第1章 障害者施策の新たな展開
第3節 「障害者権利条約」の批准
2.我が国の「障害者権利条約」の批准
我が国は、本条約の起草段階から積極的に参加するとともに、国内NGOとの意見交換の実施や障害者NGO代表の政府代表団顧問としての参加を通じて、障害当事者のための条約づくりを目指してきた。平成19年9月、我が国はこの条約に署名し、平成26年1月に批准した。
(批准に当たっての国内の取組については第1章第2節参照)
障害者権利条約 条文構成
- 前文
- 第1条:目的
- 第2条:定義
- 第3条:一般原則
- 第4条:一般的義務
- 第5条:平等及び無差別
- 第6条:障害のある女子
- 第7条:障害のある児童
- 第8条:意識の向上
- 第9条:施設及びサービス等の利用の容易さ
- 第10条:生命に対する権利
- 第11条:危険な状況及び人道上の緊急事態
- 第12条:法律の前にひとしく認められる権利
- 第13条:司法手続の利用の機会
- 第14条:身体の自由及び安全
- 第15条:拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
- 第16条:搾取、暴力及び虐待からの自由
- 第17条:個人をそのままの状態で保護すること
- 第18条:移動の自由及び国籍についての権利
- 第19条:自立した生活及び地域社会への包容
- 第20条:個人の移動を容易にすること
- 第21条:表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会
- 第22条:プライバシーの尊重
- 第23条:家庭及び家族の尊重
- 第24条:教育
- 第25条:健康
- 第26条:ハビリテーション(適応のための技術の習得)及びリハビリテーション
- 第27条:労働及び雇用
- 第28条:相当な生活水準及び社会的な保障
- 第29条:政治的及び公的活動への参加
- 第30条:文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
- 第31条:統計及び資料の収集
- 第32条:国際協力
- 第33条:国内における実施及び監視
- 第34条:障害者の権利に関する委員会
- 第35条:締約国による報告
- 第36条:報告の検討
- 第37条:締約国と委員会との間の協力
- 第38条:委員会と他の機関との関係
- 第39条:委員会の報告
- 第40条:締約国会議
- 第41条:寄託者
- 第42条:署名
- 第43条:拘束されることについての同意
- 第44条:地域的な統合のための機関
- 第45条:効力発生
- 第46条:留保
- 第47条:改正
- 第48条:廃棄
- 第49条:利用しやすい様式
- 第50条:正文
- 末文
2014年1月、我が国は障害者権利条約を批准しました
障害者権利条約とは
2006年12月、国連総会で、「障害者の権利に関する条約」、いわゆる「障害者権利条約」(略称)が採択されました。障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利の実現のための措置等を規定した、障害者に関する初めての国際条約で、市民的・政治的権利、教育・保健・労働・雇用の権利、社会保障、余暇活動へのアクセスなど、様々な分野における取組を締約国に対して求めています。
条約の主な内容
障害者権利条約では、障害に基づくあらゆる差別を禁止しています。この「差別」とは、障害者であることを理由とする直接的な差別だけでなく、例えば過度の負担ではないにもかかわらず、段差がある場所に仮設式スロープを提供しないなど、障害者の権利の確保のために必要で適当な調整等を行わないという「合理的配慮の否定」も含まれるということが示されています。また、障害者が他の人と平等に、自立した生活を送れるための地域社会への包容について定めています。
“私たちのことを、私たち抜きに決めないで”
条約の起草に関する交渉は、政府のみで行うのが通例ですが、この条約の起草会合では、障害当事者の間で使われているスローガン「“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」にも表れているとおり、障害者団体も同席し、発言する機会が設けられました。日本からも延べ200名ほどの障害者団体の関係者が交渉の行われた国連本部(ニューヨーク)に足を運び、委員会を傍聴しました。
日本の政府代表団には、障害当事者が顧問として参加し、日本は積極的に交渉に関与しました。2002年から8回にわたる起草会合を経て、2006年12月13日、障害者権利条約が国連総会で採択されました。
日本はその翌年、2007年9月28日、同条約に署名しました。2008年5月3日には、同条約は、正式に発効しました。
“締結の前に、国内法の整備を”
日本国内では、条約の締結に先立ち、国内法の整備をはじめとする諸改革を進めるべきとの障害当事者等の意見も踏まえ、政府は2009年12月、内閣総理大臣を本部長、全閣僚をメンバーとする「障がい者制度改革推進本部」を設立し、集中的に国内法制度改革を進めていくこととしました。これを受け、障害者基本法の改正(2011年8月)、障害者総合支援法の成立(2012年6月)、障害者差別解消法の成立および障害者雇用促進法の改正(2013年6月)など、様々な法制度整備が行われました。このように、条約の締結に先だって諸制度を充実させたことについては、国内外から評価する声が聞かれています。
日本の障害者権利条約締結
これらの法整備等により一通りの国内の障害者制度の充実がなされたことから、2013年10月、国会での条約締結に向けた議論が始まり、2013年11月19日の衆議院本会議、12月4日の参議院本会議において、全会一致で障害者権利条約の締結が承認されました。これを受けて2014年1月20日、日本は障害者権利条約の批准書を国連に寄託し、日本は141番目の締約国・機関となりました。2014年3月末現在、米国を除くG8、中国、韓国、EU等、143か国・機関が、同条約を締結しています。
条約締結後の取組
日本がこの条約を締結したことにより、障害者の権利の実現に向けた取組が一層強化されることが期待されます。例えば、2011年に改正された障害者基本法に基づき設置された「障害者政策委員会」における障害者基本計画の実施状況の監視を通じ、監視がなされることになります。また、締約国は、国連に設置されている「障害者権利委員会」に条約に基づく義務の履行等についての報告書を定期的に提出し、その内容について各国の専門家で構成される同委員会から様々な勧告を受けることになるため、国外からもモニタリングされることになります。
国際協力の一層の推進も期待され、例えば、日本政府はこれまで国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)で果たしてきている地域の障害者に関する取組における主導的な役割を継続していくほか、ODA等を通じて、途上国の障害者の権利向上に貢献していきます。