1.調査の概要
1-1 調査の目的
本調査は、我が国に先だって障害者差別禁止法制が施行されている国々において、障害者差別禁止法制の実施に当たって必要とされる具体的な実務の1つである合理的配慮の提供を巡りどのような調整が行われているのかを明らかにし、我が国における合理的配慮提供に際しての合意形成と調整の在り方の検討に資する知見を得ることを目的として実施する。
1-2 調査の背景
障害者差別解消法第14条では、「国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図るものとする」ことが規定されている。また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針においては、国の行政機関の長、独立行政法人、地方公共団体などが定める対応要領、各主務大臣が事業者に向けて定める対応指針において、相談体制の整備や相談窓口の設置を記載することを求めている。これら障害者差別解消法が定める相談体制や相談窓口には、紛争が起きた後にそれを解決する役割だけではなく、紛争に至る前の調整をする役割が期待されている。 平成28年4月の障害者差別解消法の施行を目前に、我が国では合理的配慮や過重な負担を巡っての議論が具体化しつつある。しかし、合理的配慮を求める側と提供する側とがそれぞれに想定している範囲にかい離がある場合、現場では紛争が生じることが予想される。そこで本調査においては、障害者差別禁止法制が先だって施行されているアメリカ・イギリスにおいて、障害者差別禁止法制の実施に当たって必要とされる具体的な実務の1つとして、合理的配慮の提供を巡りどのような調整が行われているのかを明らかにする。
1-3 調査の枠組み
1)調査対象国
アメリカ、イギリス(2か国)とする。
アメリカの障害者差別禁止法は1990年、イギリスの差別禁止法は1995年に成立しており、各国ともに事例の蓄積が多くあることが見込まれる。また、相談支援体制の整備が進んでおり、本調査が明らかにしようとする情報に関する集約も一定程度進んでいると見込まれる。
本調査は、他国における障害者差別禁止法制の実施に当たって必要とされる一役割の具体的な実務に関する調査となるため、事前に基礎的な情報が揃っていることが望ましく、この観点からもアメリカ・イギリスが調査対象国として適している。
これらのことから、平成27年度の調査対象国は、アメリカ・イギリスの2か国とした。
2)調査事項
アメリカ・イギリスにおいて、合理的配慮提供に際してどのような合意形成のプロセスが想定されているのか、その調整を役割として担う者が存在するか否か、調整者の役割や実務の範囲や裏付け、調整に際してのガイドラインの有無、過重な負担と判断される水準、合理性・過重性の挙証責任に関する取扱い、事例の収集~蓄積~フィードバックに至るプロセスなどについてどのように規定されているか、実態としてどのような運用が行われているか、現時点における標準的なプロセスはどのように想定されているかなどの面から調査を行った。
具体的には、以下の事項について調査を行った。
①合理的配慮提供に際して想定されている合意形成のプロセスに関する事項
- どのような合意形成のプロセスが想定されているか
- 調整を担う役割が存在するか否かなど
②合理的配慮提供に際して調整を担う役割に関する事項
- 調整者の役割の範囲や裏付けなど
③調整の実務に関する事項
- 調整に関する具体的な実務
- 調整に際してのガイドラインの有無
- 過重な負担と判断される水準
- 合理性・過重性の挙証責任に関する取扱い
- 事例の収集、蓄積、フィードバックに至るプロセスなど
④その他
1-4 調査の手順
本調査は、資料調査、現地ヒアリング調査、調査研究会での議論によって実施した。具体的な実施手順は、以下のとおりである。
1)資料調査
アメリカ、イギリスの障害者差別禁止法制に関する文献を収集し概要を把握するとともに、両国の関連組織のウェブサイトなどをサーベイし、調査事項に関連する資料・情報を収集した。
2)現地ヒアリング調査
イギリスを対象として、調査員が現地の関係機関・団体を訪問し、関係者に直接インタビューを行った。訪問先機関並びに面談者を図表1-1に示す。
現地調査に当たっては、資料調査で得た知見を踏まえた質問リストを事前に作成し、訪問先機関に送付した。また、現地で関連する資料の収集にも努めた。
月日 | 午前 | 午後 |
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2月15日(月) | London Borough of Hackney | Disability Rights UK |
2月16日(火) | Derby City Council | Derby Citizens Advice & Law Centre |
2月17日(水) | Office for Disability Issues Government Equalities Office |
|
2月18日(木) |
London Borough of Southwark | Mencap |
CloistersLaw | The British Deaf Association | |
2月19日(金) |
ALLFIE | Inclusion London |
3)調査研究会の開催
資料調査、現地調査と並行して、専門家による調査研究会を開催し、専門的見地から収集情報の検討・考察を行った。
調査研究会の構成メンバー及び開催日程、検討内容は次のとおりである。
主任調査員(座長) | 石川 准 (静岡県立大学教授) | 全体統括 |
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調査員 | 近藤 武夫 (東京大学先端科学技術研究センター) | アメリカ担当 |
浜島 恭子 (明治学院大学社会学部講師) | イギリス担当 |
調査研究会の開催日程、検討内容
第1回:平成27年12月9日
- (1) アメリカにおける合理的配慮提供プロセスと関係主体の検討
- (2) イギリスにおける合理的配慮提供プロセスと関係主体の検討
- (3) 現地調査の実施時期と訪問先の検討
第2回:平成28年2月8日
- (1) 各国における合理的配慮概念の検討
- (2) イギリスにおける外部評価の取組の検討
- (3) 現地調査の準備状況、質問リストの検討
第3回:平成28年3月10日
- (1) イギリス現地調査報告
- (2) アメリカ行政機関における合理的配慮の苦情処理手続に関する検討
- (3) 報告書とりまとめの方針についての検討