平成23年度を中心とした障害者施策の取組
第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり
1 障害のある子どもの教育・育成
障害のある幼児児童生徒がその能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加するために必要な力を養うため、一人一人の障害の状態に応じて、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、あるいは通級による指導においてきめ細やかな指導を実施している。
「学校教育法等の一部を改正する法律」が平成19年4月から施行され、盲・聾・養護学校の制度から複数の障害種別を受け入れることができる特別支援学校の制度に転換され、特別支援学校については、これまで蓄積してきた専門的な知識・技能を生かし、地域における特別支援教育のセンターとしての機能・役割(センター的機能)を果たすために、小・中学校等の要請に基づき、これらの学校に在籍する障害のある児童生徒等の教育に関して助言・援助を行うよう努めることとされるとともに、小・中学校等においても発達障害を含む障害のある児童生徒等に対する特別支援教育を推進することが明確に規定された。
【主な施策等】
- 文部科学省では、小・中・高等学校において使用される拡大教科書の標準的な規格を策定・公表し、教科書発行者による拡大教科書の発行を促進するとともに、拡大教科書等を作成するボランティア団体等に対して教科書デジタルデータの提供を行い、その作成の負担軽減を図っている。
- 障害のある児童生徒の情報活用能力を育成するとともに、障害を補完し、学習を支援する補助手段として、情報通信技術などの活用を進めることが重要である。そのため、平成23年度より「学びのイノベーション事業」において特別支援学校における情報通信技術の活用実証研究を進めているところ。
- 国立特別支援教育総合研究所において、情報通信技術の活用に向けての研究を実施しているとともに、各都道府県等の指導的立場に立つ教職員を対象とした研修において、情報手段を活用した教育的支援に関する内容の充実を図っている。このほか、各教育委員会などの研修の支援のための各種研修講義の配信や、発達障害教育情報センターWeb サイトにおける各種教育情報の提供、教員向けの研修講義の配信、ポータルサイトからの総合的な情報の提供を行っているところ。
- 発達障害等のある児童生徒については、それぞれの障害の特性等に応じた教科書や教材等の研究を行う必要があるため、「民間組織・支援技術を活用した特別支援教育研究事業」を実施し、発達障害等の子どもの障害の状態に応じた教材等の在り方及びそれらを利用した効果的な指導方法や教育効果等についての実証的な研究を実施。
- 特別支援教育の実施状況を評価しつつ、特別支援教育の具体的な推進方策について検討を行うため、「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」を開催。また、高等学校における特別支援教育の充実について検討を行うための「高等学校ワーキング・グループ」を開催し、平成21年8月に高等学校における特別支援教育の充実を図るため、入試における配慮・支援、体制の充実強化と指導・支援の充実、キャリア教育・就労支援等を主な内容とする報告を公表。これらを踏まえ、平成22年3月には特別支援教育の更なる充実を図るための検討の方向性及び課題の整理を行い、本調査研究協力者会議の審議経過報告として取りまとめ、公表。
- インクルーシブ教育システムの構築という障害者権利条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方について検討を行うため、中央教育審議会の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において審議。平成22年12月にはインクルーシブ教育システムに向けての特別支援教育の方向性や就学相談・就学先決定の在り方に関する論点整理が取りまとめられた。また、23年7月から、同特別委員会の下で「合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ」が開催され、24年2月に、合理的配慮の定義や決定方法、合理的配慮の基礎となる環境整備、学校における合理的配慮の観点などについて報告が取りまとめられた。今後は、これらの審議等も踏まえ、特別支援教育の充実を図っていくこととしているところ。
- 文部科学省では、厚生労働省と連携協働して、「個別の指導計画」及び「個別の教育支援計画」の作成、教職員等に対する研修の充実など、乳幼児期から就労に至るまでの一貫した支援体制を、全都道府県等に整備することを目指すため、平成22年度より「特別支援教育総合推進事業」を実施。
- 平成19年度より公立小・中学校に在籍する障害のある子どもをサポートする「特別支援教育支援員」の配置に係る経費が各市町村に対して地方財政措置されており、支援体制の構築が図られている。21年度からは公立幼稚園、23年度においては公立高等学校までそれぞれ対象が拡充され、支援体制の整備を進めてきたところ。
- 発達障害を含むすべての障害のある子どもの乳幼児期から成人期に至るまでの一貫した支援を行うための体制整備を、地域を指定して行うとともに、高等学校等を指定し、在籍する発達障害のある生徒に対する支援手法の開発や関係機関との効果的な連携方策等に関する実践研究を行う「特別支援教育総合推進事業」を実施。
- 教職員定数については、大規模校における教頭あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動担当教員の配置が可能な定数措置を講じているところ。また、公立小・中学校における通級指導のための教員配置や特別支援教育コーディネーターの配置など特別支援教育に対応するための加配定数の措置を講じており、平成24年度政府予算においては、600人の定数改善を含む5,341人の定数を盛り込んでいる。
- 特別支援教育関係の教職員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において、研修を行っているほか、独立行政法人教員研修センターにおいても、各地域で中核となって活躍する管理職を育成する学校経営研修において特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。都道府県等教育委員会においては、小学校等の教員の初任者研修や10年経験者研修において、障害のある子どもの理解のための研修を実施。
