平成22年度障害のある児童生徒の就学形態に関する国際比較調査報告書 翻訳資料集
第4章 ニュージーランド
資料1 教育省のHPで説明している就学手続き
(インタビューした日本人の母親の意見でもほぼこの通りであるが、しかし、人権委員会やオンブズマンのレポートを見ると現実にはトラブルがある(下線部:引用者)。)
まず、校長先生と面会するため(もしも支援が必要であれば、ご自分のパートナー又は友人を連れていくこと。)のアポイントを取って下さい。面会の時には、もしも早期介入プログラムに参加していれば、そのチームの支援を受けることもできます。面会ではあなたのお子さんについての情報を共有した上で、以下のような質問をして下さい。
- この学校は現在、特別な教育的ニーズについてどのように対応していますか。
- この子を教えてくれるスタッフや子どもの進度について定期的に話をしてくれるスタッフはどなたですか。
- 学校に給付される特別教育補助金を特別な教育的ニーズのある生徒の支援に使う方法やこの子がその補助金を受けることのできる方法を教えて下さい。
- 学習・行動障害支援リソース教員(the Resource Teachers:Learning and Behaviour)や学習支援教員(Learning Support Teachers)が配置されている学校はどこにあり、この地区内のどの学校を支援し、この子にはどのように関わっていただけるのですか。
- この子は継続的再審可能資源要綱(the Ongoing and Reviewable Resourcing Schemes: ORRS)又は学校における高度保健ニーズ基金(School High Health Needs Fund: SHHNF)の対象となる資格があるか、あるいは、既にその資格確認がなされているのでしょうか。
- この学校が特別な教育的ニーズのある生徒支援のために他の機関と協力している方法を教えて下さい。
また、次のようなことも話してみて下さい。
- もし、必要となった時に、この子が校庭でいる時、どなたが見守ってくれるのでしょうか。
- もしも、担任の先生あるいは教員補助の方が病気で休まれた時にはどうなるのでしょうか。
- 校外に出かける時はどうなりますか。
あなたの近所の方や友だちにも学校について聞いてみて下さい。お子さんが通うようになるクラスを観察するためにいろいろ尋ねて下さい。お子さんが学校生活開始の準備ができるようになるまで、学校と話しあうこともできるし、また、休み時間やスポーツディのような活動の時に学校訪問をして、学校になれるようにする機会を作ることもできます。
あなたにはお子さんが通学する学校を選択する権利があります。
そのお子さんの親又は保護者として、希望の学校に就学要綱が適切に定められていなくても、教育大臣の承認を得て、あなたにはお子さんを通わせたい学校を選択する権利があります(注意:就学要綱は特別な教育的ニーズがあるというだけでその子どもを排除するために使うことはできません。)。
1989年教育法によると、子どもたちは全て5歳から19歳の学年度が修了するまで地域の学校(local school)に通う権利を有しています。第9条による合意あるいは継続的再審可能資源要綱(ORRS)の対象になっている生徒は21歳まで学校に通うことができます。
学校には生徒が物理的にも情緒的にも安全な環境を生徒に保障する義務があります。もしも、この義務に施設の改善あるいは適切な専門家によるサービスの提供が含まれるようであれば、学校は教育省の特別教育部(Group Special Education:GSE)あるいは、こうしたニーズに対応できる機関と協働することになります。また、学校は生徒に適切な支援を行う時系列の計画や時程(timeframes)を親又は保護者と作成することになります。
もしもあなたが困った事態になり、担任の先生、校長先生に話しても、あるいは、学校苦情処理方針・手続き(school’s complaints policy and procedures)に従って行動してもその困った事態が解決できない場合には、あなたの地域にある教育省の国家運営生徒支援部長(National Operations Student Support Manager)に連絡をして下さい。あなたの地域のGSE事務所がその連絡についての詳細をお伝えすることになります。
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資料2 ニュージーランドADHDオンライン・サポート・グループ(New Zealand’s ADHD online support Group)のHP https://www.adhd.org.nz/より
(ここでは、親からの問い合わせが多い、特に人権法上の教育に関する権利についての理解へのアドバイスが行われている。差別や苦情についても触れている。まずは基本的な法の理解から始まる。2011年3月にこのHPを確認しているが、内容的には少し古いものが含まれている。)
基本となるもの(the Fundamentals)
- 5歳から19歳の全てのニュージーランド人は無償の初等・中等教育への権利(are entitled to)を有しています(1989年教育法)。
- 特別な教育的ニーズのある子どもや若者は国立学校に就学し、そこでの教育を受ける平等の権利を有しています(1989年教育法)。
- 全ての人が障害を含む何らかの事由による差別から自由になる権利を有しています(1993年人権法)。
問:人権法に規定される教育とは何を意味していますか。
答:人権法に規定されている教育は、就学前、初等学校、中等学校など全ての教育機関へのアクセスを含んでいます。第三段階の教育、大学、ポリテクニクも入ります。公的な教育機関だけでなく私的な教育機関もこの法律の対象となっています。また、資格のある機関や職業訓練組織も先の事由による差別を行えば人権法が適用されます。
問:人権法は障害をどのように定義していますか。
答:人権法上の障害の定義は以下のように非常に幅広く、ほとんどの障害を網羅しています。
- 身体障害又は身体損傷(physical disability or impairment)
- 身体疾患(physical illness)
- 精神疾患(psychiatric illness)
- 知的障害・損傷又は精神的障害・損傷(intellectual or psychological disability or impairment)
- その他の精神的、生理的、解剖学的構造もしくは機能の欠損又は異常(any other loss or abnormality of psychological, physiological, or anatomical structure or function)
- 盲導犬、車椅子又はその他の補助手段への依存(reliance on a guide dog, wheelchair, or other remedial means)
- 疾患の原因となりうるものが体内に存在している状態(the presence in the body of organisms capable of causing illness)
問:障害のある生徒に対するどんな差別の類型が違法とされていますか。
答:教育における違法な直接的差別は以下のものです。
- 障害を理由にして生徒の受け入れを拒否すること
- 障害のある生徒に他の生徒より不都合な条件をつけること
- 他の生徒に行っているサービスや利益と同じものを否定すること
- 障害を理由として、停学や退学によって排除すること、あるいは、不利な扱いをすること
就学要綱(特別学校は除く)から生徒を排除する基準として、障害や、その他の違法な差別事由を利用することは違法となります。人権委員会は入学要綱が障害のある生徒を排除するようなものになっていないかを監視することができます。
問:差別に関して合法的な例外がありますか。
答:次の差別は合法的なものです。
- 障害のある生徒が学校の教育プログラムに参加し、あるいは、そのプログラムから利益を得るために必要な特別のサービスや施設を学校が提供する場合に不合理になる(unreasonable)場合
- ある生徒の障害が他人を傷つける危険性がある場合。この例外は、学校がその危険性を不合理な混乱をもたらさない合理的な手段で縮小できない場合にのみ妥当する。
教育機関は障害児の特別な要求に配慮するために合理的な努力をしていることを証明する必要があります。学校は何らかの障害のある生徒のためにも運営されねばなりません。
問:人権法は間接的な差別も対象としていますか。
答:人権法は中立的には見えるが実際には障害のある人々や集団を異なるやり方で扱うことになる活動や条件、つまり、間接的差別についても対象としています。例えば、学校で準備される教材が障害のある生徒の特別な教育ニーズを無視して全ての生徒にとって同じであった場合、この生徒たちは教育への平等なアクセスが得られないということになります。こうした例は、視覚障害のある子どもの場合には、印刷物しか準備されない場合に該当します。視覚障害のない生徒よりも不利な条件で扱われることになるからです。間接的差別に対する苦情も人権法で保障されています。しかし、人権法では、苦情を訴えられた活動に合理的な理由があれば、間接的差別の苦情への弁護が認められています。
問:人権法侵害に関して責任を負っている人は誰でしょうか。
答:もしも人権法侵害があった場合、教育当局や教育機関の管理の責任者・責任の機関、例えば、第三教育機関の理事会、学校理事会、個々の教員・校長・学校経営者が責任を負うことになります。
問:人権法違反があった場合にはどうすればいいですか。
答:誰でも自分のために、あるいは、他の人のために人権委員会に苦情を訴えることができます。もしも、人権法違反があるようだと認めた場合には、委員会は審査を行い、苦情提訴者が解決に向かえるように調停を行います。以下に示した苦情処理過程のどの段階でも、調停会議(a conciliation conference)を委員会は招集することができます。
- 苦情に関する審査以前の段階
- 審査の後
- 審査をし、委員会が不法な差別が行われたと確認した後
委員会のスタッフは当事者と解決に向けて活動します。解決とは次のようなものです。
- 謝罪
- 生徒の就学についての同意
- 将来、障害のある生徒が何らかの方法で適切に処遇されることの確約
- 賠償
