第4章 日々の暮らしの基盤づくり 第1節 5

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5.スポーツ・文化芸術活動の推進

(1)スポーツの振興

ア 障害者スポーツの普及促進

2022年度「障害児・者のスポーツライフに関する調査研究」によると、障害のある人(20歳以上)の週1回以上の運動・スポーツ実施率は30.9%(20歳以上全般の実施率は52.3%(令和4年度「スポーツの実施状況に関する世論調査」))にとどまっており、引き続き、地域における障害者スポーツの振興体制の強化や障害の有無を問わず身近な場所でスポーツを実施できる環境の整備を通して、地域における障害者スポーツの一層の普及促進を図るとともに障害者スポーツ団体の体制の強化につなげている。さらに、2019年度からは、様々なパラスポーツを試したい方に対して、スポーツ車椅子、スポーツ義足等の障害者スポーツ用具を試用できる取組を実施するとともに、スポーツ用具の保守・調整や使い方の指導を行える人材等を備えた拠点(障害者スポーツの普及拠点)を整備することを目指し、関連の取組を推進している。

また、特別支援学校等の児童生徒が運動・スポーツ活動の成果を発表する全国大会が十分に整備されていないことから、地域や学校関係者、民間企業等と連携・協働体制を構築しながら、スポーツを通じたつながりが生まれる全国大会を開催し、特別支援学校等の児童生徒の運動・スポーツ活動の充実に努めている。

イ 障害者スポーツの競技力向上

2021年9月に開催された東京2020パラリンピック競技大会(以下本章では「東京2020大会」という。)において、日本代表選手団は金メダル13個を含む51個のメダルを獲得したほか、2022年3月に開催された北京2022パラリンピック競技大会においても、金メダル4個を含む、7個のメダルを獲得し、入賞数も前回大会から大きく増加した。

スポーツ庁では、パラリンピックの競技特性や環境等に十分配慮しつつ、オリンピック競技とパラリンピック競技の支援内容に差を設けない一体的な競技力強化支援に取り組んでいる。

具体的には、障害者スポーツの競技団体を含む各競技団体が行う強化活動に必要な経費等を支援する「競技力向上事業」を実施しているほか、「ハイパフォーマンス・サポート事業」により、パラリンピック競技大会でメダル獲得が期待される競技を対象に、スポーツ医・科学、情報による専門的かつ高度な支援を戦略的・包括的に実施している。

また、「スポーツ支援強靭化のための基盤整備事業」において、ハイパフォーマンススポーツセンターを中心として、競技特性に対応した最適なコンディショニングの研究・デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進による先端技術を活用した多様な支援手法の研究、競技用具等の研究等、継続的にパラアスリートの強化活動が行えるシステムを構築している。

加えて、2019年6月に完成したNTC屋内トレーニングセンター・イーストは、パラアスリートも利用しやすいトレーニング拠点として、様々なユニバーサルデザインを採用してバリアフリー環境を整備しており、パラアスリートが集中的・継続的に強化活動を行っている。

さらに、2022年8月に「障害者スポーツ振興方策に関する検討チーム報告書(高橋プラン)」を取りまとめ、日本パラリンピック委員会(JPC)等と連携し、クラス分け情報センターの整備やオリンピック競技団体・パラリンピック競技団体間の連携促進等に取り組み、パラリンピック競技の国際競技力向上を図ることとしている。

全国ボッチャ選抜甲子園の様子
出典:一般社団法人日本ボッチャ協会

(2)文化芸術活動の振興

我が国の障害のある人による文化芸術活動については、近年、障害福祉分野と文化芸術分野双方から機運が高まっており、広く文化芸術活動の振興につながる取組が行われている。

2018年6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(平成30年法律第47号)が成立・施行されたことを受け、国は、同法に基づき、2019年3月に第1期、2023年3月に第2期の基本計画を作成した。この計画に基づき、以下の取組を始め障害のある人による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進しているところである。

厚生労働省では、2013年に開催された有識者による「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」の中間とりまとめを受け、2014年度からは芸術活動を行う障害のある人やその家族、福祉事業所等で障害のある人の芸術活動の支援を行う者を支援するモデル事業を実施し、事業で培った支援ノウハウを全国展開すべく、2017年度からは障害者芸術文化活動普及支援事業を実施し、障害のある人の芸術文化活動(美術、演劇、音楽等)の更なる振興を図っている。

また、障害のある人の生活を豊かにするとともに、国民の障害への理解と認識を深め、障害のある人の自立と社会参加の促進に寄与することを目的として、2022年に「美ら島おきなわ文化祭2022」(第37回国民文化祭、第22回全国障害者芸術・文化祭)を開催した。

さらに、文化庁では、美術・舞台芸術・音楽等の様々な文化芸術分野における鑑賞・創作活動・発表等に係る幅広い取組の推進や普及展開に向けた人材の育成、助成採択した映画作品や劇場・音楽堂等において公演される実演芸術のバリアフリー字幕・音声ガイド制作への支援、特別支援学校の生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供等、障害者の文化芸術活動の充実に向けた支援に取り組んでいる。

