第5章 国際的な取組 2

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我が国の国際的地位にふさわしい国際協力に関する施策

2.国際協力等の推進

(1)国際協力の基本的な方針

障害者施策は、福祉、保健・医療、教育、雇用等の広範な分野にわたっているが、我が国がこれらの分野で蓄積してきた技術・経験などを政府開発援助(ODA)などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てることは、極めて有効であり、かつ、重要である。協力を行うに当たり、対象国の実態や要請内容を十分把握し、その国の文化を尊重しながら要請に柔軟に対応することが大切である。このため、我が国は「障害者権利条約」第32条「国際協力」に基づき、密接な政策対話を通じ、対象国と我が国の双方が納得いく協力を行うよう努めている。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力、日本NGO連携無償資金協力等の活用を通じたNGOとの連携、JICA海外協力隊の派遣など開発途上国の草の根レベルに直接届く協力も行っており、現地の様々なニーズにきめ細かく対応している。

(2)有償資金協力

有償資金協力では、鉄道建設、空港建設等においてバリアフリー化を図った設計を行う等、障害のある人の利用に配慮した協力を行っている。

(3)無償資金協力

無償資金協力においても、障害のある人の利用に配慮した協力を行うとともに、障害のある人のためのリハビリテーション施設や職業訓練施設の整備、移動用ミニバスの供与等、毎年度多くの協力を行っている。2019年度においては、草の根・人間の安全保障無償資金協力により45件の障害者関連援助をNGO・教育機関・地方公共団体等に対し実施した。また、2019年度には日本NGO連携無償資金協力により8件の障害者支援関連事業を採択した。

(4)技術協力

技術協力の分野では、開発途上国の障害者の社会参加と権利の実現に向けて、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、障害者を対象とした取組に加え、開発プロセスのあらゆる分野において障害者の参加を支援するために、研修員の受入れや専門家及びJICA海外協力隊の派遣など幅広い協力を行っている。2019年度には「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計」をはじめ13の研修コースを本邦において実施し、研修員142人を受け入れたほか、専門家15人、言語聴覚士・理学療法士・作業療法士等のJICA海外協力隊80人の派遣などを行った。また、NGOや大学等を始めとする市民団体の発意に基づく事業を実施するJICA草の根技術協力事業を活用し、2019年度には計13件を実施した。また、これら技術協力に日本及び開発途上国双方の障害者が参加し、中心的な役割を担うことを推進している。

技術協力プロジェクトでは、現在7つのプロジェクトを実施中である。2016年5月に、南アフリカにおいて「障害者のエンパワメントと障害主流化促進プロジェクト」が開始され、地域レベルでの障害についての理解の促進と障害者のエンパワメントを進め、2020年1月までに4州での障害者のエンパワメントと障害の主流化の取組を基にしたガイドラインを作成している。

2016年5月には、モンゴルにおいて「ウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクト」が開始され、ウランバートル市内のアクセスの改善と障害者団体の能力強化、行政官を育成する等、開発の過程に障害者が参加できるように協力を行っている。また、2015年8月から「障害児のための教育改善プロジェクト」が実施されており、障害児に対する診断・発達支援・教育モデルを構築するための活動を行っている。

2017年1月には、ヨルダンにおいて「障害者の経済的エンパワメント及び社会参加促進プロジェクト」を開始しており、ジョブコーチ制度の確立と障害についての理解の促進を進め、2020年1月までに、185名のジョブコーチを育成し、120名の障害者が雇用された。2015年3月から実施しているコロンビアの「障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョンプロジェクト」においては、「障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョン戦略」が労働、教育、保健のセクターで策定された。2018年5月からは、エジプトにおいて、「読書障害者用DAISY図書製作ソフトウェア普及促進事業」(旧:民間技術普及促進事業)を実施し、印刷物の読みに困難のある人々が利用しやすい、アラビア語対応のDAISY(Digital Accessible InformationSystem=アクセシブルな情報システム)図書製作ソフトウェアの開発を行っている。2019年3月からは、開発された同ソフトウェアを活用し、「情報アクセシビリティ改善による障害者の社会参画促進プロジェクト」を開始し、印刷物の読みに困難のある人々が利用しやすいDAISY図書をアラビア語で製作するための人材の育成と、読みの困難やDAISYに関する啓発を行うことにより、教育、防災、観光などの分野での情報提供が普及し、障害者の社会参加が促進されることを目指している。また、同様に2019年3月からスリランカにおいて「インクルーシブ教育アプローチを通じた特別なニーズのある子どもの教育強化プロジェクト」が実施されており、障害により就学が困難な子供等のためのインクルーシブ教育アプローチの開発を行っている。

