第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 3
第1節 障害のある子供の教育・育成に関する施策
3.社会的及び職業的自立の促進
(1)特別支援学校と関係機関等の連携・協力による就労支援
障害のある人が、生涯にわたって自立し社会参加していくためには、企業等への就労を支援し、職業的な自立を果たすことが重要である。しかしながら、2023年5月1日現在、特別支援学校高等部卒業者の進路をみると、福祉施設等入所・通所者の割合が約62.7%に達する一方で、就職者の割合は約29.3%となっており、職業自立を図る上で厳しい状況が続いている。
障害のある人の就労を促進するためには、教育、福祉、医療、労働などの関係機関が一体となった施策を講じる必要がある。
このため、文部科学省では、厚生労働省と連携し、各都道府県教育委員会等に対し、就労支援セミナーや障害者職場実習推進事業等の労働関係機関等における種々の施策を積極的に活用することや、福祉関係機関と連携の下で就労への円滑な移行を図ることなど障害のある生徒の就労を支援するための取組の充実を促している。
(2)高等教育等への修学の支援
障害のある人が障害を理由に高等教育への進学を断念することがないよう、修学機会を確保することが重要である。このため、文部科学省では、出願資格について、必要に応じて改善することや、合理的配慮の提供により、障害のない学生と公平に入学試験を受けられるようにすることなど、適切な対応を求めている。
また、大学・短期大学・高等専門学校(以下本章では「大学等」という。)における障害のある学生の在籍者数が増加していることや、2024年4月に、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」(令和3年法律第56号)が施行され、私立を含む全ての大学等において、障害のある学生への合理的配慮の提供が法的義務となること等を踏まえ、高等教育段階における障害のある学生の修学支援の在り方について検討を行うため、「障害のある学生の修学支援に関する検討会」を開催し、検討結果を「第三次まとめ」としてとりまとめ、各大学等へ周知した。併せて、先進的な取組や知見を持つ大学等が中心となり、大学や関係機関等が参加・連携するプラットフォームを形成することで、高等教育機関全体における障害学生支援体制の推進を図る「障害のある学生の修学・就職支援促進事業」を実施した。
独立行政法人日本学生支援機構においては、大学等における障害のある学生への支援の充実に資するよう、全国の大学等における障害のある学生の状況及びその支援状況について把握・分析するための実態調査、各大学等が適切な対応を行うために参考にできる事例集の周知、理解・啓発促進を目的としたセミナーや実務者育成のための研修会の開催などの取組を継続して行っている。
大学入学共通テストや各大学の個別試験において、点字・拡大文字(大学入学共通テストにおいては、障害のある入学志願者によりきめ細かに配慮する観点から、拡大文字問題冊子について、14ポイント版、22ポイント版を作成)による出題、筆跡を触って確認できるレーズライター(ビニール製の作図用紙の表面にボールペンで描いた図形や文字がそのままの形で浮き上がるため、描きながら解答者が筆跡を触って確認できる器具)による解答、文字解答・チェック解答(専用の解答用紙に選択肢の数字等を記入・チェックする解答方式)、パソコン(タブレット端末を含む。)の利用、試験時間の延長、代筆解答、試験問題の人による読み上げ等の受験上の配慮を実施している。
令和6年度大学入学共通テストの受験上の配慮においては、より丁寧な情報提供が行えるように、「受験上の配慮案内」の配慮内容や申請書類に関する記載について見直しを行っている。
学校施設については、障害のある人の円滑な利用に配慮するため、従来よりエレベーターやスロープなどのバリアフリー化に関する施設整備を進めるとともに、支障なく学生生活を送れるよう、各大学等において授業支援等の教育上の配慮が行われている。
聴覚障害及び視覚障害のある人のための高等教育機関である筑波技術大学では、社会に貢献できる先駆的な人材を育成すること及び世界的な視野で聴覚・視覚障害者に対する高等教育の充実と発展に寄与することを教育理念とし、障害特性に合わせた情報保障及び障害補償能力の育成による「伝わる・伝える」教育等を提供することにより、主体的に考え、自律的に行動する力、自立した社会人・職業人として社会に貢献できるコミュニケーション力、さらには、多様な文化を理解し、グローバルな幅広い視野をもって発信・行動する力を身につけた人材の育成に取り組んでいる。
