第1章 障害の有無により分け隔てられることのない共生社会の実現に向けた取組 第2節 4

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4.第5次基本計画の各分野における基本的考え方及び主な施策

各分野で掲げている基本的考え方及び主な関連施策は、それぞれ次のとおりである。

(1)差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止

【基本的考え方】

・社会のあらゆる場面において障害を理由とする差別の解消を進めるため、障害者差別の解消に向けた取組を幅広く実施することにより、障害者差別解消法等の実効性ある施行を図る。

・「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成23年法律第79号)等の適正な運用を通じて障害者虐待を防止するとともに、障害者の権利侵害の防止や被害の救済を図るため、障害者の権利擁護のための取組を着実に推進する。

【主な具体的施策】

・障害児者に対する虐待の相談支援専門員等による未然防止

・強度行動障害を有する者の支援に関する研修の実施などの支援体制の整備

・障害福祉サービスの提供に当たり、利用者の意向を踏まえ、本人の意思に反した異性介助が行われることがないようにするための取組の推進

・障害者に対する差別・権利侵害の防止や被害救済のための相談・紛争解決等の実施体制の充実

・障害者差別解消法改正法の円滑な施行に向けた取組等の推進

・雇用分野における障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供に係る相談・通報等があった場合、必要に応じたハローワーク等における助言・指導・勧告、第三者等による調停の紛争解決援助

(2)安全・安心な生活環境の整備

【基本的考え方】

・障害者がそれぞれの地域で安全に安心して暮らしていくことができる生活環境を実現するため、障害当事者等の意見を踏まえ、住環境の整備、移動しやすい環境の整備、アクセシビリティに配慮した施設等の普及促進、障害者に配慮したまちづくりの総合的な推進等を通じ、障害者の生活環境における社会的障壁の除去を進め、アクセシビリティの向上を推進する。

【主な具体的施策】

・障害者向け公共賃貸住宅の供給の推進、障害者への配慮(優先入居の実施、保証人の免除等)の促進

・住宅セーフティネット制度(障害者等の住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度等)の活用の推進

・公共交通機関のバリアフリー化(段差解消、ホームドア等の転落防止設備の導入等)の推進

・「心のバリアフリー」(交通事業者等に対する接遇ガイドライン等の普及・啓発やガイドラインを活用した教育訓練)の推進

・建築物(既存の小規模店舗等も含む)のバリアフリー化の促進

・日常生活製品等のユニバーサルデザイン化(※4)に関する標準化の推進

・特定道路や障害者等の利用がある踏切道における路面の平滑化、視覚障害者誘導用ブロックの整備等による安全な歩行空間の確保

・国立公園等の主要な利用施設のバリアフリー化や情報提供等の推進

※4:ユニバーサルデザイン化

施設や製品等について、誰にとっても利用しやすいデザインにするという考え方。

(3)情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実

【基本的考え方】

・障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法に基づき、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を充実させ、障害者が必要な情報に円滑にアクセスできるよう、障害者に配慮した情報通信機器・サービス等の企画・開発・提供の促進や、障害者が利用しやすい放送・出版の普及等の様々な取組を通じて情報アクセシビリティの向上を一層推進する。

・障害者が円滑に意思表示やコミュニケーションを行うことができるよう、意思疎通支援を担う人材の育成・確保、サービスの円滑な利用の促進や支援機器の開発等を通じて意思疎通支援の充実を図る。

【主な具体的施策】

・障害者に配慮した情報通信機器、サービス等の企画・開発・提供の促進

・企業等が自社で開発するデジタル機器・サービスが情報アクセシビリティ基準(JIS X 8341シリーズ等)に適合しているかどうかを自己評価するチェックシートである「情報アクセシビリティ自己評価様式」等の普及展開の促進

・聴覚障害者が電話を一人でかけられるよう支援する電話リレーサービスの内容充実

・字幕放送、解説放送、手話放送等の普及の促進

・手話通訳者等の育成・確保等を通じたコミュニケーション支援の充実

・アクセシビリティに配慮した行政情報の提供

(4)防災、防犯等の推進

【基本的考え方】

・障害者が地域社会において安全に安心して生活することができるよう、災害に強い地域づくりを推進するとともに、災害発生時に、障害特性に配慮した適切な支援や避難所・応急仮設住宅の確保等を行うことができるよう、防災や復興に向けた取組を推進する。