もしもこれらの解決が不可能な場合には、人権審議裁判所(Compliant Review Tribunal)に事案は移行し、そこで聴聞されます。そこでは数多くの法的救済(remedies)や適切な命令が準備されています。被告者が違反や侮辱を繰り返したり、継続するのを防ぐための命令だけでなく、侮辱、尊厳の喪失、感情を害したことへの損害賠償の命令も含まれます。
問:特別なニーズのある生徒に対して十分な資源を学校が用意できない場合には法的にはどんな問題が生じますか。
答:もしも特別な教育的ニーズのある生徒に対する不都合な条件での処遇が学校管理の範囲を超えるような資源不足によるものだとしたら、これは商品やサービス提供における差別の問題となります。教育省や「専門家によるサービス(Specialist Education Services)」がこうした資源の提供者になります。しかし、これらの機関は人権法上の責任は負っていません。人権法は1999年12月31日までは、ニュージーランド政府が障害を事由にした差別を行っても例外として認められているからです。 教育省や専門家教育サービスはこの例外に入っています。
(訳者注:2001年の人権法改正で、政府・公的部門にも人権法が適用されるようになっているので、現在は教育省も差別の当事者となりうる。)
問:商品やサービスの提供に際して障害を事由とした差別の例外は認められていますか。
答:はい、認められています。
障害のある人がそれらの提供者に期待するのが不合理になるような特別な方法での設備やサービスの提供を求めた場合、それに対する差別は例外として認められます。また、もしも提供者が相当に面倒な条件(onerous terms)がなければ供給することが合理的に期待できない特別な提供方法を障害者が求めるようであれば、他の人々に対するよりも困難な条件で設備やサービスを提供することへの差別は例外として認められています。
問:人権法は障害のある生徒には障害のない生徒よりも多くの財政支援や追加的資源を与えることを可能にしていますか。
答:はい、可能です。
障害のある生徒を都合のいい条件で処遇することは違法ではありません。
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資料3 万人の学校:ニュージーランドにおける、子どものインクルーシブ教育への権利
Janis Carroll-Lind博士
主任相談役(principal advisor)(教育)
子どもの権利コミッショナー事務所
ウェリントン
キャサンリン・リース(Katherine Rees)
青少年準拠集団
児童コミッショナー
オークランド
要旨
ニュージーランドの多様なニーズのある生徒にとって、現行の法律や政策の考え方は彼らの現実に合致していない。子どもたちは大人と同じ基本的人権を有するが、弱い立場の集団として、障害のある子どもは更なる保護と権利の推進を必要としている。子どもの権利コミッショナー事務所(Office of the Children’s Commissioner:OCC)は、2003年子どもコミッショナー法第13条(1)(b)及び国連こどもの権利条約(児童の権利に関する条約)(第3条、23条、28条、および29条)によって決定されたこれらの権利を支援する責任を担う。OCCの電話助言サービスは、(行動も含めた)障害のある生徒は大抵学校から除外される危険があることを示している。インクルージョンは、全ての生徒の存在感、参加及び到達度を高めることを意味する。この報告書はOCCで受けた訴えの本質と、こうした生徒にとって肯定的な結果を達成するための支援的役割を記述するものである。
序論
子どもの権利コミッショナー事務所
2003年子どもの権利コミッショナー法第13条(1)(b)及び国連こどもの権利条約(児童の権利に関する条約)(第3条、23条、28条、および29条)に決議されているように、子どもの権利コミッショナーは青少年の独立した立場の擁護者であり、ニュージーランドの子どもの多様性を認める法的責任を担う。
その機能の中心となる支援、監査及び調査に加え、コミッショナーの更なる役割は青少年に影響する事項の決定に、彼らの参加を推進することである。当事務所のこの役割を支援するために12歳から17歳までの8ないし10人の青少年が「青少年準拠集団(YPRG)」のメンバーとして選ばれる。彼らの背景は多様で、都市部と田舎の社会を代表するものになっている。彼らの役割は、若者に関する問題に助言を与え、当事務所の戦略的方向づけを助け、目標達成に資すること、また、青少年との協議を手助けし、子どもの権利コミッショナーに地域の問題を知らせることである。「インクルーシブ教育を実現」させることは、今後も継続する青少年準拠集団の重要な問題の一つである。YPRGメンバーのキャサリン・リースも次のように述べている。
我々のニーズは皆異なっており、障害は、「誰でも着られるフリーサイズ」的精神で対応できるものではないのです。学校は、生徒にとってより開かれたものとなり、生徒の主張にもっと耳を傾け、彼らに自分たちの権利を認識させなければなりません。
インクルージョンの定義
インクルージョンは、排除や疎外、未到達(Booth & Ainscow, 2002)などの危険のある生徒たちを特に考慮しつつ、学校の生徒全員の存在感、参加及び到達度を高める過程である。これは、地域の学校において文化、カリキュラム及び人間社会からの生徒の排除を減らして参加を拡大することにより、生徒全員の教育上の障壁を最小にすることを意味する。2002年のブース及びエインスコー(Booth & Ainscow)によれば、インクルージョンは、地域の生徒の多様性に応えるための、学校内の文化、方針及び(教育)実践方法の再構築となる(p.3)。
1989年教育法の定めにより、ニュージーランドはインクルーシブ教育のシステムを有する。インクルージョンはニュージーランドのカリキュラムの根幹である。このカリキュラムは社会的及び生物学上の性別、民族、信条又は能力や障害、社会的、文化的背景又は地理的位置に関わらず、公立移管私立学校も含めて英語による教育が行われている国立学校の生徒全員に適用される(MoE, 2007, p. 6)。文書に記されているように、『カリキュラムは非性別主義、非人種主義、非差別的であり、生徒のアイデンティティー、言語、能力及び素質が確実に認識され肯定されるとともに、彼らが学ぶためのニーズに対処することを保証する。』(MoE, 2007, p. 9)
生徒の声
ブース氏とエインスコー氏が提言したように、生徒たちが自分の経験についての考えを理解しようとすることによって初めて、学校の文化、教育方針及び実践方法の再構築による学校の改変が可能になる。生徒たち自身の経験についての考えを検討することは、インクルージョンのより広い研究に関わってくる。生徒が自分たちの経験を概念として捉え、それに影響を受けるという形で、そのプロセスは重要な役割を持つ。しかし、彼らを取り巻く環境は重要ではあるが、本当に意味があるのはその環境の個人個人の経験である。青少年準拠集団のメンバーであるキャサリン・リースは身体障害があり、ニュージーランドの学校システムにおける自分のインクルーシブ教育の経験を皆に共有させてくれている。
インクルーシブ教育についての私の経験を書いてくれと頼まれたけれど、それはちょっと出来ません。というか、私にはインクルーシブ教育というものはないのです。私は今やっと、インクルーシブでない教育の長い道のりをほぼ終えたところで、ほっとしています。
私はこれまで13年間、自分が求めていることを果たせるよう、支援をしてもらうための取組を通じて、学校システムの舵取りをしてきました。私は、カールソン脳性まひ児特別学校(Carlson School for Cerebral Palsy)で学校教育を受け始めましたが、6歳までに完全な普通学校に移っていました。そこが私には退屈なのが明白だったからです。ところが、完全な普通学校にいるということは、ほとんど、または私が必要としているときに全く支援がないということを意味しました(教員補助員が来てくれるのは午前か午後でした。)。9時から3時の間の手助けは、明らかに無理でした。
この経験を元に、統合普通学校教育(integrated mainstream schooling)と当時呼ばれたものを試してみるという決定が下されました。それは、学校にいる間に、理学療法と職業療法の時間及び必要なときに教員補助(員)を与えられるという形で学校生活を組んでもらうということでした。中等教育(7年生から8年生)ではそれが大変うまくいき、私はインクルーシブ教育への答えをやっと見つけたと思ったものです。私のための教員補助は教室の後ろに座っていて、私は助けが必要なとき、後ろを向いて手を挙げ、すると彼女は私の求める援助を何でもしてくれて、それから後ろへ戻って何かをする、というのが常でした。担任の先生も私にどれだけ助けが必要か、いつも尋ねてきました。例えば、食物科学の時間では補助員がそばにいる必要があるかどうか聞かれました。私はいてもらうことを決めましたが、それは全て私自身の決断でした。
やがて高等学校に行くと、突如として「システム」の必要に直面しました。最初に声をあげたとき、私には理解できないこの悪名高きシステムの様々な側面があること、言い換えればその方が簡単だとか、それまで何年もそうやって来ているからこれがベストなやり方だ、などと告げられました。学校にとって、「ベストなやり方」とは、障害のある3、4人の生徒が一緒に授業に出て、皆で一人の教員補助を共有する、というもので、それは大して問題とは感じませんでした。困ったのは、私自身が、補助員のそばに座らなければならなかったことで、補助員は他の人たちも助けなければならないので、そのためには皆が一緒に座らなければならなかったからです。結果として、私は「ヘルパー」付きの子と見られ、授業に出ている他の生徒たちは私に話しかけなくなりました。同級生とは完全に切り離されて、障害者がひとかたまりになっていつも教室の最前列に座っていることが、全員に支援をするための想定上唯一の方法だったのです。その間、私は「ヘルパー付きの子」というレッテルを貼られ、同級生とは隔たれた気持ちで、普通学級に出席しました。クラスで私に話しかけたがらない同級生たちを責める気持ちがあるかというと、全くありません。子守みたいに親がそばに座っていなければならないような人に、誰も話しかけたくはならないでしょう。補助員がいない日でも、そこは私の「ヘルパー」の席だから、誰も私と一緒に座ろうとはしなかった。そうやって、私は、疎外感と、隔離された気持ちにさせられるそのシステムに耐えて過ごしました。でも私に今でも心に残るのは、以前のように何が必要か、どうして欲しいかを全く聞かれなかったことです。ただ、物事はそのようになっているとだけ告げられ、何事も、全部受け入れるか、全く無いか、という形で示されました。
