第5章 住みよい環境の基盤づくり 第2節 3
3.情報提供の充実
(1)情報提供に係る研究開発の推進
ア 民間による研究開発に対する支援
総務省では、障害のある人や高齢者向けの通信・放送サービスの充実に向けた、新たなICT機器・サービスの研究開発を行う者に対して支援を行っているほか、国立研究開発法人情報通信研究機構を通じて、身体に障害のある人のための通信・放送サービスの提供又は開発を行う者に対する助成、情報提供を実施している。
イ 使いやすい電話機の開発
通信サービスの中でも特に電話は、障害のある人にとって日常生活に欠かせない重要な通信手段となっており、こうした状況を踏まえ、電気通信事業者においても、音量調節機能付電話等福祉用電話機器の開発や車椅子用公衆電話ボックスの設置など障害のある人が円滑に電話を利用できるよう種々の措置を講じている。
(2)情報提供体制の整備
ア 情報ネットワークの整備
社会福祉法人日本視覚障害者団体連合においてネットワークを利用し、新聞情報等を即時に全国の点字図書館等で点字データにより受信でき、かつ、視覚障害のある人が自宅にいながらにしてウェブ上で情報を得られる「点字ニュース即時提供事業」を行っている。
また、社会福祉法人日本点字図書館を中心として運営されている視覚障害者等用情報総合ネットワーク「サピエ」により、点字・録音図書情報等の提供を行っている。
さらに、公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会が運営している、障害のある人の社会参加に役立つ各種情報の収集・提供と、情報交換の支援を行う「障害者情報ネットワーク(ノーマネット)」では、障害のある人からの情報アクセスを容易にするため、文字情報、音声情報及び画像情報を統合して同時提供するマルチメディアシステム化を図るとともに、国内外の障害保健福祉研究情報を収集・蓄積し、インターネットで提供する「障害保健福祉研究情報システム」を構築している。
イ 視覚障害者等の読書環境の整備の推進
2020年7月、文部科学省及び厚生労働省において「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画」(以下本章では「基本計画」という。)を策定した。基本計画は2019年6月に施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(令和元年法律第49号。以下本章では「読書バリアフリー法」という。)第7条に基づき、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため策定したものである。また、同法第8条により、地方公共団体は、基本計画を勘案して、当該地方公共団体における視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する計画の策定に努めることとされていることから、基本計画の策定に併せ、地方公共団体や関係機関等に向けて、「読書バリアフリー法」の趣旨を踏まえた取組の実施を促すための通知を発出した。
また、同法第18条に基づく関係者協議会を開催し、関係者から聴取した意見を踏まえて各省庁等が講じようとする取組の方向性について検討を行うこととしており、2022年度においても2022年6月に関係者協議会を開催し、2021年度までの取組及び2022年度に講ずる施策について報告し、意見交換を行った。
ウ 政府広報における情報提供
内閣府では、視覚に障害がある人等が、円滑に必要な情報を取得し、利用することができるよう、政府の重要施策等の情報をわかりやすくまとめた音声広報CD「明日への声」及び点字・大活字広報誌「ふれあいらしんばん」を発行(年6回、各号約4,200部)している。「明日への声」及び「ふれあいらしんばん」はそれぞれ全国の視覚障害者情報提供施設、日本視覚障害者団体連合、特別支援学校、公立図書館(都道府県、政令市、中核市、特別区立等)、地方公共団体等に配布(約3,000か所)している。
エ 字幕付きビデオ及び点字版パンフレット等の作成
法務省では、犯罪被害者やその家族、さらに一般の人々に対し、検察庁における犯罪被害者の保護・支援のための制度についてわかりやすく説明したDVD「あなたの声を聴かせてください」を2021年度に新たに作成し、全国の検察庁に配布しており、説明のポイントにテロップを利用しているほか、全編に字幕を付けるなど、聴覚障害のある人も利用できるようになっている。
また、犯罪被害者等向けパンフレットの日本語版に音声コード(専用の機械に読み取らせることにより、本文の音声読み上げが可能なもの)を導入したほか、点字版等を作成し、全国の検察庁及び点字図書館等へ配布を行い、視覚障害のある人に情報提供している。
法務省の人権擁護機関では、各種人権課題に関する啓発広報ビデオを作成する際に、字幕付ビデオも併せて作成するとともに、啓発冊子等に、音声コードを導入し、聴覚や視覚に障害のある人も利用できるようにしている。
