3.勉強会における検討の結果

3-1 評価体系

 情報アクセシビリティに関する個別施策の進捗状況を把握する際に必要となる項目、尺度に関する検討を行う際の視点として、構成員から指摘があったのは次の3点である。

【視点1】一概に何をもって情報アクセシビリティへの対応ができているというのかは難しく、即座に対応を求めることが難しい分野もある。まずは、情報アクセシビリティについて何か考える担当者がいるか、対話できる人がそこにいるかが、まずは重要ではないか。

【視点2】情報アクセシビリティに関連する標準化(日本工業規格等)に対応しているかだけを聞くのは実効的ではない。事業者や行政機関等がアクセシビリティに関して方針をもっているか、それを評価する体制があるか、責任を持つ人がいるか、が重要ではないか。

【視点3】情報アクセシビリティの側面としては、デバイスやコンテンツのアクセシビリティに加えて運用がある。この3つを掛け合わせて最終的にアクセシビリティが担保されるとよいのではないか。

 以上の視点を整理すると、まず、視点3においては、情報アクセシビリティが[機器][コンテンツ][運用]という3つの要素を掛け合わせることによって実現することが指摘された。ここでいう[機器]とは、サービスとして提供されるハードウェアそのもの、[コンテンツ]とはサービスとして提供される情報、[運用]とは機器やコンテンツを含む、各種分野の情報アクセシビリティに対応するための変更・調整を指している。しかし、[機器][コンテンツ]の間を明確に線引きすることは難しい。このため、この2つを[機器・コンテンツ]と合わせて取り扱うこととし、[機器・コンテンツ]及び[運用]の二側面から、情報アクセシビリティに関する個別施策の進捗状況を把握する枠組みについて検討した。

 また、視点1、2においては評価すべき項目に関する基本的考え方として、担当者及び方針の存在の重要性を指摘している。これを踏まえ、[機器、コンテンツ][運用]という2要素に関し、それぞれを評価するための尺度として担当者及び方針の存在を記載したものを、評価体系としてまとめた。なお、この評価体系における方針とは、それぞれの組織における情報アクセシビリティ向上のための方向性を示したものを指している。

評価体系
評価要素 評価項目 評価尺度
[機器・コンテンツ]の情報アクセシビリティ 情報アクセシビリティに配慮した機器・コンテンツの事例はあるか 無/有 具体事例
製品の情報アクセシビリティに関する方針を設定しているか 設定/未設定
製品の情報アクセシビリティに関する方針がある場合、公開しているか 公開/未公開
製品の情報アクセシビリティに関する担当者がいるか いる/いない
製品の情報アクセシビリティに関する方針がある場合、方針の達成状況を把握しているか 把握/未把握
達成比率 到達値
製品の情報アクセシビリティに関する方針の達成状況を公開しているか 公開/非公開
情報アクセシビリティに対応するための[運用]に関して 情報アクセシビリティに対応するための運用の事例はあるか 無/有 具体事例
情報アクセシビリティに対応するための運用に関する方針を設定しているか 設定/未設定
情報アクセシビリティに対応するための運用に関する方針がある場合、公開しているか 公開/未公開
情報アクセシビリティに対応するための運用に関する担当者がいるか いる/いない
情報にアクセスするための手段の複数性・代替性を確保しているか 確保/未確保
達成比率 経路数
情報アクセシビリティに関する学習機会を設けているか 確保/未確保
達成比率 実施数
情報アクセシビリティに対応するための運用に関する方針の達成状況を把握しているか 把握/未把握
達成比率 達成値
情報アクセシビリティに対応するための運用に関する方針の達成状況を公開しているか 公開/非公開

 なお、以上に示した評価体系は、構成員の情報アクセシビリティに関する個別具体的な理解から出発し、それらに共通する要素を抽出して導き出されたものであり、汎用性を高めるために、抽象化・一般化されている。このため、個別施策の進捗状況の評価に用いる際は、これを直接適用するのではなく、個別施策を評価するための尺度を検討する際に参照として用いることが適当である。

 そこで、「障害者基本計画(第3次)」において情報アクセシビリティに関係すると特定された個別施策に関し、各府省が行う進捗状況把握に係る準備作業の一助となるよう、個別施策ごとに当該施策の評価の方向性について試行的な検討を行った。

3-2 項目の過不足

 障害者基本計画に計上されている個別施策以外に、進捗状況を測ることで情報アクセシビリティの推進に寄与する取組が存在し得るとすれば、どのようなものがありうるかという検討に際しては、多数の候補が挙げられた。このため、構成員から提出された候補のうち、「障害者基本計画(第3次)」の分野別施策として計上されていないものの整理にあたっては、以下の基準に基づいて取捨選択した。

  • 「障害者基本計画(第3次)」に計上されている個別施策について3.2に述べた評価体系の視点をふまえることにより把握可能か
  • 障害者政策委員会や、障害福祉サービスの在り方等に関する論点整理のためのワーキンググループ等において複数の団体からの指摘があるか

