域社会の積極的な役割と参加を奨励すること。

[II] 政策(Public Policies)

  1. インクルージョンのための望ましい教育政策と改革に向けあらゆる排除者に関する関連データを収集・利用し、国レベルでの監視と評価の機構を設置すること
  2. インクルージョンに関する国際条約、とりわけ、障害者権利条約の批准を進めること
  3. 公共的な利益の観点から教育を捉え、市民社会や民間部門との密接な連携の下、公平な(equitable)質の高い教育の推進を主導し、促進し、追跡する政府の権限(capacity)を強化すること
  4. 多様な学習者の発達を通常の学校で促していくために彼らに対する政策を工夫し、教育支援を行うこと
  5. 教室内の言語や文化の多様性を価値のある資源と捉え、早い時期の教育において母語の使用ができるようにすること
  6. 地域のニーズや状況に合わせ、多様な教育方法を開発するために、柔軟なアプローチを採用しつつ、カリキュラムの効果的な枠組みを作り出すように教育関係者に働きかけること

 本報告書は第1章イギリス、第2章フランス、第3章イタリア、第4章スウェーデン、第5章ニュージーランド、となっている。共通の観点から調査研究するようにしたが、それぞれの国の独自性もあり、用語使用の面も含め、必ずしも全てに統一が取れているわけではないことをお断りしておきたい。


平成23年3月30日

専修大学 経営学部 教授
嶺井 正也

 執筆担当者及び執筆箇所 

調査委員長
嶺井 正也専修大学 経営学部 教授第2部第5章
 
調査委員(五十音順)
池田 賢市中央大学文学部 教授第2部第2章
一木 玲子愛知みずほ大学 講師第2部第3章
西田 幸代ローハンプトン大学 リサーチフェロー第2部第1章
二文字 理明大阪教育大学 教授第2部第4章
▲このページのTOPへ