第3章 社会参加へ向けた自立の基盤づくり 第1節 1
第1節 障害のある子供の教育・育成及び学生支援に関する施策
1.特別支援教育の充実
(1)特別支援教育の概要
子供の成長や発達において、教育の場である学校は非常に重要である。障害のある子供も、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立や社会参加に必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じ、多様な学びの場において必要な支援や指導を受けられる必要がある。
現在、特別支援学校や小・中学校1の特別支援学級、通級による指導2において、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。特別支援教育は、特別な教育的支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものであり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対しても、合理的配慮の提供を行いながら、必要な支援を行う必要がある。
義務教育段階の児童生徒数が減少する中、特別支援教育を受ける生徒は増加している。2024年5月1日現在、特別支援学校(小学部・中学部)の児童生徒数は8.7万人、小・中学校の特別支援学級では39.5万人、小・中学校における通級による指導を受けている児童生徒は19.6万人3である。直近10年間4でいずれも大きく増加しており、小・中学校の特別支援学級や通級による指導を受けている児童生徒の伸びが大きい。また、通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒数の割合は、2022年度では、小・中学校において8.8%、高等学校において2.2%と推定されており、特別な教育的支援のニーズが高まっていると考えられる。


(2)多様な学びの場の整備
ア 特別支援教育に関する指導の充実
① 多様な学びの場における教育
障害のある子供には、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導、通常の学級における指導といった多様な学びの場が提供されている。2018年度からは高等学校段階における通級による指導が開始されている。また、障害のため通学して教育を受けることが困難な幼児児童生徒に対しては、家庭、児童福祉施設や医療機関等に教師を派遣して教育(訪問教育)を行っている。
「特別支援学校小学部・中学部学習指導要領」(平成29年文部科学省告示第73号)、「特別支援学校高等部学習指導要領」(平成31年文部科学省告示第14号)においては、(ア)重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性の確保、(イ)障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実、(ウ)キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育の充実等の観点から改善を図り、文部科学省では、特別支援学校学習指導要領を踏まえた適切な指導が行われるよう促している。
幼稚園、小・中学校及び高等学校における特別支援教育については、学習指導要領等において、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するなど個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に行うこととしている。これらの計画は、就学前から卒業後まで切れ目ない指導・支援を受けるために重要であり、幼児児童生徒の成長記録や指導内容等に関する情報を、情報の取扱いに留意しながら、必要に応じて関係機関間で共有・活用している。「障害者基本計画(第5次)」(令和5年3月14日閣議決定)でも、本人・保護者の意向等を踏まえつつ、医療、保健、福祉、労働等との連携の下、個別の指導計画や個別の教育支援計画の活用を促進することが明記されている。
2023年度の「特別支援教育体制整備状況調査」によると、特別支援学級に在籍している児童生徒や通級による指導を受けている児童生徒に対する作成状況は9割を超えている。ただし、通常の学級に在籍する幼児児童生徒のうち学校等が作成する必要があると判断した者に対する作成状況については、作成されていない学校も見られた。このため、個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成・活用を推進するよう都道府県教育委員会等に対して、文部科学省において、周知を行った。
「改正障害者差別解消法」により、私立学校を含む全ての学校に合理的配慮の提供が義務化された。これを踏まえ、各学校設置者や学校等が合理的配慮の内容を決定する際の参考となるよう、具体的な事例を取りまとめた参考資料5を作成・公表し、2023年度に都道府県教育委員会等に対して通知の発出を行った。加えて、教職員支援機構と連携し、小・中学校等の教職員を主な対象として、共生社会の実現に向けて、合理的配慮の提供と特別支援教育に関する校内支援体制の充実について、基本的な考え方等をまとめた研修動画を公表した。
また、「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議報告」(2023年3月公表)において、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への具体的な支援の在り方について示された方向性を踏まえ、特別支援学校と小・中・高等学校のいずれかを一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデルを創設することとした。2024年度より「インクルーシブな学校運営モデル事業」を実施し、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒が交流及び共同学習を発展的に進め、一緒に教育を受ける状況と、柔軟な教育課程及び指導体制の実現を目指し、実証的な研究を行っている。
② 障害のある児童生徒の教科書・教材の充実
特別支援学校の児童生徒の障害の状態等によっては、特別な配慮の下に作成された教科書が必要となる場合がある。このため、文部科学省では、従来から、文部科学省著作の教科書として、視覚障害者用の点字版、聴覚障害者用の国語(小学部は言語指導、中学部は言語)及び知的障害者用の国語、算数(数学)、音楽の教科書を作成している。2024年度には、知的障害者用の生活の教科書を新たに作成した。2025年度より社会、理科及び職業・家庭の教科書を新たに作成することとしている。