・障害者を犯罪被害や消費者被害から守るため、防犯対策や消費者トラブルの防止を推進する。

【主な具体的施策】

・災害発生時における障害特性に配慮した情報伝達の体制整備の促進

・避難所、応急仮設住宅のバリアフリー化の推進、福祉避難所(※5)の確保の促進

・被災地における安定的な障害福祉サービスの提供(被災地の障害福祉サービス事業者に対する支援等)

・スマートフォン等を活用した音声によらない119番通報システムの導入の推進

・スマートフォン等を活用した文字等で警察に通報できる「110番アプリシステム」の利用の促進

・関係機関や地域住民等と連携した障害者支援施設等の安全確保体制の構築

・障害者を含む性犯罪・性暴力の被害者等に対する支援体制の充実(行政の関与する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの運営の安定化及び相談員等に対する研修の充実等)

・障害特性に配慮した消費生活相談体制の整備(メール等での相談受付、相談員等の障害者理解のための研修等の促進)

※5:福祉避難所

一般の避難所では生活することが困難な要配慮者のために特別な配慮がなされた避難所。

(5)行政等における配慮の充実

【基本的考え方】

・障害者が権利を円滑に行使できるよう、司法手続や選挙等において必要な環境の整備や障害特性に応じた合理的配慮の提供を行う。

・行政機関の窓口等における障害者への配慮を徹底するとともに、行政情報の提供等に当たっては、ICT等の利活用も踏まえ、アクセシビリティに配慮した情報提供を行う。

・心身の障害等により制限を付している法令の規定(いわゆる相対的欠格条項)については各制度の趣旨や技術の進展、社会情勢の変化、障害者やその他関係者の意見等を踏まえ、真に必要な規定か検証し、必要に応じて見直しを行う。

【主な具体的施策】

・刑事事件の手続の運用における円滑な意思疎通等に向けた適切な配慮

・罪を犯した知的障害者等の再犯防止の観点からの社会復帰支援の充実(社会復帰の障害となり得る法的紛争の解決等に必要な支援等)

・民事事件等における障害特性に応じた意思疎通等の手段確保など障害者に対する配慮・支援の充実

・障害特性に応じた選挙等に関する情報提供の充実(政見放送への手話通訳・字幕の付与等)

・投票所のバリアフリー化、代理投票の適切な実施等

・行政機関の職員等に対する研修を通じた窓口等における障害者への配慮の徹底

・アクセシビリティに配慮したウェブサイト等による情報提供(キーボードのみで操作可能な仕様の採用、動画への字幕や音声解説の付与等)

(6)保健・医療の推進

【基本的考え方】

・精神障害者への医療の提供・支援を可能な限り地域において行う。

・入院中の精神障害者の早期退院及び地域移行を推進し、いわゆる社会的入院の解消を進めるとともに、精神障害者の地域への円滑な移行・定着が進むよう、切れ目のない退院後の支援に関する取組を行う。

・障害者が身近な地域で必要な医療やリハビリテーションを受けられるよう、地域医療体制等の充実を図る。

・優れた基礎研究の成果による革新的な医薬品等の開発を促進するとともに、最新の知見や技術を活用し、疾病等の病因・病態の解明、予防、治療等に関する研究開発を推進する。

・質の高い医療サービスに対するニーズに応えるため、革新的な医療機器の開発を推進する。

・保健・医療人材の育成・確保や、難病に関する保健・医療施策、障害の原因となる疾病等の予防・治療に関する施策を着実に進める。

【主な具体的施策】

・地域における適切な精神医療提供体制の確立、相談機能の向上(専門診療科以外の診療科等と専門診療科との連携の促進、様々な救急ニーズに対応できる精神科救急システムの確立等)

・精神障害に対する多職種によるアウトリーチ(訪問支援・在宅医療)の充実

・「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築

・精神障害者の退院後の地域生活への円滑な移行、定着を進める支援

・精神科病院における非自発的入院のあり方及び身体拘束等に関する課題の整理を進め、必要な見直しについて検討

・障害者が身近な地域で必要な医療やリハビリテーションを受けられるようにするための地域医療体制の充実

・障害者の健康増進に向けたサービスの提供や情報提供

・障害者の生活や自立を支援する機器開発の支援

・発達障害の診療・支援ができる医師の養成、巡回支援専門員等の支援者の配置の促進

・難病患者が受ける医療水準の向上に向けた幅広い難病の研究の推進、難病患者の安定した療養生活の確保、日常生活の相談支援、医療費助成

(7)自立した生活の支援・意思決定支援の推進

【基本的考え方】

・障害者の望む暮らしを実現できるよう、自ら意思を決定・表明することが困難な障害者に対し、必要な意思決定支援を行うとともに、障害者が自らの決定に基づき、身近な地域で相談支援を受けることのできる体制を構築する。

