第4章 日々の暮らしの基盤づくり 第1節 1
第1節 生活安定のための施策
1.利用者本位の生活支援体制の整備
(1)障害者総合支援法の改正
障害保健福祉施策については、障害のある人の地域における自立した生活を支援する「地域生活支援」を主題に、身体に障害のある人、知的障害のある人及び精神障害のある人それぞれについて、住民に最も身近な市町村を中心にサービスを提供する体制の構築に向けて必要な改正を行ってきた。
平成18(2006)年4月1日に、障害者自立支援法(平成17年法律第123号)が施行され、福祉施設や事業体系の抜本的な見直しを行った。その後、障がい者制度改革推進会議の下の「総合福祉部会」にて取りまとめられた「骨格提言」を踏まえ、障害者自立支援法を障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下「障害者総合支援法」という。)とする内容を含む地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律(平成24年法律第51号)が成立した。
また、障害者総合支援法の附則で規定された施行後3年を目途とする見直しを行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成28年法律第65号)が平成28(2016)年5月に成立した。今回の障害者総合支援法の改正では、「障害者の望む地域生活への支援」、「障害児支援のニーズのきめ細かな対応」、「サービスの質の確保・向上に向けた環境整備」を主な柱としている。
(2)障害者総合支援法の概要
ア 障害福祉サービス
① 障害種別によらない一体的なサービス提供
「支援費制度」では、身体に障害のある人、知的障害のある人に対し、障害の種類ごとにサービスが提供されており、精神障害のある人は「支援費制度」の対象外となっていたが、障害者自立支援法の施行により、障害の種類によって異なる各種福祉サービスを一元化し、これによって、障害の種類を超えた共通の場で、それぞれの障害特性などを踏まえたサービスを提供することができるようになった。
また、平成25(2013)年度の障害者総合支援法の施行により、障害福祉サービス等の対象となる障害者の範囲に難病患者等が含まれることとなった。制度の対象となる疾病(難病等)については、当面の措置として、難病患者等居宅生活支援事業の対象となっていた130疾病を対象としていたが、難病医療費助成の対象となる指定難病の検討状況等を踏まえ、対象疾病の検討を行い、平成27(2015)年1月1日より151疾病に、同年7月1日より332疾病に、平成29(2017)年4月1日より358疾病に拡大し、その後の指定難病の検討状況等を踏まえ平成30(2018)年4月1日より359疾病に拡大している。
平成30年度の障害福祉サービス等報酬改定(以下「報酬改定」という。)においては、障害種別によって訓練の類型が分かれていた自立訓練(機能訓練、生活訓練)を障害の区別なく利用できる仕組みに改め、利用者の障害特性に応じた訓練を身近な事業所で受けられるようにした。
② 市町村による一元的な実施
「支援費制度」では、精神障害に係る一部のサービスなどの実施主体については、都道府県となっていたが、障害者自立支援法施行後は、市町村に実施主体を一元化し、都道府県はこれをバックアップする仕組みに改め、より利用者に身近な市町村が責任を持って、障害のある人たちにサービスを提供できるようになっている。
イ 利用者本位のサービス体系
① 地域生活中心のサービス体系
「支援費制度」では、障害種別ごとに複雑な施設・事業体系となっており、また、入所期間の長期化などにより、本来の施設目的と利用者の実態とが乖離している状況になっていた。
そこで、障害者自立支援法では、障害のある人が地域で普通に暮らすために必要な支援を効果的に提供することができるよう、33種類に分かれた施設体系を6つの事業に再編するとともに、「地域生活支援」、「就労支援」のための事業や重度の障害がある人を対象としたサービスを創設するなど、地域生活中心のサービス体系へと再編した。
また、平成22(2010)年12月の障害者自立支援法の一部改正により、平成24(2012)年4月1日から、地域移行支援及び地域定着支援を個別給付化し、障害のある人の地域移行を一層推し進めている。
なお、障害者総合支援法により、平成26(2014)年4月1日から、地域生活への移行のために支援を必要とする者を広く地域移行支援の対象とする観点から、障害者支援施設等に入所している障害のある人又は精神科病院に入院している精神障害のある人に加えて、保護施設、矯正施設等に入所している障害のある人を地域移行支援の対象とすることとした。また、障害のある人が身近な地域において生活するための様々なニーズに対応する観点から、重度の肢体不自由者に加え、行動障害を有する知的障害のある人又は精神障害のある人を重度訪問介護の対象とすることとした。
