第5章 住みよい環境の基盤づくり 第1節 4
4.建築物のバリアフリー化の推進
(1)官庁施設のバリアフリー化
官庁施設の整備においては、窓口業務を行う官署が入居する官庁施設について、「バリアフリー法」に基づく「建築物移動等円滑化誘導基準」に規定された整備水準の確保など、障害のある人を始め全ての人が、安全に、安心して、円滑かつ快適に利用できる施設を目指した整備を推進している。
(2)人にやさしい建築物の整備
全ての人が利用しやすい建築物を社会全体で整備していくことが望まれており、デパート、ホテル等の多数の人々が利用する建築物を、障害のある人等が利用しやすくするためには、段差の解消、障害のある人等の利用に配慮したトイレの設置、各種設備の充実等を図る必要がある。
建築物のバリアフリー化を推進するため、「バリアフリー法」においては、出入口、通路、トイレ等に関する基準(建築物移動等円滑化基準)を定め、不特定多数の者が利用し、又は主として障害のある人等が利用する建築物等(特別特定建築物)で一定の規模以上のものに対して基準適合を義務付けるとともに、多数の者が利用する建築物(特定建築物)に対しては基準適合の努力義務を課している。(2,000m2以上の特別特定建築物(公立小学校等を除く)の総ストックのうち、「建築物移動等円滑化基準」に適合しているものの割合:約63%(2021年度末時点))
また、障害のある人等がより円滑に建築物を利用できるようにするため、「建築物移動等円滑化誘導基準」を満たし、所管行政庁により認定を受けた優良な建築物(認定特定建築物)に対して支援措置等を講じている。
(3)「バリアフリー法」に伴う助成等
建築物のバリアフリー化を推進するため、上述の「建築物移動等円滑化基準」に基づき特定建築物の建築主等への指導・助言を行っている。
また、認定特定建築物のうち一定のものについては、障害のある人等の利用に配慮したエレベーター、幅の広い廊下等の施設整備に対して、不特定多数の者が利用し、又は主として障害のある人等が利用する既存建築物については、バリアフリー改修工事に対してバリアフリー環境整備促進事業により支援している。
地方公共団体が行う、公共施設等のバリアフリー化についても支援している。
総務省では、地方公共団体が実施する公共施設等のユニバーサルデザイン化のための改修事業等について、2018年度から公共施設等適正管理推進事業債に「ユニバーサルデザイン化事業」を追加し、地方財政措置を講じている。
(4)表示方法の統一
ア 点字表示
多くの公共施設等で、点字による情報提供において、表示方法の混乱を避けつつ更なる普及を図るため、「高齢者・障害者配慮設計指針-点字の表示原則及び点字表示方法-公共施設・設備(JIS T0921)」を2006年に制定した。また、2009年には消費生活製品に関して、「高齢者・障害者配慮設計指針-点字の表示原則及び点字表示方法-消費生活製品の操作部(JIS T0923)」を制定したが、規格を利用する際の利便性を向上させるため、2016年度にJIS T0923をJIS T0921に統合し、JIS T0921を「アクセシブルデザイン-標識、設備及び機器への点字の適用方法」へと改正した。
イ 案内用図記号(ピクトグラム)
文字や言語によらず対象物、概念又は状態に関する情報を提供する図形「案内用図記号(JIS Z8210)」はピクトグラムとも言われ、一見してその表現内容を理解できる、遠方からの視認性に優れている、言語の知識を要しないといった利点がある。一般の人だけでなく、障害のある人や視力の低下した高齢者、さらに外国人等でも容易に理解することができることから、不特定多数の人々が利用する交通施設、観光施設、スポーツ文化施設、商業施設などの公共施設や企業内の施設において広く使われている。
本規格は、2002年に開催されたサッカー日韓ワールドカップを契機として、日本人だけでなく外国人観光客の円滑な移動誘導を目的に制定した。また、東京2020大会では、より多くの外国人観光客の来日が見込まれたことから、あらゆる人にとってよりわかりやすい案内用図記号とするため、2017年7月に国際規格との整合化の観点から7つの図記号について変更するとともに、15種類の図記号及び外見からは障害があることがわかりにくい人が周囲に支援を求めやすくする「ヘルプマーク」の図記号を新たに追加した。その後も、2019年2月に「洋風便器」など3つのトイレ関連図記号、2019年7月には「AED(自動体外式除細動器)」及び「加熱式たばこ専用喫煙室」の図記号を追加し、2020年5月には「男女共用お手洗」や「介助用ベッド」など近年の社会情勢の変化を踏まえた9つの案内用図記号を追加した。
