第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 3
第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
3.社会的及び職業的自立の促進
(1)特別支援学校と関係機関等の連携・協力による就労支援
障害のある人が、生涯にわたって自立し社会参加していくためには、企業等への就労を支援し、職業的な自立を果たすことが重要である。しかしながら、2021年5月1日現在、特別支援学校高等部卒業者の進路を見ると、福祉施設等入所者の割合が約61.6%に達する一方で、就職者の割合は約30.7%となっており、職業自立を図る上で厳しい状況が続いている。
障害のある人の就労を促進するためには、教育、福祉、医療、労働などの関係機関が一体となった施策を講じる必要がある。
このため、文部科学省では、厚生労働省と連携し、各都道府県教育委員会等に対し、就労支援セミナーや障害者職場実習推進事業等の労働関係機関等における種々の施策を積極的に活用することや、福祉関係機関と連携の下で就労への円滑な移行を図ることなど障害のある生徒の就労を支援するための取組の充実を促している。
(2)高等教育等への修学の支援
障害のある人が障害を理由に高等教育への進学を断念することがないよう、修学機会を確保することが重要である。このため、文部科学省では、出願資格について、必要に応じて改善することや、合理的配慮の提供により、障害のない学生と公平に入学試験を受けられるようにすることなど、適切な対応を求めている。
また、2016年の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号)の施行を踏まえた障害のある学生の修学支援の在り方について、文部科学省での検討結果を2017年3月に「第二次まとめ」として取りまとめ、周知することにより、関係者の理解促進や取組の充実を促している。併せて、各大学に個別に蓄積されてきた知見や支援手法等を共有することにより支援の一層の充実を図るため、補助事業等を通じて、大学等の関係機関の連携ネットワークの構築を支援している。さらに、2021年6月に公布された、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」(令和3年法律第56号)により、今後、私立の大学等においても合理的配慮の提供が義務化される中、大学等の教職員が出席する会議等を通じて、当該法律改正について周知し、学生の意思等に配慮したきめ細かな対応を要請している。
独立行政法人日本学生支援機構においては、大学等における障害のある学生支援への充実に資するよう、全国の大学等における障害のある学生の状況及びその支援状況について把握・分析するための実態調査、各大学等が適切な対応を行うために参考にできる事例集の作成、理解・啓発促進を目的としたセミナーや実務者育成のための研修会の開催などの取組を継続して行っている。
大学入学共通テストや各大学の個別試験において、点字・拡大文字(大学入学共通テストにおいては、障害のある入学志願者によりきめ細かに配慮する観点から、拡大文字問題冊子について、14ポイント版、22ポイント版を作成)による出題、筆跡を触って確認できるレーズライター(ビニール製の作図用紙の表面にボールペンで描いた図形や文字がそのままの形で浮き上がるため、描きながら解答者が筆跡を触って確認できる器具)による解答、文字解答・チェック解答(専用の解答用紙に選択肢の数字等を記入・チェックする解答方式)、パソコンの利用、試験時間の延長、代筆解答、試験問題の人による読み上げ等の受験上の配慮を実施している。
令和4年度大学入学共通テストの受験上の配慮においては、感染症対策として、昨年度と同様に試験場内では常にマスクを着用することとなっているが、病気や障害等を理由としてマスクを着用することが困難な入学志願者に対し、事前に配慮申請を行うことでマスクを着用せず別室での受験を可能とすることを「受験上の配慮案内」に明文化したことや、代筆解答の際に、代筆者との意思疎通をより円滑にする観点から、リスニングの音声聴取の方法をヘッドホンではなくCDプレーヤーのスピーカーから直接音声を聞く方法に変更するなどの見直しを行っている。
学校施設については、障害のある人の円滑な利用に配慮するため、従来よりエレベーターやスロープなどのバリアフリー化に関する施設整備を進めるとともに、支障なく学生生活を送れるよう、各大学等において授業支援等の教育上の配慮が行われている。