調整役の教師(liaison teachers)が、私の希望に応じて、補助無しで授業に出させることにしたことも何度かありましたが、普通学級の教師はどうしたらよいかわからなくなり、私が非常に困って助けを必要としている、と知らせることになるだけで、結局補助の人が送られてくるのでした。そのパターンにおいて、なぜ私が助けを要らないと言ったのか、誰も聞きませんでした。誰かが私に面と向かって、その科目でなぜ私に支援が必要なのかを説明することは全くありませんでした。誰かが問題のありかを私に説明してくれれば、私なりに解決策を提供することも出来ただろうし、先生達だって自分の言い分を説明できたでしょう。
支援職員と調整役の教師(特別支援部署と普通学校に対処する教員)全員が、様々な選択肢について、生徒の前で忌憚なく話し合い、彼らが過去にどんな支援を受けてきたかを調べ、自分たちがそれに見合うことができる所を検討する、ということがなされるべきだったと思います。それができないなら、できない理由を生徒に知らせるべきで、支援を受ける中での「問題解決」部分にもっと生徒を関わらせれば、その中で別の選択肢が出てくるかもしれない。何しろ生徒たちこそが、その多くが何年もの間、支援職員と協力していくのであり、支援の受け方について積極的に関わるべきなのは彼らなのです。
学校は障壁を取り壊し、障害認知プログラムを通じてインクルーシブ教育を創り上げようとしています。でも私の経験から言うと、どれもうまくいくようには思えません。何週間か前、学校で13年生の生徒何人かに障害認知(プログラム)についてどう思ったか、何か役に立ったか聞きました。そんなプログラムがあったことさえ覚えている人は一人もいませんでした。私が障害認知って何のことだったか正確に説明しても、よくわからないという感じの表情でした。
生徒によっては現行のシステムでうまくいきます。実際望み通りな位でしょう。でも同時に、別の、彼らにとってはそのシステムがうまく働かないような人たちがいます。障害とは「誰でも着られるフリーサイズ」的な謳い文句で取り組めるような問題ではないのです。
こんな風に考えるのは私一人ではないことはわかっているので、教育関係者にお願いするのは、これを誰か一人の大げさな主張として無視して欲しくないということです。何年もの間、一つのシステムに耐えてきて、公に意見を言うつもりはありませんでした。けれどある時、私は大勢のうちの一人で、大変でも私がこうした経験を知らせなければ、決して語られることはないのかもしれないと思ったのです。
こうした問題への解決策には資金も、奇策も必要ありません。とても簡単です。生徒はどうやって自分たちへの支援がされるかに積極的に関わる必要があります。関係する職員全て、つまり、普通学級の教員と支援スタッフたちが、生徒と共にこれまでの支援の利用され方とそれが彼らにとってうまくいったかどうかについて話し合う場を持つ必要があるのです。問題に見合う対策が可能なら、そうするべきですし、無理ならば、その実質的な理由を明らかにするべきです。全ての人が、問題解決への役割を果たす必要があります。学校は、新しいことを始める必要があるかもしれないという事実をもっと率直に受けとめるべきです。要するに、コミュニケーションに課題があります。そこに、単純に仲間へのサポートという概念に基づいた生徒主導の障害認知プログラムを投入すれば、それがインクルーシブ教育のシステムになります。現在、インクルーシブ普通教育は私にも他の多くの障害をもつ生徒にとっても存在してはいません。しかし、インクルーシブ教育を実現させるための道具は目の前に在って、それを拾い上げられることを待っているのです。
政策と法制
ニュージーランドには、インクルーシブ教育のシステムのなかでキャサリンのような生徒の存在感と参加、及び到達度を高めることを目指す、施策や法制化における幅広い取組がある。我が国の全ての子どもが「学習者として特定のニーズに見合った質の高い教育」を受ける権利を有する。したがって、学校は、年齢、性別、民族あるいは能力(ERO, 2003, p.2)に関わらず、生徒全員にふさわしい対応をする法的倫理的責任を負っている。『ニュージーランド特別教育政策指針(New Zealand's Special Education Policy Guidelines)』(MoE,2003)にあるように、特別支援ニーズのある児童生徒は、特別支援ニーズのない同年齢の他の児童生徒と同じように、質の高い教育を受ける権利を有する。
国連こどもの権利条約は子どもたちが、人権、アイデンティティー及び民主主義の尊重(第29条)を育む教育を受ける権利を認めている。同様に1989年教育法第8条は、障害のためであろうと、そうでなかろうと、特別な教育的ニーズのある人達はそうでない人と同様に、公立学校に入って教育を受ける権利を有することを謳っている。生徒全員が教育を受ける資格を有し、いかなる学校も障害を理由に、ある生徒にはサービスの利用を拒否したり制限したりするなど、異なる処遇を施すことは、法律に反する。
1993年人権法は、人が肌の色や、人種、民族、出身国、性別や性的指向、配偶者の有無、宗教又は倫理的信条、障害、政治的意見あるいは家族の状態によって差別されない権利を有するという記述をもって、教育法を補強している。この法律は、子どもを含め、いかなる人も障害のために不利な処遇を受けることは許されないことを規定している。公立学校と公立移管学校を司るのは同法の第1部Aだが、これにより、教育機関での障害を理由にした差別は禁止されている。人権委員会(The Human Rights Commission)は差別の存在するあらゆる件を調査する権限を有している。さらに、1990年ニュージーランド権利章典法(The New Zealand Bill of Rights Act)は、全ての人が障害などの差別をされない権利があることを謳っている。
1994年健康・障害コミッショナー法(The Health and Disability Commissioner Act)は特例法で消費者の権利を明示した。例えば、学校での理学療法などのサービスの提供はこの(健康・障害コミッショナー)法における障害者サービスの一環と分類され、適切な基準で行われなければならない(Darlow, 2008)。ニュージーランドを障壁のある社会からインクルーシブ社会(p.7)へ変容させるための長期計画と表現されたように、2001年ニュージーランド障害者長期計画は、ニュージーランドの、非障壁社会へ向けた前進を目指す15の目標を掲げている。間接的には、全ての目標が障害のある生徒の普通学級への包括(インクルージョン)に関わるものだが、第3の目標は特に関連があり、『障害者に最高の教育を与える』(p.18)というものである。ニールソン(Nielson, 2005)は、「2001年ニュージーランド障害者長期計画」を「進行中の議論の実例(p.16)」であると考えている。教育目標と関連する8つの行動計画がある。
- いかなる子どもも、障害を理由に地元の学校へ通学することを拒否されることがないことを保証する。
- ニュージーランド手話、情報技術及び人的援助の利用手段を供与することで効果的なコミュニケーションの向上を後押しする。
- 教員や教育従事者が障害者の学習ニーズを理解することを保証する。
- 障害のある生徒、家族、教師及びその他の教育従事者が、皆同様に、自分たちのニーズに応えるべく用意されている資源に手が届くよう徹底する。
- 障害のある生徒が、他の学校の同様の障害者と連絡を取れるような機会を取れるように手助けする。
- 障害のある生徒が抱えるニーズへの学校の対応力と説明責任を強化する。
- 個々の生徒の必要を満たすような、適切で効果的なインクルーシブ教育の環境確保を促す。また、
- 障害者のための義務教育以降の選択肢を改善する。これに含まれるのは、良い教育実践を奨励し、就職指導を行い、また、財政的支援と教育機会をうまく調整しつつ学ぶために、生涯学習の機会を増やすことである。
学校は第3目標に加えて、第4目標、すなわち、障害者に雇用機会と経済的向上をもたらすということに基づいて、障害のある子ども、青少年及び職員の学校環境における参加を促進し、支援することによって、同「長期計画」の実践を遂げることもあろう(ERO,2003)。
ニュージーランドは2008年9月26日に国連障害者の権利条約を批准した。この21世紀初の人権条約は、障害者のために新しい権利を創り出した訳ではなく、障害者に関連している点で、むしろこれまで言われている人権の実現の必要性という従来の認識の上に立ったものである。障害問題局(the Office for Disability Issues, 2009)によれば、同(権利)条約は「障害者長期計画」の実施に向けて大きな起動力と支援を与えるものとなろう。なぜなら、権利条約は、批准国が障害者の全ての人権と基本的な自由について、他の人と同様に、障害を理由にしたいかなる差別もない、十分な認識を持つよう徹底しなければならないと明言しているからである。既にこれはニュージーランド法の特徴となっているが、裁判所は権利条約を国際的法律の枠組みとして用いることができる(障害問題局)。
特別教育政策
全ての生徒に平等な教育の質と機会を提供する総体的な国際レベルのインクルーシブ教育システム達成を目標としたニュージーランドで最初の特別教育資源政策 (SE2000)が、1996年に導入された(MoE, 1996, p.5)。特殊教育政策を導く7つの原則は次の通りである。
- 特別教育を要する幼児と生徒は、特別教育を要さない同年代の若者や性と同様に高い質の教育を受ける権利を有する。
- 特別教育最大の焦点は幼児と生徒の個人的、発育的ニーズを満たすことである。
- 特別ニーズが特定された全ての幼児と生徒は、利用可能な特殊教育資源の公平な権利を有する。
- 生徒、家族、親族及び教育提供者の相互関係は、学習障害の克服に不可欠である。
- 親の選択や、幼児と生徒のニーズを考慮し、全ての特別教育資源を可能な限り効果的かつ効率的に利用する。
- 幼児又は生徒の言語や文化は、学習及び成長に不可欠であり、プログラムを計画する上で考慮されなくてはならない。
- 特別教育を要する若者および生徒は、彼らのニーズが特定されてから卒業後の進路まで一貫した教育を受ける(MoE, 2003)。
