第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第2節 1

目次]  [前へ]  [次へ

第2節 雇用・就労の促進施策

障害のある人の就労意欲が高まっている中で、障害のある人が、希望や能力、適性を十分にいかし、障害の特性等に応じて活躍できること、障害のある人と共に働くことが当たり前の社会の実現に向けて、障害者雇用対策の一層の充実を図っていく必要がある。

1.障害のある人の雇用の場の拡大

(1)障害者雇用の現状

ア 2023年障害者雇用状況報告

対象障害者を1人以上雇用する義務がある民間企業(常用雇用労働者数43.5人以上)については、毎年6月1日時点の障害者雇用の状況を報告することになっている。2023年の報告結果は次のとおりである。

なお、障害者雇用状況報告では、重度身体障害者又は重度知的障害者については、その1人の雇用をもって、2人の身体障害者又は知的障害者を雇用しているものとしてカウントされる。

また、重度身体障害者又は重度知的障害者である短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者)については、1人分として、重度以外の身体障害者及び知的障害者である短時間労働者については、0.5人分としてカウントされる。

ただし、精神障害者である短時間労働者については、当分の間、1人分としてカウントされる(2022年障害者雇用状況報告時点では、新規雇入れから3年以内等の要件が設けられていたが、2023年4月から当該要件を廃止し、当分の間、延長された)。

① 民間企業の状況

2023年6月1日現在の障害者雇用状況は、雇用障害者数が20年連続で過去最高を更新し、642,178.0人(前年同日613,958.0人)となるなど、一層進展している。また、障害者である労働者の実数は534,788人(前年同日516,447人) となった。雇用者のうち身体障害者は360,157.5人(前年同日357,767.5人)、知的障害者は151,722.5人(前年同日146,426.0人)、精神障害者は130,298.0人(前年同日109,764.5人)と、いずれも前年より増加し、特に精神障害者の伸び率が大きかった。

また、民間企業が雇用している障害者の割合(以下本章では「実雇用率」という。)は2.33% (前年同日2.25%)であり、初めて実雇用率が報告時点の法定雇用率(2023年は2.3%)を上回った。

企業規模別に割合をみると、43.5~100人未満規模で1.95%、100~300人未満規模で2.15%、300~500人未満規模で2.18%、500~1,000人未満規模で2.36%、1,000人以上規模で2.55%となった。

一方、法定雇用率を達成した企業の割合は、50.1%となった。なお、雇用されている障害者数については、全ての企業規模で前年の報告より増加した。

図表3-7 民間企業における障害者の雇用状況
○実雇用率と雇用されている障害者の数の推移 (各年6月1日現在)
注1:雇用義務のある企業(2012年までは56人以上規模、2013年から2017年までは50人以上規模、2018年から2020年までは45.5人以上規模、2021年以降は43.5人以上規模の企業)についての集計である。
注2:「障害者の数」とは、次に掲げる者の合計数である。
2005年まで
身体障害者(重度身体障害者はダブルカウント)
知的障害者(重度知的障害者はダブルカウント)
重度身体障害者である短時間労働者
重度知的障害者である短時間労働者
2006年以降
2010年まで
身体障害者(重度身体障害者はダブルカウント)
知的障害者(重度知的障害者はダブルカウント)
重度身体障害者である短時間労働者
重度知的障害者である短時間労働者
精神障害者
精神障害者である短時間労働者
(精神障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
2011年以降
身体障害者(重度身体障害者はダブルカウント)
知的障害者(重度知的障害者はダブルカウント)
重度身体障害者である短時間労働者
重度知的障害者である短時間労働者
精神障害者
身体障害者である短時間労働者
(身体障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
知的障害者である短時間労働者
(知的障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
精神障害者である短時間労働者(※)
(精神障害者である短時間労働者は0.5人でカウント)
※ 2018年から2022年までは、精神障害者である短時間労働者であっても、次のいずれかに該当する者についてのみ、1人分とカウントしている。
① 報告年の3年前の年に属する6月2日以降に採用された者であること
② 報告年の3年前の年に属する6月2日より前に採用された者であって、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること
2023年以降、精神障碍者である短時間労働者については、1人分とカウントしている。
注3:法定雇用率は2012年までは1.8%、2013年から2017年までは2.0%、2018年から2020年までは2.2%、2021年以降は2.3%となっている。
○企業規模別実雇用率 (各年6月1日現在)
○企業規模別達成企業割合 (各年6月1日現在)
資料:厚生労働省「令和5年障害者雇用状況の集計結果」
図表3-8 民間企業における企業規模別障害者の雇用状況
(2023年6月1日現在)
注1:②欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数」とは、常用労働者総数から除外率相当数(対象障害者が就業することが困難であると認められる職種が相当の割合を占める業種について定められた率を乗じて得た数)を除いた労働者数である。
注2:③A欄の「重度身体障害者及び重度知的障害者」については法律上、1人を2人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たりダブルカウントを行い、D欄の「重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者」については法律上、1人を0.5人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たり0.5カウントとしている。ただし、精神障害者である短時間労働者であっても、以下の注4に該当するものについては、1人とカウントしている。
注3:AC欄は1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者であり、BD欄は1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者である。
注4:C欄の精神障害者には、精神障害者であるすべての短時間労働者を含む。
ただし、2022年においては、精神障害者である短時間労働者であって、次のいずれかに該当する者を含む。
① 2019年6月2日以降に採用された者であること
② 2019年6月2日より前に採用された者であって、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること
注5:D欄の2022年の数値における精神障害者である短時間労働者とは、精神障害者である短時間労働者のうち、注4に該当しない者である。
注6:F欄の「うち新規雇用分」は、2022年6月2日から2023年6月1日までの1年間に新規に雇い入れられた障害者数である。
注7:( )内は2022年6月1日現在の数値である。
資料:厚生労働省「令和5年障害者雇用状況の集計結果」

