第5章 住みよい環境の基盤づくり 第1節 2
第1節 障害のある人の住みよいまちづくりと安全・安心のための施策
2.ユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー施策の推進
「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考え方を踏まえた、「バリアフリー法」に基づき、施設等(旅客施設、車両等、道路、路外駐車場、都市公園、建築物等)の新設等の際の「移動等円滑化基準」への適合義務、既存の施設等に対する適合努力義務を定めている。
また、「バリアフリー法」に基づく「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(令和2年国家公安委員会・総務省・文部科学省・国土交通省告示第1号)に係るバリアフリー整備目標について、障害当事者団体や有識者の参画する検討会において議論を重ね、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化の一層の推進、聴覚障害及び知的障害・精神障害・発達障害に係るバリアフリーの進捗状況の見える化、「心のバリアフリー」の推進等を図るとともに、新型コロナウイルス感染症による影響への対応等も考慮して、2020年11月に最終取りまとめを公表し、「移動等円滑化の促進に関する基本方針」を改正して5年間の新たなバリアフリー整備目標を2021年4月に施行した。現在の同整備目標は、2021年度から5年間を目標期間としているものであり、2026年度以降の新たな整備目標の策定に向けて、2024年度以降、検討を開始する。
加えて、「交通政策基本法」(平成25年法律第92号)に基づく「交通政策基本計画」においても、バリアフリー化等の推進を目標の1つとして掲げている。
また、市町村が作成する「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」に基づき、移動等円滑化促進地区及び重点整備地区において面的かつ一体的なバリアフリー化を推進しているとともに、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め協力を求める「心のバリアフリー」を推進するため、高齢者、障害のある人等の介助体験や擬似体験を行う「バリアフリー教室」等を開催しているほか、バリアフリー施策のスパイラルアップ(段階的・継続的な発展)を図っている。
項目 | 2022年度末 (現状値) |
2025年度末までの 数値目標 |
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鉄軌道 | 3,000人/日以上及び 基本構想の生活関連施設に 位置付けられた2,000人/ 日以上の鉄軌道駅における バリアフリー化率 |
段差の解消※1 | 約94%※5 | 原則100% |
視覚障害者誘導用ブロック※2 | 約43%※5 | 原則100% | ||
案内設備※3 | 約77%※5 | 原則100% | ||
障害者用トイレ※4 | 約92%※5 | 原則100% | ||
ホームドア・可動式ホーム柵の設置番線数 | 2,484番線 (493番線)※6 |
3,000番線 (800番線)※6 |
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鉄軌道車両 | 約57%※7 | 約70% | ||
バス | 3,000人/日以上及び 基本構想の生活関連施設に 位置付けられた2,000人/ 日以上のバスターミナルに おけるバリアフリー化率 |
段差の解消※1 | 約93%※5 | 原則100% |
視覚障害者誘導用ブロック※2 | 約86%※5 | 原則100% | ||
案内設備※3 | 約77%※5 | 原則100% | ||
障害者用トイレ※4 | 約71%※5 | 原則100% | ||
乗合バス車両 | ノンステップバス | 約68%※7 | 約80% | |
リフト付きバス等(適用除外車両) | 約7%※7 | 約25% | ||
空港アクセスバスにおけるバリアフリー車両※8 | 約40%※7 | 約50% | ||
貸切バス車両 | 1,157台※7 | 約2,100台 | ||
タクシー | 福祉タクシー車両 | 45,311台※7 | 約90,000台 | |
ユニバーサルデザインタクシー※9 | 約19%※7 | 約25% | ||
旅客船 | 2,000人/日以上の旅客船 ターミナルにおけるバリア フリー化率 |
段差の解消※1 | 93%※5 | 原則100% |
視覚障害者誘導用ブロック※2 | 67%※5 | 原則100% | ||
案内設備※3 | 約53%※5 | 原則100% | ||
障害者用トイレ※4 | 約85%※5 | 原則100% | ||
旅客船(旅客不定期航路事業の用に供する船舶を含む。) | 約56%※7 | 約60% | ||