ニュージーランドには、障害のある子どものインクルーシブ教育権利を支持する広範な政策や法的イニシアティブが存在するが、「特別教育」や「特別ニーズ」といった言葉そのものがエクスクルーシブ(排他的)であると議論されることがある。しかし、特別教育政策の枠組みは、インクルーシブ教育の中で適切で公平なサポートの提供を目的とし、多様な政策イニシアティブを通して多様な生徒の中度から高度のニーズに応えるように考案されている(O’Brien & Ryba, 2005)。
生徒と教員の双方がインクルーシブ成功のために必要とするサポートが存在していても(Prochnow, Kearney, & Carroll-Lind, 2000)、インクルーシブ教育は今もなお、法律よりも態度が問題となる(Forest & Pearpoint, 1992; Kearney, Bevan-Brown, Haworth, & Riley, 2008; Mentis, Quinn & Ryba, 2005; Spedding, 2008)。子どもの教育の成功において教員の態度は、資金や政策、又は、法律以上に重要なものである。政策や慣習を決定するインクルーシブの価値や信念は、学校文化全体の根底にあるべきである(Mentis et al, 2005; Ministry of Education, 2009)。以下の引用文(Howie and Sleek(1987))は数年前と同様、現在にも関連性を持つ。
法律は万能ではない。教育の法的権利制定に加えて、適切な設備や機材の提供、豊富な数のスタッフに対する研修、そして、何よりも権利を行使する全ての者に適切な態度を教え込むことが重要である。態度の変化が法律の変化をもたらし、法律の変化が態度の変化をもたらすことを忘れてはならない(p.69)。
この20〜30年間で現在の法律や政策の理念の多くが定着してきているが、多様なニーズを持つニュージーランドの生徒の現実を捉えたものではない。インクルージョンの領域では、対立する議論が対立する(教育)実践状況をもたらすため理論や実践に様々な緊張が伴う(Kearney, Bevan-Brown, Haworth & Riley, 2008)。インクルーシブ教育の目的の合意だけでなく、インクルーシブ教育の原則の合意も存在しているが、2008年Kearney とその同僚が述べたとおり実践方法に関する不合意も生じている。子どもの権利コミッショナー事務所(Office of the Children’s Commissioner:OCC)も彼らと同じ意見である。OCCの二つの相談窓口に寄せられた質問と苦情から、身体的障害(行動的障害を含む。)を有する生徒は学校から退学させられるという最大のリスクにさらされていることがわかる。
OCCに寄せられた苦情の性質
OCCの二つの相談窓口は、障害のためにカリキュラムの全部又は一部から除外され、教育を受けられない子どものことを心配する親、専門家、又は、校長や教員から寄せられる質問の多くを処理している。人権委員会(Human Rights Commission)、Families Commission、Youth Law、IHC(知的障害者支援団体‐訳者記)、Ombudsman’s Office などの機関もOCCと同様の苦情を受けていることが明らかになった。
この排除に関する次の事柄は、定期的に報告されている。
- 障害のある生徒は「行儀が悪い」と帰宅させられる。
- 行動的障害のある生徒は、学校行事のキャンプに行く許可が下りない。
- 教育評価機関(Education Review Office:ERO)の訪問期間中、親は問題のある子どもを家に居させるよう指示された。
- 多様な教育のニーズを要する生徒には学校理事会による懲戒のヒアリングが行われ、医学的症状や障害が認められた場合は、学校からの退席、一時停学、又は、退学を命じられる。
- 身体的及び知的ニーズが高い生徒は多くの資源を必要とするため、野外活動に参加できない。
- 多様なニーズを要する子どもは、頻繁に同級生のいじめの対象となる。
教育法(Education Act (s8))に反してはいるが、多様なニーズを要する生徒は、出席日数を限定され学校行事の全てに参加することができない。
子どもに関する状況としては、(1)昼休み時間に教室内に残ることが許可されない、(2)一週間のうち数日のみ通学が許可される、(3)教員補助員による支援への資金援助がされる時間帯のみ通学が許可される、などがある。親が同伴できる時のみ子ども達の野外活動参加が許されることがあった。さらに、一部の親には、子どもが継続的に通学できるかどうかは一週間当たりの学校での「親の補助」次第であるとし、実際これは親の教師補助時間を可能な限り長くするよう別の形で要求されていたことがある。ある学校から退学された子供が転校した例がある。高度で複雑なニーズを要する10歳の少年は、一日1時間、教員補助員の下、図書館で過ごすことを勧められた。同級生と教室で過ごしたい意志に反し一つの部屋に独り閉じ込められることへの怒りから子どもは激しく反発した。転校により状況は改善し、週3日、一日4時間(午前9:00〜11:30am、午後1:30〜3:00)通学の許可が下りた。サポート仲介業者は転校によりこの学生がフルタイムで授業に参加できるようフルタイムでの教員補助員の資金を提供したが、学校側はその資金で治療補助の有資格者を雇い教員補助員よりも高い報酬を支払い、結局この子供はフルタイムで授業に参加することができなくなってしまった。
教員補助員の報酬への上乗せを親が求められるなど、教職員への報酬に対しても親の協力を見込まれることがある。別の学校であれば子どものニーズを満たしてくれる可能性があるという理由から、子どもを任意に退学させるよう圧力をかけられた親もいる。ORRS(Ongoing and Reviewable Resourcing Schemes:「継続的、再検討可能な資金計画」‐訳者記)資金がないと入学を拒否される子どももいれば、資金の有無に関わらず完全に入学を拒否される子供もいる。
子どもの特定の障害により露骨な差別を受ける例もある。例えば、ある少女が車椅子を常に使用する限り退学を命ぜられる事件があった(車椅子使用に関しては医師や理学療法士の書面による指示があった。)。別の子供は、タクシー運転手を叩いた後、学校へ来ることを禁止され、自制心が得られるまでの間、停学となった(タクシー会社側は、その子どもが自閉症であること、また、同じ道を走ることの重要性を運転手に知らせていれば、そもそも事故は防げたとの認識で、その子どもを必要なだけ送迎することを申し出ていたにも関わらず。)。
ニュージーランドの法律は明白であり、学校側は以下の事項をすることができない。
- 障害を理由に生徒の入学を拒否すること
- 障害を持つ生徒に、他の生徒より不利な入学条件を提示すること
- 障害を持つ生徒に、他の生徒より少ない利益やサービスを提供し酷い扱いをしたり、障害のために生徒を停学、退学させたりすること(Darlow, 2008)
数多くあるニュージーランドの政策や法律が既に履行されているにも関わらず、OCCへの苦情の性質から多様なニーズを要する生徒の一部はインクルーシブ教育を受けられずにいることが明らかとなった。これらの苦情は、障害のある生徒の排除の性質を調査したAlison Kearney博士の研究(2009)を正確に表している。Kearneyは排斥的行為(exclusionary practices)を次のように分類している:フルタイムの入学又は通学を拒否される、教育課程内の授業を受けることを拒否される、いじめられる、資金補助面での不適切な教員や校長の考えや慣習がある、面倒をみない、学校職員の価値観と責任感、教員の限られた知識と理解、親と学校職員の関係不良、教員補助員に関する考えと慣習、などである。
生徒に有利な結果を生み出すOCCの擁護的役割
権利擁護(Advocacy)とは、変化のために行動するという意味の計画的戦略過程である。これは共感、理解及び努力を要したより良い状況作りである。権利擁護は(個人又はグループ)の正義のために懸命に努力することである。次の議論はインクルーシブ教育を実現するためにOCCが勧める方法である。子どもに対する権利擁護的な役割において、OCCの教育部門は次の事柄に努めている。(1)生徒の教育機関を維持することで、学校や生徒に有利な結果を提供すること、(2)学校、生徒及び親の間の論争で生じた学習の障害を減らすこと、(3)学校と地域社会との関係を改善すること、である。
これらの目標を達成するため、OCCは教育権利擁護サービスを提供している。このサービスの一つは教育問題の解決において子供や世話人を支援することができるコミュニティーベースの擁護者を全国規模で教育し統括することである。二つ目のサービスはPLINFO(Parents Legal Information Line)であり親を対象とした法律、教育、権利擁護のサービスを無料で提供している。このサービスはWellington Community Law Centre に委託されている。
寄せられた電話の数や性質から親が子どもの権利を常に理解している訳ではないことがわかり、この現状は研究文献と一致している(Cullen & Carroll-Lind, 2005; Liberty, 2000参照)。親は非常に複雑な制度の舵取りをしなくてはならず、家族側は必要なサポート、支援、情報及び資源が得られるとは限らない。これらの問題の多くは、情報の必要性、家族の信頼や人間関係への脅威、家族間の問題などが関わっている(Liberty, 2000)。知識は有効な権利擁護の鍵となり、最高の教育を確実なものにしてくれる。我々の教育権利擁護ワークショップでは、権利に基づいた枠組みの中で参加者の子どもの権利擁護スキルを構築することを目的としている。
OCCは、その政策や役割に一致する集団問題を明確にし改善することを目標にしている。OCCは体系的権利擁護の一環として政府機関や教育関係者とのミーティングを定期的に行っている。
苦情の処理過程
生徒にとって問題がない時は、OCCに連絡は来ない。PLINFOやChild Rights Lineに苦情が寄せられた時には、既に、家庭と学校の間のコミュニケーションは断絶している。OCCは、親が子どものニーズが学校で満たされていないと懸念した時は、次の行動をアドバイスする。
- 子どもの担当教員と話をする。
- 話し合いで満足できない場合は、校長との話し合いを要求し、生徒の通学や適切な教育を受ける法的な権利を主張する。