テレビ・ラジオ放送等のメディアを効果的に活用して、遠隔教育を行っている放送大学では、自宅で授業を受けることができ、障害のある人を含め広く大学教育を受ける機会を国民に提供しており、障害のある学生に対しては、放送授業の字幕放送化の推進や単位認定試験における点字出題や音声出題、試験時間の延長等を行っている。また、知的障害のある人やその支援者への生涯学習支援につながる学習コンテンツの作成に向けた検討を行っている。
(3)地域における学習機会の提供
障害のある子供の学校外活動や学校教育終了後における活動等を支援するためには、地域における学習機会の確保・充実を図るとともに、障害のある人が地域の人々と共に、地域における学習活動に参加しやすいように配慮を行う必要がある。
文部科学省では、公民館や図書館、博物館といった社会教育施設について、それぞれの施設に関する望ましい基準を定めるなど、障害の有無にかかわらず、全ての人々にとって利用しやすい施設となるよう促している。
(4)生涯を通じた学びの支援
障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現とともに、障害のある人が、生涯にわたり自らの可能性を追求できる環境を整え、地域の一員として豊かな人生を送ることができるようにすることが重要である。2018年3月に閣議決定された「障害者基本計画(第4次)」及び2018年6月に閣議決定された「第3期教育振興基本計画」において、障害のある人の生涯学習の推進について初めて明記され、それぞれ現行の計画に引き継がれている。
両計画に記載されているとおり、文部科学省では、「学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業」として、学校から社会への移行期や人生の各ステージにおける効果的な生涯学習プログラムの開発、実施体制等に関する実践研究及び生涯を通じた共生社会の実現に関する調査研究を行っている。2023年度の調査研究では、特別支援学校及び社会教育施設を対象とした「生涯学習を通じた共生社会の実現に関する調査研究」を実施した。実践研究は、都道府県が中心となり市区町村や大学、特別支援学校、社会福祉法人等が参画する「地域コンソーシアムによる障害者の生涯学習支援体制の構築」、市区町村と民間団体が連携して障害者を包摂する生涯学習プログラムを開発する「地域連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進」、「大学・専門学校等における生涯学習機会創出・運営体制のモデル構築」の3メニューで37団体を採択し、障害のある人の多様な学びの場の創出や持続可能な体制整備等の実現に向けた取組を実施した。
障害のある人の学びに関する普及・啓発や人材育成に向けた取組では、2019年度からは上記研究事業の成果の普及や、障害に関する理解の促進、支援者同士の学び合いによる学びの場の担い手の育成、障害のある人の学びの場の拡大を目指し、「共に学び、生きる共生社会コンファレンス」を主催し、2023年度は全国13か所において開催した。2023年10月には、障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現に向けた啓発として、「超福祉の学校@SHIBUYA~障害の有無をこえて、共に学び、創るフォーラム~」を、特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所との共催で開催した。そのほか、2017年度より、障害のある方の生涯学習を支える活動について他の模範と認められるものに対して、その功績を称える文部科学大臣表彰を行っている。2023年度は、長年にわたる個人・団体の功績を称える「功労者表彰」について45件、新しいチャレンジや分野を超えた連携の成果が認められた「奨励活動表彰」について6件を表彰した。これらの多様な活動が、今後のモデルとなり各地で広く展開されていくことを期待し、被表彰者の取組事例を事例集にまとめホームページで公開するとともに、注目すべき取組について動画で紹介している。
資料:文部科学省
~超福祉の学校@SHIBUYA〜