② 国・地方公共団体の状況

国の機関(法定雇用率2.6%)に在職している障害者の割合、勤務している障害者数はそれぞれ2.92%、9,940.0人であった。

また、都道府県の機関(法定雇用率2.6%)は2.96%、10,627.5人であり、市町村の機関(法定雇用率2.6%)は2.63%、35,611.5人であった。

さらに、都道府県等の教育委員会(法定雇用率2.5%)は2.34%、16,999.0人であった。

図表3-9 国・地方公共団体における障害者の在籍状況
1 法定雇用率2.6%が適用される国、地方公共団体(2023年6月1日現在)
①法定雇用障害者
数の算定の基礎
となる職員数
②障害者の数
③実雇用率
④法定雇用率達成機関
の数/ 機関数
⑤達成割合
国の機関 340,707.5人
( 340,474.5人)
9,940.0人
( 9,703.0人)
2.92%
( 2.85%)
44 / 44
( 44 / 44)
100.0%
( 100.0%)
都道府県の機関 359,503.0人
( 363,592.0人)
10,627.5人
( 10,409.0人)
2.96%
( 2.86%)
152 / 163
( 153 / 164)
93.3%
( 93.3%)
市町村の機関 1,353,753.5人
( 1,341,687.5人)
35,611.5人
( 34,535.5人)
2.63%
( 2.57%)
1,910 / 2,460
( 1,846 / 2,462)
77.6%
( 75.0%)
2 法定雇用率2.5%が適用される都道府県等の教育委員会(2023年6月1日現在)
①法定雇用障害者
数の算定の基礎
となる職員数
②障害者の数
③実雇用率
④法定雇用率達成機関
の数/ 機関数
⑤達成割合
都道府県等教育
委員会
726,615.5人
( 726,284.5人)
16,999.0人
( 16,501.0人)
2.34%
( 2.27%)
64 / 95
( 58 / 95)
67.4%
( 61.1%)
注1:各表の①欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数」とは、職員総数から除外職員数及び除外率相当職員数(旧除外職員が職員総数に占める割合を元に設定した除外率を乗じて得た数)を除いた職員数である。
注2:各表の②欄の「障害者の数」とは、身体障害者、知的障害者及び精神障害者の計であり、短時間労働者以外の重度身体障害者及び重度知的障害者については法律上、1人を2人に相当するものとしてダブルカウントを行い、重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間勤務職員については法律上、1人を0.5人に相当するものとして0.5カウントとしている。
ただし、精神障害者である短時間労働者については、1人を1カウントしている。また、2022年においては、精神障害者である短時間勤務職員であっても、次のいずれかに該当する者についてのみ、1人を1カウントとしていた。
① 2019年6月2日以降に採用された者であること
② 2019年6月2日より前に採用された者であって、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること
注3:法定雇用率2.5%が適用される機関とは、都道府県の教育委員会及び一定の市町村の教育委員会である。
注4:( )内は、2022年6月1日現在の数値である。
資料:厚生労働省「令和5年障害者雇用状況の集計結果」
図表3-10 国の機関ごとの障害者の在籍状況
(2023年6月1日現在)
注1:①欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数」とは、職員総数から除外職員数及び除外率相当職員数(旧除外職員が職員総数に占める割合を元に設定した除外率を乗じて得た数)を除いた職員数である。
注2:②欄の「障害者の数」とは、身体障害者数、知的障害者数及び精神障害者数の計であり、短時間勤務職員以外の重度身体障害者及び重度知的障害者については、法律上、1人を2人に相当するものとしてダブルカウントとしている。
また、短時間勤務職員である重度身体障害者及び重度知的障害者については1人を1カウントとしている。
さらに、重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間勤務職員については、法律上、1人を0.5人に相当するものとして0.5カウントとしている。ただし、短時間勤務職員である精神障害者については、1人1カウントとしている。
注3:④欄の「不足数」とは、①欄の職員数に法定雇用率を乗じて得た数(1未満の端数切り捨て)から②欄の障害者の数を減じて得た数であり、これが0.0となることをもって法定雇用率達成となる。
したがって、実雇用率が法定雇用率を下回っていても、不足数が0.0となることがあり、この場合、法定雇用率達成となる。
注4:注4の省庁は、特例承認を受けている。特例承認とは、省庁及び当該省庁におかれる外局の申請に基づき、厚生労働大臣の承認を受けた場合に、当該省庁におかれる外局に勤務する職員を当該省庁に勤務する職員とみなすものである。
【特例承認一覧】
省庁 総務省 文部科学省 経済産業省
外局等 公害等調整委員会、消防庁 文化庁、スポーツ庁 中小企業庁、資源エネルギー庁
注5:こども家庭庁は、2023年4月1日付けで発足したため、2023年6月1日現在の任免状況通報書より通報対象となる。
資料:厚生労働省「令和5年障害者雇用状況の集計結果」