- 校長との話し合いで親が合意に至らなかった場合、学校の雇用主である学校理事会(Board of Trustees)に書面で申請する。苦情が話し合われる理事会の会議に親は出席することができるが、事前に議長から会議での発言許可を得ておく必要がある。
- 親はサポートしてくれる人物を一人、理事会に同伴させることができる。
生徒と家族は次の権利を有する。
- 主張を注意深く聴いてもらう権利
- 懸案事項を調査し、回答を提供してもらう権利
- 報告状況のフィードバックを受け取り、苦情の性質に適切な回答を受け取る権利
- ネガティブな結果報告から保護される権利
- インクルーシブ教育の実現のために学校側に仲裁を求める権利
学校理事会の回答に不満がある場合、親は、OCC、Community Law Centre、Ministry of Education、Education Review Office、Human Rights Commission or the Ombudsman’s Office のいずれかに連絡を取ることができる。
OCCは、多様なニーズを要する子供がより良い学習成果を上げるため、サポートや資源に関し、個々の苦情に対して公平な解決を見出すよう努力している。OCCは質問や苦情を受け取ると、苦情の根拠となるものを見つけ出す。まず、苦情者が適切な場所に苦情を上げたかどうかを確認する。例えば、学校に解決を求めた後、正式に苦情を上げる場所は学校理事会であり、場合によってはGroup Special Education(Ministry of Education)となる。
解決を促進するためにOCCはやり取りの全てを必要とする。OCCからも評議会に書面で決定事項の報告書を求めることがある。ORRSへの申請書のうち拒否されたものは、OCCが調査手続き開始方法や仲裁権利について親の認識を確認する。
結論
障害のある生徒のインクルージョンは社会的公正の問題である。子どもや若者は大人と同様の基本的人権を持つが、弱い立場の集団である多様なニーズを持つ子ども達は自分達の権利の保護や向上のために更なるニーズを要している。学校のカリキュラムは全ての生徒を対象にしており、多様性に応えることは、ニュージーランドにおけるインクルーシブ教育が真に万人のためになることを保証するものである。
参考資料
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- Cullen, J., & Carroll-Lind, J. (2005). An inclusive approach to early intervention. In D. Fraser, R. Moltzen, & K.Ryba (Eds.). Learners with special needs in Aotearoa New Zealand. (3rd ed.). (p. 220-243). Southbank,Victoria, Thomson Dunmore Press.
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- Sleek, D., & Howie, D. (1987). Legislation, rights and advocacy. In D. Mitchell and N. Singh (Eds). Exceptional children in New Zealand, (p 57-69). Palmerston North: Dunmore Press.
- Spedding, S. (2008). The role of teachers in successful inclusion. In P. Foreman (ED.). Inclusion in action. (2nd ed.), (p. 390-426).
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資料4
1.人権委員会「障害児の教育への権利」(Human Rights Commission “Disabled Children’s Right to Education “ 2009)
人権委員会
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多言語対応可能です。
手話通訳者の予約が可能です。
アオテアロア ニュージーランド
ISBN 978-0-478-34959-7 (Word)
ISBN 978-0-478-34960-3 (PDF)
障害児の教育への権利
背景
- 教育はそれ自体が人権であると同時に、他の人権を実現させるために不可欠な手段である。教育によって青少年は自分の存在価値と他者を尊重する気持ちを養い、それによって社会に貢献し、参加してゆく能力も培われる。教育は、経済的・社会的に周辺に置かれた青少年が、賃金を得られる良い仕事に就くために必要な資格と技術を身につけ、最終的には貧困から抜け出すための第一手段である。
- 障害のある青少年の教育を受ける権利への障壁はこれまで数年にわたる人権委員会の活動を通じて絶えず表面化してきた。それらは委員会の2004年基準報告書(benchmark report)「今日のニュージーランドにおける人権(Ngā Tika Tangata o te Motu)」および「人権に関するニュージーランド2005-2010行動計画(Mana ki te Tangata)」に指摘されている。5年を経てこれらの問題はなお委員会紛争解決チーム(the Commission’s Dispute Resolutions team:DRT)への苦情や問い合わせの水準に反映されている。
- 「人権に関するニュージーランド行動計画」実施の根拠となった2008年中期進捗状況見直しにより、この分野での進展の限界が確認され、以下のように指摘された。
『障害のある生徒及びその代理人からの教育関連の苦情は、人権委員会に寄せられる訴えの中で引き続き最も多い。』(2.7.9)
- この文書は、委員会のSOI/SSPにおける「Right to Education(教育への権利)」活動、すなわち『障害のある青少年の学習到達及び授業参加へ効果をあげる政策決定と取組の監視』に資する。
訳者注:SOI(Statement of Intent)は政府機関の目的について説明した文書であり、SSP(Statement of Service Performance)は目的や目標が達成されたかどうかについて報告する文書である。
目的
- この文書の目的は、以下の通りである。
- 障害のあるニュージーランド青少年の教育への権利実現の程度について評価し、委員会に提示する。
- 委員会がこの基本的権利についてより効果的に唱導することを可能にする。
- この文書では当該委員会、ニュージーランドの法的政策的組織体制及びインクルージョンと特別教育の考え方並びに国際的な人権保護組織及び同様の海外の管轄部署の法的政策的取組に向けられた訴えと問い合わせを要約している。
- 結論として、障害のある生徒に関する重要な懸案が、教育への権利を構成する4つの要素全体にわたって存在することが指摘されている。それはすなわち、教育サービスにおける、機会、利用しやすさ、受け入れやすさ及び適応しやすさにおける限界である。
当委員会への苦情及び問い合わせ
- 2008/2009年度、委員会は全国的な障害者関連団体から、大きく二つの申し立てを受け、障害のある生徒に対する教育政策とその実施状況において構造的な差別があることを指摘された。これらの訴えが含む範囲と具体的内容及び関係者の関心の高さは障害のある青少年とその家族が経験する障壁を浮き彫りにしている。
- まず、IHCアドボカシー(知的障害者の権利を擁護する非政府団体「IHC」41の支援活動組織のことで、「Intellectually Handicapped Children」の頭文字‐訳者記)が、障害のある生徒が地元の普通学校のカリキュラムを存分に利用することを妨げた政府の行為と不作為を訴える集団訴訟を起こした。2009年4月、裁判所と教育省の両者がこの告訴の通知を受けた。
- 次に、2009年3月、Deaf Aotearoa New Zealand(聴覚障害者団体名‐訳者記)が、教育省は、ニュージーランド手話を教育の手段として認知しておらず、また、聴覚障害のある生徒の教育において聴覚障害者のアイデンティティと文化が担う役割を認識していないと訴えた。彼らは特にニュージーランド手話の資格保持者が認定専門技術者とみなされていないことを指摘した。この苦情はDeaf Aotearoa New Zealandが聴覚障害サービス提供者とともに、教育省や教育省内の運営グループと協力して問題に対処していくため、彼らの要求で保留されている。
- これらの苦情は、2002年1月以来、委員会が繰り返し受けてきた苦情の中で最も多かったものだ。2002年1月から2008年12月の7年間、当委員会は計261件に上る苦情と問い合わせを受けた。
- 年間の苦情と問い合わせの件数は、2002年に52件に上った後、2003年から2006年にかけ全体としては下降した。ところが、この傾向は最近2年間で反転し、2007年と2008年には苦情と問い合わせの件数は急増している。2009年3月18日時点で、委員会は既に12件の苦情を受けており、5件の苦情と問い合わせのあった2008年の同時期と比べて2倍以上に上っている。
- このような苦情と問い合わせに対し、委員会の扱いはこの3年間で大きく変化した。2002年から2005年までは、4分の3がインフォライン(問い合わせ受付電話窓口-訳者記)サービスのステージ1レベルで扱われた。2006年以降、3分の2以上が、更なる対処が必要なためにインフォラインから別のチームへ、大部分が紛争解決チームの調停役へ回された。過去7年間に受けた261件の苦情と問い合わせの内、135件はステージ1のインフォラインで直接回答されたが、126件は更なる対処が求められた。これら126件の結果分析は別表1として添付されている。
- 2002年以降受けつけた苦情と問い合わせ内容は計52の障害にわたり、73件(28%)は注意欠陥多動性障害(ADHD)関連、26件(10%)は自閉症の生徒、さらに17件(6.5%)はアスペルガー症候群の診断を受けている生徒のものだった。耳が聞こえない、又は、聴覚障害のある生徒については13件の苦情と問い合わせ(5%)があり、脳性まひの生徒についついては12件(5%)だった。
- 半数以上(60%)の苦情と問い合わせが以下の4つの問題に関連している。
