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第5章 住みよい環境の基盤づくり > 第2節 障害のある人の情報・コミュニケーションを確保するための施策 > 3.情報提供の充実

平成24年版障害者白書

平成23年度を中心とした障害者施策の取組

第5章 住みよい環境の基盤づくり

第2節 障害のある人の情報・コミュニケーションを確保するための施策

3.情報提供の充実
(1)情報提供に係る研究開発の推進

ア 民間による研究開発に対する支援

総務省では、高齢者や障害のある人向けの通信・放送サービスの開発を行うための通信・放送技術の研究開発を行う者に対し、支援を行っているほか、独立行政法人情報通信研究機構を通じて、身体に障害のある人のための通信・放送サービスの提供又は開発を行う者に対する助成、情報提供を実施している。

イ 使いやすい電話機の開発

通信サービスの中でも特に電話は、障害のある人にとって日常生活に欠かせない重要な通信手段となっており、こうした状況を踏まえ、電気通信事業者においても、音量調節機能付電話等福祉用電話機器の開発や車いす用公衆電話ボックスの設置など障害のある人が円滑に電話を利用できるよう種々の措置を講じている。

(2)情報提供体制の整備

ア 情報ネットワークの整備

コンピュータ・ネットワークを利用し、新聞情報等を即時に全国の点字図書館等で点字データにより受信できる「点字ニュース即時情報提供事業」を行っている。

また、社会福祉法人日本点字図書館を中心として運営している「ないーぶネット(点字データ及び点字・録音図書の目録のオンライン利用システム)」と「びぶりおネット(点字・録音図書ネットワーク配信システム)」を、平成21年度に、新たに視覚障害情報総合ネットワーク「サピエ」として統合整備し、より身近に点字・録音図書情報等の提供を行っている。

障害のある人の社会参加に役立つ各種情報の収集・提供と、障害のある人の情報交換の場を提供する「障害者情報ネットワーク(ノーマネット)」では、視覚障害のある人等からの情報アクセスを容易にするため、文字情報、音声情報及び画像情報を統合して同時提供するマルチメディアシステム化を図るとともに、国内外からの障害のある人に関係する国内外の保健福祉研究情報を収集・蓄積し、インターネットで提供する「障害保健福祉研究情報システム」を構築している。

また、後期5か年計画においては、「障害者の情報へのアクセスに配慮した著作権制度の在り方について検討を進め、必要に応じて法整備を行う。」こととされている。これを受け、文化審議会著作権分科会において当該課題について検討を行い、平成21年1月には、障害者の情報アクセスを保障するための措置をすみやかに講じることが適当との報告書を取りまとめた。同年3月には、この内容を含む著作権法改正案を取りまとめ、21年通常国会に提出し、この改正法は同年6月12日に可決・成立し、22年1月1日から施行されている。この改正により、障害者のために権利者の許諾を得ずに著作物等を利用できる範囲が抜本的に見直され、障害の種類を限定せずに、視覚や聴覚による表現の認識に障害のある者が広く対象になるとともに、視覚障害のある人については、デジタル録音図書の作成、聴覚障害者については、映画や放送番組への字幕・手話の付与など、それぞれの障害者が必要とする幅広い方式での複製等が可能となった。なお、当該複製等を行う主体についても、障害者施設に加えて、公共図書館等の施設なども含まれることとなった。

イ 字幕付きビデオ及び点字版パンフレット等の作成

法務省刑事局では、犯罪被害者やその家族、さらに一般の人々に対し、検察庁における犯罪被害者の保護・支援のための制度について分かりやすく説明したDVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」の改訂版を全国の検察庁に配布している。

このDVD は、説明のポイントにテロップを利用しているほか、全編に字幕を付すなどしており、聴覚障害のある人も利用できるようになっている。

また、法務省刑事局で作成している犯罪被害者用の保護・支援パンフレットの点字版及び同パンフレットの内容を音声で録音したCD を作成し、全国の検察庁及び点字図書館等へ配布を行い、視覚障害者の方々に情報提供している。

法務省の人権擁護機関では、各種人権課題に関する啓発広報ビデオを作成する際に、字幕付ビデオも併せて作成している。また平成22年度から、啓発冊子「人権の擁護」及び「全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集」に、音声コード(専用の機械に読み取らせることにより、本文の音声読み上げを行うことができるコード)を導入し、視覚障害のある人も利用できるようにした。

ウ 国政選挙における配慮

国政選挙においては、平成15年の公職選挙法改正により、郵便等投票の対象者が拡大されるとともに、代理記載制度が創設されているほか、点字による「候補者名簿及び名簿届出政党等名簿」の投票所等への備付け、投票用紙に点字で選挙の種類を示す取組、投票所における車いす用スロープの設置等により、障害のある人が投票を行うために必要な配慮を行っている。また、総務省では、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(平成22年6月29日閣議決定)を踏まえ、平成22年度に「障がい者に係る投票環境向上に関する検討会」を開催し、障害者の投票環境向上のための具体的方策について、以下のとおり検討した。