さらに、特別支援学校及び特別支援学級においては、検定済教科書又は文部科学省著作の教科書以外の図書(いわゆる「一般図書」)を教科書として使用することができる。
また、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等6の普及を図っている。具体的には、多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定め、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、2024年度に使用された小・中学校の検定済教科書については、ほぼ全ての拡大教科書が標準規格に則っている。標準規格の拡大教科書では学習が困難な児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書等を製作するボランティア団体などに対して教科書デジタルデータの提供を行い、拡大教科書等の製作の効率化を図っている。
このほか、通常の検定済教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、音声教材を提供している。教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げ箇所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等が音声教材として製作されている。その製作方法等の調査研究を関係協力団体(大学・特定非営利活動法人等)に委託し、成果物である音声教材を無償提供している。音声教材の提供人数は年々増加しており、2023年度には約2.6万人に提供された。
さらには、近年の教育の情報化に伴い、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、2018年に「学校教育法」(昭和22年法律第26号)等の改正等が行われた。これにより、視覚障害や発達障害等の障害等により紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の困難を低減させる必要がある場合には、教育課程の全部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書7を使用することが2019年度からできることとなった。文部科学省では、2024年度において、特別支援学校及び特別支援学級を含む全国全ての小・中学校等を対象として、英語等の学習者用デジタル教科書を提供した。
③ 学級編制及び教職員定数
公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要である。「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下本章では「義務標準法」という。)及び「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」(昭和36年法律第188号)に基づき、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。
・学級編制
1学級の児童生徒数の標準については、数次の改善を経て、現在、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、公立小・中学校の特別支援学級では8人となっている。
・教職員定数
公立の特別支援学校における児童生徒数が増加していることや障害が重度・重複化していることに鑑み、大規模校における教頭・副校長あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動8担当教師の配置が可能な定数措置を講じている。
2011年4月の「義務標準法」の一部改正では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大された。
また、2017年3月の「義務標準法」の一部改正により、2017年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行っている。このほか、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置を講じており、高等学校における通級による指導の制度化に伴い、2018年3月に「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律施行令」(昭和37年政令第215号)を改正し、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置を可能とした。
④ 教員の専門性の確保
教員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教員等に対する研修や講義配信を行っている。独立行政法人教職員支援機構においても、各地域の中心的な役割を担う教員を育成する研修等(中堅教員・次世代リーダー教員研修、幼児教育専門研修、共生社会を実現する教育研究セミナー)において、特別支援教育に関する内容を扱っている。また、特別支援教育に関する内容を含む、小学校等の教員等の初任者研修や中堅教諭等資質向上研修を都道府県教育委員会等で実施している。
大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ、教授可能な障害の種別(例えば「視覚障害者に関する教育」の領域など)を定めて授与されている特別支援学校教諭免許状については、2022年7月27日に「特別支援学校教諭免許状コアカリキュラム」9を策定し、2024年度入学生からは本カリキュラムに基づいた教職課程が開始されている10。
特別支援学校教諭免許状については、「教育職員免許法」(昭和24年法律第147号)上、当分の間、幼稚園、小・中学校及び高等学校の免許状のみで特別支援学校の教師となることが可能とされているが、特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、10年前に比べ上昇傾向にある(2023年5月現在)。