- 子どもの入学に関わる問題:
学校側が子どもを全く、又は、限られた時間しか受け入れたがらない(51件)。
- 子どもの障害の理由で、又は、障害が原因で起きた行為が理由となって通学をやめたか、停学中になっている。又は、締め出されたり、強制的に退出させられたりした(43件)。
- 障害のある生徒のための教員補助員など、特別な支援の必要と財源確保(44件)
- キャンプや校外学習など、学校の様々な活動への障害児の十分な参加の可否(24件)
- その他の訴えは次のような問題である。
- 学校側で対応できない食物アレルギーや過敏症のある子ども42
- 障害児に対する、学校の(正式な懲戒手続きとは別の)規律指導方法の問題
- 学校が、生徒の必要とする合理的な配慮をしていないという一般的な苦情
- 学校における、障害児に対する他の子どもによるいじめ
- その他、学校の、障害児に対する扱い方に関する問題
- 障害児の教育を受ける権利に関する学校側からの訴え
- これらの苦情は通常、自分の子どもが障害のために入学を断られたり、他の子どもに比べ良くない扱いを受けたりしたという親によって委員会に申し立てられる。障害児が教育を受けること、又は、十分に参加できることを阻害する問題に直面したとき、それによってその子どもだけでなく家族全体が大きな影響を受けるのが通常である。
- 個々の訴えに加え、全体として委員会が認識したのは、障害児が学校で、いやがらせやいじめ、肉体的攻撃を受けやすいことである。委員会は、障害のある生徒の多くが学校で孤立を経験しているという情報も得ている。これはやがて活動的レクリエーションやスポーツから彼らを除外する状態に至る。学習障害のある生徒にとってこの事態は、視覚障害や聴覚障害などその他の健康問題に気づかれない時にはさらに悪化する。
- 教育への権利の達成度を評価する4つの大まかな国際的基準は、(教育の)機会、利用しやすさ、受け入れやすさ及び適応しやすさである。委員会の受けた障害児の教育への権利に関する261件の苦情と問い合わせを分析してみると、2004年基準報告書「今日のニュージーランドにおける人権(Ngā Tika Tangata o te Motu)」で確認された問題をさらに強調するものとなった。つまり、障害のある生徒にとって重大な懸案は教育への権利の4要素全てにわたっている。
- 機会 ‐インクルーシブ教育の教員として技術と資格のある人、及び・又は特別教育の訓練を受けた技術と資格のある人が不足している。
- 利用しやすさ ‐障害のある生徒の参加率が非常に低い。
- 受け入れやすさ ‐障害のある生徒達の教育水準には著しい相異があると同時に、校内環境が彼らにとって必ずしも安全でない。
- 適応しやすさ ‐教育予算は障害のある生徒が正当な成果を達成するための合理的配慮をするに十分でない。障害のある生徒の到達度は非常に低い。
ニュージーランドにおける法的枠組み
- 障害のある生徒には、ニュージーランドの他の子どもと同じように、教育への権利がある。特に、1989年教育法の第8条(1)で、『特別な教育ニーズのある人(障害のためであろうと他の理由であろうと)』には、そうでない人と同じように国立学校での教育への権利がある。
- 1989年教育法の第60条A第(1)項により、教育大臣には学校の法的枠組みを決める国の教育目標、カリキュラム方針・声明、カリキュラム実施指針を発布する権限が与えられている。国家教育目標の1及び7、並びにカリキュラム実施国家指針1及び5は、ニュージーランドのカリキュラムにおける「高い期待」と「インクルージョン」の根本理念であると同時に、特に障害のある生徒のもつ潜在能力の実現に関わるものである。
- 障害のある生徒の教育への権利の意味は、ダニエルズ裁判43の高等法院(High Court)と控訴院(Court of Appeal)で審議された。高等法院はこの権利を実体的(substantive)権利とみなしたが、控訴院では手続き的権利とみなし、教育システムの制度に関する実定法(statutory regulation)によって満たされるものと判じた。このように狭い定義では、教育への権利は例外的なケースにしか当てはまりにくい44。
- 学校がもし障害を理由に生徒の入学を拒否した場合、あるいは、障害のある生徒に他の生徒と比べて良くない扱いをした場合、1993年人権法(HRA)に則って違法な差別の訴えを起こすことが出来る。これは国立及び国立移管私立の学校について主に同法1Aに基づいて行われる。第2部の第57条は限られた状況において、例えば国が財源を負担する学校が設備などの私的なサービスを提供する場合に適用されることがある。
- 人権法は差別を定義していないが、障害を含む様々な事由により人を同様に扱わないことを違法とする。差別の定義が特にされていないことにより、1Aには、合理的配慮への義務も含んでいる障害者権利条約の定義を読み込むことが出来ると考えられる。
- 障害者権利条約では合理的配慮とは次のように定義されている。
『障害者が他の者と平等に全ての人権及び基本的自由を享有し、又は、行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失したり、過度の負担を課さないもの。』(日本国外務省ウェブサイト45より抜粋‐訳者記)
- 海外では合理的配慮に関して充分整備された法体系があるが、ニュージーランドでは、なお、この概念にはかなりの不明確さを伴う。委員会は、人権法に障害に配慮する一般的義務と合理的配慮の定義を含めれば、より障害者の利益は図られるという勧告を数回にわたって提出している。
- これまでに、教育を受けようとする障害のある生徒が違法な差別を受けたとする、1Aに関する多くの苦情が委員会に届いている。ある特定の生徒の状況に関わる件については通常、委員会が直接学校との調停を図り、教育大臣と司法諮問局(Crown Law:政府に対する法的なアドバイスをする機関のこと‐訳者注)には警告を通知する。こうしたやり方について、これらの苦情に関する責務は学校理事会にあるという司法諮問局の意見によって禁じられたことはない。特別教育担当の教育省次官補(Ministry’s Deputy Secretary Special Education)は最近、学校側とのこうした問題がうまくいかなかった場合、彼に知らせるよう、委員会に要請した。
ニュージーランドの政策的取組み
- 1980年に採択された「明日の学校」政策の構想は、1989年教育法に明示されているように、意思決定を個々の学校理事会に委譲した。これには教育法第9条の、特別学校、特別ユニット・学級又は巡回教員ごとに決められている生徒数の入学を認める合意も含む。特別学校とその附属のユニットは、生徒当たり教員数が高い割合で配置され、専門家教育サービス(Specialist Education Services)46による支援だけでなく、付き添い指導(Tagged teaching)やセラピストも利用可能であった。特別教育補助の自由裁量財源に基づいて教員補助員による補助時間の追加も適用することができた。
- 「特別教育2000(SE2000)」は1997年に始まった、資源の割り当て方に関する抜本的見直しであった。そこに謳われた目的は「今後10年にわたって、全ての生徒に対し同じ質の学習機会を与える、世界レベルのインクルーシブ教育のシステムを達成すること」47である。
- SE2000により、財源の確保やニーズの高い生徒へ資金割り当てが大幅に増加した。しかし、第9条の取り決めで扱われていた生徒の約半数が、主に障害が軽いとみなされたため、これらの基準に満たなかった。こうした生徒への支援とその他の学習ニーズのある生徒は学校に直接払われる一括補助金(bulk grants)から支払われることになろう。
- 2000年に政府はSE2000の包括的検討を委託した。その結果であるワイリー報告書は、この教育政策による何らかの支援を受けた障害のある生徒の数は全就学生徒数の5.5%に上り、SE2000は全てはないが一部の生徒について教育の機会を改善したとまとめた。報告書は重要な様々な問題を挙げ、75点の勧告を行っている。
- 2001年4月、「ニュージーランド障害者長期計画」が始動した。その15の目標の一つが『障害者に最高の教育を与える』ことである。これに関する8つの行動指針のうち、7つが義務教育部門に関連している。そこには、いかなる子どもも障害によって地元の普通学校への通学を拒否されることはないことが含まれている。その他の優先行動指針はニュージーランド手話や情報技術、人的援助など、障害者に必要な資源を利用可能にし、彼らが他の学校の同じような障害者に会う機会を促すことである。また、彼らのニーズへの学校の対応力と責任範囲を高め、インクルーシブ教育の適切で効果的な環境整備を促すと共に、教育者が障害者の必要とする学習上の支援を理解することにも重点を置いている。
- ワイリー報告書以来、ニーズの高い、又は、著しく高い生徒のための「継続的再審議可能資金計画(ORRS)」の資金を受けるための参加基準を変更する試みは失敗したものの、特別教育の政策に変化がみられた。授業を行う教員が個別適応された教育プログラムを行うための「補完的学習支援」(正規教員職の0.1ポイント増加による)が導入された。また、軽度のニーズの障害児数が不均衡であったり多かったりする学校に対し、「追加的行動障害資金(Enhanced Behaviour Fund)」により、追加資金が供与された。
- 2007年中頃、教育省は「特別教育資金見直し」を始めた。2008年11月の次期大臣への概要説明で、教育大臣は同「見直し」によって様々な分野において資金増への高い期待が、関連部門から寄せられていることに言及した。
- 2009年教育省副大臣へザー・ロイ閣下は特別教育の見直しをすることを発表した。この見直しの事項は2009年8月19日に公開され、直ちに第一段階が始動した48。発表された見直し事項は『この見直しは、また、国連の「障害者権利条約」と「ニュージーランド障害者長期計画」に則ったサービスと支援に結実されなければならない。』と述べている。公の協議は2009年後半に始まり2010年の初めまで行われる見込みとなっている。協議書に関する提案を受けるだけでなく、教育省は関連部門の集団ともミーティングを持つ予定である。
- 2009年5月28日付けの予算でORRS財源に5,100万ドルの追加が発表された。この特別教育見直しの第一段階は、このORRS追加資金をどのように実際に使うかといった緊急課題に的を絞っている。第二段階は2009年後半に始まり、2010年の7月に政府に報告される。
