平成23年度を中心とした障害者施策の取組
第5章 住みよい環境の基盤づくり
1 障害のある人の住みよいまちづくりのための施策
誰もが、快適で生活しやすい「ユニバーサルデザイン」に配慮した生活環境の整備を図るため、住宅、建築物、公共交通機関、歩行空間等の生活空間のバリアフリー化を推進し、一定の地域内におけるこれら施設等及びその間の経路の一体的・連続的なバリアフリー化を促進している。
防災知識の普及、災害時の情報提供、避難誘導等防災の様々な場面において災害時要援護者に配慮したきめ細かな防災対策を推進している。
障害のある人の気持ちに配慮した防犯対策を推進するとともに、警察へアクセスする際の困難を取り除くための施策、障害のある人の犯罪や事故被害の防止のための施策を推進している。
【主な施策等】
- 障害のある人等の利用に配慮した住宅ストックを形成するため、「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」により、身体機能が低下した場合にも住み続けられるような住宅について設計上の配慮事項を示し、障害のある人にも配慮した住宅の普及を促進。
- 独立行政法人住宅金融支援機構においては、証券化支援事業の優良住宅取得支援制度により、バリアフリー性等が優れた住宅について、融資金利の引下げを行っている。
- 平成21年度税制改正において、障害のある人等が居住する住宅について、一定のバリアフリー改修工事を行った場合に、所得税額を軽減する特例措置(住宅借入金がある場合)を延長するとともに、借入金がなくとも一定のバリアフリー改修工事を行った場合に一定額を所得税額から控除する新たな減税措置を創設。これに加え、22年度税制改正においては、障害のある人等が居住する住宅について一定のバリアフリー改修工事を行った場合の固定資産税額の軽減制度の延長が行われたところ。
- 「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)」と「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(交通バリアフリー法)」を統合・拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」や、バリアフリー化の目標、施設設置管理者が講ずべき措置、基本構想の指針等を示した「移動等円滑化の促進に関する基本方針」に基づき、公共施設等のバリアフリー環境の整備を推進。
- 国民一人ひとりが、高齢者や障害のある人の困難を自らの問題として認識し、その社会参加に積極的に協力する「心のバリアフリー」社会を実現するため、国土交通省ではバリアフリー教室を開催。
- 警察庁及び国土交通省では、バスの有する社会的意義が最大限に発揮されたまちづくりを目指す市町村及び関係者の取組を支援する「オムニバスタウン構想」を推進。障害のある人等移動制約者に配慮したノンステップバス、リフト付きバス等の導入の促進やバス停の整備等バスの利便性向上を推進。平成22年度末現在14都市をオムニバスタウンに指定。
- 観光庁では、ユニバーサルデザインの考え方に基づく観光について、全国における取組内容の調査を行うとともに、今後の普及・促進を考えるうえで必要な情報発信のあり方や相互連携について検討を行った。
- 警察では、聴覚障害者標識に関する広報啓発を行うとともに、聴覚障害のある人が安全に運転できるよう、関係団体と連携し、免許取得時の教習等の充実や周囲の運転者が配慮すべき事項についての安全教育に努めているところ。
- 平成22年12月、盲導犬使用者にかかる負担の軽減及び利便性の向上を図るため、「道路交通法施行規則」の一部を改正し、現行のハーネス(胴輪)の取手部に、盲導犬使用者の身体機能や使用状況に応じて、長さの調整等ができる機能も含めた「把持する部分」を取り付けることができることとした。
- 平成21年度には、全国13箇所における市町村担当者との意見交換会等を通じて避難支援プランの全体計画の策定など災害時要援護者対策についての市町村の取組を促進するとともに、「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」を開催し、全国における先進的な取組を集めた事例集の作成を通じて、市町村の更なる取組を推進。
- 平成22年度は、障害者の火災に対する安全性が効果的に確保されるよう、ユニバーサルデザインの観点を取り入れた消防用設備・機器等の開発・普及等を推進するため、「聴覚障がい者に対応した火災警報設備等に関する検討会」を開催し、音に加えて、光や振動等の多様な手段による火災警報を導入・普及するための方策等について検討、取りまとめを行ったところ。
(東日本大震災への障害のある人たちへの主な支援)