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援学校教諭免許状保有率の向上に向けて、放送大学と協働した免許法認定通信講習を開講している。
2022年3月31日に取りまとめられた「特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議」11報告やその後実施した各種調査の結果を踏まえ、特別支援教育を担う教師の専門性の向上に関して説明会や通知で教育委員会等における取組の実施を促している。2024年度には、採用後10年までに特別支援教育に関する経験が複数年あった教員の割合12や、管理職選考における特別支援教育の経験等に関する情報の把握・管理13について調査を行った。
⑤ 支援スタッフの積極的な登用
特別支援教育の推進に向け、教師以外の支援スタッフの登用も積極的に進めている。障害のある子供の学校における日常生活上・学習活動上のサポートを行う「特別支援教育支援員」の配置に係る地方財政措置の拡充や、学校における「医療的ケア看護職員」の配置に係る経費の一部補助等を進めている。2024年度においては、特別支援教育支援員について、73,200人分の地方財政措置が講じられ、医療的ケア看護職員について、4,550人分の配置に係る補助を行った。
イ 学校施設のバリアフリー化
学校施設は、多くの児童生徒が一日の大半を過ごす学習・生活の場である。このため、障害のある児童生徒が支障なく安心して学校生活を送ることができるようにする必要がある。また、災害時の避難所など地域のコミュニティの拠点としての役割も果たすことから、施設・設備のバリアフリー化を一層進めていく必要がある。
文部科学省では、学校施設におけるバリアフリー化の取組に対する支援の一つとして、エレベーターやスロープ、バリアフリートイレなどのバリアフリー化に関する施設整備に対して国庫補助を行っている。公立小・中学校等については、緊急かつ集中的に整備を行うため、2025年度末までの5年間の整備目標を定め、補助率の引上げを行うなど支援を強化している。
さらに、文部科学省ウェブサイト中に「学校施設のバリアフリー化の推進」14の特設ページを開設し、取組事例集、国庫補助制度、相談窓口ほか、学校設置者を始めとする関係者が活用可能な普及啓発ポスターや行政説明資料等、学校施設のバリアフリー化の検討や実施及び機運醸成等に資する資料を掲載した。


ウ 専門機関の機能の充実と多様化(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所)
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(NISE)は、我が国における唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、神奈川県横須賀市に設置されている。国の政策課題や教育現場等の喫緊の課題等に対応した研究活動を核として、各都道府県等において指導的立場に立つ教職員等を対象に、「特別支援教育専門研修」や高等学校における通級による指導などに関する「指導者研究協議会」を実施している。また、通常の学級の教師を含め障害のある児童生徒等の教育に携わる幅広い教師の資質向上の取組を支援するための研修講義のインターネット配信や特別支援学校の教師の免許法認定通信教育を実施している。NISEは発達障害に関する情報提供等を行う「発達障害教育推進センターウェブサイト」を開設するとともに、文部科学省、厚生労働省の協力の下、国立障害者リハビリテーションセンターと共同運営する「発達障害ナビポータル」や、合理的配慮の実践事例の掲載等を行う「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」及びデジタル教材等の支援機器等教材活用の情報を集約した「特別支援教育教材ポータルサイト」などにより情報発信している。「研究所セミナー」を開催して、研究成果の普及等を実施しており、ブロックごとに実施している「特別支援教育推進セミナー」を、2024年度はブロック外からも参加できるようにし、理解啓発活動も行った。
このほか、都道府県及び市町村が直面する課題について、その解決を図るため参画した都道府県及び市区町村教育委員会と協働して実施する「地域支援事業」や、国際的動向や諸外国の最新情報の収集及び海外との研究交流を行う「国際事業」等を行っている。
(3)充実した支援体制の整備
ア 切れ目ない支援体制整備
2012年に中央教育審議会初等中等教育分科会が取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」において、インクルーシブ教育システムを構築する上で、教育委員会や学校等は、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要であり、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークを形成することが有効であることなどが示された。
文部科学省では、特別な支援が必要な子供が、就学前から卒業後にわたる切れ目ない支援を受けられる体制の整備に必要な経費(①連携体制の整備、②個別の教育支援計画等の活用、③連携支援コーディネーターの配置、④普及啓発などに係る経費)の一部を補助する事業を実施するなどして、教育委員会や学校等における取組を推進している。

イ 教育と福祉等の連携
発達障害等の障害のある子供への支援に当たっては、学校と障害福祉サービス事業者との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有が必要である。文部科学省と厚生労働省は、家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクトを2017年12月に発足させ、2018年3月に、教育と福祉の連携を推進するための方策及び保護者支援を推進するための方策について報告書を取りまとめた。これを受け、両省協力の下、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所と国立障害者リハビリテーションセンターでは、「連携・協働に関する研修カリキュラム」や自治体向けに「研修実施ガイド」を作成し、前述の「発達障害ナビポータル」を活用して情報発信している。
