第6章 住みよい環境の基盤づくり 第2節 3

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第2節 障害のある人の情報アクセシビリティを向上するための施策

3.情報提供の充実

(1)情報提供に係る研究開発の推進

ア 民間による研究開発に対する支援

総務省では、高齢者や障害のある人向けの通信・放送サービスの開発を行うための通信・放送技術の研究開発を行う者に対して支援を行っているほか、国立研究開発法人情報通信研究機構を通じて、身体に障害のある人のための通信・放送サービスの提供又は開発を行う者に対する助成、情報提供を実施している。

図表6-12 研究開発の事例(視覚障害者の歩行誘導サービス)
視覚障害者の歩行誘導サービス
資料:総務省

イ 使いやすい電話機の開発

通信サービスの中でも特に電話は、障害のある人にとって日常生活に欠かせない重要な通信手段となっており、こうした状況を踏まえ、電気通信事業者においても、音量調節機能付電話等福祉用電話機器の開発や車椅子用公衆電話ボックスの設置など障害のある人が円滑に電話を利用できるよう種々の措置を講じている。

(2)情報提供体制の整備

ア 情報ネットワークの整備

社会福祉法人日本視覚障害者団体連合においてネットワークを利用し、新聞情報等を即時に全国の点字図書館等で点字データにより受信でき、かつ、視覚障害のある人が自宅にいながらにしてウェブ上で情報を得られる「点字ニュース即時提供事業」を行っている。

また、社会福祉法人日本点字図書館を中心として運営されている視覚障害情報総合ネットワーク「サピエ」により、点字・録音図書情報等の提供を行っている。

障害のある人の社会参加に役立つ各種情報の収集・提供と、情報交換の支援を行う「障害者情報ネットワーク(ノーマネット)」では、障害のある人からの情報アクセスを容易にするため、文字情報、音声情報及び画像情報を統合して同時提供するマルチメディアシステム化を図るとともに、国内外の障害保健福祉研究情報を収集・蓄積し、インターネットで提供する「障害保健福祉研究情報システム」を構築している。

2018年5月に、障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備を含む「著作権法の一部を改正する法律」(平成30年法律第30号)が成立し、2019年1月1日から施行された。これにより、視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことを認める権利制限規定(「著作権法」(昭和45年法律第48号)第37条第3項)において、音訳等を提供できる障害者の範囲について、改正前から対象として明示されている視覚障害や発達障害等のために視覚による表現の認識に障害がある者に加え、新たに肢体不自由等の者が対象となるよう規定が明確になったとともに、権利制限の対象とする行為について、改正前から対象となっているコピー(複製)、譲渡やインターネット送信(自動公衆送信)に加えて、新たにメール送信等が対象となった。また、同法の施行に伴う政省令の改正により、上述の規定により視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行える団体等について、改正前から対象とされている障害者施設や図書館等の公共施設の設置者や文化庁長官が個別に指定する者に加え、新たに文化庁長官の指定を受けずとも一定の要件を満たす者が対象となった。

イ 視覚障害者等の読書環境の整備の推進

2020年7月、文部科学省及び厚生労働省において「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下「基本計画」という。)を策定した。基本計画は2019年6月に施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(令和元年法律第49号。以下「読書バリアフリー法」という。)第7条に基づき、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため策定したものである。また、同法第8条により、地方公共団体は、基本計画を勘案して、当該地方公共団体における視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画の策定に努めることとされていることから、基本計画の策定に併せ、地方公共団体や関係機関等に向けて、「読書バリアフリー法」の趣旨を踏まえた取組の実施を促すための通知を発出した。

/文部科学省
第6章第2節 3.情報提供の充実
TOPICS
著作権法の一部を改正する法律の公布・施行

2018年通常国会において「著作権法の一部を改正する法律」が2018年5月18日に成立し、同年5月25日に平成30年法律第30号として公布され、一部の規定を除き2019年1月1日に施行された。

