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第4章 日々の暮らしの基盤づくり > 第1節 生活安定のための施策 > 1.利用者本位の生活支援体制の整備

平成24年版障害者白書

平成23年度を中心とした障害者施策の取組

第4章 日々の暮らしの基盤づくり

第1節 生活安定のための施策

1.利用者本位の生活支援体制の整備
(1)障害保健福祉施策の動向

障害保健福祉施策においては、障害のある人の地域における自立した生活を支援する「地域生活支援」を主題に身体障害、知的障害及び精神障害それぞれについて、住民に最も身近な市町村を中心にサービスを提供する体制の構築に向けて必要な改正を行ってきた。

とりわけ、「支援費制度」は、サービスの在り方をそれまでの「措置」から「契約」に大きく変え、自己決定、利用者本位の考え方を明確にした。

この「支援費制度」の下で、知的障害のある人や障害のある児童を中心に利用者が急増し、全国的にサービス実施市町村が増えた。

その一方で、サービス利用の急速な伸びに対応できるように制度をより安定的かつ効率的なものとすること、サービス提供について自治体間に大きな格差が生じていること、精神障害のある人が制度の対象外となっているなど障害種別等によって福祉サービスや公費負担医療の利用の仕組みや内容が異なっていること等の課題とともに、障害のある人が地域で自立して生活するために必要な就労の支援策の充実等の政策課題も生じてきた。

これらの課題に対応し、障害のある人が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行う「障害者自立支援法」が成立し、平成18年4月1日から一部施行され同年10月から全面的に施行された。

同法は障害のある人の地域移行の推進や就労支援の強化など、障害のある人が地域で自立した生活を営むことのできる社会を目指したものであるが、これまでにない改革であったことから法の定着を図るため、激変緩和の施策として、平成18年12月に「特別対策」を、平成19年12月に「緊急措置」を講じ、利用者負担の軽減や事業者の経営基盤の強化などを行ってきた。また、平成22年4月から低所得(市町村民税非課税)の障害のある人等に係る障害福祉サービス及び補装具にかかる利用者負担について、無料としたところである。

こうした中、平成21年12月に閣議決定により設置された本部の下で、障害のある人や障害福祉に関する関係者、有識者等を構成員とする推進会議が平成22年1月から開催され、障害者の制度に係る改革について議論が行われてきた。この推進会議の議論を踏まえて平成22年6月29日に閣議決定された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」において、障害保健福祉分野については、現行の「障害者自立支援法」を廃止し、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を内容とする「障害者総合福祉法」(仮称)を制定することとされた。

新法の内容については、多くの障害当事者が参加する「総合福祉部会」で、約2年間にわたって議論され、平成23年8月には、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」が取りまとめられた。その後、「民主党厚生労働部門障がい者WT(ワーキングチーム)」において、同年7月に成立した改正障害者基本法や同提言等を踏まえて検討がなされ、平成24年3月12日は、本部において、「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」とする内容を含む「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」が本部決定され、翌13日には閣議決定・国会提出されたところである。

なお、制度の見直しまでの間においても障害者の地域生活の支援の充実を図るために、平成22年12月の障害者自立支援法・児童福祉法の一部改正により、利用者負担について応能負担を原則とするとともに、障害児支援の強化や相談支援の充実等が図られ、平成24年4月に本格施行がなされたところである(改正の概要については図表1-62)。

(2)障害者自立支援法の概要

ア 障害福祉サービスの一元化

<1> 3障害(身体、知的、精神)の一元化

従来の障害福祉制度では、身体障害、知的障害、精神障害といった障害の種類ごとに縦割りにサービスが提供されていた。そのため、施設・事業体系が分かりにくく、使いにくいといった指摘があった。また、精神障害のある人は支援費制度の対象となっていなかった。

「障害者自立支援法」では、障害の種類によって異なる各種福祉サービスを一元化し、これによって、障害の種類を超えた共通の場で、それぞれの障害特性などを踏まえたサービスを提供することができるようになり、比較的小規模な市町村においても、サービスを提供しやすい仕組みとした。