② 「日中活動の場」と「住まいの場」の分離
地域生活への移行を進めていくため、障害者自立支援法では、24時間同じ施設の中で過ごすのではなく、障害のある人が、日中活動と居住の支援を自分で組み合わせて利用できるよう、昼のサービス(日中活動支援)と夜のサービス(居住支援)に分け(昼夜分離)、障害のある人が自分の希望に応じて、複数のサービスを組み合わせて利用できるようにした。
また、この昼夜分離によって、入所施設に入所していない障害のある人も、入所施設が実施する日中活動支援のサービスを利用することができるようになった。
障害者自立支援法における日中活動支援については、以下のように再編され、現在の障害者総合支援法でも同じ体系をとっている。
・療養介護…医療と常時の介護を必要とする人に、医療機関において、機能訓練、療養上の管理、看護、介護及び日常生活の世話を行うサービス
・生活介護…常に介護を必要とする人に、昼間、入浴等の介護を行うとともに、創作的活動又は生産活動の機会を提供するサービス
・自立訓練…機能訓練と生活訓練とに大別され、自立した日常生活又は社会生活ができるよう、一定期間、身体機能又は生活能力の向上のために必要な訓練を行うサービス
・就労移行支援…一般就労等への就労を希望する人に、一定期間、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービス
・就労継続支援…一般企業等での就労が困難な人に、働く場を提供するとともに、知識及び能力の向上のために必要な訓練を行うサービス
・地域活動支援センター…障害のある人が通い、創作的活動又は生産活動の機会の提供、社会との交流の促進等の便宜を図る施設(地域生活支援事業として実施)
③ 障害のある人の望む地域生活の支援
平成28(2016)年の障害者総合支援法の一部改正では、地域生活に移行する際の受け皿となるグループホームを利用する障害者数や就労移行支援事業所又は就労継続支援事業所から一般就労に移行する障害者数の増加に伴い、新たなサービスを創設した(平成30(2018)年4月施行)。
・就労定着支援…一般就労に伴う生活面の課題に対応できるよう、家族・関係機関との連絡調整等の支援を行うサービス
・自立生活援助…障害者支援施設等から地域での一人暮らしに移行した人に対して、本人の意向を尊重した地域生活を支援するために、定期的な居宅訪問等により当人の状況を把握し、必要な情報提供等の支援を行うサービス
④ 地域の限られた社会資源を活かす
障害のある人の身近なところにサービスの拠点を増やしていくためには、既存の限られた社会資源を活かし、地域の多様な状況に対応できるようにしていく必要がある。
このため、通所施設の民間の運営主体については、社会福祉法人に限られていたが、これを特定非営利活動法人、医療法人等、社会福祉法人以外の法人でも運営することができるように規制を緩和した。
ウ 福祉施設で働く障害のある人の一般就労への移行促進等
① 就労支援の強化
障害のある人が地域で自立した生活を送るための基盤として、就労支援は重要であり、一般就労を希望する人には、できる限り一般就労が可能となるように支援を行い、一般就労が困難である人には、就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するように支援を行ってきている。就労系障害福祉サービスから一般就労への移行者数は10.5倍に増加(平成15(2003)年度1,288人→平成28(2016)年度13,517人)し、就労系障害福祉サービスの利用者は3.3倍に増加(平成15年度97,026人→平成28年度322,254人)している。
② 工賃向上のための取組
平成24(2012)年度からは「工賃向上計画」を策定することにより、工賃向上に向けた取組を進めている。この「工賃向上計画」では、コンサルタントによる企業経営手法の活用や共同受注の促進など、これまでの計画でも比較的効果のあった取組に重点を置いて取り組むとともに、個々の事業所ごとに「工賃向上計画」を作成することを原則とし、共同受注を進める観点から都道府県と関係団体の間の連携を強化するなど、取組の強化を図っている。また、特別な事情がない限り、個々の事業所における「工賃向上計画」を作成し、事業所責任者の意識向上、積極的な取組を促し、都道府県の計画では、官公需による発注促進についても、目標値を掲げて取り組んでいる。さらに、地域で障害のある人を支える仕組みを構築することが重要であることから、市町村においても工賃向上のための取組を積極的に支援するよう協力を依頼している。