同法では、障害者の情報へのアクセス機会の向上のため、視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことを認める権利制限規定(「著作権法」(昭和45年法律第48号)第37条第3項)において、音訳等を提供できる障害者の範囲について、改正前から対象として明示されている視覚障害や発達障害等のために視覚による表現の認識に障害がある者に加え、新たに肢体不自由等の者が対象となるよう規定が明確になったとともに、権利制限の対象とする行為について、改正前から対象となっているコピー(複製)、譲渡やインターネット送信(自動公衆送信)に加えて、新たにメール送信等が対象となった。

また、同法の施行に伴い、「著作権法施行令の一部を改正する政令」(平成30年政令第360号)及び「著作権法施行規則の一部を改正する省令」(平成30年文部科学省令第37号)が、2018年12月28日に公布され、一部の規定を除き2019年1月1日に施行された。上述の規定(著作権法第37条第3項)により視覚障害者等のために書籍の音訳等を権利者の許諾なく行うことが認められる者については、改正前までは、障害者入所施設や図書館等の公共施設の設置者、視覚障害者等のための書籍の音訳等を的確かつ円滑に行うことができる技術的能力や経理的基礎等の体制を有するものとして文化庁長官が個別に指定する者が規定されていたが、適切な体制を有しているボランティア団体等については広く対象に含めることが望ましいと考えられることから、改正後には、一定の要件を満たす者については、文化庁長官の指定を受けることなく、書籍の音訳等を行うことができることとしている。詳しくは、『視覚障害者等のための複製・公衆送信が認められる者について』(文化庁)https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/1412247.html)をご覧いただきたい(新たに対象となった団体数:107団体(2021年4月2日現在))。

平成30年著作権法改正の概要【障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備関係】
/文部科学省・厚生労働省
第6章第2節 3.情報提供の充実
TOPICS
視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画について

2019年通常国会において「読書バリアフリー法」が成立し、2019年6月28日に施行された。また、2020年7月、文部科学省及び厚生労働省において「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下「基本計画」という。)を策定した。基本計画は同法18条に基づき関係者協議会を設置し、関係者から聴取した意見を踏まえて、同法第7条に基づき策定されるものであり、視覚障害者等の読書環境の整備を通じ、障害のある人の社会参加・活躍の推進や共生社会の実現を目指すものである。基本計画は2020年度から2024年度までを対象期間とし、策定後は、定期的に進捗状況を把握・評価していくことが求められている。

基本計画では、基本的な方針として、同法に規定する3つの基本理念、(1)アクセシブルな電子書籍等の普及及びアクセシブルな書籍の継続的な提供、(2)アクセシブルな書籍・電子書籍等の量的拡充・質の向上、(3)視覚障害者等の障害の種類・程度に応じた配慮について規定した。

また、施策の方向性として、(1)視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等(第9条関係)、(2)インターネットを利用したサービスの提供体制の強化(第10 条関係)、(3)特定書籍・特定電子書籍等の製作の支援(第11 条関係)、(4)アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(第12 条関係)、(5)外国からのアクセシブルな電子書籍等の入手のための環境整備(第13 条関係)、(6)端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、情報通信技術の習得支援(第14 条・第15 条関係)、(7)アクセシブルな電子書籍等・端末機器等に係る先端的技術等の研究開発の推進等(第16 条関係)、(8)製作人材・図書館サービス人材の育成等(第17 条関係)について、基本的施策(施策の方向性1~8)に取り組み、視覚障害者等の読書環境の整備を推進する。

視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画【概要】

ウ 政府広報における情報提供

内閣府では、視覚に障害がある人に対して政府の重要な施策の情報を提供するため、政府広報として音声広報CD 「明日への声」及び点字・大活字広報誌「ふれあいらしんばん」を発行(年6回、各号約4,300部)し、それぞれ全国の視覚障害者情報提供施設協会、日本視覚障害者団体連合、特別支援学校、公立図書館(都道府県、政令市、中核市、特別区立等)、地方公共団体等、約3,000か所に配布している。