災害時の避難誘導標識については、洪水、内水氾濫、高潮、土石流、崖崩れ・地滑り及び大規模な火事が発生した場合にも素早く安全な場所に避難することが可能となるように、避難場所までの道順や距離の情報を含む標識の設置に当たって考慮すべき事項を規定した「災害種別避難誘導標識システム(JIS Z9098)」を2016年3月に制定した。また、これをISO(国際標準化機構)に提案し、2022年2月にISO 22578(Graphical symbols -- Safety colours and safety signs -- Natural disaster safety way guidance system)が発行された。
ウ 公共トイレ、触知案内図
視覚障害のある人が、鉄道駅、公園、病院、百貨店などの不特定多数の人が利用する施設・設備等を安全で、かつ、円滑に利用できるようにするため、「高齢者・障害者配慮設計指針-公共トイレにおける便房内操作部の形状、色、配置及び器具の配置(JIS S0026)」、「高齢者・障害者配慮設計指針-触知案内図の情報内容及び形状並びにその表示方法(JIS T0922)」及び「高齢者・障害者配慮設計指針-触覚情報-触知図形の基本設計方法(JIS S0052)」を制定している。
劇場・観覧場(スタジアム・アリーナ)等の客席のバリアフリー化については、障害当事者の参画の下、2015年7月に「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(劇場、競技場等の客席・観覧席を有する施設に関する追補版)」を策定し、一定の進展がみられたものの、東京2020大会のレガシーを継承していくためにも、更なる推進が必要である。
このような背景の下、2022年3月に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行規則」(平成18年国土交通省令第110号)を改正し、「劇場、観覧場、映画館、演芸場、集会場又は公会堂の客席」をバリアフリー法の対象施設として追加した(2022年10月施行)。これにより、地方公共団体が地域の実情等を踏まえて、条例で客席のバリアフリー化を義務付けることが可能となり、京都府では劇場等における一定割合での車椅子使用者用客席の設置が義務付けられるなど、バリアフリー化を進めるための環境整備が進んでいるところである。
また、「高齢者、障害者等が円滑に利用できるようにするために誘導すべき建築物特定施設の構造及び配置に関する基準を定める省令」(平成18年国土交通省令第114号)を改正し、劇場等の客席に対する建築物移動等円滑化誘導基準を設定した。今回の基準には、車椅子使用者用客席の設置割合だけでなく、同伴者席の配置、分散配置、サイトラインの確保等を盛り込んでいる。建築物移動等円滑化誘導基準を満たす建築物にインセンティブとして与えられる容積率特例を活用することにより、劇場やスタジアム等のバリアフリー化が更に進むことが期待される。
今後も建築物のバリアフリー化を推進するための方策について、障害当事者の意見を踏まえながら、必要な検討を行っていく。
高齢者、障害のある人等の社会参加や外出等の機会を更に促進するためには、支障なくトイレを利用できる環境を整備することが重要である。これまで整備が進められてきた多機能トイレでは、近年利用者の集中により、車椅子使用者など真に利用が必要な方が必要な時に利用できない問題が生じている。こうした問題に対応するため、国土交通省では、2011年度に「多様な利用者に配慮したトイレの整備方策に関する調査研究」を実施し、各種ガイドラインの改正によるトイレの機能分散の推進やトイレの利用マナー啓発等により、多機能トイレの利用集中を解消するための取組等を推進してきたところである。
また、2020年5月に「バリアフリー法」が改正され、高齢者、障害者等の円滑な利用のために配慮が必要な施設や設備について、国、地方公共団体、施設設置管理者、国民に適正利用を推進することの責務が課されたことに伴い、トイレの利用環境を整備していくことの重要度は更に増している。
こうしたことから、近年のトイレにおける機能分散の推進等によるトイレの整備状況の変化や、「バリアフリー法」の改正の趣旨等を踏まえ、改めてトイレの整備状況や利用状況の実態を把握し、対応を検討するための検討会を2020年度に開催した。
本検討会では、施設整備やバリアフリーデザインに精通した有識者、当事者団体等、施設設置管理者等及び地方公共団体を委員、トイレに関する知見を有する関係者をオブザーバーとして参画いただき、車椅子使用者用便房等の機能分散の推進に必要な考え方や多様な利用者特性への対応等について、「共生社会におけるトイレの環境整備に関する調査研究 報告書」として取りまとめた。取りまとめの内容を踏まえ、各移動等円滑化ガイドライン等への反映やポスターの一斉掲示、バリアフリー教室における高齢者障害者等用施設等の適正利用に関する講座の開催といった「高齢者障害者等用施設等の適正利用推進キャンペーン」の実施等により、施設設置管理者や利用者等への周知を行い、適正利用を推進していく。