<2> 実施主体の市町村への一元化

障害のある人へのサービスは、生活に密着したサービスであることから、サービスの実施主体については、都道府県から、住民に一番身近な自治体である市町村へと段階的に移されてきたが、精神障害に係る一部のサービスなどの実施主体については、都道府県となっていた。

そこで、市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバックアップする仕組みに改め、より利用者に身近な市町村が責任を持って、障害のある人たちにサービスを提供できるようにした。

イ 利用者本位のサービス体系に再編

<1> サービス体系の再編

支援費制度におけるサービス体系については、障害種別ごとに複雑な施設・事業体系となっており、また、入所期間の長期化などにより、本来の施設目的と利用者の実態とが乖離している状況になっていた。

そこで、「障害者自立支援法」では、障害のある人が地域で普通に暮らすために必要な支援を効果的に提供することができるよう、33種類に分かれた施設体系を6つの事業に再編するとともに、「地域生活支援」、「就労支援」のための事業や重度の障害者を対象としたサービスを創設するなど、地域生活中心のサービス体系へと再編した。

<2> 「日中活動の場」と「住まいの場」の分離

地域生活への移行を進めていくためには、24時間を同じ施設の中で過ごすのではなく、障害のある人が、日中活動と居住の支援を自分で組み合わせて利用できるよう、昼のサービス(日中活動支援)と夜のサービス(居住支援)に分けること(昼夜分離)を進め、障害のある人が自分の希望に応じて、複数のサービスを組み合わせて利用できるようにした。

また、この昼夜分離によって、入所施設に入所していない障害のある人も、入所施設が実施する日中活動支援のサービスを利用することができるようになった。

「障害者自立支援法」における日中活動支援については、以下のように再編された。

<3> 地域の限られた社会資源を活かす

障害のある人の身近なところにサービスの拠点を増やしていくためには、既存の限られた社会資源を活かし、地域の多様な状況に対応できるようにしていく必要がある。

このため、通所施設の民間の運営主体については、社会福祉法人に限られていたが、これをNPO 法人、医療法人、財団法人等、社会福祉法人以外の法人でも運営することができるように規制を緩和した。

ウ 福祉施設で働く障害者の一般就労への移行促進等

<1> 就労支援の強化

障害者が地域で自立した生活を送るための基盤として、就労支援は重要であり、一般就労を希望する方には、できる限り一般就労していただけるように、支援を行い、一般就労が困難である方には、就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように支援を行ってきている。

就労系障害福祉サービスから一般就労への移行者数は3.4倍に増加(平成15年度1,288人→平成22年度4,403人)し、就労継続支援A型事業(旧福祉工場)の利用者は5.5倍に増加(平成15年度3,154人→平成23年11月17,192人)している。

<2> 工賃向上のための取組

工賃倍増5か年計画は、平成23年度で最終年度を迎えたことから、平成24年度から新たに、工賃向上のための3か年の計画を策定することとしている。

この「工賃向上計画」では、コンサルタントによる企業経営手法の活用や共同受注の促進など、これまでの計画でも比較的効果のあった取組に重点を置いて取り組むとともに、個々の事業所ごとに「工賃向上計画」を作成することを原則とし、共同受注を進める観点から都道府県と関係団体の間の連携を強化するなど、取組の強化を図っていくこととしている。また、新たな計画では、特別な事情がない限り、個々の事業所における工賃向上計画を作成することとし、事業所責任者の意識向上、積極的な取組を促し、都道府県の計画では、官公需による発注促進についても、目標値を掲げて取り組む。さらに、地域で障害者を支える仕組みを構築することが重要であることから、市町村においても工賃向上のための取組を積極的に支援していただくよう協力を依頼している。

エ 支給決定の透明化・明確化

<1> 障害程度区分の導入

支援費制度では、支給決定に際して全国共通の利用ルール(支援の必要度を判定する客観的基準)が定められていなかった。そのため、同じような障害状態にあっても市町村が決定するサービスの種類や量には、地域格差が生じているとの指摘がされていた。