<1> 政見放送への字幕の付与について

現在、衆議院小選挙区選出議員選挙では、政見放送として政党が作成したビデオを放送することができ、これに政党の判断で字幕を付すことができるが、次回の参議院比例代表選出議員選挙の政見放送から、参議院名簿届出政党等より申し込みがあったときは、政見放送に字幕を付すこととし、関係者はこれに向け、詳細なルールづくりを含め法制上必要な規定の整備や体制の確保など、字幕付与に係る必要な取組を進めることとした。

<2> 政見放送への手話通訳の付与について

現在、衆議院小選挙区選出議員選挙では、字幕と同様に政見放送として政党が作成したビデオに、政党の判断で手話通訳を付すことができるほか、衆議院比例代表選出議員選挙及び参議院比例代表選出議員選挙の政見放送に手話通訳を付すことができるが、都道府県知事選挙の政見放送についても候補者が手話通訳を付すことができるよう、関係者において必要な取組を進めることとした。これを受けて平成23年1月21日に「政見放送及び経歴放送実施規程」を改正し、同年4月10日に統一地方選挙として実施されたすべての知事選挙(12都道県)において、政見放送に手話通訳を付すことができることとされた。

<3> 点字及び音声による選挙情報の提供について

国政選挙や都道府県知事選挙における、点字又は音声による「選挙のお知らせ版」について、その内容を選挙公報全文とするとともに、視力に障害のある方の意向に沿うよう、点字版だけではなく、カセットテープ版、コンパクトディスク版及び音声コード付き拡大文字版を作成し、必要とされる方に行き渡るよう十分配慮するよう各選挙管理委員会に要請した。また、その他の選挙についても、条例で選挙公報を発行している場合には、上記に準じた措置を講じるよう各選挙管理委員会に要請した。

<4> 投票所のバリアフリーなど投票環境の改善について

投票所において車イスや車イス用の投票記載台、点字や拡大文字による候補者名簿、点字器、虫眼鏡など、障害者や高齢者の方々がより投票しやすい設備や備品の準備、中山間地域等における高齢者や障害者の方々など、投票所への移動が困難な方々の投票機会の確保への配慮等について、各選挙管理委員会に要請した。

(3)字幕放送等の推進

聴覚障害のある人や視覚障害のある人が、放送を通じて情報を取得し、社会参加をしていく上で、字幕放送、解説放送、手話放送の普及を推進していくことは重要な課題となっており、総務省においては、字幕放送等の普及に向けて、制度面、予算面からの取組を進めている。

制度面では、平成9年、字幕放送、解説放送に係る免許制度の改善や字幕番組、解説番組をできる限り多く放送しなければならないとする努力義務規定の創設等を目的とする放送法の改正を行ったところであり、字幕放送を実施する放送事業者数も、8年度末には14社であったものが、22年度末には122社(デジタル放送)となっている。また、9年11月、法改正の趣旨を踏まえ、字幕放送の大幅かつ計画的な拡充を図るため、19年までの10年間において、対象となる放送番組のすべてに字幕を付与すること等を目標とする「字幕放送普及行政の指針」を策定した。当該行政指針を踏まえ、各放送事業者における字幕放送の普及に向けた取組を促した結果、19年度における字幕付与可能な放送番組に占める字幕放送時間の割合は、NHK(総合)で100%、民放キー5局平均で89.0%に到達したところである。

さらに、平成18年10月から、19年3月まで今後の技術・サービスの進展を踏まえ、字幕放送等の拡充の推進に向けた施策の立案に資するため、「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送に関する研究会」を開催し、同研究会における提言を踏まえ、19年10月、9年に策定した行政指針の字幕付与可能な放送番組の範囲を拡大するとともに、新たに解説放送に係る普及目標を追加した「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定した。新たな行政指針においては、字幕放送については29年度までに対象となる放送番組のすべてに字幕を付与、解説放送については29年度までに対象となる放送番組の10%に解説を付与する等の普及目標を定めており、普及目標の着実な達成に向けて、放送事業者の取組を促しているところである。

予算面では、「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」(平成5年法律第54号)に基づき、独立行政法人情報通信研究機構を通じて、字幕番組等を制作する者に対してその制作費の一部について助成を行っている。本助成制度は、5年度より、字幕番組、解説番組を助成対象として開始し、11年度には手話番組を、22年度には手話翻訳映像を助成対象に加え、制度の拡充を図るとともに、字幕放送等の普及促進に努めてきたところである。なお、平成24年度予算においても、4.0億円の予算を確保し、引き続き、助成を行うこととしているが、字幕放送に比べて普及が進んでいない解説放送や手話放送に対する助成を重点的に行うなど、効率的・効果的な助成を行うことができるよう、取組を推進している。

経済産業省では、日本映画の字幕付与について、映画関係団体とともに引き続き取組を促進することとしている。

聴覚障害のある人のために、字幕(手話)入り映像ライブラリーや手話普及のための教材の制作貸出し、手話通訳者の派遣、情報機器の貸出し等を行う聴覚障害者情報提供施設については、全都道府県での設置を目指し、その整備を促進している。また、平成21年度には、全国の聴覚障害者情報提供施設にデジタル方式の字幕入り映像製作機器を整備し、聴覚障害者への地域の映像情報等の提供を推進している。

聴覚障害者情報提供施設(福)聴力障害者情報文化センター

聴覚障害者情報提供施設(福)聴力障害者情報文化センター

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