オ 国政選挙における配慮
国政選挙においては、2003年の「公職選挙法」(昭和25年法律第100号)改正により、郵便等投票の対象者が拡大されるとともに、代理記載制度が創設されている。また、障害のある人が投票を行うための必要な配慮として、点字による「候補者名簿及び名簿届出政党等名簿」の投票所等への備付け、投票用紙に点字で選挙の種類を示す取組、点字版やカセットテープ、コンパクトディスク等の音声版による候補者情報の提供、投票所における点字器の備付け等を行っている。
また、政見放送における取組として、衆議院比例代表選出議員選挙、参議院選挙区選出議員選挙及び都道府県知事選挙にあっては手話通訳を、参議院比例代表選出議員選挙にあっては手話通訳及び字幕を、それぞれ付与することができることとしている。また、衆議院小選挙区選出議員選挙及び参議院選挙区選出議員選挙にあっては、政見放送として一定の要件の下政党又は候補者が作成したビデオを放送することができ(いわゆる「持込みビデオ方式」)、政党又は候補者の判断により手話通訳や字幕を付与することができることとしている。
(3)字幕放送、解説放送、手話放送等の推進
視聴覚障害のある人等が、テレビジョン放送を通じて情報を取得し、社会参加していく上で、字幕放送、解説放送、手話放送等の普及は重要な課題であり、総務省においては、その普及を推進している。
1997年の「放送法」(昭和25年法律第132号)改正により、字幕番組及び解説番組をできる限り多く放送しなければならないとする努力義務規定が設けられた。これを受けて、1997年、郵政省(当時)は字幕放送の普及目標を定めた「字幕放送普及行政の指針」を策定した。
その後、総務省は、2007年に字幕放送及び解説放送(2012年改定時に手話放送を追加)の普及目標を定めた「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の策定を経て、2018年に2027年度までの字幕放送、解説放送及び手話放送の普及目標を定めた「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を策定した。現在はこの指針に基づき、各放送事業者において取組が進められている。また、2022年11月から有識者、障害者団体、放送事業者等から構成される「視聴覚障害者等向け放送の充実に関する研究会」において、直近の字幕放送等の実績や技術動向等を踏まえ、この指針の見直しを始め、視聴覚障害のある人等に向けた放送の充実に関する施策について議論を行っている。
加えて、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)を通じて字幕番組、解説番組、手話番組等の制作費や生放送番組への字幕付与設備の整備費の一部助成も行っている。特に、生放送番組への字幕付与については、多くの人手とコストがかかり、特殊な技能を有する人材等を要することから、特にローカル局等において普及が進んでいない。また、深夜・早朝に災害が発生した場合には、人員の参集に時間がかかるため、緊急速報等に対する迅速な字幕付与が困難であることも課題となっている。このような課題への対応として、最先端の技術を活用した、生放送番組への字幕付与システムについても上記助成事業の対象とし、設備の導入を促している。
字幕付きCMの普及についても、字幕付きCM普及推進協議会(公益社団法人日本アドバタイザーズ協会、一般社団法人日本広告業協会、一般社団法人日本民間放送連盟の3団体で構成)が、2020年9月に策定した「字幕付きCM普及推進に向けたロードマップ」に基づき、字幕付きCMの放送枠を増やす取組が東名阪地区を中心に進められ、2021年10月からは全国的な取組に拡大されている。
手話入り映像の撮影
厚生労働省では、聴覚障害のある人のために、字幕(手話)入り映像ライブラリーや手話普及のための教材の制作・貸出し、手話通訳者等の派遣、情報機器の貸出し等を行う聴覚障害者情報提供施設について、ICTの発展に伴うニーズの変化も踏まえつつ、その支援を促進している。
障害のある人がIoT(※)、AI(※)等による利便性を最大限に享受できるようにするため、その前提として、製品やサービスにおけるアクセシビリティの確保が不可欠である。総務省では、年齢や障害の特性を問わず、誰もが公的機関のホームページから必要な情報やサービスを利用できるようにするため、2004年度から取組を行っている。2022年度は、公的機関を対象とした取組状況に関するアンケート調査及び地方公共団体(町村を除く)の公式ホームページのJIS対応状況調査及び全国3か所での公的機関向け講習会を開催した。
また、IoT、AI等の発展により、ICT分野における製品やサービスは、これまでの視覚、聴覚、身体障害中心の対応だけでなく、精神、発達、知的障害、難病を含め、あらゆる障害に対応できる可能性があることから、これらの関連技術の開発を推進していくため、①障害のある人向けのICTサービスを提供する中小企業等への助成、②障害のある人向けの新たなICT機器・サービスの研究開発を行う民間企業等への助成を行っている。