イ ハローワークの職業紹介状況

2022年度のハローワークを通じた就職件数は、102,537件(前年度比6.6%増)であった。このうち、身体障害者は21,914件(前年度比5.2%増)、知的障害者は20,573件(前年度比3.1%増)、精神障害者は54,074件(前年度比17.8%増)、その他の障害のある人(発達障害、難病、高次脳機能障害などのある人)(※)は5,976件(前年度比37.2%減)であった。

また、新規求職申込件数は233,429件(前年度比4.2%増)となり、このうち、身体障害者は58,095件(前年度比0.1%増)、知的障害者は35,609件(前年度比2.8%増)、精神障害者は123,591件(前年度比14.2%増)、その他の障害のある人は16,134件(前年度比30.0%減)であった。

※「その他の障害のある人」とは、身体障害者・知的障害者・精神障害者以外の障害者をいい、具体的には、障害者手帳を所持しない発達障害者、難病患者、高次脳機能障害者などである。対前年度差(比)減は、ハローワークシステム刷新の影響により、2021年度において障害者手帳所持者が一部計上されていた影響が大きい。

図表3-11 ハローワークにおける障害者の職業紹介状況
※注1:表中の「①新規求職申込件数」の2021年度以降の数値には、2021年9月より開始されたハローワークインターネットサービスにより新規求職申込を行った者(同月中に来所した者を除く)の件数(オンライン新規求職申込件数:2021年度2,864件、2022年6,211件)は計上していない。また、2019年度から2021年度の数値については2024年3月に訂正された数値を計上したため、過去の「障害者白書」の数値と異なっている。
※注2:表中の「②有効求職者」の2021年度以降の数値には、オンライン新規求職申込後も来所せずに求職活動を行う者(オンライン登録者の有効求職者数:2021年度1,424件、2022年度1,429件)は計上していない。また、2019年度から2021年度の数値については2024年3月に訂正された数値を計上したため、過去の「障害者白書」の数値と異なっている。
※注3:表中の「③就職件数」には、ハローワークインターネットサービスのオンライン自主応募(ハローワークの職業紹介を経ずに直接応募できる機能を利用したこと)による就職件数は計上していない。
資料:厚生労働省「令和4年度障害者の職業紹介状況等」
図表3-12 ハローワークにおける障害者の職業紹介状況(障害種別ごと)(2022年度)
※注1:表中の「新規求職申込件数」の2022年度数値には、2021年9月より開始されたハローワークインターネットサービスにより新規求職申込を行った者(同月中に来所した者を除く)の件数(オンライン新規求職申込件数)6,211件は計上していない。
※注2:表中の「就職件数」には、ハローワークインターネットサービスのオンライン自主応募(ハローワークの職業紹介を経ずに直接応募できる機能を利用したこと)による就職件数は計上していない。
資料:厚生労働省「令和4年度障害者の職業紹介状況等」

