第1章 障害の有無により分け隔てられることのない共生社会の実現に向けた取組 第2節 3
3.第5次基本計画の基本的方向
(1)2020年東京オリンピック・パラリンピックのレガシー継承
2021年夏、東京は夏季パラリンピック競技大会が同一都市で2度開催された史上初めての地となった。同大会は共生社会の実現に向けて社会の在り方を大きく変える絶好の機会であり、この機を逃さぬよう、政府においては、共生社会の実現に向けた大きな二つの柱として、「心のバリアフリー(※3)」及び「ユニバーサルデザインの街づくり」を「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(平成29年2月20日ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議決定。以下本章において「行動計画」という。)として取りまとめるとともに、2018年12月には、障害者の視点を施策に反映させる更なる枠組みとして、ユニバーサルデザイン2020評価会議を創設し、同会議を通じて行動計画の実行の加速化を図ってきた。
2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機とした機運を一過性のものにすることなく、日本全国に広げていくことが重要であり、これまでの取組が大会のレガシーとして大きく花開くよう、第5次基本計画においても引き続き横断的視点において「共生社会の実現に資する取組の推進」の一つとして社会のあらゆる場面におけるアクセシビリティの向上を掲げ、具体的施策にも反映するとともに、「重点的に理解促進等を図る事項」として「心のバリアフリー」の理解促進に継続して取り組む旨等を明記し、その実施状況を障害者政策委員会において評価・監視すること等を通じて、世界に誇れる共生社会の実現に向けた取組を推進していくこととした。
※3:心のバリアフリー
様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと。「心のバリアフリー」を体現するためのポイントは、行動計画では、以下の3点とされている。
(1)障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。
(2)障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。
(3)自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。
(2)新型コロナウイルス感染症拡大とその対応
2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大は国民生活に様々な影響を及ぼしており、特に、障害者を含め脆弱な立場に置かれている人々が大きな影響を受けている。障害者へのサービス提供を担う事業者側でも、経営に影響が出るなどの課題が生じた。さらに、感染症拡大防止のため身体的距離の確保やマスク着用等の「新しい生活様式」の実践が求められる中、オンライン活用の拡大等がアクセシビリティ向上等に寄与する一方で、コミュニケーション方法の制約等が生じ情報取得等に困難を抱える障害者もいることが課題となっている。
このような感染症拡大時を始め、地震・台風等の災害発生時といった非常時には、障害者を含め脆弱な立場にある人々がより深刻な影響を受けることから、第5次基本計画に掲げる各種施策についても、非常時に障害者が受ける影響やニーズの違いに留意しながら取組を進めることが求められる旨、記載された。
(3)障害者権利条約の理念の尊重及び整合性の確保
第5次基本計画は、第4次基本計画に引き続き、障害者権利条約の理念を尊重するとともに、整合性を一層高めていくこととした。
具体的には、「Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」で掲げる各分野と、条約の各条項の対応関係を明示するとともに、条約の各条項の順序におおむね沿った構成とし、基本計画の実施状況と、条約の国内実施状況とを対応させ、施策及び条約の実施状況の進捗状況をわかりやすくした。また、各分野に共通する横断的視点として「条約の理念の尊重及び整合性の確保」を掲げ、障害者を、施策の客体ではなく、必要な支援を受けながら自らの決定に基づき社会に参加する主体として捉えるとともに、障害者施策の検討及び評価に当たり、障害者が政策決定過程に参画し、障害者の意見を施策に反映させることが求められる旨を明記した。その上で、障害者の政策決定過程への参画の促進や、当該政策決定過程において障害特性に応じた適切な情報保障その他の合理的配慮を行うことが盛り込まれている。
(4)「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」の趣旨を踏まえた施策の推進
2022年5月に、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定され、同法第9条第1項の規定に基づき、障害者基本計画の策定や変更に当たっては同法の規定の趣旨を踏まえることとされたことを踏まえ、第5次基本計画においては、情報アクセシビリティ・コミュニケーションに関係する記載や施策を充実させている。
まず、「各分野に共通する横断的視点」として、「社会のあらゆる場面におけるアクセシビリティ向上の視点の採用」が掲げられ、その中で、インクルーシブ社会の実現に向けて、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)に基づく公共施設等のバリアフリー化や障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上、意思表示・コミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援等による環境整備と、「障害者差別解消法」に基づく合理的配慮の提供を両輪として障害者のアクセシビリティ向上を図ることが重要であること、社会的障壁の除去に向けた各種の取組をより強力に推進していくため、社会のあらゆる場面でアクセシビリティ向上の視点を取り入れていくことが明記された。
また、「アクセシビリティ向上に資する新技術の利活用の推進」として、近年、画像認識、音声認識、文字認識等のAI技術が進展し、自分に合った方法(音声、ジェスチャー、視線の動き等)でデジタル機器・サービスが利用可能となっていることを踏まえ、こうした新たな技術を用いた機器やサービスは、アクセシビリティとの親和性が高いという特徴があり、社会的障壁の除去の観点から、障害者への移動の支援や情報の提供、意思疎通、意思決定支援等様々な場面でアクセシビリティに配慮したICTを始めとする新たな技術の利活用について検討を行い、積極的な導入を推進する旨明記された。
さらに、「本基本計画を通じて実現を目指すべき社会」として、新たに「デジタルの活用により、国民一人一人の特性やニーズ、希望に即したサービスを選ぶことができ、障害の有無にかかわらず多様な幸せが実現できる社会」が追加されている。
また、「Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」では、「情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実」に係る施策として、情報通信、情報提供、意思疎通支援、行政情報のアクセシビリティといった幅広い分野において、障害者が必要な情報に円滑にアクセスしたり、意思表示やコミュニケーションを行うことができるような取組を記載している。