音声広報CD「明日への声」
資料:内閣府
点字・大活字広報誌「ふれあいらしんばん」

エ 字幕付きビデオ及び点字版パンフレット等の作成

法務省刑事局では、犯罪被害者やその家族、さらに一般の人々に対し、検察庁における犯罪被害者の保護・支援のための制度について分かりやすく説明したDVD「もしも…あなたが犯罪被害に遭遇したら」を全国の検察庁に配布しているが、説明のポイントにテロップを利用しているほか、全編に字幕を付すなどしており、聴覚障害のある人も利用できるようになっている。

また、犯罪被害者等向けパンフレットの点字版及び同パンフレットの内容を音声で録音したCDを作成し、全国の検察庁及び点字図書館等へ配布を行い、視覚障害のある人に情報提供している。

法務省の人権擁護機関では、各種人権課題に関する啓発広報ビデオを作成する際に、字幕付ビデオも併せて作成するとともに、啓発冊子等に、音声コード(専用の機械に読み取らせることにより、本文の音声読み上げが可能なもの)を導入し、聴覚や視覚に障害のある人も利用できるようにしている。

オ 国政選挙における配慮

国政選挙においては、2003年の「公職選挙法」(昭和25年法律第100号)改正により、郵便等投票の対象者が拡大されるとともに、代理記載制度が創設されているほか、障害のある人が投票を行うための必要な配慮として、点字による「候補者名簿及び名簿届出政党等名簿」の投票所等への備付け、投票用紙に点字で選挙の種類を示す取組、点字版やカセットテープ、コンパクトディスク等の音声版による候補者情報の提供、投票所における車椅子用スロープの設置や点字器の備え付け等を行っている。

また、政見放送における取組として、衆議院比例代表選出議員選挙、参議院選挙区選出議員選挙及び都道府県知事選挙にあっては手話通訳を、参議院比例代表選出議員選挙にあっては手話通訳及び字幕を、それぞれ付与することができることとしている。また、衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙にあっては、政見放送として一定の要件のもと政党又は候補者が作成したビデオを放送することができ(いわゆる「持込みビデオ方式」)、政党又は候補者の判断により手話通訳や字幕を付与することができることとしている。

(3)字幕放送、解説放送、手話放送等の推進

視聴覚障害のある人が、テレビジョン放送を通じて情報を取得し、社会参加していく上で、字幕放送、解説放送、手話放送等の普及は重要な課題であり、総務省においては、その普及を推進している。

1997年の「放送法」(昭和25年法律第132号)改正により、字幕番組及び解説番組をできる限り多く放送しなければならないとする努力義務規定が設けられた。

また、総務省は、1997年に2007年度までの字幕放送の普及目標を定めた「字幕放送普及行政の指針」を、2007年に2017年度までの字幕放送及び解説放送(2012年改定時に手話放送を追加)の普及目標を定めた「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」を策定し、視聴覚障害のある人等に向けた放送の普及を促してきた。そして、2018年に2027年度までの字幕放送、解説放送及び手話放送の普及目標を定めた「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を策定し、現在、この指針に基づき、各放送事業者において視聴覚障害のある人等に向けた放送の拡充に関する取組が進められている。また、国立研究開発法人情報通信研究機構を通じて字幕番組、解説番組及び手話番組の制作費や生放送番組に字幕を付与する機器の整備費用の一部助成も行っている。

聴覚障害者情報提供施設(聴力障害者情報文化センター):
手話番組の編集作業

全国的に字幕放送の普及が進んでいるものの、特に生放送番組への字幕付与については、多くの人手とコストがかかり、特殊技能人材等を要することから、特にローカル局等において普及が難しくなっている。また、深夜・早朝に災害が発生した場合には、人員の参集に時間がかかるため、緊急速報等に対する迅速な字幕付与が困難であることも課題となっている。このような課題への対応として、最先端のICT技術を活用し、人手を介さずに放送番組の音声から自動で字幕を生成・表示できるようにするため、総務省では、2018年度から、音声認識技術を用いた自動字幕付与システムの実用化に向けた実証事業を実施している。

