第6章 国際的な取組 2

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2.国際協力等の推進

(1)国際協力の基本的な方針

障害者施策は、福祉、保健・医療、教育、雇用等の広範な分野にわたっているが、我が国がこれらの分野で蓄積してきた技術・経験などを政府開発援助(ODA)などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てることは、極めて有効であり、かつ、重要である。協力を行うに当たり、対象国の実態や要請内容を十分把握し、その国の文化を尊重しながら要請に柔軟に対応することが大切である。このため、我が国は「障害者権利条約」第32条「国際協力」に基づき、密接な政策対話を通じ、対象国と我が国の双方が納得いく協力を行うよう努めている。また、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」、「日本NGO連携無償資金協力」等の活用を通じたNGOとの連携、JICA海外協力隊の派遣など開発途上国の草の根レベルに直接届く協力も行っており、現地の様々なニーズにきめ細かく対応している。

(2)有償資金協力

有償資金協力では、鉄道建設、空港建設等においてバリアフリー化を図った設計を行う等、障害のある人の利用に配慮した協力を行っている。

(3)無償資金協力

無償資金協力においても、障害のある人の利用に配慮した協力を行うとともに、障害のある人のためのリハビリテーション施設や職業訓練施設の整備、移動用ミニバスの供与、障害者スポーツのための機材・施設整備等、毎年度多くの協力を行っている。2022年度においては、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」により26件、及び「草の根文化無償資金協力」により1件の障害者関連援助をNGO・教育機関・地方公共団体等に対し実施した。また、2022年度には「日本NGO連携無償資金協力」により10件の障害者支援関連事業を採択した。

(4)技術協力

技術協力の分野では、開発途上国の障害のある人の社会参加と権利の実現に向けて、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、障害のある人を対象とした取組に加え、開発プロセスのあらゆる分野において障害のある人の参加を支援するために、研修員の受入れや専門家及びJICA海外協力隊の派遣など幅広い協力を行っている。2022年度には「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加」を始め8つの本邦研修コースをオンラインも含めて実施し、研修員約100名を受け入れたほか、専門家6名、コンサルタント17名、言語聴覚士・理学療法士等のJICA海外協力隊66名の派遣などを行った。また、NGOや大学等を始めとする市民団体の発意に基づく事業を実施する「JICA草の根技術協力事業」を活用し、2022年度には、これまでに採択された案件計11件を継続して実施した。また、これら技術協力に日本及び開発途上国双方の障害のある人が参加し、中心的な役割を担うことを推進している。

技術協力プロジェクトでは、以下を含む5つのプロジェクトを2022年度に実施した。モンゴルでは、2021年2月より、「モンゴル国障害者就労支援制度構築プロジェクト」を開始し、障害のある人の就労支援事業の立案・拡大、就労支援に携わる人材の育成、企業等とのネットワークの強化及び企業、求職障害者双方に対する新たな就労支援事業の広報・啓発等を通じて、障害のある人の生計及び社会参加の向上を図っている。2022年には、同プロジェクトの下でジョブコーチ入門セミナーや企業啓発セミナー、ジョブコーチによる就労支援サービスのパイロットプロジェクトが実施されたほか、モンゴルにおける企業等での障害者雇用の優良事例をまとめてウェブサイトに掲載し、積極的な広報・啓発にも努めた。

左右ともにモンゴルでの障害者雇用に関する企業啓発セミナーの様子。
優良事例についてのプレゼンテーション等を実施。

また、スリランカでは、「インクルーシブ教育アプローチを通じた特別なニーズのある子どもの教育強化プロジェクト」を2019年3月から実施し、2022年度は延べ409名の行政官・校長・教員・保護者等に対して、インクルーシブ教育関連の研修を行うとともに、障害により就学が困難なこども等のためのインクルーシブ教育アプローチの開発を行っている。さらに、ウズベキスタンでは、2021年11月から「就学前教育におけるインクルーシブ教育実践強化プロジェクト」が開始されており、就学前教育保育士・教員および初等第1学年担任教員を対象とするインクルーシブ教育に関する現職教員研修の制度的基盤が確立することを目指している。

(5)国際機関等を通じた協力

援助対象国に対する直接的援助のほか、我が国では国連等国際機関を通じた協力も行っている。1988年度から2015年度まで国連障害者基金に対して継続的な拠出を行った。さらに、アジア太平洋地域への協力としては、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に対し、日本エスカップ協力基金(JECF)を通じた活動支援を実施しており、2017年には、障害のある人を包摂する津波防災のためのe-ラーニングツールの開発について5万ドルの支援、2018年には開発したツールの域内普及に向けて3万ドルの支援、2021年には開発したツールを活用し、ジェンダーの平等も考慮した障害のある人を包摂する津波防災に係る政策形成及び実施に向けて23万ドルの支援を行った。