また、国立美術館、国立博物館は、障害者手帳を持つ人について展覧会の入場料を無料としているほか、全国各地の劇場、コンサートホール、美術館、博物館などにおいて、車椅子使用者も利用ができるトイレやエレベーターの設置等障害のある人に対する環境改善も進められている。

文化庁では、「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第4次基本方針)」に基づき、東京2020大会を契機に「文化プログラム」を推進し、「beyond2020プログラム」として、累計で19,754件の事業を認証した。大会終了に伴い、認証プログラムは終了したが、認証プログラムのレガシーを「日本博2.0」を始めとする各種事業において継承し、引き続き成熟社会にふさわしい、共生社会の実現・国際化の進展を目指している。

主な国内・国際障害者スポーツ大会

◯全国障害者スポーツ大会

2001年度から、それまで別々に開催されていた身体に障害のある人と知的障害のある人の全国スポーツ大会が統合され、「全国障害者スポーツ大会」として開催されている。2008年度から、精神障害者のバレーボール競技が正式種目に加わり、全国の身体、知的、精神に障害のある方々が一堂に会して開催される大会となっている。本大会は、障害のある選手が、競技等を通じ、スポーツの楽しさを体験するとともに、国民の障害に対する理解を深め、障害のある人の社会参加の推進に寄与することを目的として、国民体育大会の直後に、当該開催都道府県で行われている。台風や新型コロナウイルス感染症の影響で中止を余儀なくされていたが、2022年度の第22回大会は、4年ぶりに栃木県において開催された。なお、2023年度については、鹿児島県で開催される予定である。

◯全国ろうあ者体育大会

本大会は、聴覚に障害のある人が、スポーツを通じて技を競い、健康な心と体を養い、自立と社会参加を促進することを目的として、1967年度から開催されている。2022年度は、第56回となる夏季大会が北海道で開催され、11競技に選手・役員合わせて約1,000人が参加した。

なお、2023年度については、福井県で開催される予定である。

◯デフリンピック

4年に一度行われる、聴覚に障害のある人の国際スポーツ大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。

夏季大会は1924年にフランスのパリで第1回大会が開催され、2022年には、ブラジルのカシアス・ド・スルにおいて第24回大会が開催された。また、第25回大会については、2025年11月に東京都、福島県、静岡県で開催されることが決定している。大会の招致主体である一般社団法人全日本ろうあ連盟は、大会コンセプトとして「デフアスリートを主役に、そしてデフスポーツの魅力を伝え、人々や社会とつなぐ」「デフリンピック・ムーブメント“誰一人取り残さない” 世界(SDGs)の実現」「デフリンピック100周年そして歴史的な大会」「オリンピック・パラリンピックのレガシーの活用とさらなる飛躍」を掲げており、東京都の会場を中心に21競技を実施予定。なお、デフリンピックの日本開催は初めてである。

冬季大会については1949年にオーストリアのゼーフェクトで第1回大会が開催され、2019年にイタリアのヴァルテッリーナ、ヴァルキアヴェンナ地方において第19回大会が開催された。

◯スペシャルオリンピックス世界大会

4年に一度行われる、知的障害のある人のスポーツの世界大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。順位は決定されるものの最後まで競技をやり遂げた選手全員が表彰される、といった特徴がある大会である。

夏季大会は1968年に米国・シカゴで第1回大会が開催され、2019年3月にアラブ首長国連邦のアブダビにおいて第15回大会が開催された。冬季大会は1977年を第1回(米国・コロラド州)としており、2017年にはオーストリアのシュラートミンクにおいて第11回大会が開催された。

また、スペシャルオリンピックスでは、知的障害のある人とない人が共にチームを組みスポーツを楽しむ取組も進めており、世界大会の種目にも採用されている。

なお、2023年については、ドイツのベルリンにおいて夏季大会が開催される予定である。

◯パラリンピック競技大会

オリンピックの直後に当該開催地で行われる、障害者スポーツの最高峰の大会であり、夏季大会と冬季大会が開催されている。夏季大会は、1960年にイタリアのローマで第1回大会が開催され、オリンピック同様4年に一度開催されている。2021年には、東京において第16回大会が開催された。次回は、2024年、フランスのパリにおいて開催が予定されている。

冬季大会は、1976年にスウェーデンのエンシェルツヴィークで第1回大会が開催されて以降、オリンピック冬季大会の開催年に開催されている。2022年3月には、中国の北京(ペキン)において第13回大会が開催された。次回は、2026年にイタリアのミラノ・コルティナダンペッツォで開催が予定されている。

/文部科学省
第4章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS(トピックス)(10)
スポーツを通じた共生社会実現に向けた取組

スポーツ庁では、東京2020大会を契機として共生社会を実現するため、障害の有無にかかわらずスポーツに親しめる環境づくりを進めている。

スポーツ庁では、2016年度から2021年度までパラリンピック教育を推進する「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業」を実施してきた。事業は主に2つあり、①学校現場でのパラリンピック教育の取組を促進するために、パラリンピアンやパラアスリートなどを学校に派遣し、自身の体験やエピソードに関する講演やパラ競技体験などを児童生徒と共に実践したり、②多くの児童生徒にパラ競技への興味関心を高めてもらうため、競技会場にてパラ競技を実際に観戦し事前事後に選手や競技に関する学習をしたりと、様々な活動を通じてパラリンピック教育を推進した。今後についても、学校の体育授業にアスリートを派遣し授業を充実させるとともに、パラ競技への興味関心を高め、共生社会への理解促進をより一層進めていく。