エ 支給決定の透明化・明確化
① 障害程度区分の導入と障害支援区分への見直し
「支援費制度」では、支給決定に際して全国共通の利用ルール(支援の必要度を判定する客観的基準)が定められていなかったことから、同じような障害状態にあっても市町村が決定するサービスの種類や量には、地域格差が生じているとの指摘がされていた。このため、障害者自立支援法では、支援の必要度を判定する障害程度区分を導入した。
また、知的障害のある人や精神障害のある人等の特性に応じて適切に支援の必要度を判定できるよう、障害者総合支援法では障害程度区分を障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改め、平成26(2014)年4月から施行されている。
② 支給決定に係るプロセスの透明化等
障害者総合支援法における介護給付費等の支給決定を行うに当たっては、まず市町村が事前に障害のある人の面接調査を行い、その調査を基に障害支援区分の一次判定が行われ、さらに障害保健福祉の有識者などで構成される審査会での審査(二次判定)を経て、障害支援区分の認定が行われる仕組みなどとなっており、支給決定に係るプロセスの透明化が図られている。
また、この支給決定に係るプロセスは、障害支援区分に加え、障害のある人一人一人の心身の状況、サービス利用の意向、家族の状況などを踏まえて相談支援専門員等が作成したサービス等利用計画案を勘案して、適切な支給決定が行われるようにしている。
オ 費用をみんなで負担し合う仕組みの強化
① 国の費用負担の義務づけ
「支援費制度」においては、居宅サービスに関する部分の費用については、国はその費用の一部を予算の範囲内で補助する仕組みとなっていたが、制度を安定的かつ継続的に運営するために、障害者自立支援法の施行以降は、国が義務的にその費用の一部を負担する仕組みとした。(具体的には、国は費用の2分の1、都道府県は費用の4分の1を義務的に負担。市町村は費用の4分の1を負担。)これにより、当初の予算の範囲を超えて居宅サービスの利用が急増したとしても、国及び都道府県は義務的に費用の一部負担を行うこととし、障害のある人が安心して制度を利用できるような形となった。
② 利用者負担
障害者自立支援法の施行以降は、サービスの利用者も含めて皆で制度を支え合うため、国の費用負担の義務づけと併せて、利用者については、所得階層ごとに設定された負担上限月額の範囲内で負担することとした。
また、これに加えて、所得の少ない人については、個別減免の仕組みを設けるなど利用者負担の軽減措置を講じた。
施設を利用した場合などにかかる食費・光熱水費などの実費負担については、在宅で生活をしていたとしてもこれらの実費負担は生じるものであることから、施設と在宅の費用負担の均衡を図るために、自己負担とした。ただし、所得の少ない人については、食費に係る実費負担額が食材料費のみの負担となるよう軽減措置を講じた。
その後、平成19(2007)年4月に行われた特別対策や、平成20(2008)年7月に行われた緊急措置において、低所得の障害のある人等を中心とした利用者負担の更なる軽減、障害のある子供のいる世帯における軽減対象範囲の拡大、負担上限月額を算定する際の所得段階区分の個人単位を基本とした見直し等の軽減措置を講じた。また、平成21(2009)年7月より、軽減措置を適用するために設けていた「資産要件」の廃止や、「心身障害者扶養共済給付金」の収入認定からの除外といった更なる軽減措置を講じた。
さらに、平成22(2010)年4月から低所得(市町村民税非課税)の障害のある人等につき、福祉サービス及び補装具にかかる利用者負担を無料としている。
平成22年の障害者自立支援法の一部改正では、障害のある人の地域移行を促進するため、障害のある人が安心して暮らせる「住まいの場」を積極的に確保していくことを目的に、グループホーム等の居住に要する費用を助成する制度を創設した(平成23(2011)年10月施行)。また、利用者負担について、応能負担を原則とすることを法律上も明確にするとともに、障害福祉サービス等と補装具の利用者負担額を合算し、負担を軽減する仕組みを導入した(平成24(2012)年4月施行)。
平成28(2016)年の障害者総合支援法の一部改正では、障害福祉サービスを利用してきた人が、65歳に達することにより介護保険サービスに移行することによって利用者負担が増加してしまうという事態を解消するため、一定の要件を満たした高齢障害者については、障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用する場合の利用者負担(原則1割)をゼロにするという措置を講じた(平成30(2018)年4月施行)。