「障害者自立支援法」では、支援の必要度を判定する障害程度区分を導入した。

<2> 支給決定に係るプロセスの透明化等

「障害者自立支援法」における障害福祉サービスの支給決定を行うに当たっては、まず市町村が事前に障害のある人の面接調査を行い、その調査を基に障害程度区分の一次判定が行われ、さらに障害保健福祉の有識者などで構成される審査会での審査(二次判定)を経て、障害程度区分の認定が行われる仕組みなどとなっており、支給決定に係るプロセスの透明化が図られている。

また、この支給決定に係るプロセスは、障害程度区分に加え、障害のある人一人ひとりの心身の状況、サービス利用の意向、家族の状況などを踏まえて相談支援専門員等が作成したサービス等利用計画案を勘案して、適切な支給決定が行われるようにしている。

オ 費用をみんなで負担し合う仕組みの強化

<1> 国の費用負担の義務づけ

支援費制度においては、居宅サービスに関する部分の費用については、国はその費用の一部を予算の範囲内で補助する仕組みとなっていたが、制度を安定的かつ継続的に運営するために、国が義務的にその費用の一部を負担する仕組みとした。(具体的には、国は費用の2分の1、都道府県は費用の4分の1を義務的に負担。市町村は費用の4分の1を負担。)これにより、当初の予算の範囲を超えて居宅サービスの利用が急増したとしても、国及び都道府県は義務的に費用の一部負担を行うこととし、障害のある人に安心して制度を利用していただけるようにすることを図った。

<2> 利用者負担

「障害者自立支援法」においては、サービスの利用者も含めて皆で制度を支え合うため、国の費用負担の義務づけと併せて、利用者については、所得階層ごとに設定された負担上限月額の範囲内で負担している。

また、これに加えて、所得の少ない方については、個別減免の仕組みを設けるなど利用者負担の軽減措置を講じている。

施設を利用した場合などにかかる食費・光熱水費などの実費負担については、在宅で生活をしていたとしてもこれらの実費負担は生じるものであることから、施設と在宅の費用負担の均衡を図るために、自己負担とした。ただし、所得の少ない方については、食費に係る実費負担額が食材料費のみの負担となるよう軽減措置を講じている。

その後、平成19年4月に行われた特別対策や、20年7月に行われた緊急措置において、低所得の障害のある人等を中心とした利用者負担の更なる軽減、障害のある子どものいる世帯における軽減対象範囲の拡大、負担上限月額を算定する際の所得段階区分の個人単位を基本とした見直し等の軽減措置を講じた。また、21年7月より、軽減措置を適用するために設けていた「資産要件」の廃止や、「心身障害者扶養共済給付金」の収入認定からの除外といった更なる軽減措置を講じた。

さらに、22年4月から低所得(市町村民税非課税)の障害のある人等につき、福祉サービス及び補装具にかかる利用者負担を無料とした。

平成22年の障害者自立支援法の一部改正では、障害のある人の地域移行を促進するため、障害のある人が安心して暮らせる「住まいの場」を積極的に確保していくことを目的に、グループホーム等の入居者に係る家賃を助成する制度を創設した(平成23年10月施行)。また、利用者負担について、応能負担を原則とすることを法律上も明確にするとともに、障害福祉サービス等と補装具の利用者負担額を合算し、負担を軽減する仕組みを導入した(平成24年4月施行)。

カ 障害福祉計画に基づく計画的なサービス基盤整備の推進

「障害者自立支援法」において、障害のある人に必要なサービスが提供されるよう、将来に向けた計画的なサービス提供体制の整備を進める観点から、国の定めた基本的な指針(以下「基本指針」という。)に即して、都道府県及び市町村に、必要なサービス量の見込み等を記載した障害福祉計画を策定することが義務づけられている。

平成23年12月には平成24年度から3年間の第3期障害福祉計画の策定のため、基本指針の改正を行ったところがあるが、その基本指針においては、

を基本的理念とするとともに、基盤整備の基本的な考え方として、

を挙げている。

また、都道府県及び市町村は、障害福祉計画の策定に当たり、地域生活や一般就労への移行を進める観点から、平成26年度を目標年度として数値目標を設定するとともに、この目標を達成するために必要なサービス見込量を設定することとしている。基本指針では目標として以下を掲げている。

目標<1> 福祉施設の入所者の地域生活への移行

平成26年度末までに、平成17年10月1日時点の施設入所者数の3割以上が地域生活に移行するとともに、施設入所者数を平成17年10月1日時点から1割以上削減することを目指す。