- また、教育大臣は障害児の教育への権利に関する理解を深めるために以下のような取組を行っている。
- クイックガイド---より高いレベルの支援が必要な生徒のための、利用可能な支援の概要書(2009年7月31日よりオンラインで閲覧可能)
- 学校理事会へ、1989年教育法に基づく義務と責任について注意を促す手紙
(2009年2月に送付)
- 保護者向け情報供給の見直し
- 苦情申し立て手続きの見直しと連絡先リストの整備
インクルーシブと特殊教育---考え方
- 特別教育の動向は、障害のある生徒のための財源を確保し、サービスの本質とレベルを変えることができた点で、好結果を残している。「特別教育2000」による見直しはこの変革の中で重要な役割を担った。
- これはまた、障害のある生徒を特別学校や特別学級に、又は、普通学校における特別な施策の対象として隔離し、効果を上げるための専門の教員を必要とするという、当初意図しなかった結果をもたらした。障害のある生徒はなお、「自分たちとは別の人たち」とみなされ、そのために教育システム、学校及び教員一人一人にとって扱いにくい問題であった。障害のある生徒は、引き続き、教育を受ける主体というより、政策の対象であった。
- インクルーシブ教育はそうした方針からの構造的な転換を意味する。インクルーシブ教育に関してニュージーランドの学術研究が相次いでいる。IHCは先頃、普通学級で教育を受ける障害児の学習面、生活面における相対的結果に関する国内及び海外の状況等インクルーシブ教育に関する論文をジュード・マッカーサー博士に委託し、彼女の著書『Learning Better Together』は2009年6月3日に議会で公表された。この分野における最近の総括的一次調査はアリソン・カーニーの2009年博士論文である。ここでもインクルーシブ教育が強く支持されている49。
- 教育省は、研究プログラム「特別教育のより効果的な実践に向けて」を知らしめるべく、ドナルド・ビーズリー研究所に2004年の文献レビューを依頼した。ジュード・マッカーサー博士はそのプロジェクトチームの一員だった。500ページに及ぶ彼らの報告書の草稿は、教育省から入手できる。また、反対の証拠が、特別教育のサービスが必ずしも適正に表されていないことを裏付けていると考える仲間の評論家からの批評も入れて配布されている。
- インクルーシブ教育は人権の観点及び自己決断、独立と協調関係といった「障害者権利条約」の掲げる幾つかの原則と密接に関わっている。しかし、分離(教育)又は特別教育の役割に関する国際的、地域的コンセンサスが必ずしも明確でない分野が2つある。すなわち以下の点である。
- 重度の感覚障害の子ども:例として耳が聞こえない、又は、目が見えない子どもなど。
- 重度障害の生徒:西洋社会の大部分で(世界共通では決してないが)、1%から3%を占める最も重い障害のある生徒は、国のカリキュラムに合理的に参加することは出来ない、という認識がある。好ましいとされるその他の選択肢として分離学校、普通学校の分離学級及び普通学校での生活面の統合(social inclusion)とカリキュラムの異なる学級がある。
- 障害者権利条約は、教育の場だけでなく、教育の結果に焦点を置くことによるこうした複雑さを認めている。『完全なインクルージョンの目的に適った、学習面生活面の発達を最大限に促す環境で、効果的な個別の支援策を供与する』ことを求めている。
加えて第24条(3)と(4)は、耳の聞こえない生徒と目の見えない又は視力の低い生徒が教育を受けるための特別な施策について、明確な助言を与えている。
人権に関する国際的枠組み
- 全ての子どもの、教育への人権は1948年の世界人権宣言(UDHR:人権に関する世界宣言 第26条)で承認され、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(ICESCR,1966年)と「子どもの権利条約」(CRC,1989年)など幅広く国際条約で明示されている。
- 教育の権利は「子どもの権利条約」の第28条と第29条に定められ、第23条では精神的又は身体的な障害のある児童が、その尊厳を確保し、自立を促進し及び社会への積極的な参加を容易にする条件の下で『十分かつ相応な生活』を享受すべきであることを認めている。子どもの権利委員会の一般的意見9号は、障害のある子どもの権利に関するものであり、障害のある生徒の教育の目的として、インクルーシブ教育を採択している50。
- 「特別なニーズ教育に関する世界会議:アクセスと質」が1994年スペインのサラマンカにて開催され、特別なニーズに関する行動のための宣言と枠組み(サラマンカ宣言)が策定された。宣言はインクルーシブ教育の考え方の基本を成す前提を発表した51。それは次のようなものである。
- 学校に通う全ての生徒が多様なニーズ、能力を有しており、その点で根本的な相違はない。
- それら全ての生徒に対応するのは教育システム全体の責任である。
- これらのニーズに応える教育システムは、高い目標と水準、質の高い教育課程と指導及び利用できる環境と全ての生徒の教育上のニーズに応えることのできる教員を用意するものである。
- 教育全般における進展とは、インクルーシブ社会の市民を育てるために、学校と地域社会が協力してゆく過程に示される。
- 国連障害者の権利条約は2006年12月13日の国連総会で採択された。第7条は障害児に、全ての子どもが持つあらゆる人権と同じ権利があることを断言している。彼らが自分たちの声を届けるための適切な支援を受ける権利は第7条および第24条で強調されている。第24条はさらに以下のことを認めている。
- インクルーシブ教育の原則への明確で責任ある関与
- 手話、点字及び弱視者用補助具などの学習補助が必要な、複雑かつ重度の感覚障害児の個別のニーズ
- 障害児には個々に合わせた時間的、人的資源を与えられ、彼ら自身及び両親と共同で決められた支援が必須である。
- 場合によりカリキュラム、教授スタイル、クラス編成の修正も必要である。
- 2007年国連特別報告官の報告書52は『インクルーシブ教育システムの実現の』ため、障害者条約を批准した締約国の義務を明確に述べている。
海外の法的・政策的取組
- 海外で確認される問題の多くは、その立法行政環境が異なっていてもニュージーランドに関連するものがある。
イギリス
- イギリスでは1995年障害者差別禁止法に平等の義務が定義され、全ての教育機関に一般的義務を、公的資金を受け取る機関には特定義務を課した。その結果、教育機関は障害者平等計画を準備、公表、報告する義務が課された。施行規則(the Code of Practice)には障害者差別禁止法に関する義務が明記されている。
- 学校側は子ども個人の教育方針を作る際に親と相談するものとする。その教育方針に対する評価、援助の訴えは、特別な教育的ニーズと障害討論会(Special Educational Needs and Disability Panel)に訴えられなければならない。上訴・上告は高等裁判機関まで持ち込まれ、障害児や学校からの訴えが聴取される。
アメリカ
- アメリカにおける障害児の教育は、「落ちこぼれを作らないための初等中等教育法/NCLB(2001)」及び「個別障害者教育法 /IDEA(2004)」に準ずる。
- 「落ちこぼれを作らないための初等中等教育法/NCLB(2001)」では、州毎に教科や年別の基準を盛り込んだカリキュラムを義務付け、2013年までに障害児を含む全ての生徒が州規模の教育水準に到達することが期待されている。連邦規制基準(CFR)には個人指導計画(IEP)の必要条件が設定され、そこには州の指針に沿う生徒の能力向上に必要な設備も含まれる。知能障害によりこの基準の検討が非常に厳しいと判断される全体の3%に対しては例外が認められる53。
- 「個別障害者教育法 /IDEA(2004)」では、可能な限り障害児が障害のない生徒と教育を受けることを義務付けている。「最も制限の少ない環境」におけるこの環境に対する取組とは、96%の障害児が普通の学校に通うことを意味している。個別障害者教育法では、障害児は自由かつ適切な公的教育を受ける権利があると定めている。実際この言葉の持つ意味については議論が行われている54。
カナダ
- 1997年カナダ人権法では、障害を理由に教育の機会を差別することは違法であるとしている。権利と自由のカナダ憲章では、身体的精神的障害のある全てのカナダ人に平等の機会を保障している。
- 障害児の教育の機会は地方のインクルーシブ教育方針との関連で取り扱われる傾向にある。例えば、ノバスコシア州の2007年障害児に対するサービスの教育省見直し(2007 Minister’s Review of Services for Students with Special Needs)では、2003年の行動計画の進捗状況を見直し今後の展開に対する政策を提案している55。
- 多くの州人権委員会では、オンタリオ州やニューブラウンズウィック州の例に見られる障害児の引き受け方針を策定した56。
- カナダにおける合理的配慮の制限は、Meiorin 裁判(Meirion case)で知られるブリティッシュコロンビア州最高裁判所(Supreme Court case British Columbia (Public Service Employee Relations Commission) v BCGSEU)で設定された57。
オーストラリア
- 「オーストラリア連邦障害者差別禁止法/DDA(1992)」は、障害者が完全に社会に参加できる権利をいかなる面でも保護する基準を提供するものである。教育における障害基準は2005年に成立し、合理的調整など障害者関連会議で広く用いられる概念の定義を設定した。不当な差別、公共衛生、特別措置の保護は例外である。
- ヴィクトリア州の特別教育の見直しは、2006年非政府組織のインクルーシブ教育ネットワークにより行われた。報告書は、インクルーシブの方針、サービスの提供と提供前に関する研修、物理的アクセスの改善と学校地域社会による意思決定への幅広い参加を基にした、学校の助成金モデルが必要だと結論付けている58。
- 2007年州の教育雇用職場関係省は、障害児の学習成果改善のための主要報告書を発表した。そこで以下が確認されている。
- 特定ニーズへの適応からユニバーサルデザイン教育学へと、教育の焦点を移行する重要性59
- 中学校より小学校における全校的で多様なニーズに対応する教育アプローチの適応