(2)障害のある人の雇用対策について

ア 障害のある人の雇用対策の基本的枠組み

障害者施策の基本理念である、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現のためには、職業を通じた社会参加が重要である。この考え方の下に障害のある人の雇用対策の各施策を推進している。

具体的には、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(昭和35年法律第123号。以下本章では「障害者雇用促進法」という。)や同法に基づく「障害者雇用対策基本方針」(令和5年厚生労働省告示第126号)等を踏まえ、障害のある人、一人一人がその能力を最大限発揮して働くことができるよう、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策を講じている。

また、障害のある人の就労意欲が高まるとともに、積極的に障害者雇用に取り組む民間企業が増加するなど障害者雇用は着実に進展している中で、雇用の質の向上の推進や、多様な就労ニーズに対する支援を図る観点から、2022年に「障害者雇用促進法」の一部改正を含む「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案」が国会に提出され、2022年12月に成立した(2024年4月1日施行。一部の規定は、2023年4月1日施行、公布の日から3年を超えない範囲内において政令で定める日に施行)。

「障害者雇用促進法」の主な改正内容は、事業主の責務として、障害のある人の職業能力の開発及び向上に関する措置を行うことを明確化すること、特に短い労働時間(週所定労働時間10時間以上20時間未満)で働く重度の身体・知的障害者及び精神障害者の就労機会の拡大を図るため、特例的に実雇用率において算定できるようにすること、障害者雇用調整金等の支給方法の見直しや、企業が実施する職場定着等の取組に対する助成措置を強化すること等であり、適正かつ円滑な施行に向けた取組を進めていく。

イ 障害者雇用率制度及び法定雇用率の達成に向けた指導

① 障害者雇用率制度

(ア)障害者雇用率制度

「障害者雇用促進法」では、民間企業等に対し、一定の割合(障害者雇用率)以上の障害のある人の雇用を義務付けている。障害者雇用率は、企業の社会連帯の理念に基づき、身体障害者、知的障害者又は精神障害者に一般労働者と同じ水準の雇用の場を、各事業者の平等な負担の下に確保することを目的として設定している。1960年の制度創設時、民間企業の障害者雇用率は努力義務として事務的事業所1.3%、現場的事業所1.1%であった。その後、1976年に障害者雇用率制度を義務化し、1988年、1998年、2013年及び2018年に障害者雇用率を改正し、2021年3月1日からは、0.1%の引上げを行い、2.3%となった。

また、2023年4月からの民間企業における新たな障害者雇用率は2.7%としており、その引上げについては、雇入れに係る計画的な対応が可能となるよう、2023年度は2.3%に据え置き、2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%と段階的に実施する。国等の公的機関については、2023年4月からの新たな法定雇用率は3.0%(教育委員会は2.9%)とし、段階的な引上げに係る対応(引上げ時期及び引上げ幅)は民間事業主と同様としている。

(イ)特例子会社制度等の特例措置

事業主が障害のある人の雇用に特別の配慮をした子会社(特例子会社)を設立した場合には、一定の要件の下でこの特例子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されている者とみなして、実雇用率を算定できる特例措置(特例子会社制度)を設けている。特例子会社制度は、障害のある人の特性に配慮した仕事の確保・職場環境の整備が容易となり、これにより障害のある人の能力を十分に引き出すことができるなど、事業主及び障害のある人双方にメリットがあると考えられる。2023年6月1日現在で598社を特例子会社として認定している。

また、特例子会社を持つ親会社については、関係するほかの子会社も含め、企業グループ全体での実雇用率の算定を可能としている。

さらに、特例子会社がない場合も、一定の要件を満たす企業グループとして認定を受けたものについては、企業グループ全体で実雇用率を通算できる「企業グループ算定特例」を設けている。