目標<2> 入院中の精神障害者の地域生活への移行

都道府県は、平成24年度から平成26年度までの入院中の精神障害者の退院に関する目標値として、次の目標値を設定する。

〔着眼点1〕1年未満入院者の平均退院率

平成26年度における1年未満入院者の平均退院率を平成20年6月30日の調査時点から7%相当分増加させることを指標とする。

〔着眼点2〕高齢長期退院者数(退院者のうち、65歳以上であって5年以上入院していた者の数)

平成26年度における高齢長期退院者数を直近の数から2割増加させることを指標とする。

目標<3> 福祉施設から一般就労への移行

平成26年度中に一般就労に移行する者を平成17年度の4倍以上とすることを目指す。

平成26年度末における福祉施設の利用者のうち、2割以上の者が就労移行支援事業を利用するとともに、平成26年度末における就労継続支援事業の利用者のうち、3割以上の者が就労継続支援(A 型)事業を利用することを目指す。

これらの数値目標等を掲げた基本指針に則して、地方自治体が障害福祉計画を策定し、支援が必要な人に適切なサービスを安定的に提供できる体制の計画的な整備を進めるよう、国、自治体が充分連携し施策を進めていくこととしている。

(3)身近な相談支援体制整備の推進

障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援については、「障害者自立支援法」により、平成18年10月から、障害種別に関わらず、事業の実施主体を利用者に身近な市町村に一元化して実施している。また、市町村における相談支援事業の機能を充実・強化するため、地域生活支援事業において、基幹相談支援センター等機能強化事業、住宅入居等支援事業を位置付けている。

また、指定相談支援事業所に配置されている相談支援専門員5,465人(平成22年4月1日現在)がサービス等利用計画を作成することにより、障害のある人や障害のある児童の親が障害福祉サービスを適切に利用することができるように支援を行っている。

平成22年の障害者自立支援法の一部改正により、平成24年4月から、支給決定の前にサービス等利用計画案を作成し、支給決定の参考とするよう見直すとともに、サービス等利用計画作成の対象者を大幅に拡大することとした。また、これまで国庫補助事業により行われていた地域移行支援・地域定着支援を個別給付化し、障害のある人の地域移行・地域定着支援の取組の充実を図ることとした。

このほか、地域における相談支援の中核的な役割を担う基幹相談支援センターの設置や、関係機関、関係団体及び障害のある人等の福祉、医療、教育又は雇用に関連する職務に従事する者等により構成される自立支援協議会の法定化、市町村における成年後見制度利用支援事業の必須事業化により、地域における障害者等の支援体制の充実を図ることとした。

広域・専門的な支援や人材育成については、都道府県の地域生活支援事業の中で、都道府県相談支援体制整備事業、高次脳機能障害支援普及事業、発達障害者支援センター運営事業、障害者就業・生活支援センター事業、障害児等療育支援事業、相談支援従事者研修事業等を実施し、市町村をバックアップしている。

都道府県においては、市町村に対する専門的な技術支援、情報提供の役割を担っている更生相談所等が設けられており、設置状況は、身体障害者更生相談所(平成23年度現在78か所)、知的障害者更生相談所(23年度現在80か所)、児童相談所(23年4月現在206か所)、精神保健福祉センター(23年4月現在68か所)となっている。また、身体障害者相談員、知的障害者相談員、児童に関する相談員及び精神保健福祉相談員を設置している。

国においては、市町村の区域で生活に関する相談、助言その他の援助を行う民生委員、児童委員を委嘱している。

全国の法務局・地方法務局及びその支局等において、障害のある人に対する人権問題について、面談・電話による相談に応じ、助言等を行っているほか、法務省のホームページ上でも人権相談の受付を行っている。人権相談で虐待等人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じて、人権侵害行為をやめさせ、また再発を防止するための適切な処置を講じている。また、平成18年度から、知的障害者更生施設等の社会福祉施設において、入所者等及びその家族が気軽に相談できるよう特設の人権相談所を開設しており、平成21年度からは、電話による相談の受付時間を延長するとともに休日も相談に応じる全国一斉「高齢者・障害者の人権あんしん相談」強化週間を実施している。

