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平成24年版障害者白書

「震災と障害者」<2>障害者団体の取組例(推進会議の検討から)

47ページで紹介した「障がい者制度改革推進会議」の「災害と障害者」をテーマにした討議では、市(南相馬市)の取組でした。

障害者団体の被災者支援組織の中心的メンバーからも直接ヒアリングを行いました。

ここでは、福島で障害者支援を行った障害者団体の中心的メンバーから提出されたヒアリング資料を掲載します。

ヒアリング対象のほかの方々の資料は、内閣府障害者施策ホームページで閲覧できます。(この囲み記事の文末参照。)

障害者団体としての現地支援取組報告

(JDF(日本障害フォーラム)ふくしま支援センター白石清春氏)

1.「災害時要援護者」に対する取り組みについて

東日本大震災が起き、いち早く被災地障がい者支援センターふくしまを立ち上げて、福島県と被災市町村に対して災害時要援護者名簿の開示を強く要望したが、個人情報保護の壁が厚くて、情報提供はなされなかった。

福島県でも特に被害が大きく、緊急時避難準備区域に指定された南相馬市で、避難できずに市内に残り、困っている障がい者の身元確認をしなければならないという強い使命感のもと、南相馬市に障がい者の名簿開示を要求していく。

南相馬市としても、市内に残っている障がい者の、緊急時の避難対策を策定する必要があるとの判断があり、私たちと目的が一致して名簿開示に踏み切る。

この大震災で名簿開示に応じたのは、福島県の中では唯一南相馬市だけであった。

各県の行政では、この大震災の災害対策に追われて、障がい者の対応まで手が届かないという現実があったと思うが、もう少し要援護者の名簿開示における実効性を持つ行動があれば良かった。

今まで見る限り福島県では障がい者団体を含めた形で避難計画の策定や訓練への参画、連携は行われていない。

災害が起こった場合に、どうしても障がい者は後回しにされてしまう状況がある。逃げ遅れる障がい者などに重点をおいた避難計画の策定を行わなければならない。今後は国や各地方自治体において、障がい者団体を加えた避難計画策定委員会を組織して災害対策をきめこまかに策定していく必要があるだろう。

この大震災を経験して、要援護者名簿は作成していく必要があると強く認識した。

身体介助を必要とする要援護者は無論であるが、身体介助を必要としない知的障がい者、精神障がい者、その他障害者手帳を持ち合わせていないボーダーラインの者も付け加えておく必要があると思う。

未曾有の大震災は国家の危機的状況であり、国民の救助が優先されるべきものなので、個人的なプライバシーの保護を唱えている場合ではないと思う。

2.安否の確認と支援ニーズの把握について

<1>福島県を見る限り、行政主導で障がい者の安否確認はなかなか思うように行われてこなかったのではないか。

<2>各地の行政と民生委員、町内会との連携がうまく行っていなかったのではないか。

<3>福島県は原発事故による特殊性があり、また各市町村の行政全体が避難対象になってしまったということもあり障がい者の安否確認まで手が届かなかったこともあったのではないか。

<4>各被災地では障がい者の個別ニーズに関しては把握してなかったのではないか。

安否の確認と支援ニーズの把握の責任主体は地方自治体にあるのではないか。

しかし、大災害の際は地方自治体の職員体制だけでは限界がある。地方自治体と民間団体や民生委員、町内会等とが連携して障がい者の安否確認や支援ニーズの把握を行っていく必要がある。

震災に関わらず、平常時から福祉関係者と行政との連携・交流を図っていくべきである。行政と福祉関係者(障がい者団体)との間で関係性を築いていき、絶対の信頼関係を持つ中で情報開示について実現していく方向を模索する。

福祉サービス利用者の安否確認については、そのサービスを提供している事業所で責任を持って障がい者の安否確認をする必要がある。

ただし、事業所そのものが災害で避難せざるを得ない状況がある場合には、その事業所と関係のある事業所が代わって安否確認をしていくようなシステムを作っていく。または行政と事業所が連携していく必要がある。

行政と民間事業所、あるいは民生委員、町内会等の連携によって障がい者の安否確認を迅速に行える状態を作っていく必要があるだろう。

そのためには民生委員等のあり方をもっと研究していく必要がある。

3.災害直後における障害者支援の仕組みの在り方について

一般避難所は学校の体育館のような所が多く、入り口から段差がある。床にマットを敷いてあるだけなので、車いすに乗った者が横になって寝ることが出来ないという問題があった。また、避難所には車いす対応のトイレもお風呂もない。集団生活が出来ない発達障がい者が、避難所に入ることが出来ずに避難所の駐車場に車を停めて家族とともに避難生活をしているケースがあった。

福島県には情報としていくつかの福祉避難所があるとのことだったが、どこにあってどのような障がい者が避難しているか全く分からない状況であった。

郡山市では、地震によって重度の身体障がい者の家の荷物が散乱したり、家が半壊したりでとても生活できる状態ではなかったので、一般避難所になっていた障がい者福祉センターを障がい者用避難所に活用して欲しいと郡山市にお願いした結果、福祉避難所として使用できるようになったという経緯がある。

福祉避難所という名称はいかがなものであろうか?