・障害者の地域移行を一層推進し、障害者が必要なときに必要な場所で、地域の実情に即した適切な支援を受けられるよう取組を進める。

・在宅サービスの量的・質的な充実、障害のあるこどもへの支援の充実、障害福祉サービスの質の向上、アクセシビリティ向上に資する機器の研究開発、障害福祉人材の育成・確保等に着実に取り組む。

【主な具体的施策】

・自ら意思を決定・表明することが困難な障害者に対する支援等の推進

・成年後見制度の適切な利用の促進(必要な経費の助成、成年後見等の業務を適正に行うことができる人材の育成等)

・様々な障害種別、年齢、性別、状態等に対応した総合的な相談支援の提供体制の整備

・発達障害児者やその家族に対する相談支援、発達障害者支援センターを中心とした地域生活支援体制の充実

・高次脳機能障害児者への支援体制の整備

・ピアサポート(※6)を行う人材の育成等ピアサポート体制の強化

・利用者の障害特性に応じた専門職員による自立訓練(機能訓練、生活訓練)の取組の促進

・地域で生活する障害者の支援を進めるための地域生活支援拠点等の整備

・障害者の一人暮らしを支える自立生活援助の推進

・ヤングケアラーを始めとする障害者の家族支援

・医療的ケアが必要な障害児に対する地域における包括的な支援(保健・医療・福祉・教育等の関係機関の連携促進)

・児童発達支援センター及び障害児入所施設における支援体制の構築

・こどもの意見を聴く機会の確保のため障害児に対する必要な支援の推進

・障害福祉サービス等の提供者に指導を行う者の養成及び配置の促進

・良質で安価な福祉用具に関する研究開発の推進

・日常生活用具の給付・貸与の品目等の見直しに資する取組の検討・成果の発信

・身体障害者補助犬の育成、身体障害者補助犬を使用する身体障害者が施設利用を拒まれないための普及啓発の推進

・福祉専門職、リハビリテーション等に従事する者、障害特性を理解したホームヘルパーの養成・人材確保、障害福祉サービス従事者の処遇改善や職場環境の改善

※6:ピアサポート

ピア(peer)は「仲間、同輩、対等者」の意。同じ課題や環境を体験する者がその体験から来る感情を共有することにより、専門職による支援では得がたい安心感や自己肯定感を得ることなどを目的とする。

(8)教育の振興

【基本的考え方】

・可能な限り共に教育を受けることのできる仕組みの整備を進めるとともに、障害に対する理解を深めるための取組を推進する。

・障害のある幼児児童生徒及び学生に対する支援を推進するため、適切な支援ができる環境の整備に努めるとともに、合理的配慮の提供等の一層の充実を図る。

・障害者が、学校卒業後も含めたその一生を通じて、自らの可能性を追求できる環境を整え、地域の一員として豊かな人生を送ることができるよう、生涯を通じて教育やスポーツ、文化等の様々な機会に親しむための関係施策を横断的かつ総合的に推進する。

【主な具体的施策】

・障害の有無にかかわらず可能な限り共に教育を受けられる条件整備の推進、インクルーシブ教育システム(包容する教育制度)の整備の推進

・医療的ケアを必要とする幼児児童生徒や長期入院を余儀なくされている幼児児童生徒が教育を受けたり、他の幼児児童生徒と共に学んだりする機会の確保(医療的ケアのための看護職員の配置等)

・入学試験における配慮の充実(ICTの活用等)

・全ての教職員が障害に対する理解や特別支援教育に係る専門性を深める取組の推進(管理職を含む全ての教職員への研修等の促進、小・中学校、高等学校等の全ての新規採用教員がおおむね10年目までの期間内において、特別支援学級の教師や、特別支援学校の教師を複数年経験する等)

・一人一人の教育的ニーズに応じた教科書、教材、支援機器等の活用の促進(デジタル教科書等の円滑な制作・供給等)

・病気の状態により学校に通うことが困難な病気療養児の支援の充実(ICTを活用した学習機会の確保等)

・各大学等における障害学生に対する支援体制の整備の推進(相談窓口の統一、支援担当部署の設置、支援人材の養成・配置等)