聴覚障害及び視覚障害のある人のための高等教育機関である筑波技術大学では、社会に貢献できる先駆的な人材を育成すること、及び世界的な視野で聴覚・視覚障害者に対する高等教育の充実と発展に寄与することを教育理念とし、障害特性に合わせた情報保障及び障害補償能力の育成による「伝わる・伝える」教育等を提供することにより、主体的に考え、自律的に行動する力、自立した社会人・職業人として社会に貢献できるコミュニケーション力、さらには、多様な文化を理解し、グローバルな幅広い視野をもって発信・行動する力を身につけた人材の育成に取り組んでいる。
テレビ・ラジオ放送等のメディアを効果的に活用して、遠隔教育を行っている放送大学では、自宅で授業を受けることができ、障害のある人を含め広く大学教育を受ける機会を国民に提供しており、障害のある学生に対しては、放送授業の字幕放送化の推進や単位認定試験における点字出題や音声出題、試験時間の延長等を行っている。
(3)地域における学習機会の提供
障害のある子供の学校外活動や学校教育終了後における活動等を支援するためには、地域における学習機会の確保・充実を図るとともに、障害のある人が地域の人々と共に、地域における学習活動に参加しやすいように配慮を行う必要がある。
文部科学省では、公民館や図書館、博物館といった社会教育施設について、それぞれの施設に関する望ましい基準を定めるなど、障害の有無にかかわらず、全ての人々にとって利用しやすい施設となるよう促している。
(4)生涯を通じた学びの支援
障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現とともに、障害のある人が、生涯にわたり自らの可能性を追求できる環境を整え、地域の一員として豊かな人生を送ることができるようにすることが重要である。2018年3月に閣議決定された「障害者基本計画(第4次)」及び2018年6月に閣議決定された「第3期教育振興基本計画」においても、障害のある人の生涯学習の推進について明記された。
両計画に記載したとおり、文部科学省では、2018年度より「学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業」として、学校から社会への移行期や人生の各ステージにおける効果的な生涯学習プログラムの開発、実施体制等に関する実践研究及び、生涯を通じた共生社会の実現に関する調査研究を行っており、研究成果を順次普及することとしている。2021年度は、都道府県が中心となり市区町村や大学、特別支援学校、社会福祉法人等が参画する「地域コンソーシアムによる障害者の生涯学習支援体制の構築」、市区町村と民間団体が連携して障害者を包摂する生涯学習プログラムを開発する「地域連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進」という2つのメニューで実践研究を行っている。併せて2022年度は、新たに大学・専門学校等を主な実施主体とした生涯学習機会創出・運営体制のモデル構築を実施し、多様な学びの場の拡充を図る。
障害のある人の学びに関する普及・啓発や人材育成に向けた取組では、2019年度からは上記研究事業の成果の普及や、障害に関する理解の促進、支援者同士の学び合いによる学びの場の担い手の育成、障害のある人の学びの場の拡大を目指し、「共に学び、生きる共生社会コンファレンス」を主催し、2021年度は全国7ブロック8か所においてオンラインを活用しながら開催した。2021年9月には、障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現に向けた啓発として、「超福祉の学校@SHIBUYA~障害の有無を飛び超えて、つながる学び舎~」を、特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所との共催でオンライン開催した。また、社会教育や特別支援教育、障害者福祉等の各分野において障害のある人の生涯学習推進を担う人材、及び各分野をつなぐ中核的人材の育成に向けて、「障害者の生涯学習の推進を担う人材育成の在り方検討会」を2022年3月までに計10回開催して議論を重ね、その内容を報告として取りまとめた。
そのほか、障害のある人の生涯を通じた多様な学習を支える活動を行う個人又は団体に対し、その功績をたたえる文部科学大臣表彰として、58件の対象者を決定し、2021年12月にオンラインを併用した表彰式を開催した。例年開催している事例発表会については、4団体の動画を収録し、ホームページで配信した。