障害当事者を始め家族、支援者、教育関係者・福祉関係者等が学び合う啓発イベントとして、2018年より文部科学省と特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所の共催で実施しているフォーラムイベント「超福祉の学校@SHIBUYA」が、2023年10月27日~29日にハイブリッド形式で開催された。13のシンポジウムのうち、障害のある人にとっての生涯学習の機会が、学習を受ける障害当事者だけの学びではなく、学びに関わる全ての人々にとって新たな気付きや学びがあることに着目し「共に学ぶ」ことをテーマとした2本のシンポジウムを紹介する。
https://peopledesign.or.jp/school/
※ シンポジウムはアーカイブにて視聴可能
○シンポジウム「『共に学ぶ』の先にある『共に生きる』を考える」
福祉サービス事業やアートを通じた街づくりに取り組む認定特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ(静岡県浜松市)では、重度の知的障害のある当事者の方と地域の方々が活動や生活をともにする中で、お互いに新しいことに出会う、それを双方向の学び(共に学ぶ)ととらえてみようという試みで、様々な学びの機会を創出している。
シンポジウムでは、その活動紹介に続き、実際に活動に参加した方から、重い知的障害のある方々と「ともにいること」で生じた関係性の変化や発見が語られ、自身にどのような学びがもたらされたのかを共有した。
○シンポジウム「大学生発!みんなのマナビ、私のマナビ」
障害のある方の高等教育機関への進学は、いまだ限られている現実がある。進学という形ではなくとも、履修プログラムやゼミ、サークルやボランティア活動等様々な形で、大学が関わる障害のある人の学校卒業後の学びの機会が広がりつつある。
シンポジウムの登壇者は、神戸大学「KUPI」、相模女子大学「インクルーシブ生涯学習プログラム」、田園調布大学重度重複障害者への訪問学習支援サークル「Bonds」、名古屋大学「ちくさ日曜学校」に参加する学生等で、それぞれの活動を紹介するとともに、彼らが気付いたこと、考えたことが発表された。
「私たちは支援者ではない。私たちが教えられることもたくさんある。また、一緒により良いプログラムをつくる対等な立場でもある」と「共に学ぶ」ことの楽しみのほか、改めて「学び」の在り方を問う葛藤などが語られた。
資料:文部科学省
「障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会」の実現を目指し、文部科学省では、「学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業」に取り組んでいる。特に、移動や参加に支援が必要な重度の障害や医療的ケアを必要とする方が地域の中で安心・安全に参加できる場づくりについて、「重度重複障害児者等の生涯学習に関する実態調査」を実施し、地域の生涯学習に関わる方々に、学びの現状や生涯学習への期待、実際の取組事例(集合型、訪問型、遠隔型、ICTの活用等)を知っていただくための冊子を作成・配布した。また、実践研究事業にて、モデルとなる事業を採択し、その普及促進に取り組んでいる。
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_01845.html
○令和5年度実践研究より重度重複障害者が参加する取組事例
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1418341_00005.htm
・地域連携による訪問カレッジ・オープンカレッジ(国立大学法人愛媛大学)
資料:文部科学省
四国地区を中心とした重症心身障害者等に対し、個別型の「訪問カレッジ」及び集団型の「オープンカレッジ」を実施し、学習機会を提供するとともに、オンラインコンテンツの製作やコーディネーター、指導者、スタッフを養成する取組を実施している。
・訪問学習支援(重度障害者・生涯学習ネットワーク)
資料:文部科学省
重症心身障害者・医療的ケア者対象の訪問型生涯学習支援「訪問カレッジ」を持続可能な制度にすることを目的に、訪問型生涯学習支援における効果的な学習プログラム、運営・地域連携、人材育成、理解啓発を行っている。
・肢体不自由者へのICTを活用した学習支援(株式会社CMU Holdings)
特別支援学校卒業後、生活介護事業所に通所する方へ、訪問又はリモートでの支援により、ICTを活用した就労研修や豊かな生活のための学習支援を行っている。