図表6-1 技術協力の状況(2022年度)
(1)本邦研修(単位:人)
2022年度実施研修員受入れコース 107
課題別研修「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加(A)」(使用言語:スペイン語) 21
課題別研修「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加(B(アジア))(C(中東・アフリカ))」(使用言語:英語) 16
課題別研修「スポーツを通じた障害者の社会参加の促進(A)」(使用言語:英語) 6
課題別研修「スポーツを通じた障害者の社会参加の促進(B)」(使用言語:ロシア語) 5
課題別研修「障害者権利条約の実践のための障害者リーダー能力強化」(使用言語:英語) 6
課題別研修「障害者就労促進」 7
課題別研修「インクルーシブ教育制度強化 ~障害のある子どもと共に学び共に生きる~」 13
青年研修「中南米/障がい者支援制度」コース 8
国別研修「エクアドル/地域における障害者に焦点を当てたインクルーシブ防災の実施能力強化」 18
国別研修「パレスチナ/ユニバーサルツーリズムの促進」 7
注:課題別研修/国別研修/青年研修の受入人数。課題別研修への国別上乗せ研修は除く。2022年度における研修員受入れ実績には、オンライン実施による実績も含む。
資料:外務省
(2)ボランティア(単位:人)
JICA海外協力隊 66
青年海外協力隊/海外協力隊 65
内訳 長期派遣:1~2年 60
障害児・者支援
23
理学療法士
15
作業療法士
14
ソーシャルワーカー
5
鍼灸マッサージ師
2
言語聴覚士
1
短期派遣:1ヵ月~1年未満 5
障害児・者支援
2
ソーシャルワーカー
1
作業療法士
1
理学療法士
1
シニア海外協力隊 1
内訳 短期派遣:1ヵ月~1年未満 1
障害児・者支援
1
日系社会青年海外協力隊/日系社会海外協力隊 0
日系社会シニア海外協力隊 0
注:障害児・者支援、理学療法士、言語聴覚士、鍼灸マッサージ師、作業療法士、ソーシャルワーカー、福祉用具、の7職種を障害者支援関連職種とし、2022年度(2022/4/1~2023/3/31時点)の新規派遣人数を計上。(短期ボランティアを含む。)上記の表に記載されていない職種については、2022年度現時点0名。
資料:外務省

(3)技術協力事業
技術協力プロジェクト・個別専門家 専門家派遣
(直営)
(人)
専門家派遣
(コンサルタント)
(人)
研修員受入
(人)
機材供与
(百万円)
事業名
モンゴル
障害児のための教育改善プロジェクト
0 4 0 0
モンゴル
障害者就労支援制度構築プロジェクト
0 4 18 0
ウズベキスタン
就学前教育におけるインクルーシブ教育実践強化プロジェクト
0 6 12 0
スリランカ
インクルーシブ教育アプローチを通じた特別なニーズのある子どもの教育強化プロジェクト
0 2 0 0
スリランカ
スリランカにおける障害者の就労支援促進プロジェクト
3 1 0 0
パラグアイ(個別専門家)
障害者の社会参加促進アドバイザー(フェーズ2)
1 0 0
南アフリカ(個別専門家)
障害児及び家族支援アドバイザー
1 0 0
タイ(個別専門家)
インクルーシブで強靭な地域間協力のための障害者参加促進アドバイザー
1 0 0
注:専門家派遣(直営)及び専門家派遣(コンサルタント)の人数については、2021年度からの継続による専門家派遣(直営コンサルタント)及び2022年度の新規派遣(直営もしくはコンサルタント)の合計(実人数)。いずれも第三国人材の派遣は除く。「研修員受入」の人数は当該年度のみ集計。また、「研修員受入」については日本との遠隔研修を含めるが、協力相手国内もしくは第三国で実施された研修コースは除く。
資料:外務省

(4)草の根技術協力事業(2022年度障害者支援関連事業)
対象国 案件名
コスタリカ 障害者の社会支援システム構築プロジェクト
イラン イランのバリアフリー支援事業
セルビア セルビアベオグラード市コミュニティレベルにおける知的障害者の自立を支援する事業
スリランカ あんまマッサージ指圧訓練コースの設立・運営による視覚障害者の雇用促進事業
インドネシア 中部ジャワ州スラカルタ市「自閉症教育」の人材育成事業
ラオス 知的・発達障害を持つ子供の社会的自立を目指したインクルーシブ教育・就労支援の実践
ネパール カトマンズの病院における難聴患者の意思疎通支援パイロットプロジェクト
ペルー ペルーにおける障害児スポーツ指導力強化および普及促進プロジェクト
ベトナム ホーチミンの枯葉剤被害障害者のための職業訓練モデル開発プログラム
ベトナム ベトナムの喉摘失声者に対する食道発声教室開設と発声訓練体制の確立
カンボジア 車椅子整備・修理技術及び広報技術向上による女性障がい者の自立支援プロジェクト
資料:外務省