② 法定雇用率の達成に向けた指導の一層の促進

障害者雇用率制度の履行を確保するため、ハローワークにおいて、法定雇用率未達成企業に対する指導を行っている。

(ア)民間企業等に対する指導等

実雇用率の著しく低い民間企業に対しては、ハローワークが障害のある人の雇入れに関する2年間の計画の作成を命じ、当該計画に基づいて障害のある人の雇用を進めるよう継続的な指導を実施している。また、雇入れ計画を作成したものの、障害のある人の雇用が進んでいない企業に対しては、雇入れ計画の適正な実施に関する勧告を行い、計画終期で一定の改善がみられなかった企業に対し企業名公表を前提とした特別指導を行っている。さらに、一連の指導にもかかわらず改善がみられない企業については、企業名を公表している。

(イ)国・地方公共団体に対する指導等

国及び地方公共団体の機関については、民間企業に率先して障害のある人の雇入れを行うべき立場にあり、全ての公的機関における毎年6月1日現在の雇用状況を発表している。また、未達成である機関については、障害のある人の採用に関する計画を作成しなければならず、その計画が適正に実施されていない場合には、厚生労働省は国及び地方公共団体の各機関の任命権者に対し、計画が適正に実施されるよう勧告を行っている。

ウ 障害者雇用納付金制度

「障害者雇用促進法」は、障害者雇用率制度に加え、障害のある人の雇用に伴う事業主の経済的負担を調整するとともに、障害のある人の雇用を容易にし、社会全体として障害のある人の雇用水準を引き上げるため、障害者雇用納付金制度を設けている。この制度では、障害者雇用率未達成の民間企業(常用雇用労働者数100人超)から納付金を徴収するとともに、一定水準を超えて障害のある人を雇用している民間業に対して、障害者雇用調整金、報奨金を支給している。

このほか、障害のある人を雇い入れるために施設、設備の改善等を行う事業主等に対する助成金の支給や在宅就業障害者に仕事を発注する事業主に対する在宅就業障害者特例調整金等の支給を行っている。

図表3-13 障害者雇用納付金制度について
資料:厚生労働省

エ 職業リハビリテーションの実施

「障害者雇用促進法」において、職業リハビリテーションとは、「障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ること」(第2条第7号)としている。これに基づき、障害のある人が職業を通じて社会参加できるよう、ハローワーク、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの機関を中心に、障害のある人が希望や能力、適性に応じた職場に就き、就労を継続し、職業生活において自立を図ることができるようにするための支援を実施している。

オ 助成金等による企業支援や普及啓発活動

国では、民間企業が無理なく、かつ積極的に障害のある人を雇用できるよう、障害のある人を雇用した場合などに助成金を支給している。

例えば、身体に障害のある人や知的障害のある人、精神障害のある人を継続して雇用する労働者として雇い入れる民間企業に対して助成する「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」や、障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した事業主に対して助成する「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)」、障害のある人を雇い入れたり、継続して雇用するために必要な職場の環境整備等を行った場合に費用の一部を助成する障害者雇用納付金制度に基づく助成金等を支給している。

また、障害のある人の雇用義務の対象であるものの障害のある人を1人も雇用していない民間企業等を対象に、ハローワーク等が中心となって就労支援機関等と連携した「障害者雇用推進チーム」を設置し、民間企業ごとの状況やニーズ等に合わせて採用に向けた準備から職場定着まで一貫した支援を行う「企業向けチーム支援」を行っている。2024年4月からは、これらの支援に加えて、障害者雇用の経験やノウハウが不足する事業主に対して障害者の一連の雇用管理に関する相談援助の事業を行った事業者に対する助成制度を創設し、民間事業者による取組も推進している。