この他にも、全国の市町村に配置された人権擁護委員が、法務局の人権相談所や市役所などの公共施設・デパート等において、障害のある人からの相談に応じている。

保健所、医療機関、教育委員会、特別支援学校、ハローワーク、ボランティア団体等においても、相談支援が行われている。

障害等により自立が困難な刑務所出所者等が出所後直ちに福祉サービスを受けられるようにするため、刑務所等の社会福祉士等を活用した相談支援体制を整備するとともに、「地域生活定着支援センター」を各都道府県に整備し、同センターと保護観察所との協働により、社会復帰を支援する体制の構築を進めている。

また、帰住先が確定しないなどの理由により出所後直ちに福祉による支援が困難な者について、更生保護施設への受入れを促進し、福祉への移行準備及び社会生活に適応するための実効性ある指導・訓練を実施している。

(4)権利擁護の推進

認知症の人、知的障害のある人、精神障害のある人など、判断能力の不十分な人々を保護し支援するための新たな公示制度である成年後見登記制度の運用が、平成12年度から東京法務局で開始され、証明書の交付については、17年1月31日から全国の法務局・地方法務局で行っている。

成年後見制度の周知を図るため、パンフレットの配布や法務省のホームページへのQ&A の掲載などを行った。また、障害福祉サービスを利用し又は利用しようとする重度の知的障害のある人又は精神障害のある人であり、助成を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められる場合に、申立てに要する経費及び後見人等の報酬の全部又は一部について補助を行うため、成年後見制度支援事業を実施している。平成22年4月1日現在で704市町村(40%)が実施しており、今後とも本事業の周知を図ることとしている。

日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害のある人、精神障害のある人等のうち判断能力が十分でない人々が、地域において自立した生活を送ることを支援するため、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理に関する援助等を行う事業として、都道府県・指定都市社会福祉協議会を実施主体とし、事業の一部を委託された市区町村社会福祉協議会等により実施されている。本人からの申請は少なく、周囲の専門職等が必要と判断して利用に至る場合が多いことが特徴。利用者の判断能力の低下等により、成年後見制度へ移行する者が増加しており、単身世帯の増加により移行のための支援も必要とされている。平成22年4月から平成23年3月までの実施状況は、本事業に関する相談件数が延べ105万7,756件、本事業の利用契約を締結したものが10,346人(23年3月末現在の本事業の実利用者数は3万5,059人)となっており、今後とも本事業の一層の定着を図ることとしている。

また、障害者団体のほか高齢者団体・行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会」が平成19年1月から開催され、消費者トラブルの情報共有や、「高齢者及び障害者の消費者トラブルの防止に向けて」の取りまとめを通じた悪質商法の新たな手口や対処の方法などの情報提供等を行う仕組みの構築を図ってきた。平成23年6月の同連絡協議会では、同取りまとめのフォローアップを行うとともに、地域活動や全国ネットワークを生かして、真摯に障害者の消費者権利の擁護に取り組み、引き続き、障害消費者の消費者トラブル防止を図ることとしている。

同取りまとめに基づき、国民生活センターでは、障害のある人やその周りの人々に悪質商法の手口等を電子メールで伝える「見守り新鮮情報」の発行、消費者問題等の知識を障害のある人に伝える障害者見守りボランティアの育成、障害者見守り活動の紹介等を行っている。

なお、悪質な手口により消費者被害にあったとして、全国の消費生活センターと国民生活センターに寄せられた「認知症高齢者、障害のある人等の相談件数(*)」は、平成15年度以降毎年1万件を超えている。

*平成23年1月末日までの登録分

(5)障害者虐待防止対策の推進

ア 「障害者虐待防止法」の成立の背景

近年、障害のある人に対する虐待が家庭や施設等で表面化し、社会問題となっている中で、障害者の尊厳の保持のため障害者に対する虐待を防止することは極めて重要な課題とされていた。

このような中、国会において、障害者虐待防止法制の検討が進められ、平成21年7月に、自民党・公明党と民主党・社民党・国民新党それぞれから、議員立法として障害者虐待の防止のための法律案が国会に提出されたが、衆議院の解散により廃案となった。