図表6-2 日本NGO連携無償資金協力(2022年度障害者支援関連事業)
(単位:円)
実施国/地域 契約額 事業名
トーゴ 70,415,872 モー県およびバサール県におけるインクルーシブ教育推進事業
ベトナム 12,551,112 キンザン省、チャビン省の小学校、幼稚園のインクルーシブ教育研修システムの構築事業
タジキスタン 30,426,948 インクルーシブ教育推進のための教職課程構築事業
パキスタン 50,971,079 ハリプール群とアボタバード群の小学校における、インクルーシブ教育推進事業
モンゴル 85,066,847 モンゴルにおける義務教育期間を通した切れ目のないインクルーシブ教育推進事業
ラオス 25,589,304 フアパン県ビエンサイ村のPPTPro-Poor Tourism)戦略アプローチによるインクルーシブな地域活性化事業
ラオス 34,729,884 ラオスにおける障がいインクルーシブな地域社会推進事業
ミャンマー 45,592,275 カレン州パアン地区におけるインクルーシブ教育支援事業
ミャンマー 36,690,960 ヤンゴン地域におけるインクルーシブ教育推進体制構築事業
レバノン 64,880,910 ベイルート県及び山岳レバノン県における障がい児など多様な子どもへの教育支援事業
資料:外務省
/外務省
第6章 2.国際協力等の推進
TOPICS(トピックス)(30)
インクルーシブ教育をモンゴル全土へ普及推進

独立行政法人国際協力機構(JICA)によるモンゴルに対する技術協力「障害児のための教育改善プロジェクト(以下本章では「START」という。)」を紹介する。日本から北西へ約3,000km、直行便で約5時間半に位置する内陸国のモンゴルは、日本と同じ東アジアに属する。国土は日本の約4倍(約156万km2)、人口は約330万人ほどである。日本とは2022年に外交関係樹立50周年を迎え、深いつながりがある国の一つである。

そのモンゴルにおいて、STARTは2015年より開始され、2フェーズにわたって実施されている。モンゴル政府は、2003-2008年に「インクルーシブ教育国家プログラム」を実施し、教育法、初等中等教育法、障害者社会保障法が改正、就学前教育法が制定され、障害児の教育を受ける権利保障に関する条項が盛り込まれるなど様々な取組を推進してきた。しかし、START開始前後の総就学率は、初等教育約100%(2015年)、中等教育約92%(2010年)であったのに対し、障害のあるこどものうち、幼稚園や小学校に就学できたのは約40%(2016年)、中等教育まで進むことができていたのは約14%(2016年)に限られていた。その背景としては、障害や発達の遅れが分かっていたとしても必要な発達支援が受けられないこと、家族支援の仕組みがないこと、学校の受入れ体制が整っていないこと等が、こどもたちの就学を困難にしていたこと、また、就学ができたとしても、ニーズに応じた教育を受けることができず、中退してしまうケースも少なくなかったことがあげられる。

こうした状況下において、2015年から2019年に実施したSTARTのフェーズ1は、ウランバートル市バヤンゴル区・フグブスル県を対象地域とし、障害児に対する診断・発達支援・教育のモデルが構築されることを目標として実施された。具体的には、パイロット地域において、障害児のための包括的な発達支援のハンドブックの作成や1歳6か月児健康診査の導入や母子健康手帳の活用促進を行ったほか、同地域内における発達支援計画策定に係る能力強化として、事例検討会の開催や発達支援のための親子教室等を実施した。一方、14校をパイロット校として、個別教育計画作成や教員研修、校内での事例検討会といったパイロット活動を通じた障害の早期発見・介入の体制の整備を行い、障害児に対する診断・発達支援・教育のモデルの構築を図った。

現在、STARTは2020年よりフェーズ2に入り、フェーズ1の取組を踏まえ、2~16歳の障害児のための発達支援・教育サービスがモンゴル全土に普及することをプロジェクト目標として実施されている。プロジェクトの取組として、全国の障害児の保健・教育・社会保障支部委員会の教育担当の能力強化に加え、インクルーシブ教育モデルを作り、そのモデルやフェーズ1の成果の普及のため、インクルーシブ教育担当官に対しての研修も実施している。COVID-19の影響を受け、モンゴルでは、約1年半の学校休校期間があった。その状況においても、映像教材の活用やオンライン研修等、プロジェクトの推進を図っている。フェーズ2のプロジェクト期間は2024年までとなっているが、モンゴルの関係者と連携し、引き続き目標達成に向けてプロジェクトを推進していく。

【モニタリング対象校での障害児が在籍するクラスでの活動】

資料:独立行政法人国際協力機構(JICA
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