被災地障がい者支援センターふくしまでは、福島県内各地の避難所を回って被災障がい者の安否状況と支援ニーズを聞きに行った。しかし、避難所の多くに被災障がい者の姿があまり見られなかった。一般避難所ではとても避難生活ができないと思って、避難所に避難する障がい者が少なかったのではないか。

被災地障がい者支援センターふくしまでは避難所を回ってその掲示板に被災障がい者を支援します、というポスターを貼っていった。その甲斐があって被災地障がい者支援センターふくしまに電話による問い合わせがある。

避難所においては個人的に物資の提供はできなかった。集団での避難生活のため、支援物資は全ての避難者に行き渡る支援物資でなければならなかった。

避難所で車いすのまま過ごしていた障がい者がいたので、避難所にベッドを置かせてくれと行政に伝えたことがあった。何週間もお風呂に入れない障がい者がいたので被災地障がい者支援センターふくしまの関係者が銭湯まで一緒に連れて行くこともあった。

相馬市、南相馬市、いわき市の障がい者関係の事業を再開している事業所に支援物資の拠点になってもらって、そこに支援物資を運んで行った。事業所から各利用者や地域に住んでいる障がい者に支援物資を分配していく方策をとった。

飯舘村が計画的避難区域になった時、飯舘村の行政から重度の身体障がい者が入所施設への避難ではなく地域での避難を望んでいるという情報が入る。被災地障がい者支援センターふくしまとして、飯舘村の、地域での避難を望んでいる障がい者の自宅に何回も訪問して、福島市の自立生活センターが運営するアパートに入居させることができた。

放射線被害で恐怖心を持っていた障がい者を県外に避難させることも行った。

私たちの古くからの知り合いで阪神・淡路大震災を経験した障がい者の力によって兵庫県の西宮市に2名の障がい者が避難していく。

<1>福島県の双相地区の障がい者の相談支援をおこなっている事業所が、事業所ごと他県や県内に避難するという事態となって、同地区の障がい者の相談体制がうまく回らない状況になる。被災地障がい者支援センターふくしまとして、被災障がい者に対する相談支援体制がとれるようにしてほしいと福島県に要望していった結果、障がい者関係団体に委託された形で被災地障がい者支援センターふくしまに福島県の中核になる相談支援員を配置することができ、避難された障がい者のための相談体制を築くことができた。

<2>南相馬市では、真っ先に事業を再開した生活介護事業所が中心となって、南相馬市の障がい者の相談を一手に引き受けていたが、元々相談事業所ではなく、また職員の多くが避難した中で生活介護事業の対応もしなければならなかったため、非常に大変な状況であった。

4.復興にむけた障害者支援の在り方について

被災地障がい者支援センターふくしまでは福島県内に建設された仮設住宅を回って被災障がい者がどこに住んでいるのかを調査してきた。私の見た限りにおいて車いすのまま生活できるような仮設住宅は無かった。

仮設住宅にはところどころにスロープの設置してある住宅があった。しかしその住宅をノックして居住者を見ると障がい者でなく普通の人が住んでいるというミスマッチが多く見られた。

仮設住宅は辺鄙なところにあって障がい者の移動が難しいという問題がある。

土地の空いている所に仮設住宅は建設されるのであろうが、福島市や伊達市あるいは郡山市のような放射線量が高い地域に仮設住宅を建てるのはいかがなものであろうか。

以上のような問題を踏まえ、今後仮設住宅から復興支援住宅等へと移り、生活していくことを考えるなら、復興のプロセスの中に障がい者を含め、被災者たちが安心して住めるユニバーサル化した住居を建設していかなければならない。

また、今後の方向性として、仮設住宅の規格自体をユニバーサルにしていくことを考えていく必要があるのではないか。

福島県ではみなし仮設住宅のことを借り上げ住宅と呼んでいるが、借り上げ住宅がどこにあるか、どこに障がい者が住んでいるのか全く見えない状況がある。

借り上げ住宅は民間の賃貸住宅を利用したものが多いので、重度の身体障がい者にとっては住みにくい構造だと思う。どこまで改修ができているのか情報は無い。

民間賃貸住宅の大家さんの了解を得て、国が率先して住宅の改修の際の資金面の全面的援助をおこなうことが必要ではないか。

JDF として被災地障がい者支援センターふくしまは活動してきている。障がい者支援は障がい者自らがおこなうべきである。障がい者の苦しみや悩みは障がいを持つ者が一番理解している。

