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第5章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり

1 障害のある子どもの教育・育成に係る施策

障害のある子どもの能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加するために必要な力を養うため、一人一人の障害の状態などに応じ、きめ細かな教育を行う必要がある。このため、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級あるいは通級による指導等において、一人一人の教育的ニーズに応じた指導が行われている。

特に、近年の特別支援学校に在籍する幼児児童生徒の障害の重度・重複化や、LD(学習障害)・ADHD(注意欠陥多動性障害)・高機能自閉症等の発達障害のある児童生徒への教育的対応が求められることなどの状況の変化を踏まえ、特別支援学校については、これまで蓄積してきた専門的な知識・技能を生かし、地域における特別支援教育のセンターとしての機能・役割を果たすため、幼稚園、小・中学校、高等学校等の要請に基づき、これらの学校に在籍する障害のある児童生徒等の教育に関して助言・援助を行うよう努めることとされている。

また、障害のある者への教育上の支援について規定されている教育基本法の理念の実現に向け、今後政府が総合的かつ計画的に取り組むべき施策について示した「第二期教育振興基本計画」(平成25年6月閣議決定)においても、特別支援教育を推進する旨が明記されている。

【主な施策等】

  • ○ 文部科学省では、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、平成25年度に使用される、小・中学校の新学習指導要領に基づく検定済教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、全点発行されている。
  • ○ 障害のある児童生徒の情報活用能力を育成するとともに、障害を補完し、学習を支援する補助手段として、情報通信技術などの活用を進めることが重要であるため、平成23年度より「学びのイノベーション事業」において特別支援学校における情報通信技術の活用実証研究を進めている。
  • ○ 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、情報通信技術の活用に向けての研究を実施するとともに、各都道府県等の指導的立場に立つ教職員を対象とした研修では情報手段を活用した教育的支援に関する内容の充実を図っている。このほか、各教育委員会などの研修支援のための各種研修講義の配信や、発達障害教育情報センターWebサイトにおける各種教育情報の提供など総合的な情報の普及を行っている。
  • ○ インクルーシブ教育システムの構築という障害者権利条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方について、中央教育審議会の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」において審議が行われ、平成24年7月に取りまとめられた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(初等中等教育分科会報告)」等を踏まえ、平成25年8月には、障害のある児童生徒等の就学手続について、特別支援学校への就学を原則とする従前の仕組みを改め、市町村の教育委員会が、障害の状態、教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、総合的な観点から就学先を決定する仕組みとするなどの学校教育法施行令の改正を行った。
  • ○ 発達障害のある子どもへの支援については、教育、医療、福祉、保健、労働関係機関等の連携が重要であることにかんがみ、関係者相互のネットワークを構築し、情報交換や各種課題について意見交換を行うため、文部科学省において年に1回、「特別支援教育ネットワーク推進委員会」を開催。
  • ○ 文部科学省では、厚生労働省の実施する障害児関連施策・事業や就労施策等と連携して、幼稚園、小・中学校、高等学校、特別支援学校等のすべての学校において、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒への支援体制を整備するため、経費の一部補助、関係機関との連携、学校への巡回相談や専門家チームによる支援、研修体制の整備・実施等を行っている。また、公立幼稚園・小・中学校・高等学校に在籍する障害のある子どもをサポートする「特別支援教育支援員」の配置に係る経費が各市町村に対して地方財政措置されている。第三次障害者基本計画においては、特別支援教育の更なる推進を図るため、平成29年度までに個別の教育支援計画策定率を一人一人の教育的ニーズに応じた支援を推進する観点から80%にすることや、現状の体制整備状況を踏まえ、公立の幼稚園、高等学校における校内委員会の設置率や特別支援教育コーディネーターの指名率を90%にすることなどを数値目標として盛り込んでおり、着実な取組が進められている。
  • ○ 文部科学省では、発達障害を含め、障害のある幼児児童生徒への特別支援教育を推進するため、早期からの教育相談・支援体制の構築、高等学校等における発達障害のある生徒へのキャリア教育の充実、発達障害に関する教職員の専門性向上等に取り組むほか、障害特性に応じた教材等の在り方等についての実践的研究を実施。
  • ○ 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)における障害のある児童の受入れを促進するため、厚生労働省においては、多様化する障害の種別や程度に適切に対応できる指導員の確保とその資質向上を図るため、市町村の責任の下に専門的知識等を有する指導員を各クラブに配置する補助方式へと改め、更なる受入推進を図っている。
  • ○ 公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要であるため、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置は、平成26年度政府予算においては235人の定数改善を含む6,176人を盛り込んでいる。
  • ○ 研修を通じた資質向上を図るため、国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教職員等に対する研修を行っているほか、独立行政法人教員研修センターにおいても、各地域で中核となって活躍する管理職を育成する学校経営研修において特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。さらに、都道府県等教育委員会においては、小学校等の教諭等の初任者研修や10年経験者研修においても、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。このほか放送大学において、現職教員を主な対象とした特別支援学校教諭免許状取得のための科目が開講されている。
  • ○ 障害者の就労を促進するためには、教育、福祉、医療、労働などの関係機関が一体となった施策を講じる必要があるため、文部科学省では、厚生労働省と連携し、各都道府県教育委員会等に対し、就労支援セミナーや障害者職場実習推進事業等の労働関係機関等における種々の施策を積極的に活用することや、福祉関係機関と連携を図り就労への円滑な移行を図ることなど障害のある生徒の就労を支援するための取組の充実を促しているほか、特別支援学校と関係機関との連携による職業教育の改善に関する研究に取り組んでいる。
  • ○ 障害のある人が障害を理由に高等教育への進学を断念することがないよう、修学機会を確保することが重要であるため、大学入試センター試験や各大学の個別試験において、点字・拡大文字による出題、試験時間の延長、代筆解答の受験上の配慮がおこなわれている。また、平成25年度大学入試センター試験(平成25年1月実施)から、障害のある入学志願者が出願しやすいよう、希望者に対し、出願前に受験上の配慮の内容を通知することに取り組んでいる。また、支障なく学生生活を送れるよう、学校施設の整備を進めるとともに、各大学等において授業支援等の教育上の配慮が行われている。
  • ○ 学校施設の整備については、障害のある幼児児童生徒が支障なく学校生活を送るために障害の種類や程度に応じたきめ細かな配慮を行うよう、学校種ごとの「学校施設整備指針」において、施設の計画・設計上の留意点を示しているほか、学校施設のバリアフリー化に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点を示した「学校施設バリアフリー化推進指針」を策定するとともに、具体的な取組を事例集として取りまとめている。また、平成26年3月に取りまとめた「災害に強い学校施設の在り方について~津波対策及び避難所としての防災機能の強化~」では、災害時に避難所となる学校施設におけるバリアフリー化の必要性について示している。これらの指針や事例集等は、地方公共団体等に配布するとともに、研修会等を通じて普及啓発に努めている。さらに、公立学校については、地方公共団体が行うバリアフリー化に関する施設整備について国庫補助を行っており、また、私立学校については、学校法人等が行うバリアフリー化に関する施設整備について国庫補助を行っている。