航空 | 2,000人/日以上の航空旅客 ターミナルにおけるバリア フリー化率 |
段差の解消※1 | 93%※5 | 原則100% |
視覚障害者誘導用ブロック※2 | 98%※5 | 原則100% | ||
案内設備※3 | 93%※5 | 原則100% | ||
障害者用トイレ※4 | 100%※5 | 原則100% | ||
航空機 | 100%※7 | 原則100% | ||
道路 | 重点整備地区内の主要な生活関連経路を構成する道路等で 国土交通大臣が指定する特定道路におけるバリアフリー化率 |
約71% | 約70% | |
都市公園 | 規模の大きい概ね2ha以上 の都市公園におけるバリア フリー化率 |
園路及び広場 | 約64% | 約70% |
駐車場 | 約56% | 約60% | ||
便所 | 約63% | 約70% | ||
路外駐車場 | 特定路外駐車場 | 約72% | 約75% | |
建築物 | 床面積の合計が2,000m2以上の特別特定建築物 | 約64% | 約67% | |
信号機等 | 主要な生活関連経路を構成する道路に設置されている信号機等のバリアフリー化率 | 約98% | 原則100% | |
主要な生活関連経路を構成する道路のうち、道路又は交通の状況に応じ、視覚障害者の移動上の安全性を確保することが特に必要であると認められる部分に設置されている音響信号機及びエスコートゾーンの設置率 | 約56% | 原則100% | ||
基本構想等 | 移動等円滑化促進方針の作成 | 34自治体 | 約350自治体 | |
移動等円滑化基本構想の作成 | 321自治体 | 約450自治体 | ||
心のバリアフリー | 「心のバリアフリー」の用語の認知度 | 約22%※10 | 約50% | |
高齢者、障害者、妊産婦等の立場を理解して行動ができている人の割合 | 約81%※10 | 原則100% |
(1)基本理念
2018年の「バリアフリー法」改正により、同法に基づく措置は、「共生社会の実現」、「社会的障壁の除去」に資することを旨として行わなければならないことが基本理念として明記された。
(2)公共交通施設や建築物等のバリアフリー化の推進
「バリアフリー法」では、公共交通機関・建築物・道路・路外駐車場・都市公園について、「バリアフリー化基準」に適合するように求め、高齢者や障害のある人などが日常生活や社会生活において利用する施設の整備の促進によって、生活空間におけるバリアフリー化を進めることとしている。
なお、公共交通機関には、車両等も含まれるが、これらを新たに導入する際には、基準に適合させることとしている。
さらに、公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組を推進するため、一定の要件を満たす公共交通事業者等に対して、施設整備、旅客支援等を盛り込んだ「ハード・ソフト取組計画」の毎年度報告・公表を義務付けている。
(3)地域における重点的・一体的なバリアフリー化の推進
「バリアフリー法」において、市町村は、移動等円滑化を促進する必要がある地区を移動等円滑化促進地区とし、「移動等円滑化促進方針」を作成するよう努めることとされており、また、重点的かつ一体的に移動等円滑化のための事業を実施する必要がある地区を重点整備地区とし、「移動等円滑化基本構想」を作成するよう努めることとされている。
「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」の作成に当たっては、利用者の視点を反映するよう、以下の制度を設けている。
ア 協議会制度
「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」の作成の際、高齢者や障害のある人などの計画段階からの参加促進を図るため、計画作成に関する協議等を行う協議会制度を法律に位置付けている。この協議会は、高齢者や障害のある人、学識経験者その他市町村が必要と認める者で構成され、「移動等円滑化基本構想」の作成の際は、特定事業の実施主体も構成員として必要となる。
加えて、協議会の構成員として市町村から通知を受けた場合に、正当な理由がある場合を除き、必ず協議会に参加することとしており、協議の場の設定を法的に担保することで、調整プロセスの促進を図ることとしている。
イ 移動等円滑化促進方針及び移動等円滑化基本構想の作成における住民提案制度
「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」を作成する市町村の取組を促す観点から、「移動等円滑化促進方針」及び「移動等円滑化基本構想」の内容を、高齢者や障害のある人などが市町村に対し具体的に提案できる制度を設けている。
(4)バリアフリー化を推進する上での国及び国民の責務
ア 国民の理解促進