民間支援団体は財政的基盤が弱い上に人的支援もままならない面がある。そういう意味では継続的支援を行っていくには限界が見えてくる。

障がい者等が活動している民間支援団体に対して国や地方自治体からの財政的支援をおこなっていく必要がある。

大震災を経験した行政は体力的に弱まっている。行政福祉サービスの継続がなかなかできない状況におかれている。そのような行政の支援を国が率先しておこなわなければならない。新規ニーズへの対応も臨機応変におこなえるよう国として積極的に支援をおこなうこと。

被災地障がい者支援センターふくしまとして南相馬市の事業所を中心にボランティアさんたちを派遣して、避難のために不足しているその事業所の職員の補佐をしている。しかしこのような状態は長続きしない。災害で職員の数が減った事業所に対して何らかの支援をおこなっていく必要があるだろう。

<1>この大震災によって福島県内の障がい者関係の事業所では、多くの企業からの下請け作業が減ってきている。それにともない事業所を利用している障がい者の報酬(工賃)はめっきり少なくなってしまった。南相馬市などでは利用者の工賃を捻出するために「つながり∞(むげん)ふくしま」プロジェクトをつくり、いくつかの事業所で利用者さんたちがつくった缶バッジを全国的に販売していく事業展開をしている。

<2>障がい者の一般就労をはかっていくためには、長い目で見た就労支援体制がなければならない。ジョブコーチの数を大幅に増やして、長い期間にわたり職場での就労支援を行っていく必要がある。

<1>被災地障がい者支援センターふくしまでは昨年の6月からセンター内に相談支援員(県からの委託)を配置して、福島県内の相談支援事業所と連携して被災障がい者の相談に当たってきた。来年度も相談体制を拡大したかたちで相談支援充実・強化事業を県から委託され、継続される見通しである。

被災地の障がい者の手厚い相談に当たるためには、相談事業所を増やすか、相談事業所の職員の数を増やすための財政的支援を考えなければならない。

双相地区では大きな入所施設を持つ事業所に相談支援を委託していたが、今回の大震災の影響で入所施設ごと県外に避難するというようなことがあり、同地区の障がい者に対する相談支援体制が不十分になる状況が生まれた。国や地方自治体の方針として財源・人的資源のある大きな社会福祉法人に相談支援事業を任せていくということがある。しかし、地域で活動するNPO や小さな事業所には、真に障がい者の身の上を案じて相談にのっているところがたくさんある。そのような事業所に相談事業を任せていくことを真剣に考えていくこと。

<1>障がい者にとっての復興は、生活するための社会的基盤が築かれること。

社会的基盤としては安心して住むことのできる住居の確保、生活していくための介助体制の充実、働く場の確保(就労支援)、働くことのままならない障がい者に対して所得保障の充実がなければならない。

市町村の復興計画の際、新しく造る住宅(復興住宅)は全てユニバーサル化をしていくこと。被災地だけでなく全国の一般住宅を、ある程度法律によって縛りをかけて住宅建設を実行していく。

被災障がい者がどこの地域で生活する場合でも、満足な介助量を受けることができる介助保障の充実をはかること。

今回の大震災で被害を被った東北地方は財政的基盤が弱く、障がい者福祉に対しても意識が低い面があると思う。そのために家族に障がい者の面倒をみさせておく行政の対応が見られる。または障がい者の面倒をみられない家族は、入所施設に障がい者を入れてしまうことが多い。全国各地、どこに住もうとその障がい者に見合った在宅福祉サービスが受けられるようにしなくてはならない。

我が国の場合、住宅は障がい者のことを考えて造られていないので被災障がい者が借り上げ住宅に住もうとしても住宅事情が悪いので、我慢して生活している者が多いと思う。日常生活用具の給付事業があるが、各地方自治体によって給付対象の種類や給付額が違う状況がある。電動リフター、バス・トイレ、玄関の段差解消リフト等、住宅改修に関わる改修費の助成を国の責任でおこなうこと。

就労支援について、この震災後もっとも強く感じたことは、仕事は人に元気、笑顔、誇りを与えてくれるものだということである。経済的に支援を受けても、自らの力と心をぶつけられる仕事がなければ、厳しい状況が続く。原発事故により県内全域が汚染や風評の被害を受け、仕事がなくなってしまったなか、新たな仕事をつくりあげていかなければ、福島にとどまる障がい者に活力は生まれてこない。