また、各地においても、県民パラスポーツ大会や、学校区、大学、企業対抗など様々なレベルでのパラスポーツの体験会・交流会が実施されるなど、これらの取組は更に広がりをみせている。

文部科学省では、東京2020大会のレガシーとして、スポーツを通じた共生社会の実現に向けた取組をより一層進めるため、第3期スポーツ基本計画の方向性も踏まえ、障害者スポーツ振興方策に関する検討チームを設置し、基本的な考え方・方向性、具体的な方策を取りまとめた。今後、障害者スポーツ団体、地方公共団体、民間企業等と協働・連携の下、より多くの方に障害者スポーツの魅力を伝えていくとともに、スポーツ審議会健康スポーツ部会障害者スポーツ振興ワーキンググループを設置し、専門的見地から、障害者スポーツの普及振興の拠点となる障害者スポーツセンターの在り方等について検討を進めていく。

障害者スポーツ振興方策に関する検討チーム報告書概要(高橋プラン)
資料:文部科学省
/文部科学省、厚生労働省
第4章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS(トピックス)(11)
障害者による文化芸術活動の推進に関する法律及び基本的な計画について

2018年6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」(平成30年法律第47号)が公布、施行された。

本法は、文化芸術が、これを創造し、又は享受する者の障害の有無にかかわらず、人々に心の豊かさや相互理解をもたらすものであることに鑑み、「文化芸術基本法」(平成13年法律第148号)及び「障害者基本法」(昭和45年法律第84号)の基本的な理念にのっとり、障害者による文化芸術活動の推進に関し、基本理念、基本計画の策定その他の基本となる事項を定めることにより、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって文化芸術活動を通じた障害者の個性と能力の発揮及び社会参加の促進を図ることを目的とするものである。

本法に基づき、文部科学省と厚生労働省は2023年3月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画(第2期)」(以下本章では「第2期基本計画」という。)を策定、公表した。

第2期基本計画は、第1期に引き続き法律に定める3つの基本理念を基本的な視点とするとともに、新たに計画期間における取組を進めるに当たり目指す姿として、障害のある人による幅広い文化芸術活動の更なる促進や展開、関係団体・機関等の連携による取組の充実、地域における推進体制の構築の3つの目標を定めている。その上で、2023年度~2027年度までを対象期間として、11項目の具体的な施策の方向性を記載している。第2期基本計画に基づき、鑑賞や創造、発表等の機会の拡大等に係る先導的・試行的な取組を全国に普及展開するための取組や、障害者による文化芸術へのアクセス改善の取組等を支援することとしている。

また、地域における取組促進のため、地方公共団体による計画の策定及び計画に基づく取組についても併せて支援している。

「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画(第2期)」の概要 第1~第3
「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本的な計画(第2期)」の概要 第4・第5
資料:文部科学省、厚生労働省
/文部科学省
第4章第1節 5.スポーツ・文化芸術活動の推進
TOPICS(トピックス)(12)
CONNECT⇄_~アートで こころを こねこねしよう 」を京都で開催

文化庁では、京都において3年目の開催となる、障害者週間にあわせて共生や多様性について考えるプロジェクト「CONNECT⇄_~アートで こころを こねこねしよう 」展を実施した。

2022年度は、京都・岡崎公園に立地する美術館、劇場、図書館、動物園などの文化施設の連携を強化し、各施設が実施する展示やワークショップ等のプログラムに加え、京都国立近代美術館等にCONNECT⇄_を象徴するスペース「こねこねの中庭」を設置。障害の有無にかかわらない多様な人の作品や表現に接することができる展示や、自ら創作体験ができるスペースなどを設けた。

また、各参加施設が企画を担う連続トークを京都国立近代美術館で開催。動物の一生、視覚障害者との美術鑑賞、障害のある人の表現のキュレーション、舞台手話通訳など各施設の特色を活かした多彩なトークとなった。さらに、分身ロボット「OriHime」を使って障害のある人が各施設を巡るプログラムや特別支援学校と施設との連携プログラムも新たに実施した。

各施設のプログラムにおいても、視覚障害者と楽しむまちあるきや、筆談による美術鑑賞会、知の伝承の歴史をたどる展示、聴覚障害者にとっての震災を追った映像展示&トーク、Ontennaを使った動物園めぐりなど、障害当事者と共に考える様々なプログラムを実施した。

こねこねの中庭
会場:京都国立近代美術館
連続トーク「視覚障害者と鑑賞する方が絵はよく見える!は本当?」
企画:京都市京セラ美術館 会場:京都国立近代美術館
分身ロボット「OriHime」プログラム
今村彩子監督作品「きこえなかったあの日」上映会&感想シェア
会場:ロームシアター京都
資料:文化庁
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