第5章 住みよい環境の基盤づくり 第2節 1
第2節 障害のある人の情報アクセシビリティを向上するための施策
1.情報アクセシビリティの向上
(1)障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律に係る取組
2022年5月に第208回通常国会において「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」(令和4年法律第50号)が議員立法により成立し、2022年5月25日に公布・施行された。
全ての障害のある人が社会を構成する一員として、社会、経済、文化等あらゆる分野の活動に参加するため、障害のある人が必要とする情報へのアクセシビリティを向上させることやコミュニケーション手段を充実させることは極めて重要であり、より一層の施策の推進が求められている。こうした状況を踏まえ、本法は障害のある人による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に関し、基本理念を定め、国や地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害のある人による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の基本となる事項を定めること等により、障害のある人による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とするものである。また、2023年3月に閣議決定された「障害者基本計画(第5次)」では、本法第9条第1項の規定に基づき、本法の規定の趣旨を踏まえ「情報アクセシビリティ・意思疎通支援の充実」に係る施策が盛り込まれている。
また、本法第11条第3項に基づき、障害のある人による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に関する協議の場を共管府省庁(内閣府、デジタル庁、総務省、厚生労働省、経済産業省)において開催し、障害のある人による情報取得等に資する機器開発等を行う事業者、障害のある人及び関係行政機関の職員その他の関係者を参集して、障害のある人による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に資するよう情報共有や意見交換等を実施している。2023年度は視覚障害をテーマに、障害者団体や事業者から、取組内容の説明を聴取し、意見交換を行った。
本法を踏まえ、障害のある人が必要とする情報へのアクセシビリティを向上させることやコミュニケーション手段を充実させるなど各種施策の更なる推進に向け、政府全体で取組を推進していく。
(2)総合的な支援
厚生労働省では「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に基づき、障害のある人の情報通信技術(ICT)の利用・活用の機会の拡大を図るため、ICT関連施策の総合サービス拠点となるICTサポートセンターの運営(32都道府県、8指定都市、1中核市:2023年度末時点)や、パソコンボランティア養成・派遣等の取組を支援している。
総務省では「デジタル活用共生社会実現会議」を開催し、年齢、障害の有無、性別、国籍等にかかわらず、デジタル活用の利便性を享受し、又は担い手となることで、誰もが豊かな人生を送ることができる「デジタル活用共生社会」の実現を目指すべきであるとした「デジタル活用共生社会の実現に向けて~デジタル活用共生社会実現会議報告~」を2019年4月に公表した。この報告に基づき、企業等が自社開発するICT機器・サービスの情報アクセシビリティ基準(JIS X 8341シリーズ等)への対応状況を自己評価する「情報アクセシビリティ自己評価様式」を普及促進する取組や、情報アクセシビリティに配慮したICT機器・サービスの活用、これらの開発を促進するためのデータベース(情報アクセシビリティ支援ナビ(Act-navi))による障害関連情報の提供をそれぞれ推進している。
誰もがデジタル活用の利便性を享受し、豊かな人生を送ることができるデジタル共生社会の実現のためには、障害のある人を含む誰もがICT機器やサービスにアクセスできるよう、情報アクセシビリティの確保が重要である。
「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(令和5年6月9日閣議決定)においては、「誰一人取り残されないデジタル社会の実現」に向けて、企業等が開発するデジタル機器・サービスが情報アクセシビリティ基準に適合しているかどうか自己評価し、公表する仕組み等の普及展開を推進するなど、情報アクセシビリティの推進の方向性が示されており、一層の取組を進めていく必要がある。
総務省では、2020年度に、欧米における同様の取組を参考にした「情報アクセシビリティ自己評価様式」を作成し、作成を支援するためのガイドブックと併せて公表を行った。また、政府情報システムに係る調達における当該様式の利活用推進のための調査を実施するとともに、民間企業等による様式作成の普及展開策として、アクセシブルなICT機器・サービスを好事例として公表する「情報アクセシビリティ好事例2023」及び企業向けセミナーを行っている。
2024年度以降においても、障害のある人を含む誰もがICT機器やサービスにアクセスできるよう、情報アクセシビリティの確保に向けて、関係省庁と連携し、当該様式の普及展開を推進していく。
(3)障害のある人に配慮した機器・システムの研究開発
情報通信の活用によるメリットを十分に享受するためには、障害のある人を含め誰もが、自由に情報の発信やアクセスができる社会を構築していく必要がある。
障害のある人の利用に配慮した情報通信機器・システムの研究開発の推進に当たっては、その公益性・社会的有用性が極めて高いにもかかわらず、収益性の低い分野であることから、国立研究機関等における研究開発体制の整備及び研究開発の推進を図るとともに、民間事業者等が行う研究開発に対する支援を行うことが重要である。
また、家電メーカーや通信機器メーカーにおいては、引き続き障害のある人・高齢者に配慮した家電製品の開発・製造に努めているところである。
(4)情報アクセシビリティに関する標準化の推進
情報アクセシビリティに関する日本産業規格(JIS)として「高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス」(JIS X8341シリーズ)を制定している(具体的には「共通指針」、「パーソナルコンピュータ」、「ウェブコンテンツ」、「電気通信機器」、「事務機器」、「対話ソフトウェア」、「アクセシビリティ設定」について制定)。
また、国内の規格開発と並行し、国際的な情報アクセシビリティのガイドライン共通化を図るため、JIS X8341シリーズのうち、「共通指針」、「パーソナルコンピュータ」及び「事務機器」について国際標準化機構(ISO)等へ国際標準化提案を行い、それぞれ国際規格が制定されている。2022年には、2020年に改訂された国際規格との整合性を図るため「事務機器」のJISを改正するとともに、電子書籍のアクセシビリティを評価するJIS X23761を制定している。
国際標準化機構(ISO)及び国際電気標準会議(IEC)の合同専門委員会(JTC1)は情報通信機器等のアクセシビリティを含む情報技術に関する国際規格を作成しており、我が国としても、引き続き国際標準化の議論に参画していく。
(5)ホームページ等のバリアフリー化の推進
各府省は、障害のある人や高齢者を含めた全ての人々が利用しやすいものとするため、ウェブコンテンツ(掲載情報)に関する日本産業規格(JIS X8341-3)を踏まえ、ホームページにおける行政情報の電子的提供の充実に努めている。
総務省では、公的機関がウェブアクセシビリティ(障害のある人や高齢者を含め、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できること)の向上に取り組む際の手順書となる「みんなの公共サイト運用ガイドライン」を策定し、ウェブアクセシビリティの確保・向上に取り組んでいる。2023年度は、本ガイドラインの一部改訂を行うとともに公的機関を対象とした取組状況に関するアンケート調査及び国、地方公共団体等の公式ホームページのJIS対応状況調査並びに全国5か所での公的機関向け講習会を開催した。2024年度も引き続きウェブアクセシビリティの普及啓発活動に取り組んでいく。
(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/guideline.html)
デジタル庁では、ウェブアクセシビリティに初めて取り組む行政官や事業者向けに、ウェブアクセシビリティの考え方や取り組み方のポイントを解説する「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」を民間専門人材の知見を活かして作成し、2022年12月にデジタル庁ウェブサイトにおいて公開した。2023年度においても随時更新を行っている。
(https://www.digital.go.jp/resources/introduction-to-web-accessibility-guidebook)