このほか、民間企業等が積極的に障害のある人の雇用を進めるためには、障害のある人の雇用管理に関する先進的な事例等を普及啓発する必要がある。そのため、各種マニュアル等を発行し、民間企業等への配布等を通じて障害のある人の雇用の啓発を行っている。2017年度からは、一般労働者を対象とした「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を開催し、職場における精神・発達障害のある人を支援する環境づくりにより職場定着を推進するため、企業内において精神・発達障害のある人を温かく見守り、支援する応援者を養成し、精神・発達障害のある人に対する正しい理解の促進に取り組んでいる。さらに、2020年度より、障害者の雇用の促進等に関する事業主の取組に関し、その実施状況が優良なものであること等の基準に適合するものである旨の認定を行い、認定された事業主について、その商品等に厚生労働大臣の定める表示(認定マーク(愛称:もにす))を付すことができる中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)を設けている。この認定を受けることで、中小事業主にとっては、自社の商品や広告等への認定マークの使用によるダイバーシティ・働き方改革等の広報効果や、障害のない者も含む採用・人材確保の円滑化といった効果が期待できる。2023年9月末時点で331事業主をもにす認定事業主として認定している。

また、厚生労働省では、毎年9月の「障害者雇用支援月間」に障害のある人を積極的に多数雇用している事業所、職業人として模範的な業績をあげている勤労障害者等に対し、厚生労働大臣表彰を行い、障害のある人の職業的自立の意欲を喚起するとともに、障害のある人の雇用に対する国民の関心と理解を一層深めることを目指している。2023年度には9の障害者雇用優良事業所、1名の障害者の雇用の促進と職業の安定に貢献した個人及び10名の優秀勤労障害者の表彰を行った。

(「障害者雇用支援月間」厚生労働省ホームページ)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34895.html

精神・発達障害者しごとサポーター養成講座
写真:厚生労働省

カ 税制上の特例措置

障害のある人を雇用する民間企業に対し、税制上の特例措置を講じている。具体的には、障害者雇用納付金制度に基づく助成金(障害者作業施設設置等助成金等)の支給を受け、それを固定資産の取得又は改良に使った場合、その助成金分は、圧縮記帳により損金算入(法人税)、又は総収入金額に不算入(所得税)とする取扱い等を講じている。

キ 障害者差別禁止と合理的配慮の提供

雇用分野において障害があることを理由とした差別を禁止し、過重な負担とならない限り、合理的配慮の提供を事業主に義務付けている。

このため、障害者差別の禁止及び合理的配慮の提供義務に関するリーフレットや合理的配慮に係る事例集等を作成・配布して周知・啓発に努めている。また、全国の都道府県労働局・ハローワークにおいて事業主・障害のある人からの相談に応じ、必要な場合は事業主に助言・指導等を行っているほか、都道府県労働局長による紛争解決の援助や障害者雇用調停会議を行っている(2022年度実績:相談件数225件、助言件数1件、指導件数0件、勧告件数0件、紛争解決援助申立受理件数1件、調停申請受理件数9件。)。

/厚生労働省
第3章第2節 1.障害のある人の雇用の場の拡大
TOPICS(トピックス)(9)
障害者雇用促進法の改正について(雇用の質の観点から)

2023年6月1日時点の障害者雇用状況の集計結果では、実雇用率が2.33%と12年連続で過去最高を更新し、また初めて実雇用率が報告時点の法定雇用率(2023年は2.3%)を上回ったほか、雇用障害者数は642,178.0人と20年連続で過去最高を更新するなど、一層進展している。

他方、今後更なる障害者雇用の進展を図る上では、雇用率の達成を促進していくのみならず、雇用の質の向上にも目を向けていくことが重要であると考えられるが、事業主として雇用率を達成することに注力するあまり、雇用後の障害のある人の活躍やキャリアアップの機会が不十分になることがないよう、「障害者雇用促進法」の事業主の責務規定を改正し、適切な雇用管理等に加え、雇用する障害者に対する「職業能力の開発及び向上」を事業主の責務として追加した。

また、「障害者雇用促進法」では、社会連帯の理念の下、障害者雇用義務制度とあいまって、障害のある人の雇用に伴う経済的負担を調整するため、事業主の共同拠出による障害者雇用納付金制度が設けられているところ、雇用の質の観点を踏まえて改正を行った。

具体的には、一定の数を超えて障害のある人を雇用している場合に、その超過分に応じて事業主に支給する障害者雇用調整金等の額について、一定規模以上の障害のある人を雇用している場合の調整金等の額を減額するとともに、雇用の質を高める観点から、事業主が取り組む職場環境の整備や能力開発のための措置等を支援する障害者雇用納付金助成金において、雇入れや雇用継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する相談援助の支援(障害者雇用相談援助事業)の創設、加齢に伴い職場への適応が困難となった障害のある人への雇用継続の支援を行う場合の拡充等の見直しを行った。