さらに、視聴覚障害のある人等に向けた放送サービスの提供に対する支援として、字幕番組、解説番組、手話番組等の制作費や生放送番組への字幕付与設備の整備費に対する助成を実施している。
※IoTとは、Internet of Things(モノのインターネット)の略。自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインターネットにつながり、情報のやり取りをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化等が進展し、新たな付加価値を生み出すというコンセプトを表した語。
※AIとは、Artificial Intelligence(人工知能)の略。コンピュータを使って、学習・推論・判断など人間の知能の働きを人工的に実現するための技術。
【ICTサービスの提供及び研究開発に関する助成事例】
2022年5月に第208回通常国会において「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」(令和4年法律第50号)が議員立法により成立し、2022年5月25日に公布・施行された。
全ての障害のある人が社会を構成する一員として、社会、経済、文化等あらゆる分野の活動に参加するため、障害のある人が必要とする情報へのアクセシビリティを向上させることやコミュニケーション手段を充実させることは極めて重要であり、より一層の施策の推進が求められている。こうした状況を踏まえ、本法は障害のある人による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に関し、基本理念を定め、国や地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害のある人による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の基本となる事項を定めること等により、障害のある人による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とするものである。
本法の成立を踏まえ、国及び地方公共団体において障害のある人による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し、実施する責務を有することから、共管府省庁である内閣府、デジタル庁、総務省、厚生労働省、経済産業省の連名で、本法が公布・施行された2022年5月25日付で地方公共団体に対し施行通知を発出するとともに、内閣府のホームページにおいても本法に関する概要や条文を掲載するなど周知を行った。また、2023年3月には、第5次障害者基本計画が閣議決定されたところであり、同計画では、本法第9条第1項の規定に基づき、本法の規定の趣旨を踏まえ「情報アクセシビリティ・意思疎通支援の充実」に係る施策が盛り込まれている。
また、本法第11条第3項に基づき、障害のある人による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に関する協議の場を共管府省庁において開催し、障害のある人による情報取得等に資する機器開発等を行う事業者、障害のある人及び関係行政機関の職員その他の関係者を参集して、障害のある人による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に資するよう情報共有や意見交換等を実施している。
本法を踏まえ、障害のある人が必要とする情報へのアクセシビリティを向上させることやコミュニケーション手段を充実させるなど各種施策の更なる推進に向け、政府全体で取組を推進していく。
(4)日本銀行券の券種の識別性向上に向けた取組
日本銀行券(いわゆる、お札)については、偽造抵抗力強化の観点に加え、ユニバーサルデザインの観点も踏まえて様式を新しくし、2024年度上期から発行を開始することとしている(https://www.mof.go.jp/currency/bill/20190409.html)。
財務省においては、これまで日本銀行や国立印刷局とともに、視覚に障害のある人が券種を区別しやすくなるよう、関係者からの意見聴取、海外の取組状況の調査を行う等、様々な観点から検討を行ってきており、新しい日本銀行券には、この成果を反映し、触った時や見た時に券種の区別をしやすくする以下のような工夫を施すこととしている。
① 指の感触で券種の区別ができるマークを、現行券よりも触った時にわかりやすい形状に変更し、券種毎に異なる位置に配置。
② 肖像のすかしが入る「すき入れ」部分の形状に違いを設けて差別化した上で、券種毎に異なる位置に配置。
③ 表・裏両面のアラビア数字を大型化。
④ 高額券と千円券のホログラムの形状に違いを設けて差別化した上で、券種毎に異なる位置に配置。