- 教育助手の幅広い利用が(学校教育の)慣行を固定化し、柔軟的創造的な資源の利用を抑制する。
- 高度で複雑な援助を必要とする生徒に対する助成金獲得の不変の難しさ
- 上記概要は幅広い仕組みにより達成された活動を表しており、以下も含む。
- イギリスにおける強い訴えにより支持された法律的に実行可能な任務
- 米国、イギリスにおける教育機関への指示を規定した規約(カナダの州人権機関により作成)
- 強制基準(オーストラリア)
- 測定可能な目標(米国)
- 行動計画(カナダ)
人権委員会ワークプログラムのための選択肢作成
- 委員会プロジェクトの選択肢作成に対し、人権問題へのアプローチの6つの要素が指針を提示している。下記は、委員会が障害児の教育への権利を促進保護するために可能な方法を示している。
人権問題へのアプローチ | 人権委員会の果たしうる役割 |
人権基準にあらゆるレベルの意思決定を結びつけることにより、関連する人権約款や人権条約を説明する。 | 人権委員会の専門性を活かし、最近批准された障害者権利条約に対する指針を提供する。 |
関連性のある全ての人権問題や人権バランスを確認し、必要な場合は最も弱い立場の人間に優先順位を付け全ての権利や権利保有者への尊厳を最大限にする。 | 競合する権利バランスの保ち方についてアドバイスを提供する。組織的障害により結果的に障害児の人権に優先順位が付けられていないことが現在の活動により示されている60。 |
個人、団体に影響を与える意思決定に対する個人、団体の参加の重要性を強調する。 | 苦情の行き詰まりを超えられるような対話の促進と、生徒と家族の聴聞の権利の重要性について教育機関に助言する。 |
万人による権利の平等な享受や義務により個人や団体の間の差別を無くす。 | 条約に示された差別の定義と条約が学校に課している合理的配慮の義務を強調する。 |
個人や団体のエンパワメントにより、意思決定の場で、彼らの権利を利用し、彼らの声を正当化することができるようにする。 | 条約、特に自己決定、独立、パートナーシップといった概念に対する理解を深める。 |
活動・決定への説明責任により、個人や団体がそれぞれに不利に働く決定事項に対し苦情を提訴することが可能となる。 | 学校での特別教育資金の利用についてEROの審査で指摘され、結果として1998年教育省ガイドラインの修正をもたらした61。説明責任の懸念事項に人権というレンズを使う。教育省による新しい大臣に対する説明でも説明責任を特別教育見直しの一要素であるとしている。 |
結論
- 本報告書は、障害児や若者がどの程度教育への権利を拒否されたかについての国内の証拠を提示している。海外の人権基準と比較すると、ニュージーランドにおける障害のある生徒の教育の有効性、近接性、受容性、順応性において重要な未解決問題が存在することがおわかりいただけるだろう。
- その観点から、そして先日発表された特別教育見直しを踏まえ、本報告書は人権委員会が障害児の教育への権利に関するワークプログラムを2009/10年度に開発することを提案している。
別表1:苦情及び問い合わせ 2002年1月〜2008年12月
下記表は、人権委員会に寄せられ関係部署の対応待ちである、障害児の教育を受ける権利に対する苦情及び問い合わせの結果をまとめたものである。
結果 | 件数 | % |
未解決の苦情 | 14 | 11% |
仲介実施 − 解決 | 11 | 9% |
仲介実施 − 一部解決 | 3 | 2% |
仲介実施 − 失敗 | 7 | 6% |
仲介要請 − 学校や法的管轄に問題があり進展せず(資金問題) | 4 | 3% |
仲介者のその他支援により解決 | 6 | 5% |
その他の情報や仲介者、人権委員会スタッフによる支援 | 25 | 20% |
苦情を出した者や人権委員会により仲介プロセスが適切とみなされなかった − 支援進展無し | 8 | 6% |
人権委員会の役割が不適切であったため、その他の機関が関与 | 17 | 13% |
苦情を出した者が直接学校に相談し、現時点での人事委員会支援は必要なし | 1 | 1% |
苦情を出した者が訴えを取り下げた | 18 | 14% |
苦情を出した者が第三者機関のため、人権委員会の関与ができない | 2 | 2% |
その他理由で管轄外の苦情 | 5 | 4% |
苦情は解決したが、人事委員会の役割が不明 | 1 | 1% |
RADARに結果の記録なし | 4 | 3% |
合計 | 126 | 100% |
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資料5
法制及び政策年表
1962年 | - 議会委員(オンブズマン)法(the Parliamentary Commissioner (Ombudsman) Act)
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1964年 | - 教育法(the Education Act 1964)
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1975年 | - オンブズマン法(the Ombudsman Act 1975)
* 1962年法の改正
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1986年 | - 憲法法(the Constitution Act 1986)
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1989年 | - 教育法(the Education Act 1989)
* 1964年教育法の全面改正
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1990年 | - 権利章典法(the New Zealand Bill of Rights Act 1990)
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1992年 | - 精神保健(強制的評価と処置)法(the Mental Health (Compulsory Assessment and Treatment) Act 1992)
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1993年 | - 人権法(the Human Rights Act 1993)
* 1977年人権委員会法(Human Rights Commission Act 1977)と1971年人種関係法(Race Relation Act 1971)を統合し、人権委員会を設置し、対象となる差別の範囲を拡大し、苦情審議裁判所(Complaints Review Tribunal)を設置。 - プライバシー法(the Privacy Act 1993)
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1994年 | - 保健・障害コミッショナー法(The Health and Disability Commissioner Act)
* 後の保健・障害コミッショナー権利規定Health and Disability Commissioner's Code of Rights 1996 につながる
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1995年 | - 特別教育2000年制定(Special Education 2000)
* world class, inclusive education system を提言
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1996年 | - 仲裁法(the Arbitration Act 1996)
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1999年 | - 障害問題担当大臣の設置(Minister of Disability Issues)
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2001年 | - 障害戦略の制定(the Disability Strategy)
- 人権改正法(Human Rights Amendment Act 2001 )
* 人権訴訟手続き事務局(Office of Human Rights Proceeding)の設置
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2002年 | - 社会サービス雇用省内に障害問題局の設置(the Office for Disability Issues)
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2004年 | - 障害問題顧問委員会の設置(Disability Advisory Council)
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2006年 | - ニュージーランド手話法(the New Zealand Sign Language Act 2006)
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2008年 | - 障害(国連障害者権利条約)法(Disability(United Nations Convention on the Rights of Persons with Disabilities)Act 2008)
* 教育法、地方自治法を初め多くの法律を部分的に改正・改正人権法(Human Rights Amendment Act 2008)
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2009年 | |
2010年 | - 教育省による特別教育評価(Review of special education)
- 教育省による新たな政策「全ての学校、全ての子どもが成功するために」制定(Success for All: Every school, every child)
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