2 雇用・就労の促進施策

障害者施策の基本理念である、すべての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現のためには、職業を通じた社会参加が重要である。この考え方の下、障害者雇用対策の各施策を推進している。

障害のある人の就労意欲が高まっている中で、障害のある人の就労を通じた社会参加を実現し、障害のある人が地域社会で、自立していきいきと暮らせるよう、障害者雇用対策の一層の充実を図っていく必要がある。

【主な施策等】

  • ○ 平成25年の障害者の雇用状況は、10年連続で過去最高を更新し、408,947.5人となるなど一層進展している。また、民間企業が雇用している障害のある人の割合は1.76%であった。一方、法定雇用率を達成した企業の割合は、平成25年4月に法定雇用率が引き上げられたこともあり、42.7%と依然として半数に満たない状況であった。なお、雇用されている障害のある人の数については、すべての企業規模で前年の報告より増加した。また、国の機関(法定雇用率2.3%)に在職している障害のある人の割合、勤務している障害のある人の数はそれぞれ2.44%、7,371人であった。
  • ○ 平成25年4月から国の法定雇用率が引き上げられたことを踏まえ、国の行政機関の障害者雇用を促進し、実雇用率の更なる上昇を図る観点から、「公務部門における障害者雇用推進に関する地方別人事担当課長会議」を地方8ブロックにおいて開催。
  • ○ 障害のある人の雇用に伴う事業主の経済的負担を調整するとともに、障害のある人の雇用を容易にし、社会全体として障害のある人の雇用水準を引き上げるため、障害者雇用納付金制度を設け、法定雇用率未達成の民間企業から納付金を徴収するとともに、一定水準を超えて障害のある人を雇用している民間企業に対して、障害者雇用調整金、報奨金を支給。
  • ○ 各府省・各地方公共団体で知的障害のある人等を非常勤職員として雇用し、1~3年の業務の経験を積んだ後、ハローワーク等を通じて一般企業等への就職の実現を図る「チャレンジ雇用」を推進。
  • ○ 障害のある人の権利及び尊厳を保護・促進するための包括的、総合的な国際条約である障害者権利条約に対する労働・雇用分野での対応については、労働政策審議会障害者雇用分科会において議論が行われ、平成25年4月19日に雇用分野における障害者の差別を禁止するための措置及び精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えること等を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案」が国会に提出され、6月に成立した。障害者に対する差別の禁止等については、厚生労働大臣が差別の禁止に関する指針及び均等な機会の確保等に関する指針(合理的配慮の提供の指針)を定めることとされており、平成25年9月から、学識経験者等で構成される「改正障害者雇用促進法に基づく差別禁止・合理的配慮の指針の在り方に関する研究会」において議論を行っている。
  • ○ 平成25年4月より、国等による障害者就労施設等からの物品等の調達の推進等に関する法律が施行され、障害者就労施設で就労する障害のある人や在宅で就業する障害のある人の自立の促進に資するため、国や地方公共団体などの公的機関が物品やサービスを調達する際、障害者就労施設等から優先的に購入することを進めるために、必要な措置を講じることとなった。
  • ○ 一般の公共職業能力開発施設において職業訓練を受けることが困難な重度の障害のある人については、障害者職業能力開発校を設置し、職業訓練を実施している。入校者の障害の重度化・多様化が進んでいることを踏まえ、個々の訓練生の障害の態様を十分に考慮し、きめ細かい支援を行うとともに、IT化の進展等に対応して、職業訓練内容の充実を図ることにより、障害のある人の雇用の促進に資する職業訓練の実施に努めている。
  • ○ 全国障害者技能競技大会は、障害のある人の職業能力の開発を促進し、技能労働者としての自信と誇りを持って社会に参加するとともに、広く障害のある人に対する社会の理解と認識を深め、障害のある人の雇用の促進を図ることを目的として、アビリンピックの愛称の下、昭和47年から実施しており、平成25年度は、第34回大会を千葉県で開催。
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