カ 障害福祉計画に基づく計画的なサービス基盤整備の推進
障害者総合支援法及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)では、障害のある人に必要なサービスが提供されるよう、将来に向けた計画的なサービス提供体制の整備を進める観点から、障害福祉サービス及び相談支援並びに市町村及び都道府県の地域生活支援事業の提供体制の整備並びに自立支援給付及び地域生活支援事業の円滑な実施を確保するための基本的な指針(平成18年厚生労働省告示第395号)(以下「基本指針」という。)に即して、市町村及び都道府県は、数値目標と必要なサービス量の見込み等を記載した障害福祉計画及び障害児福祉計画を策定することになっている。
平成29(2017)年3月には、社会保障審議会障害者部会での議論を経て、平成30(2018)年度から平成32(2020)年度までの3年間の計画の策定のため、基本指針の改正を行ったところである。改正の主なポイントとしては、次のとおり。
① 地域共生社会の実現のための規程の整備
地域のあらゆる住民が「支え手」と「受け手」に分かれるのではなく、地域、暮らし、生きがいをともに創り、高め合うことができる「地域共生社会」の実現に向けた取組等を計画的に推進することを定める。
② 精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築
精神障害のある人が、地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)にも対応した地域包括ケアシステムの構築について定める。
③ 障害児支援の提供体制の計画的な整備
児童福祉法に障害児福祉計画の策定が義務づけられたこと等を踏まえ、以下の柱を盛り込み、障害児支援の提供体制の確保に関する事項等を新たに定める。
(ア)地域支援体制の構築
(イ)保育、保健医療、教育、就労支援等の関係機関と連携した支援
(ウ)地域社会への参加・包容の推進
(エ)特別な支援が必要な障害児に対する支援体制の整備
(オ)障害児相談支援の提供体制の確保
④ 発達障害者支援の一層の充実
発達障害者支援法の一部を改正する法律(平成28年法律第64号)の施行を踏まえ、発達障害のある人の支援の体制の整備を図るため、発達障害者支援地域協議会の設置の重要性等について定める。
⑤ 障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の提供体制の確保に係る目標の設定
(ア)福祉施設の入所者の地域生活への移行
施設入所者の高齢化、重度化を踏まえ、
・平成28(2016)年度末時点における施設入所者の9%以上を平成32(2020)年度末までに地域生活へ移行するとともに、
・平成32年度末時点における施設入所者を、平成28年度末時点から2%以上削減することを基本とする。
(イ)精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築
「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」の議論を踏まえ、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を目指して、成果目標を次のとおり設定する。
・平成32(2020)年度末までに、全ての障害保健福祉圏域ごとに保健・医療・福祉関係者による協議の場を設置することを基本とする。なお、都道府県ごとにも協議の場を設置することが望ましい。
・平成32年度末までに、全ての市町村ごとに保健・医療・福祉関係者による協議の場を設置することを基本とする。市町村単独での設置が困難な場合には、複数市町村による共同設置であっても差し支えない。
・都道府県は、平成32年度末の精神病床における1年以上長期入院患者数(65歳以上、65歳未満)の目標値を国が提示する推計式を用いて設定する。
・都道府県は、平成32年度末における入院後3か月時点、入院後6か月時点及び入院後1年時点の退院率の目標値を、それぞれ69%以上、84%以上及び90%以上として設定することを基本とする。
(ウ)地域生活支援拠点等の整備
各市町村又は各都道府県が定める障害福祉圏域において、平成32(2020)年度末までに、障害のある人の地域での生活を支援する拠点等を少なくとも一つ整備することを基本とする。
(エ)福祉施設から一般就労への移行等
・平成32(2020)年度中に就労移行支援事業等を通じた一般就労への移行者数を平成28(2016)年度実績の1.5倍以上にすることを基本とする。
・平成32年度末における就労移行支援事業の利用者数を平成28年度末実績から2割以上増加することを目指す。
