第6章 国際的な取組 1
我が国の国際的地位にふさわしい国際協力に関する施策
1.障害者に関する国際的な取組
(1)障害者権利条約
障害者の権利及び尊厳を保護し、促進すること等を目的とする「障害者の権利に関する条約」、いわゆる「障害者権利条約」は、2006年12月、「第61回国際連合(以下本章では「国連」という。)総会本会議」において採択され、2008年5月に発効した。2023年4月13日現在、締約国・地域・機関数は186となっている。「障害者権利条約」は、障害者の人権や基本的自由を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利の実現のための措置等を規定し、市民的・政治的権利、教育・保健・労働・雇用の権利、社会保障、余暇活動へのアクセスなど、様々な分野における取組を締約国に対して求めている。
我が国は、本条約の起草段階から積極的に参加するとともに、2007年9月28日、同条約に署名した。その後、「障害者基本法」(昭和45年法律第84号)の改正(2011年8月)等の各種法制度整備を行い、2014年1月20日、「障害者権利条約」の批准書を国連に寄託、2014年2月19日に我が国について発効した。
「障害者権利条約」では、各締約国が、「条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告」を「障害者の権利に関する委員会(障害者権利委員会)」に提出することを定めており(条約第35条)、特に初回の報告については、条約発効後2年以内の提出が求められている。
我が国においても、障害者政策委員会における議論やパブリックコメントを踏まえて政府報告作成準備を進め、2016年6月に障害者権利委員会に初回の政府報告を提出した。2022年8月22日及び23日、国連欧州本部(スイス(ジュネーブ))にて、我が国に対する同条約の第1回政府報告の対面審査が行われた。これを踏まえた障害者権利委員会による総括所見については、9月9日にアドバンス版が公表され、その後、10月7日に確定版が公表されている。(詳細については外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html)を参照。)
なお、障害者権利委員会は、条約の締約国から選ばれた18人の専門家から構成され、締約国による報告を検討し、報告について提案や勧告を行う等の活動を行う委員会である。
(2)ESCAPアジア太平洋障害者の十年
アジア太平洋地域において障害のある人への認識を高め、域内障害者施策の水準向上を目指すために、「国連障害者の十年」に続くものとして、1992年に我が国と中国が「アジア太平洋障害者の十年」を主唱し、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)総会において決議された。
その最終年となる2002年にESCAP総会において、我が国の主唱により「ESCAPアジア太平洋障害者の十年」が更に10年延長されるとともに、2002年10月に滋賀県大津市で開催された「ESCAPアジア太平洋障害者の十年最終年ハイレベル政府間会合」において、「ESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年(2003-2012年)」の行動計画である「アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」(以下本章では「びわこミレニアム・フレームワーク」という。)が採択された。
また、「ESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年」の中間年に当たる2007年9月にタイのバンコクで開催された「アジア太平洋障害者の十年の中間評価に関するハイレベル政府間会合」では、「びわこミレニアム・フレームワーク」を補完し、2008年から5年間の実施を促進するための行動指針となる「びわこプラスファイブ」が採択された。
2012年5月にESCAP総会において、我が国の共同提案により「ESCAP第3次アジア太平洋障害者の十年(2013-2022年)」決議が採択され、2012年11月には「第2次アジア太平洋障害者の十年最終レビュー・ハイレベル政府間会合」において、「ESCAP第3次アジア太平洋障害者の十年」の行動計画である「仁川(インチョン)戦略」が採択された。「仁川戦略」では、「貧困の削減と労働及び雇用見通しの改善」、「政治プロセス及び政策決定への参加促進」等障害者施策に関する10の目標、与えられた期間内に達成すべき27のターゲット及びその進捗状況を確認するための62の指標が設定されている。
2022年10月には、インドネシアのジャカルタで「第3次アジア太平洋障害者の十年最終レビュー・ハイレベル政府間会合」が開催され、「アジア太平洋障害者の十年」を更に10年延長することを決議する「ジャカルタ宣言」が採択された。
(3)情報の提供・収集
内閣府では、我が国の障害者施策に関する情報提供のために、基本的枠組みである「第4次障害者基本計画」や「障害者白書の概要」の英語版を作成し、内閣府ホームページ(英語版サイトなど)にこれらを掲載している(詳細についてはPolicy for Persons with Disabilities(内閣府)(https://www8.cao.go.jp/shougai/english/index-e.html)を参照。)。
また、「令和2年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組状況の実態調査」の実施等を通じて、諸外国における合理的配慮の提供及び環境の整備に関する指針や取組の状況、障害者差別の解消の推進に関する地方公共団体の取組の状況など、国内外の障害者施策の動向について情報収集を行った。
2022年8月22日及び23日、国連欧州本部(スイス(ジュネーブ))にて、我が国に対する障害者権利条約の第1回政府報告の対面審査が行われた。この対面審査は一般的に建設的対話(constructive dialogue)と呼ばれており、同条約に基づく障害者の権利の実現のために、よりよい制度や環境の整備・改善を行うための前向きな協議の場といえる。
対面審査は2日間にわたり行われ、1日目の午後に3時間、2日目の午前に3時間に分けて実施された。我が国は、外務省始め関係府省庁からなる政府代表団を構成し、ジュネーブでの建設的対話に臨んだ。対面審査では、政府代表団の団長による発言の後、同委員会の委員から多くの指摘や質問が出され、政府として、関連の取組や措置等の我が国の取組について説明した。
政府報告審査は、政府以外の関係者も参加する仕組みが設けられている。例えば、障害者団体や市民社会団体は、同委員会が締約国に対して質問事項を提出したり、総括所見を公表する前に、同委員会の委員に対して意見書を提出することができる。また、対面審査は、現場での傍聴や国連TVのインターネット配信での傍聴が可能であり、国連公用語の通訳ほか、手話通訳や、日本政府が手配した日本語通訳の音声がオンラインで配信された。その結果、今般の我が国の対面審査においては、多くの市民社会からの参加があった。
さらに、我が国では、障害者、障害者の自立・社会参加に関する事業の従事者及び学識経験者から構成される障害者政策委員会が、同条約第33条に規定されている条約の実施を監視するための枠組みを担っており、障害者基本計画の実施状況の監視を通じて条約の実施状況を監視している。今般の政府報告審査に際しては、障害者政策委員会も、障害者権利委員会に対し我が国の取組の進捗状況や今後の課題に係る見解を提出するとともに、対面審査にも参加し、我が国の施策の実施状況に係る説明を行った。
対面審査を踏まえた障害者権利委員会による総括所見については、9月9日にアドバンス版が公表され、その後、10月7日に確定版が公表された。今般公表された総括所見の中では、情報の利用の容易さ(アクセシビリティ)、差別解消、バリアフリー、雇用促進及び文化芸術活動等の、障害者の権利を促進する法律やガイドライン等の幅広い施策の取組が肯定的な側面としてあげられた一方で、意思決定、地域社会での自立した生活、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)、精神障害者の入院、各種サービスや手続の利用及び配慮等、多岐にわたる事項に関し、同委員会としての見解及び勧告が含まれた。
障害者権利委員会による審査は、我が国の障害者施策を前進させる上で重要なプロセスであり、同委員会から示される建設的な助言や勧告により、一層充実した施策へと発展させる機会となると考えている。今般示された同委員会の勧告等については、関係府省庁において内容を十分に検討していく考えである。