字幕付きCMの普及についても、2014年に設立された字幕付きCM普及推進協議会(公益社団法人日本アドバタイザーズ協会、一般社団法人日本広告業協会、一般社団法人日本民間放送連盟の3団体で構成)では、2020年9月に「字幕付きCM普及推進に向けたロードマップ」を策定したほか、関係者によるセミナーや障害者団体との意見交換を実施し、字幕付きCMの一層の普及に向けた活動を行っている。

厚生労働省では、聴覚障害のある人のために、字幕(手話)入り映像ライブラリーや手話普及のための教材の制作・貸出し、手話通訳者等の派遣、情報機器の貸出し等を行う聴覚障害者情報提供施設について、全都道府県での設置を目指し、その整備を促進している。


/総務省
第6章第2節 3.情報提供の充実
TOPICS
情報バリアフリーの促進

障害のある人がIoT(※)、AI(※)等による利便性を最大限に享受できるようにするため、その前提として、製品やサービスにおけるアクセシビリティの確保が不可欠である。総務省では、年齢や障害の特性を問わず、誰もが公的機関のホームページから必要な情報やサービスを利用できるようにするため、2004年度から取組を行っている。2020年度は、公的機関を対象とした取組状況に関するアンケート調査及び町村を除いた地方公共団体の公式ホームページのJIS対応状況調査を実施した。

また、IoT、AI等の発展により、ICT分野における製品やサービスは、これまでの視覚、聴覚、身体障害中心の対応だけでなく、精神、発達、知的障害、難病を含め、あらゆる障害に対応できる可能性があることから、これらの関連技術の開発を推進していくため、①障害者向けのICTサービスを提供する中小企業等への助成、②障害者向けの新たなICT機器・サービスの研究開発を行う民間企業等への助成を行っている。

さらに、視聴覚障害のある人等に向けた放送サービスの提供に対する支援として、字幕番組、解説番組及び手話番組の制作費や生放送番組に字幕を付与する機器の整備費用の一部助成を実施しているほか、音声認識技術を用いた自動字幕付与システムの実用化に向けた実証事業を実施している。

※IoTとは、Internet of Things (モノのインターネット)の略。自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインターネットにつながり、情報のやり取りをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出すというコンセプトを表した語。

※AIとは、Artificial Intelligence (人工知能)の略。コンピュータを使って、学習・推論・判断など人間の知能のはたらきを人工的に実現するための技術。

【ICTサービスの提供及び研究開発に関する助成事例】

(4)日本銀行券の券種の識別性向上に向けた取組

「日本銀行 新しい日本銀行券及び五百円貨幣を発行します」(財務省)(https://www.mof.go.jp/currency/bill/20190409.html)偽造抵抗力強化の観点に加え、ユニバーサルデザインの観点も踏まえて様式を新しくし、2024年度上期から発行を開始することとしている

財務省においては、これまで日本銀行や国立印刷局とともに、視覚に障害のある人が券種を区別しやすくなるよう、関係者からの意見聴取、海外の取組状況の調査を行う等、様々な観点から検討を行ってきており、新しい日本銀行券には、この成果を反映し、触った時や見た時に券種の区別をしやすくする以下のような工夫を施すこととしている。

① 指の感触で券種の区別ができるマークを、現行券よりも触った時に分かりやすい形状に変更し、券種毎に異なる位置に配置。

② 肖像のすかしが入る「すき入れ」部分の形状に違いを設けて差別化した上で、券種毎に異なる位置に配置。

③ 表・裏両面のアラビア数字を大型化。

④ 高額券と千円券のホログラムの形状に違いを設けて差別化した上で、券種毎に異なる位置に配置。

図表6-13 新しい日本銀行券のユニバーサルデザインの内容
新しい日本銀行券のユニバーサルデザインの内容
注:図表中の番号は、本文中の番号に対応。
資料:財務省
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