2.アメリカにおける合理的配慮提供に際しての合意形成プロセス

 アメリカの州及び地方政府(公共団体)1において、その住民に対する合理的配慮に際しての合意形成プロセス(合理的配慮提供プロセス)にかかわる法的な根拠は、「障害を持つアメリカ人法(the Americans with Disabilities Act:ADA)」、特にその第2部(TitleII)にある。したがって、本章では、ADA第2部及び施行規則、ツールキットなどの資料を中心に、公共団体の合理的配慮提供プロセスにかかわる法的根拠・義務について整理する。
 また、ADAなどの法律文書やガイドラインなどに加え、実際の公共団体における合理的配慮提供プロセスについて、公共団体のウェブサイト上の情報や報告書などを収集し、整理した。これらの調査から、実際には、公共団体における合理的配慮の提供には、自己評価・移行計画による自主的な改善の取組、障害当事者からの苦情申立てによる改善の取組の大きく2つの流れがあると考えられる。

 そこで、本章では、主として、合理的配慮に際しての合意形成プロセスとして、障害当事者から公共団体への苦情申立てによる改善の取組について取り上げる。このような苦情申立てによる改善の取組は、合意形成を目指す訴訟に至る前に実施される、「非公式」の手続である。しかし、公共団体と障害当事者の間の合意形成プロセスでは、この非公式な手続が、最も迅速で、公平な解決方法として重視されており、本調査の主たるテーマに沿うものである。
 また、自己評価・移行計画の策定については、計画の策定による基礎的な事前の環境整備が重視されていることに加え、策定の過程に関心のある個人の参加が求められており、合意形成プロセスにかかわるものとして、調査の対象とした。
 さらに、地域の民間企業などの運営する施設(公共施設、商業施設)における合理的配慮の提供に関して、とりわけ公共団体との関連から調査した。このような施設に関する合理的配慮の提供プロセスに関する法的根拠は、ADA第3部(TitleIII)にある。そこで、本章では、ADA第3部及び施行規則についても整理した。


1 ADAでは、"public entities" (state and local governments)の用語が使用されている。(ToolKit Chapter 1)

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