- 障害のある人がその能力・適性等に応じて高等教育へ進むための機会を拡充するために、従来から各国公私立大学等に対し、大学入学者選抜実施要項や各種会議を通じて、障害のある人に対する受験上の特別な措置をとることなどの配慮を求めている。大学入試センター試験や各大学の個別試験においては、点字・拡大文字による出題などの特別な措置を実施。
- 「特別支援学校施設整備指針」や「学校施設バリアフリー化推進指針」を策定し、その普及を図っている。また、平成23年7月には、災害時に応急避難場所となる学校施設におけるバリアフリー化の必要性等について示した「「東日本大震災の被害を踏まえた学校施設の整備について」緊急提言」を取りまとめ地方公共団体等に配布するなど、その普及を図っているところ。
2 雇用・就労の促進施策
ノーマライゼーションの実現のためには、職業を通じての社会参加は基本となるものであり、障害のある人が可能な限り雇用の場に就くことができるようにすることが重要である。この考えの下、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく障害者雇用率制度を柱とした施策を実施している。
障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策が重要であるため、保健福祉、教育との連携を重視した職業リハビリテーションの推進や、雇用への移行を進める支援策、職業能力開発の充実を図る等総合的な支援施策を実施している。
【主な施策等】
- 平成23年度の障害者の雇用状況は、民間企業における障害のある人の雇用者数は366,199人と8年連続で過去最高を更新し、雇用されている障害のある人の割合は1.65%であった。
また、国の機関(法定雇用率2.1%)に勤務している障害のある人の数、在職している障害のある人の割合はそれぞれ6,869.0人、2.24%であった。
- 平成22年7月から、「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」の一部が施行され、障害者雇用納付金制度の対象事業主の拡大、短時間労働者の雇用義務化が行われている。
知的障害のある人等を各府省等で非常勤職員として雇用し、1~3年の業務の経験を積んだ後、ハローワーク等を通じて一般企業等への就職の実現を図る「チャレンジ雇用」を国の行政機関において率先して実施し、全府省で採用に向けた取組を実施。
- 民間企業に対する法定雇用率の達成に向けた指導は、ハローワークが雇用率の著しく低い企業に対し、雇入れ計画の作成を命じ、障害者雇用を進めるよう継続的に行っている。
平成24年3月には、障害者雇用状況に改善が見られなかった2社(スカイマーク株式会社、株式会社ホスピタリティ)について企業名を公表するとともに、平成22年3月に企業名を公表し、依然として障害者雇用状況に改善が見られなかった1社(株式会社RAJA)については企業名の再公表を行った。
- 障害のある人の雇用を推進する観点から、本府省等及び国の地方機関において、職場体験実習を実施するとともに、地方7ブロックにおいて「公務部門における障害者雇用推進に関する地方別実務研究会」を開催。
- 事業主の経済的負担を軽減し、障害のある人の雇用の促進及び雇用の継続を図るため、障害者雇用納付金制度に基づく各種の助成金の支給を実施。
ハローワークにおける障害特性に応じたきめ細かな職業相談、職業紹介の実施、障害者職業センターにおける職業リハビリテーションの実施、就業と生活両面における一体的な支援を行う「障害者就業・生活支援センター」の設置促進等の実施。
- 各都道府県におけるこれまでの「工賃倍増5か年計画」による取組を踏まえて見直しを行い、経営改善や商品開発、市場開拓などを中心とする新たな「工賃向上計画の策定(3年間)」を支援することで、就労継続支援B 型事業所(一般企業等での就労が困難な障害者への就労を支援(雇用契約によらない)する事業所)における安定的・継続的な作業を確保するなど、工賃引き上げに向けた取組を支援している。
- 国は官公需(官公庁の契約)の促進のため、平成20年に地方自治法施行令を改正し、地方公共団体の契約について随意契約によることができる場合として、地方公共団体が障害者支援施設等から、クリーニングや発送作業などの役務の提供を受ける契約を追加する措置を講じた。
- 平成20年度より障害のある人の「働く場」に対する発注促進税制を創設し、企業に対して当該税制の活用を促すことなどにより、障害のある人の仕事の確保に向けた取組を推進している。
- 精神障害のある人への支援のため、平成20年4月より精神障害のある人の障害特性を踏まえ、一定程度の期間をかけて、段階的に就業時間を延長しながら常用雇用を目指す、精神障害者ステップアップ雇用奨励金制度を創設。また、21年度から22年度にかけて精神障害のある人の雇用及び職場定着のノウハウを構築するためのモデル事業を実施しており、22年度には精神障害者が働きやすい職場づくりを行った事業主に対する奨励金(精神障害者雇用安定奨励金)を創設。
- 発達障害のある人への支援のため、平成21年度は、10カ所のハローワークにおいて発達障害のある人が有する困難な面を補完するテクノロジー支援機器を配備するとともに、発達障害のある人を雇用し、雇用管理に関する事項を把握・報告する事業主に対する助成措置(発達障害者雇用開発助成金)を創設。
- 難病のある人への支援のため、平成21年度より難病のある人を雇用し、雇用管理に関する事項を把握・報告する事業主に対する助成措置(難治性疾患患者雇用開発助成金)を創設。
- 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、IT 機器を利用し、障害のある人の職場拡大に資することを目的として、障害のある人や事業主のニーズに対応した就労支援機器に関する情報提供、貸出事業等を通じて、その普及・啓発に努めている。
- 全国障害者技能競技大会は、障害のある人の職業能力の開発を促進し、技能労働者としての自信と誇りを持って社会に参加するとともに、広く障害のある人に対する社会の理解と認識を深め、障害のある人の雇用の促進を図ることを目的として、アビリンピックの愛称の下、実施。平成23年度は、第8回国際アビリンピックが韓国・ソウルで開催(23年9月25日~30日)(全国大会は開催されず)。日本からは31名が参加。24年度は、国内大会に戻り長野県で開催される予定。