・障害学生の就職の支援(就職・定着支援を行う機関、就職先となる企業・団体等との連携やネットワークづくりの促進)

・効果的な学習、支援の在り方等に関する研究や成果の普及等を通じた障害者の各ライフステージにおける学びの支援

・障害者の読書環境の整備の促進(公共図書館、学校図書館及び視覚障害者情報提供施設等の連携、図書館サービス人材等の育成)

(9)雇用・就業、経済的自立の支援

【基本的考え方】

・働く意欲のある障害者がその適性に応じて能力を十分に発揮することができるよう、多様な就業機会の確保や、就労支援の担い手の育成等を図る。

・一般就労が困難な者に対しては工賃の水準の向上を図るなど、総合的な支援を推進する。

・雇用・就業の促進に関する施策と福祉施策との適切な組合せの下、年金や諸手当の支給等障害者の経済的自立を支援する。

【主な具体的施策】

・雇用前の雇入れ支援から雇用後の職場定着支援までの一貫した支援

・就業面及び生活面からの一体的な相談支援の実施(障害者就業・生活支援センターの設置の促進・機能の充実)

・障害者職業能力開発校における障害者本人の希望を尊重した職業訓練の実施

・就労に伴う生活面の課題に対する支援を行う就労定着支援による職場定着の推進

・精神障害者の雇用義務化も踏まえた精神障害者の雇用促進のための取組の充実

・障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)による個々の中小事業主における障害者雇用の取組の促進

・短時間労働や在宅就業、自営業など障害者が多様な働き方を選択できる環境整備やICTを活用したテレワークの一層の普及・拡大

・就労継続支援A型事業所における就労の質の向上(安易な事業参入の抑制、事業所の経営状況の把握等)

(10)文化芸術活動・スポーツ等の振興

【基本的考え方】

・全ての障害者の芸術及び文化活動への参加を通じて障害者の生活と社会を豊かにするとともに、国民の障害への理解・認識を深め、障害者の自立と社会参加の促進に寄与する。

・レクリエーション活動を通じ、障害者の体力の増強や交流、余暇の充実等を図る。

・地域における障害者スポーツの一層の普及に努めるとともに、競技性の高い障害者スポーツにおけるアスリートの育成強化を図る。

【主な具体的施策】

・障害者のニーズに応じた文化芸術活動を支援する人材の養成や確保、相談体制の整備、関係者のネットワークづくり等の取組の促進、地方公共団体における障害者による文化芸術活動に関する計画策定の促進

・文化芸術活動団体による実演芸術の公演や障害のある芸術家の派遣実施など、こどもたちに対する文化芸術の鑑賞・体験等の機会の提供

・国立博物館、国立美術館、国立劇場等における公演や展示等において、字幕、音声による解説、手話による案内、触察資料の提供、障害者向けの鑑賞イベントの実施等の推進

・障害者等が地域社会における様々な活動に参加するための環境整備や支援等(各種レクリエーション教室や大会・運動会の開催等)

・劇場・音楽堂等や博物館などの地域の文化施設におけるユニバーサルデザイン化・バリアフリー化の推進

・2025年に開催される日本国際博覧会において、障害の有無にかかわらず全ての人が快適に移動や利用ができ、不安や不自由なく過ごすことができる施設の整備や文化芸術による共生社会の実現に向けた我が国の取組の発信

・障害者が地域においてスポーツに親しむことができる施設・設備の整備

・誰もが障害者スポーツに親しめる機会の提供、国を挙げた障害者スポーツの振興

・民間団体等が行う障害者スポーツに関する取組の支援

・パラリンピック等の競技性の高い障害者スポーツにおけるアスリートの育成強化

(11)国際社会での協力・連携の推進

【基本的考え方】

・障害者権利委員会による審査等に適切に対応するとともに、障害分野における国際的な取組に積極的に参加する。

・開発協力の実施に当たっては、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて取り組む。

・文化芸術活動やスポーツ等の分野を含め、障害者の国際交流等を推進する。

【主な具体的施策】

・国連や地域の国際機関等の国際的な非政府機関における障害者のための取組への積極的な参加

・障害者権利委員会による審査等への適切な対応

SDGsの達成に向けた「誰一人取り残さない」取組の推進

・障害者団体等による国際交流や障害分野において社会活動の中核を担う青年リーダーの育成支援、開発途上国における障害者関連事業に携わる我が国のNGOとの連携や当該NGOの事業に対する支援

・障害者の文化芸術活動を含む日本の多様な魅力の発信

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