・就労移行率3割以上である就労移行支援事業所を、平成32年度末までに全体の5割以上とすることを目指す。
・各年度における就労定着支援による支援開始から1年後の職場定着率を8割以上とすることを基本とする。
(オ)障害児支援の提供体制の整備等
・平成32(2020)年度末までに、児童発達支援センターを各市町村に少なくとも1か所以上設置することを基本とする。
・平成32年度末までに、全ての市町村において、保育所等訪問支援を利用できる体制を構築することを基本とする。
・平成32年度末までに、主に重症心身障害児を支援する児童発達支援事業所及び放課後等デイサービス事業所を各市町村に少なくとも1か所以上確保することを基本とする。(※)
・平成30(2018)年度末までに、各都道府県、各圏域及び各市町村において、保健、医療、障害福祉、保育、教育等の関係機関等が連携を図るための協議の場を設置することを基本とする。(※)
※市町村単位での設置・確保が困難な場合には、圏域での設置・確保であっても差し支えない。
都道府県、市町村においては、この基本指針に即して、平成29年度中に、平成30年度からの計画を作成するとともに、計画に盛り込んだ事項について、定量的に調査、分析、評価を行い、障害福祉施策を総合的、計画的に行っていくことが求められる。
(3)身近な相談支援体制整備の推進
ア 障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援
障害のある人や障害のある児童の親に対する一般的な相談支援については、障害者自立支援法により、平成18(2006)年10月から、障害種別にかかわらず、事業の実施主体を利用者に身近な市町村に一元化して実施している。また、市町村における相談支援事業の機能を充実・強化するため、平成18年10月から住宅入居等支援事業を、平成24(2012)年4月から基幹相談支援センター等機能強化事業を、それぞれ地域生活支援事業に位置づけている。
また、指定特定相談支援事業所及び指定障害児相談支援事業所に配置されている相談支援専門員がサービス等利用計画又は障害児支援利用計画を作成することにより、障害のある人や障害のある児童の親が障害福祉サービス等を適切に利用することができるよう支援を行っており、平成27(2015)年4月からは、支給決定前の全ての障害児者が、障害児支援利用計画又はサービス等利用計画を作成することとしている。
さらに、平成30(2018)年度の報酬改定では、利用状況の適切な把握と適正なサービス量の調整が可能となるよう、標準モニタリング期間の一部を見直してモニタリング頻度を高めることとしているほか、相談支援専門員が質の高い支援を実施した場合に、その専門性と業務負担を適切に評価する加算(「サービス提供モニタリング加算」等)を創設している。このほか、厚生労働省では、障害のある人の支援体制のさらなる充実を図るため、平成30年度から、地域における相談支援等の指導的な役割を担う主任相談支援専門員の養成等を行うこととしている。
広域・専門的な支援や人材育成については、都道府県の地域生活支援事業の中で、都道府県相談支援体制整備事業、高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業、発達障害者支援センター運営事業、障害者就業・生活支援センター事業、障害児等療育支援事業、相談支援従事者研修事業等を実施し、市町村をバックアップしている。
イ 都道府県による取組及び市町村区域への対応
都道府県においては、市町村に対する専門的な技術支援、情報提供の役割を担っている更生相談所等が設けられており、それぞれの施設が担う相談支援内容に合わせて、身体障害者相談員、知的障害者相談員、児童に関する相談員及び精神保健福祉相談員を配置している。設置状況は、身体障害者更生相談所(平成29(2017)年4月現在77か所)、知的障害者更生相談所(平成29年4月現在86か所)、児童相談所(平成29年4月現在210か所)、精神保健福祉センター(平成29年4月現在69か所)となっている。
国においては、市町村の区域で生活に関する相談、助言その他の援助を行う民生委員・児童委員を委嘱している。
ウ 法務局その他
全国の法務局・地方法務局及びその支局等において、人権擁護委員や法務局職員が障害のある人に対する差別、虐待等の人権問題について、面談・電話による相談に応じている。また、社会福祉施設や市役所などの公共施設・デパート等において特設の人権相談所を開設しているほか、法務省のホームページ上でも人権相談の受付を行っている。加えて、人権相談で虐待等人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、人権侵犯事件として調査を行い、事案に応じて、人権侵害による被害の救済・予防のための適切な措置を講じている。