「バリアフリー法」では、バリアフリー化の促進に関する国民の理解を深め、バリアフリー化の実施に関する国民の協力を求めるよう努めることを国の責務として定めるとともに、高齢者や障害のある人などが円滑に移動し施設を利用できるようにすることへの協力だけではなく、高齢者や障害のある人などの自立した日常生活や社会生活を確保することの重要性についての理解を深めることが、国民の責務として定められている。さらに、2020年の「バリアフリー法」改正においては、「心のバリアフリー」の推進のため、国及び国民の責務として、高齢者障害者等用施設等の円滑な利用を確保する上で必要となる適正な配慮について明記した。
イ 「スパイラルアップ」の導入等
高齢化やユニバーサルデザインの考え方が進展する中、バリアフリー化を進めるためには、具体的な施策や措置の内容について、施策に関係する当事者参画の下、検証し、その結果に基づいて新たな施策や措置を講じることによって段階的・継続的な発展を図っていく「スパイラルアップ」の考え方が重要であり、「バリアフリー法」では、これを国の果たすべき責務として位置付けいる。この考え方を踏まえ、国が関係行政機関及び障害のある人を含む関係者で構成する会議を設け、定期的に移動等円滑化の進展状況を把握し、評価するよう努めることとされているため、国土交通省では、これまでに「移動等円滑化評価会議」を11回開催するなど、障害のある人等のニーズを丁寧に把握するとともに、バリアフリーに関する好事例を現地調査等により収集し、横展開を図ることで、バリアフリー施策のスパイラルアップを図っている。
「バリアフリー法」に基づき、駅などのハード面の整備に加え、高齢者、障害のある人等の移動等円滑化の促進に関する国民の理解及び協力を求めること、いわゆる「心のバリアフリー」を国の責務として推進している。これまでに、介助の擬似体験等を通じバリアフリーに対する国民の理解増進を図る「バリアフリー教室」の全国各地での開催や、鉄道利用者への声かけキャンペーン等の啓発活動の推進を行っている。
さらに、東京2020大会を契機とした共生社会の実現に向け、「心のバリアフリー」の観点からの施策の充実などソフト対策を強化する「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、2021年4月に全面施行された。
この改正を踏まえ、①「バリアフリー教室」の開催を一層充実させること、②鉄道の利用に当たり、高齢者、障害のある人等に対するサポートを行っていただくよう、呼びかけるキャンペーンを行うこと、③障害のある人等への接遇を的確に行うため、交通事業者による研修の充実及び適切な接遇の実施を推進するための「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン」及び「接遇研修モデルプログラム」を策定しており、交通事業者への継続的な周知等を行うことで、更なる接遇レベル向上を図ることとしている。また、2020年12月に開始した、バリアフリー対応に取り組み、その情報を積極的に発信している宿泊施設、飲食店、観光案内所、博物館を対象とした「観光施設における心のバリアフリー認定制度」では、2024年3月までに合計1,694施設を認定し、高齢者や障害のある人等がより安全で快適な旅行をするための環境整備を推進している。
「高齢者障害者等用施設等の適正な利用の推進」が国、地方公共団体、施設設置管理者及び国民の責務として規定されたことに伴い、広報活動及び啓発活動の一環として、バリアフリートイレ、車椅子使用者用駐車施設等、旅客施設等のエレベーター及び車両等の優先席の適正な利用の推進に向けて、キャンペーン等を実施し、真に必要な方が利用しやすい環境の整備を推進する。
2020年の「バリアフリー法」改正により、面的・一体的なバリアフリー化を図るために市町村が作成する計画(バリアフリー基本構想)に基づき、市町村や施設設置管理者等が実施する「心のバリアフリー」に関する事業である「教育啓発特定事業」が創設された。「教育啓発特定事業の実施に関するガイドライン」は、市町村等の教育啓発特定事業の継続的・計画的かつ円滑な実施を促進するため、具体的な進め方についての標準的な手法や望ましい実施方法等をマニュアルとして示したものである。
ガイドライン本編では、教育啓発特定事業を実施する意義、計画的かつ継続的な実施の必要性、「心のバリアフリー」や「障害の社会モデル」について理解を得ることの重要性、障害当事者の参画の意義、学校と連携して実施する場合のポイント等を掲載。また、実施マニュアルとして、教育啓発特定事業としての実施が想定される代表的な4つの取組(バリアフリー教室、まち歩き点検等、シンポジウム・セミナー、適正利用等の広報啓発)について、進め方、企画におけるポイントと留意事項、具体的な実施方法、フィードバックのやり方等について、実施事例等を紹介しつつ、標準的な手法や望ましい実施方法を提示している。
「心のバリアフリー」推進に係る取組については、これまでも、地方公共団体等において様々な取組が行われてきたが、引き続き、本ガイドラインを市町村に周知し、教育啓発特定事業を含む基本構想の策定と「心のバリアフリー」の推進を広く市町村に働きかけていく。