(5)国際機関等を通じた協力

援助対象国に対する直接的援助のほか、我が国では国連等国際機関を通じた協力も行っている。1988年度から2015年度まで国連障害者基金に対して継続的な拠出を行った。さらに、アジア太平洋地域への協力としては、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に対し、日本エスカップ協力基金(JECF)を通じた活動支援を実施しており、2017年には、障害者インクルーシブな津波防災のためのe-ラーニングツールの開発について5万ドルの支援、2018年には開発したツールの域内普及に向けて3万ドルの支援を行った。

図表5-1 技術協力の状況(2019年度)
(1)本邦研修
2019年度実施研修員受入れコース 142
スポーツを通じた障害者の社会参加の促進 11
インクルーシブ教育実践強化 15
アフリカ地域 障害者のエンパワメントを通じた自立生活促進 10
地域活動としての知的・発達障害者支援 14
障害者権利条約の実践のための障害者リーダー能力強化 7
地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計(A) 11
地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計(B) 10
地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計(C) 11
障がいのある子どもへの教育制度~特別支援教育を活かしたインクルーシブ教育システムの構築~ 15
国別研修モンゴル 物理アクセシビリティ改善 11
国別研修モンゴル 障害者権利法実施促進のためのNGO・行政連携強化 11
国別研修 エジプト 情報アクセシビリティ改善のための実践 16
国別研修 スリランカ スリランカ国インクルーシブ教育アプローチを通じた教育強化 10
注:課題別研修/国別研修/青年研修の受入人数。課題別研修への国別上乗せ研修は除く。また2019年度の障害分野青年研修の実績はなし。
資料:外務省
(2)ボランティア
青年海外協力隊/海外協力 80
内訳 障害児・者支援 38
理学療法士 20
作業療法士 13
鍼灸マッサージ師 1
ソーシャルワーカー 2
福祉用具 1
言語聴覚士 5
シニア海外協力隊 3
内訳 障害児・者支援 2
理学療法士 1
日系社会青年海外協力隊/日系社会海外協力隊 3
内訳 理学療法士 1
作業療法士 1
ソーシャルワーカー 1
日系社会シニア海外協力隊 0
注:障害児・者支援、理学療法士、作業療法士、鍼灸マッサージ師、ソーシャルワーカー、福祉用具、言語聴覚士の7職種を障害者支援関連職種とし、新規派遣人数を計上。短期ボランティアを含む。
資料:外務省

(3)技術協力プロジェクト事業
技術協力プロジェクト 専門家派遣
(人)
研修員受入
(人)
機材供与
(百万円)
事業名
コロンビア
障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョンプロジェクト
4 3 0
モンゴル
障害児のための教育改善プロジェクト
0 0 2.6
モンゴル
ウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクト
5 24 0
南アフリカ
障害者のエンパワメントと障害主流化促進プロジェクト
3 2 0
ヨルダン
障害者の経済的エンパワメント及び社会参加促進プロジェクト
3 1 0
エジプト
情報アクセシビリティ改善による障害者の社会参画促進プロジェクト
0 6 0
スリランカ
インクルーシブ教育アプローチを通じた特別なニーズのある子どもの教育強化プロジェクト
0 10 0
注:前年度からの継続による専門家派遣・研修員受入人数を含む。専門家派遣については第三国人材の派遣及びコンサルタント契約による専門家人数を除く。また、研修員受け入れについては協力相手国内もしくは第三国で実施された研修コース分を除く。
資料:外務省