保健所、医療機関、教育委員会、特別支援学校、ハローワーク、ボランティア団体等においても、相談支援が行われている。
エ 矯正施設入所者
障害等により自立が困難な矯正施設入所者について、出所後直ちに福祉サービスを受けられるようにするため、刑務所等の社会福祉士等を活用した相談支援体制を整備するとともに、「地域生活定着支援センター」を全国の各都道府県に整備している。同センターは、矯正施設、保護観察所並びに地域の関係機関及び団体と連携して、社会復帰の支援を行っている。
また、帰住先が確定しないなどの理由により出所後直ちに福祉による支援が困難な者について、更生保護施設への受入れを促進し、福祉への移行準備及び自立した日常生活のための訓練等を実施している。
(4)権利擁護の推進
ア 成年後見制度等
認知症、知的障害又は精神障害などのため判断能力の十分でない人を保護し支援するための成年後見制度について、パンフレットの配布や法務省ホームページ上のQ&A掲載など、制度周知のための活動を行っている。また、障害福祉サービスを利用し又は利用しようとする重度の知的障害のある人又は精神障害のある人であり、助成を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められる場合に、申立てに要する経費及び後見人等の報酬の全部又は一部について補助を行うため、成年後見制度利用支援事業を実施しており、平成24(2012)年度から市町村地域生活支援事業の必須事業に位置付けている。
平成29(2017)年4月1日現在で1,485市町村(85%)が実施しており、今後とも本事業の周知を図ることとしている。
また、障害者総合支援法では、平成25(2013)年度から、後見、保佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るための研修を行う事業について、成年後見制度法人後見支援事業を地域生活支援事業として市町村の必須事業に位置づけたほか、指定障害福祉サービス事業者等の責務として、障害のある人等の意思決定の支援に配慮し、常に障害のある人の立場に立ってサービス等の提供を行うことを義務づけている。
日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害のある人、精神障害のある人等のうち必ずしも判断能力が十分でない人が、地域において自立した生活を送ることを支援するため、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理に関する援助等を行う事業として、都道府県・指定都市社会福祉協議会を実施主体とし、事業の一部を委託された市区町村社会福祉協議会等により実施されている。本人からの申請は少なく、周囲の専門職等が必要と判断して利用に至る場合が多いことが特徴である。利用者の判断能力の低下等により、成年後見制度へ移行する者が増加しており、単身世帯の増加により、成年後見制度への移行のための支援も必要とされている。平成28(2016)年4月から平成29年3月までの実施状況は、本事業に関する相談件数が延べ1,904,734件、本事業の利用契約を締結した人が11,849人(平成29年3月末現在の本事業の実利用者数は51,828人)となっており、今後とも本事業の一層の定着を図ることとしている。
また、成年後見制度の利用の促進に関する法律(平成28年法律第29号)に基づき、「成年後見制度利用促進委員会」における議論を踏まえて策定された「成年後見制度利用促進基本計画」(平成29年3月24日閣議決定)に沿って、成年被後見人の財産管理のみならず意思決定支援・身上保護も重視した適切な支援に繋がるよう、利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善や権利擁護支援の地域連携ネットワークづくりなどの成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進している。併せて、成年後見制度の利用の促進に関する法律に基づく措置として、成年被後見人及び被保佐人(以下「成年被後見人等」という。)の人権が尊重され、成年被後見人等であることを理由に不当に差別されないよう、成年被後見人等に係る欠格条項その他の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための措置を講ずる「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」を平成30(2018)年3月に閣議決定し、国会に提出した。