平成23年3月11日に発生した東日本大震災に伴い、被災地、被災者に対して講じられている施策のうち、障害のある人への支援の一環として実施されているものとして、主に次のような施策がある。
- 厚生労働省は、障害のある人や障害福祉サービスの提供を行う事業者に対し、以下のような利用者負担の減免や障害福祉サービスに係る措置を弾力的に行うよう通知等を行ったところ。
<1> 利用者への対応について
- 震災後に利用者の受けている支給決定の有効期間が切れていたとしても、障害福祉サービスを提供できること。また、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律により、支給決定の有効期間が平成23年3月11日から同年8月30日までに切れる場合は、これを延長すること。
- 利用者が受給者証を持っていなくても、障害福祉サービスを提供できること。
- 震災等により利用者負担の支払が困難な方については、利用者負担の徴収の猶予や減免を行うことができること。また、補装具費の取扱いについても同様の取扱いとすること。
<2> 障害福祉サービスの提供について
- 被災者等を受け入れたときなどに、一時的に、定員を超える場合を含め人員配置基準や施設設備基準を満たさない場合も報酬の減額等を行わないこととすること。
- やむを得ない理由により、利用者の避難先等において、安否確認や相談支援等のできる限りの支援の提供を行った場合は、これまでの障害福祉サービスとして報酬の対象とすること。
- 避難所においてホームヘルプサービスを提供した場合も報酬の対象とすること。
- 利用者とともに仮設の施設や他の施設等に避難し、そこにおいて障害福祉サービスを提供した場合も報酬の対象とすること。
<3> 介護職員等の派遣、避難者の受入等
- 各事業所等において、介護職員等が不足している場合には、国や県などの調整を受けて、別の事業所等より介護職員等の派遣を受けることができること。
- 被災等により利用者を避難させたい場合には、国や県などの調整を受けて、受入施設を確保することができること。
<4> 被災地における障害福祉サービス等の再開支援について
- 震災を受け被災した障害者支援施設等の復旧事業や事業再開に要する経費に関する国庫補助事業を実施し、復旧支援を行った。
- 甚大な被害を受けた被災地の障害福祉サービス事業所が復興期においても安定したサービス提供を行うことができるよう、被災県ごとに支援拠点を設置し、
ア 障害者就労支援事業所による流通経路の再建や販路確保・拡大等の支援
イ 障害者自立支援法、児童福祉法による新体系サービスへの移行支援
ウ 発達障害児・者のニーズに応じたサービス提供等のための助言・指導
エ 居宅介護事業所等の事業再開に向けた整備の補助
などに取り組むための予算措置を行った。
- また、心のケアについては、災害救助法に基づき、精神科医、看護師、精神保健福祉士等4、5人程度で構成される「心のケアチーム」が、市町村の保健師と連携を取りながら避難所の巡回等を行った。
被災者の生活の場が仮設住宅や自宅に移る中で、PTSD の症状が長期化したり、うつ病や不安障害の方が増加したりすることが考えられることから、平成23年度第3次補正予算により、岩手、宮城、福島各県に「心のケアセンター」を設置し、長期継続的に心のケアを行う看護師、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職が、心のケアの必要な方の仮設住宅や自宅への訪問支援等を実施。
- 一方、就労支援としては、平成23年3月末にハローワークに「震災特別相談窓口」を設置し、被災者全般に対する職業相談等を実施。また、これに加え、同年4月から地域障害者職業センターに「特別相談窓口」を設置するなど、被災後の障害者の雇用継続に関する相談業務を実施。
- 文部科学省では、障害のある幼児児童生徒も含め、児童生徒等の教育機会確保のため、各都道府県教育委員会等に対し、被災児童生徒等の学校への受入れ、就学援助等を弾力的に取り扱うよう要請するとともに、義務教育諸学校における教科書の無償給与の弾力的な取扱いについて周知。
- さらに、平成23年度第1次補正予算において、震災により就学等困難となった特別支援学校及び特別支援学級等の幼児児童生徒に対し就学支援を行うための経費や、障害のある幼児児童生徒も含め、被災した幼児児童生徒等の心のケアの充実を図るため、スクールカウンセラー等を緊急派遣する経費に加え、平成23年度第3次補正予算において、特別支援学校における学習活動の充実を図る外部専門家の活用のための経費を措置したところであり、障害のある幼児児童生徒の就学支援の確保を図っているところ。
- 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、「震災後の子どもたちを支える教師のためのハンドブック~発達障害のある子どもへの対応を中心に~」を作成し、ホームページに掲載(http://www.nise.go.jp/cms/6,3758,53.html)するとともに、関係機関に配布。