その後、改めて自民党・公明党・みんなの党から再度障害者虐待の防止のための法律案が提出され、国会において協議が行われ、平成23年6月に与野党が合意し、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」が衆議院厚生労働委員長の提出法案として、国会に提出され、全会一致で平成23年6月に成立し、24年10月から施行されることとなった。

イ 「障害者虐待防止法」の概要

<1> 法律の目的

障害のある人に対する虐待が障害のある人の尊厳を害するものであり、障害のある人の自立及び社会参加にとってこれを防止することが極めて重要であることから、障害のある人に対する虐待の禁止、国等の責務等を務めることにより、障害のある人の権利利益の擁護に資することを目的とする。

<2> 主な内容

「障害者虐待防止法」における「障害者」とは障害者基本法に規定する障害者とされている。

「障害者虐待防止法」における「障害者虐待」とは、<1>養護者による障害者虐待、<2>障害者福祉施設従事者等による障害者虐待、<3>使用者による障害者虐待とされている。使用者による虐待については、これまで規定されている例はないが、本法において初めて規定されることとなった。

また、障害者虐待の類型は、<1>身体的虐待、<2>ネグレクト、<3>心理的虐待、<4>性的虐待、<5>経済的虐待の5つとされた。本法における「身体的虐待」には、「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」が含まれることが、明記された。

「障害者虐待防止法」では、「何人も、障害者に対し、虐待をしてはならない」とされ、国、地方公共団体の責務、国、地方公共団体、障害者福祉関係者等の早期発見の努力義務が規定された。

また、養護者による障害者虐待(18歳未満の障害のある人について行われるものを除く。)については、これを受けたと思われる障害のある人を発見した人は、生命又は身体に重大な危険が生じている場合に限らず、全ての場合に速やかに市町村に通報する義務が課せられた(18歳未満の障害者虐待については、児童虐待防止法において通告義務が課せられている。)。

さらに、養護者による虐待の通報を受けた市町村については、速やかに障害のある人の安全の確認等を行うこととされたほか、障害者福祉施設従事者等や使用者による障害者虐待については、それぞれ、都道府県と都道府県労働局が監督権限等の適切な行使を行うこととされた。

「障害者虐待防止法」では、学校、保育所、医療機関を利用する障害のある人に対する虐待を防止するため、その長や管理者に対して、研修や普及啓発の実施等障害のある人に対する虐待を防止するための措置の実施を義務付けた。

「障害者虐待防止法」では、市町村の部局又は施設に「市町村障害者虐待防止センター」を、都道府県の部局又は施設に「都道府県権利擁護センター」としての機能を果たさせることとした。また、虐待を発見した際の通報窓口については、「市町村障害者虐待防止センター」において一元的に受け付けることとされた(ただし、使用者による障害者虐待については、都道府県と都道府県労働局において連携を図ることが必要なことから、市町村又は都道府県とされた。)。

ウ 障害者虐待の防止に向けた取組

<1> 障害者虐待防止対策支援事業

厚生労働省においては、平成22年度から、障害者虐待防止の取組を支援するため、「障害者虐待防止対策支援事業」を実施し、23年度は実施主体を都道府県から市町村にも拡大している。具体的には、地域における関係機関等の協力体制の整備・充実を図るとともに、過去に虐待のあった障害のある人の家庭訪問、障害者虐待防止に関する研修、虐待事例の分析等が行われている。

<2> 障害者虐待防止・権利擁護に関する人材の育成

国において、障害のある人の虐待防止や権利擁護に関して各都道府県で指導的役割を担う者を養成するための研修を実施している。

(6)障害者団体や本人活動の支援

行政施策に障害当事者の意見が反映されるようにするため、「中央障害者施策推進協議会」等において障害当事者を委員とするとともに、知的障害のある人が「障害者基本計画」や後期5か年計画の内容を理解しやすくするため、「わかりやすい障害者計画」を作成し、配布しているところである。

「地域生活支援事業」においては、障害のある人及びその家族等の団体が行うボランティア活動を支援する「本人活動支援事業」、「ボランティア活動支援事業」を行っている。

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