 この結果、「障害者基本計画(第3次)」に計上されていない個別施策としては、以下の項目について各府省において進捗状況を把握することが、情報アクセシビリティの向上に寄与すると考えられるとしてまとめられた。

各府省において進捗状況を把握することが情報アクセシビリティの向上に寄与すると考えられる項目

  1. 情報アクセシビリティを担保(あるいは対応)することができる人材の養成
    • 手話通訳、要約筆記、盲ろう者向け通訳・介助員や、高次脳機能障害、ALS、知的障害等、個別性の高いコミュニケーション手段を用いる人の通訳・介助員等の養成研修方法に関する研究に関し検討がなされている場合、その内容についても言及されてはどうか。
    • 高次脳機能障害、ALS、知的障害等、個別性の高いコミュニケーション手段を用いる人の通訳・介助員等の養成研修事業に関し検討がなされている場合、その内容についても言及されてはどうか。(関連:基本計画6-(3)-1)
    • 事業者や行政機関等職員を対象とした、情報アクセシビリティに関する知識を習得するための講習会実施の推進に関して事例があれば記述できないか。
    • 大学等において、情報アクセシビリティに関する知識の習得が、教育、福祉、ICT分野等の学科科目として取り入れることの推進に関して事例があれば記述できないか。(関連:9-(1)-2)
  2. 影響力の大きい試験の情報保障標準化
    • 人生における影響力の大きい試験(例えば、資格試験、就職試験、入学試験等)における情報保障の標準化可能性について研究を進めている事例があれば記述できないか。(関連:6-(1)-2、9-(4)-1)
  3. 民間事業者における情報アクセシビリティ
    • 標準(日本工業規格)化後の普及推進策等、事業者における情報アクセシビリティの向上等に向けた取組があれば記述できないか。
  4. 緊急時における情報アクセシビリティ
    • 銀行、クレジットカード、ロードサービス、保険、携帯通信、解錠サービス、病院、交通機関等、民間事業者が提供するサービスに係る緊急時の連絡窓口において、ファックス、Eメール、電話リレーサービス、モバイル端末等、電話代替手段の確保に向けた取組の促進に関し、事例があれば記述できないか。

3-3 情報アクセシビリティチェックシート(試案)

 情報アクセシビリティ向上のためには、障害者基本計画の推進に加え、障害者差別解消法において定められる、合理的配慮を的確に実施するための環境整備の観点からも着実に推進することが期待される。とりわけ、環境の整備の推進は、その都度の合理的配慮の提供と比し、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要である。

 そこで、本勉強会での検討内容が、障害者基本計画の推進だけでなく、情報を取り扱う現場において合理的配慮を的確に実施するための環境整備に寄与するよう、情報アクセシビリティチェックシート(試案)を作成した。これは、情報を取り扱う現場での活用のしやすさを考え、3. 2でまとめた評価体系を前提に、[機器][コンテンツ][運用]それぞれの評価体系を統合したものである。

情報アクセシビリティチェックシート(試案)

 このチェックシートは、情報を取り扱う現場において、障害者差別解消法に基づく合理的配慮、及び合理的配慮を的確に実施するための環境整備に寄与することを目的として作成されました。サービスとして提供される機器やコンテンツのアクセシビリティが向上することは、それを利用することができる人が増えことを意味しています。また、ユーザー経験の向上、サービスの向上にもつながります。ですので、行政機関等に限らず、事業所の皆様にもぜひご検討いただければ幸いです。

合理的配慮のために

情報アクセシビリティへの対応について担当している人はいますか?
⇒機器やコンテンツのアクセシビリティがすぐに担保できなくても、運用で補うことができます。それは、障害のある人が情報にアクセスできない時、問い合わせに応じる担当者をおくことで何らかの対処をすることが可能だからです。ですので、例えば、合理的配慮の提供について相談できる窓口を明確化する、情報アクセシビリティについての担当者を設定する等、検討してみてはどうでしょうか。担当者は専任であることが望ましいですが、人的・体制的制約等がある場合、兼任であってもかまいません。

環境整備のために

情報アクセシビリティについて検討する人はいますか?
⇒情報アクセシビリティに関する方針について検討する人の設置をお願いします。担当者の設置は体制に応じ、部署ごと、組織ごと、あるいは同種の組織間での設置でもかまいません。

情報にアクセスするための手段の複数性、代替性は確保していますか?
⇒「電話とファックス」「電話とメール」等、情報にアクセスするための複数の経路や複数の代替手段(例えば音声、文字、点字等のコミュニケーション手段)をおくと、情報アクセシビリティが高まります。

情報アクセシビリティに関する学習機会は設けていますか?
⇒情報を取り扱う人々が情報アクセシビリティについて学ぶ機会の設定をお願いします。

情報アクセシビリティに関する方針を設定していますか?
⇒今すぐできることから長期目標まで、ハードからソフトまで、小さなことからコツコツと、体系的な環境整備をお願いします。
⇒情報アクセシビリティに関する方針がある場合、方針の達成状況を把握すること、方針自体や達成状況を公開することをご検討ください。

前のページへ