- 文部科学省及び厚生労働省では、被災した障害のある子どもの状況把握及び支援、教育委員会、学校等が支援を必要とする子どもを把握した場合に保護者の意向を確認した上で市町村障害児福祉主管課に連絡するなどの教育と福祉との連携、障害児支援に関する相談窓口等の周知について、各都道府県教育委員会、障害児福祉主管課等に対し要請。
- 内閣府では、障害者施策ホームページにおいて、障害のある人への情報提供ページへのリンクが容易になるように東日本大震災関連情報のコーナーを設けているところ。
2 障害のある人の情報・コミュニケーションを確保するための施策
障害のある人の情報通信技術の利用機会の格差是正を図るため、障害のある人の利用に配慮した情報通信機器・システムの研究開発を推進するとともに、アクセシビリティ指針の策定、JIS 及び国際標準化の推進を通じて、これらシステムの普及を図り、また、ホームページ等のバリアフリー化を推進している。
テレワークの推進、情報ネットワークの整備、字幕付きビデオの作成等による情報提供体制の整備や字幕放送等の推進を通じて、障害のある人への情報提供の充実を図るとともに、手話、点訳等による支援やコミュニケーション支援絵記号の規格化等によるコミュニケーション支援体制の充実を推進。
【主な施策等】
- 地域生活支援事業において、障害のある人の情報通信技術の利用・活用の機会の拡大を図るため、IT 関連施策の総合サービス拠点となる障害者IT サポートセンターの運営や、パソコンボランティア養成・派遣等のIT 関連施策を、総合的かつ一体的に行う「障害者IT 総合推進事業」を実施。
- 総務省では、「公共分野におけるアクセシビリティの確保に関する研究会」を開催し、同研究会では、平成17年12月に、具体的なウェブアクセシビリティ維持・向上のための運用モデルである「みんなの公共サイト運用モデル」を策定。その後、22年8月に「ウェブコンテンツ」に関するJIS の改正が行われたこと等を受け、22年度に本運用モデルの改訂を実施。
- 「新たな情報通信技術戦略工程表」において、2015年までに在宅型テレワーカーを700万人とする目標に向けて、関係省庁一体となってテレワークの普及啓発、環境整備を推進。
- 社会福祉法人日本点字図書館を中心として運営している「ないーぶネット(点字データ及び点字・録音図書の目録のオンライン利用システム)」と「びぶりおネット(点字・録音図書ネットワーク配信システム)」を、平成21年度に、新たに視覚障害情報総合ネットワーク「サピエ」として統合整備し、より身近に点字・録音図書情報等の提供を実施。
- 平成21年1月、文化審議会著作権分科会における議論を踏まえ、障害者の情報アクセスを保障するための措置をすみやかに講じることが適当との報告書を取りまとめ。同年3月には、この内容を含む著作権法改正案を取りまとめ、同年通常国会に提出。この改正法は同年6月12日に可決・成立し、22年1月1日から施行。
- 法務省刑事局では、犯罪被害者やその家族、さらに一般の人々に対し、検察庁における犯罪被害者の保護・支援のための制度について分かりやすく説明したDVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」の改訂版を全国の検察庁に配布。
- 平成18年10月から19年3月まで開催した「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」における提言を踏まえ、平成19年10月、9年に策定した行政指針の字幕付与可能な放送番組の範囲を拡大するとともに、新たに解説放送に係る普及目標を追加した「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定。新たな行政指針においては、字幕放送については29年度までに対象となる放送番組のすべてに字幕を付与、解説放送については29年度までに対象となる放送番組の10%に解説を付与する等の目標を定めており、普及目標の着実な達成に向けて、放送事業者の取組を促しているところ。
- 「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」に基づき、独立行政法人情報通信研究機構を通じて、字幕番組等を制作する者に対してその制作費の一部について助成を実施。なお、平成24年度予算においても、4.0億円の予算を確保し、引き続き、助成を行うこととしているが、字幕放送に比べて普及が進んでいない解説放送や手話放送に対する助成を重点的に行うなど、効率的・効果的な助成を行うことができるよう、取組を推進しているところ。
- 各都道府県警察においては、聴覚に障害のある人のための字幕スーパー入り講習用ビデオの活用や手話通訳員の確保に努めているところ。