資料:厚生労働省

(3)公務部門における障害者雇用について

ア 障害のある人の活躍の場の拡大に関する措置

国及び地方公共団体の機関については、民間企業に率先して障害のある人の雇入れを行うべき立場にある。加えて、2018年の公務部門における障害者雇用の不適切計上事案が明らかになったことを踏まえ、雇用率の達成はもとより、雇用の質の向上を実現するため、障害者雇用推進者、障害者職業生活相談員の選任義務等に加え、2020年4月からは障害者活躍推進計画の作成・公表義務を課しており、各機関においては当該計画に基づき障害者雇用を進めるとともに、その取組状況について点検し、毎年公表しなければならないとされている。

厚生労働省としては、各機関における活躍推進計画の作成やそれに基づく取組の実施に対して必要な助言、援助等を行うことを通じて、障害のある人が活躍できる職場づくり等に対する各機関の自立的な取組を支援している。

イ 国の行政機関における雇用率の達成や障害のある人の活躍の場の拡大を図るための支援策

① 支援体制の整備

国及び地方公共団体においては、障害者雇用推進者及び障害者職業生活相談員を選任しなければならないとされており、各機関において配置を義務付けている障害者職業生活相談員については、障害のある人の職業生活に関する相談及び指導を行うに当たって必要な知識・スキルの付与を行う「障害者職業生活相談員資格認定講習」の受講等を選任要件としており、当該講習は厚生労働省において実施している。

② 障害者雇用に関する理解の促進

人事院において、一般職国家公務員における合理的配慮の考え方等を定めた「職員の募集及び採用時並びに採用後において障害者に対して各省各庁の長が講ずべき措置に関する指針(国家公務員の合理的配慮指針)」を2018年12月に策定するとともに、2020年1月には各府省において提供された合理的配慮の事例を把握し、厚生労働省とも連携して取りまとめ、各府省に提供している。

内閣人事局を中心として厚生労働省、人事院の協力の下、公務部門において障害のある人を雇用する際に必要となる基礎知識や支援策等を整理した「公務部門における障害者雇用マニュアル」を2019年3月に作成した(「障害者雇用促進法」の改正内容を踏まえ、2024年1月に改訂)。

厚生労働省において、国の機関における障害者雇用に関する理解の促進を図るため、以下の取組を実施している。

・障害者雇用の際に必要となる設備改善・機器導入に関する情報について、国の機関の人事担当者等を対象に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に蓄積されたノウハウ・情報の提供

・国の機関等の人事担当者等を対象に、障害のある人の働きやすい職場環境づくりや障害特性に応じた雇用管理を内容とする「障害者雇用セミナー」の開催

・障害のある人とともに働く国の機関及び地方自治体等の職員を対象に、精神・発達障害の特性を正しく理解し、職場でこれら障害者を温かく見守り、支援する応援者となるための「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」(あわせて同講座のe-ラーニング版を提供)を実施

・各府省における障害者雇用の取組を好事例として収集し、各府省に共有(2023年9月に更新)

内閣人事局において、障害特性を理解した上での雇用・配置や業務のコーディネートを行う障害者雇用のキーパーソンとなる職員を養成するための「障害者雇用キーパーソン養成講習会」を実施している。

③ 職場実習の実施

厚生労働省において、各府省における障害のある人の採用に向けた着実な取組を推進するため、各府省等の人事担当者等を対象に、各府省が行う特別支援学校等と連携した職場実習の実施に向けた支援を実施している。

④ 職場定着支援等の推進

厚生労働省において、ハローワーク等に各府省からの職場定着に関する相談を受け付ける窓口を設置して、各府省において働く障害のある人やその上司・同僚からの相談に応じるほか、専門の支援者を配置して各府省からの要請等に応じて職場適応支援を実施している。

また、各府省が自ら職場適応に係る支援を適切に行えるようにするため、職員の中から選任した支援者に必要な支援スキル等を付与する支援者向けセミナーを実施している。

内閣人事局において、就労支援機関等と連携し、各府省からの依頼に応じて、障害者雇用に知見を有する専門家を一定期間、各府省の職場に派遣し、採用、定着、職業能力の開発及び向上等に関する助言等を行う専門家派遣事業を実施している。

目次]  [前へ]  [次へ