1980年代前半、私は障害基礎年金設立に関して、全国所得保障確立連絡会で果敢な運動をおこなってきた。その後障がい者の所得保障に関しては進展が無いままに現在に至っている。重度の身体障がい者が町の中で自立生活する場合、障害基礎年金1級と特別障害者手当で約10万円になるが、この額では非常に厳しいのではないか。被災障がい者を含む、就労ができない障がい者に対してはプラスアルファの所得保障をすること。

東北は各県の面積が大きいうえ、人口が少ないということがあり、障がい者にとって電車による移動やバスによる移動が大変な状況がある。過疎の地域では一日に2本くらいしかバスが走っていないところもある。タクシーを使った場合には料金が高いという問題がある。私が住んでいる郡山市ではバス会社が会社更生法を受けているので、ノンステップバスの普及が全く進んでいない。

障がい者団体や民間団体を含めた障がい者や高齢者の東北の交通移動サービスのシステムを作る委員会を国が率先して設置していくこと。

福島県は原発事故によって県内広範にわたって放射性物質がまき散らされた。放射能による被害がどの程度のものになるのか予想がつきにくい状況がある。放射能による恐怖から自主的に県外に避難する障がい者がいるが、その者に対しての介助保障を含む生活保障を、東電と国が連携しておこなっていくこと。

福島県において今後復興住宅は、放射線量が極めて低い場所に建設していくこと。そして復興住宅は全てユニバーサルデザイン化すること。

福島県の場合、原発事故の影響から若い人の人口流出が加速していくであろう。その中で残った者が生活していかなければならなくなるだろう。高齢者や障がい者の人口が多くなっていくので、共同生活形態の住宅のあり方も考えていく必要があるだろう。

万が一再度第一原発で大規模な事故が起こった場合、障がい者や高齢者の迅速な避難支援行動がとれるように準備しておくこと。

現在福島県では障がい者や高齢者の福祉サービスを担うヘルパーの数が減りつつある。それとともに児童の数が少なくなり幼稚園や保育園の職員の数が過剰になっていく現状がある。児童関係の職員の労働を保障していくことを考え、マッチング、緊急労働対応制度(仮称)を作っていくこと。

<1>この大震災が起こる以前にも阪神・淡路大震災や中越地震など、いくつもの大きな地震を経験しているにもかかわらず、国民である障がい者を排除した形で復興計画の策定や実施がなされてきた。この東日本大震災を契機に、災害があった場合に一番被害を被る障がい者からの考えや提案を真摯に聞く場である復興計画策定委員会を、国や地方自治体に設置していくべきである。

そこには多くの障がい者団体を招いていくこと。

今後も大震災は必ず起こるだろう。この大震災を教訓にして災害対策をより強固なものにしていく必要がある。

まず避難所に関しては学校の体育館のようなバリアフルな建築物をバリアフリー化していくこと。

大震災以前に、障がい者や高齢者が使いやすいようにバス・トイレをコンパクトにユニット化をしたものを作っておき、大震災の折に避難所にそれを設置していくこと。

福島県においても昨年の夏から県内各地に仮設住宅が造られた。被災地障がい者支援センターふくしまでは県内各地の仮設住宅を回って調査をおこなってきた。そこで見えたものは、仮設住宅が重度の身体障がい者にとっては住み心地の悪い、あるいは住むことができないものであった。また、仮設住宅のあちこちにスロープのあるものがあったが、そこに住んでいる人は障がい者でなく一般の人であった。17年前に阪神・淡路大震災という大きな災害を経験してきたにもかかわらず、障がい者の存在を考慮した仮設住宅は造られていなかった。今後の大震災に対応した仮設住宅を造っていかなければならないだろう。

入り口の幅は車いすが入るよう、住宅内に段差が無いよう、バス、トイレのスペースを広く取り介助者が介助しやすいよう、部屋にベッドが入るようなど設計段階(規格)から障がい者が住みやすい仮設住宅を造ること。仮設住宅には高齢者が多く入居するのであるから、全ての仮設住宅をユニバーサル化したものにするべきである。

(この資料の添付資料については、内閣府障害者施策ホームページ「障がい者制度改革推進会議」「第37回」「資料6」の中で閲覧できます。)

https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/k_37/pdf/s6.pdf(PDF形式:298KB)PDFファイルが開きます

(あと三人の報告者、きょうされん岩手支援センター小山貴氏、JDF みやぎ支援センター小野浩氏、ゆめ風基金八幡隆司氏の報告資料については、ページ分量の関係上、割愛させていただきました。内閣府障害者施策ホームページで閲覧できます。)

JDF被災地障害者支援センターふくしま

JDF被災地障害者支援センターふくしま

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