(4)草の根技術協力事業(2019年度障害者支援関連事業)
対象国 案 件 名
ミャンマー 障がい者の就労支援体制強化事業
ラオス ラオス障害者スポーツ普及促進プロジェクト
南アフリカ共和国 アクセシブルなまちづくりを通した障害者自立生活センターの能力構築
カンボジア カンボジア地雷埋設地域の脆弱な障害者家族への生計向上支援事業
コスタリカ 障害者の社会支援システム構築プロジェクト
セルビア セルビアベオグラード市コミュニティレベルにおける知的障害者の自立を支援する事業
ネパール 障害当事者による震災被災障害者のエンパワメントと主流化
モンゴル モンゴル障害児療育・教育支援及び療育関係者の育成事業
インドネシア インドネシア中部ジャワ州の幼児教育におけるインクルーシブ教育実践モデル形成事業
インドネシア 車いす整備・修理技術の移転 in Bali
イラン イランのバリアフリー支援事業
スリランカ あんまマッサージ指圧訓練コースの設立・運営による視覚障害者の雇用促進事業
ベトナム 心理リハビリテーションを通した発達障害児等支援指導者育成事業
資料:外務省

図表5-2 日本NGO連携無償資金協力(2019年度障害者支援関連事業)
(単位:円)
実施国/地域 契約額 事 業 名
アフガニスタン 82,451,385 カブール県およびパルワーン県における包括的地雷対策事業(第3期)
タジキスタン 49,494,720 ヒッサール市における障がい児のためのインクルーシブ教育(IE)促進事業(第3期)
ミャンマー 41,779,697 カレン州チャインセチ地区およびラインブエ地区における地域に根差したリハビリテーション推進事業(第3年次)
ラオス 41,346,580 ラオスにおける女性を主とする障がい者の小規模起業支援事業(第2年次)
ラオス 19,163,100 フアパン県障害者就労支援センター支援事業(第2年次)
パキスタン 47,852,185 ハリプール郡における、障がい児の教育支援体制構築事業
モンゴル 59,211,350 誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業(第3年次)
カンボジア 34,185,470 モデル地域での実践強化および評価制度の確立を通した,障がい児のためのインクルーシブ教育普及事業(第1年次)
資料:外務省
/外務省
第5章 2.国際協力等の推進
TOPICS
パラスポーツを通じて誰もが平等に社会参加できる社会へ

JICA(独立行政法人国際協力機構)は、スポーツを通じた障害のある人の社会参加促進に関連する研修コースを約30年実施してきている。例えば、1998年には課題別研修「障害者スポーツリーダーの養成」を実施し、バリアフリー化された設備や、障害のある人が障害のない人とともに働く現場、更にスポーツにおいては障害のある人もアスリートとしてプロ意識をもって取り組んでいる姿などを開発途上国からの参加者に対し体験する機会を与えた。研修参加者は、帰国後、母国にて社会参加をするうえでスポーツの果たす役割の重要性を啓発する活動などを行った。JICAの研修が、長い時間をかけ、パラスポーツのリーダーを鼓舞し、パラリンピックに出場する選手が育つまでに至るなど、各国のパラスポーツ振興に貢献してきている。

2019年度には、開発途上国における障害者スポーツの普及・推進による障害者の社会参加を促すことを目的に、開発途上国の行政官等を対象として、日本における障害者スポーツ振興の制度や、障害者スポーツ競技に関する知識・技術を習得する為の研修を実施した。参加者は、自国や地域における更なるパラスポーツ振興に携わることになる。

我が国は、長期的な視野をもって、途上国の人材育成を含め、障害のある人のスポーツ参加に関連した開発援助を継続していく。

  • アスリートの指導法や組織の運営方法などを学んだ1998年の課題別研修「障害者スポーツリーダーの養成」の様子

  • 左側の人物は左の写真の座している人物と同一、約21年ぶりの訪日でJICAを訪問した際の様子。

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