(なお、財産管理については、後述の「3.経済的自立の支援(2)個人財産の適切な管理の支援」を参照。)
イ 消費者としての障害者
高齢者及び障害者の消費者トラブルの防止等を目的とし、障害者団体のほか高齢者団体・福祉関係者団体・消費者団体、行政機関等を構成員とする「高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会」を平成19(2007)年から開催し、消費者トラブルに関して情報を共有するとともに、悪質商法の新たな手口や対処の方法などの情報提供等を行う仕組みの構築を図ってきた。
平成29(2017)年3月に開催した「第13回高齢消費者・障害消費者見守りネットワーク連絡協議会」では、「高齢者、障害者の消費者トラブル防止のため積極的な情報発信を行う」こと、「多様な主体が緊密に連携して、消費者トラブルの防止や「見守り」に取り組む」こと等を申し合わせた。国民生活センターでは、障害のある人やその周りの人々に悪質商法の手口やワンポイントアドバイス等をメールマガジンや同センターホームページで伝える「見守り新鮮情報」を発行するとともに、最新の消費生活情報をコンパクトにまとめた「2018年版くらしの豆知識」のデイジー版を作成し、全国の消費生活センター、消費者団体及び全国の点字図書館等に配布した。
なお、悪質な手口により消費者被害にあった等として、全国の消費生活センターや国民生活センターなどに寄せられた「認知症高齢者、障害のある人等の相談件数」は、平成20(2008)年度から平成25(2013)年度にかけ年々増加し、平成26(2014)年度以降も依然として高水準で推移している。
こうした状況のもと、国民生活センターでは、「消費生活センターにおける障がい者対応の現況調査」を実施し、平成30(2018)年1月に結果報告書を公表した。調査結果では、契約当事者や相談者の障害の種類として「精神障害」や「知的障害」が多く、相談内容の聞き取りや意思疎通などに関して相談対応上の課題があることが明らかになった。
また、消費者庁では、平成29年度に障害者の消費行動・消費者トラブルの実態を把握するため、徳島県及び岡山県の協力を得て、「障がい者の消費行動と消費者トラブルに関する調査」を実施し、平成30年3月に報告書を取りまとめ公表した。その結果、障害者は全体的に買物好きな人が多く、他方で比較的多くの消費者トラブルに直面している可能性が示唆された。
消費者トラブルの防止及び被害からの救済については、地方消費者行政推進交付金等を通じ、被害に遭うリスクの高い消費者(障害者、高齢者、被害経験者等)を効果的・重点的に地域で見守る体制を構築し、消費者トラブルの防止及び早期発見を図る取組等を支援するとともに、障害者の特性に配慮した消費生活相談体制整備を図る取組等を促進している。
加えて、平成28(2016)年4月から施行された平成26年改正消費者安全法では、地域社会における高齢者・障害者等の見守りネットワークの構築のため、地方公共団体において消費者安全確保地域協議会を設置できることが盛り込まれており、地方公共団体向けの説明会等を行った。また、消費者安全確保地域協議会を設置した地方公共団体の先進的事例を収集し、公表を行う等、各地域における見守りネットワークの設置が促進されるよう取り組んだ。
(5)障害者虐待防止対策の推進
障害のある人の尊厳の保持のため障害のある人に対する虐待を防止することは極めて重要であることから、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律(平成23年法律第79号)が平成24(2012)年10月から施行されている。(法律の概要については図表4-10)
厚生労働省においては、障害者虐待の防止に向けた取組として、地域生活支援事業において、地域における関係機関等の協力体制の整備・充実を図るとともに、過去に虐待のあった障害のある人の家庭訪問、障害者虐待防止に関する研修、虐待事例の分析を行う都道府県や市町村を支援している。
さらに、障害のある人の虐待防止・権利擁護や強度行動障害のある人に対する支援のあり方に関して、各都道府県で指導的役割を担う者を養成するための研修を実施している。
(6)障害者団体や本人活動の支援
意思決定過程に障害のある人の参画を得て、その視点を施策に反映させる観点から、障害者政策委員会等において障害のある人や障害者団体が、情報保障その他の合理的配慮の提供を受けながら構成員として審議に参画している。
また、障害者総合支援法に基づく地域生活支援事業において、障害のある人等やその家族、地域住民等が自発的に行う活動に対する支援を行う「自発的活動支援事業」を実施している。