文部科学省では、2018年8月に、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)の一部改正を行い、「個別の教育支援計画」の作成に当たっては、児童生徒等又はその保護者の意向を踏まえつつ、医療、福祉、保健、労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととした。また、2019年度から3年間にわたり、学校と放課後等デイサービス事業所などの障害児通所支援事業所の連携促進に資するため、連携に際してのマニュアルを作成するモデル事業に取り組み、周知を図った。
2023年4月には、こども家庭庁発足を踏まえ、こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省合同で課題の共有・検討等を行う「障害や発達に課題のあるこどもや家族への支援に関する家庭・教育・福祉の連携についての合同連絡会議」が設置された。2024年4月には、3省庁連名による「地域における教育と福祉の一層の連携等の推進について」の通知を発出し、厚生労働省では、2024年度において、「教育と福祉の連携推進のための委員会」を立ち上げ、連携促進方策の検討を進めている。
また、文部科学省では、2024年度において、発達障害のある児童生徒等に対する支援に関する家庭・教育・福祉の連携に関する好事例の収集及び事例集の作成等を行う調査研究事業を実施した。
ウ 発達障害のある子供に対する支援
「学校教育法等の一部を改正する法律」(平成18年法律第80号)により、幼稚園、小・中学校及び高等学校等のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育推進が法律に明記された。
2016年6月には「発達障害者支援法の一部を改正する法律」(平成28年法律第64号)が公布された(2016年8月施行)。発達障害のある児童生徒がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、可能な限り発達障害のある児童生徒が発達障害のない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮することや、支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等が規定された。文部科学省では、2020年度から2022年度まで、経験の浅い教師の専門性向上に関する支援体制等構築事業を実施し、2021年度からは、ICTを活用した自立活動の効果的な指導の在り方の調査研究を実施した。これらの事業で得られた成果については、文部科学省のホームページにおいて公表している。
2023年度より、発達障害のある子供への教育の充実のため、通級による指導の対象となっている児童生徒にとって効果的かつ効率的な通級による指導の実施に向けたモデル構築や、管理職をはじめとする教員の理解啓発・専門性向上のための体制構築等に関する研究を実施している。
こども家庭庁では、発達障害等に関する知識を有する専門員が、保育所等を巡回し、施設の職員や親に対し、気になる段階から支援を行うための体制の整備を図り、発達障害児等の福祉の向上を図ると共にインクルージョンを推進することを目的に「巡回支援専門員整備」を進めている。
エ 医療的ケアが必要な子供に対する支援
文部科学省が実施した学校における医療的ケアに関する調査の結果によると、特別支援学校や小・中学校等に在籍する医療的ケアが必要な幼児児童生徒の数は増加傾向にある。また、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(令和3年法律第81号)が2021年9月に施行された。文部科学省では、関係者が一丸となって、医療的ケアへの対応や環境整備の充実のため、教育委員会や学校等の取組を支援している。


学校において医療的ケアを行う看護師については、教員と連携協働しながら不可欠な役割を果たす支援スタッフである医療的ケア看護職員として、その職務内容について「学校教育法施行規則」に規定するとともに、教育委員会等における配置に係る支援等を行っている。
さらに、近年、小・中学校等においても医療的ケア児が増加傾向であることから、教育委員会等における医療的ケアに関する体制の整備等の参考となるよう、「小学校等における医療的ケア実施支援資料~医療的ケア児を安心・安全に受け入れるために~」を2021年6月に公表するとともに、小・中学校等で医療的ケア児を受け入れ、支える体制の在り方について調査研究を実施し、その成果を公開した。「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の施行等を踏まえ、2024年度においては各自治体における安定的な医療的ケア看護職員の確保に向け、医療的ケア児看護職員の人材確保・配置方法に関する調査研究を実施した。
医療的ケア児が安心して安全に学校等に通うことができるよう、主治医と学校医等との連携を推進することも重要である。2020年度の診療報酬改定において、医療的ケア児の学校医又は医療的ケアに知見のある医師に対して、医療的ケア児が学校生活を送るに当たって必要な情報を主治医が提供した場合の評価が新設されるとともに、医療的ケア児が普段利用する訪問看護ステーションからの必要な情報提供を、学校が受けられる機会が拡充された。2022年度の診療報酬改定において、算定対象先が追加されている。文部科学省では、診療報酬改定を踏まえ、主治医から学校医等への診療情報提供に基づく医療的ケアの流れやその際の留意事項等を整理し、教育委員会等に周知している。また、2024年度の診療報酬改定において、歯科医師から学校歯科医等に対して必要な情報を提供した場合の評価が新設された。
オ 私学助成
私立の小学校から大学までの学校(特別支援学校を含む。)における障害のある児童・生徒・学生等の就学への配慮や、特別支援学校、特別支援学級を置く小・中学校及び障害のある幼児が就園している幼稚園等の果たす役割の重要性から、これらの学校の教育環境の維持向上及び保護者の経済的負担の軽減を図るため、「私立学校振興助成法」(昭和50年法律第61号)に基づき、国は経常的経費の一部の補助等を行っている。
カ 家庭への支援等
文部科学省と地方公共団体は、障害のある子供の特別支援学校や小・中学校の特別支援学級等への就学支援の充実、障害のある子供の保護者等の経済的負担を軽減するため、保護者等の属する世帯全体の収入等を算定の基礎として支弁区分を決定し、その負担能力に応じて特別支援教育就学奨励費を支給している。
GIGAスクール構想の実現に向け、特に、障害のある児童生徒に対しては、障害のある児童生徒が1人1台端末を効果的に活用できるよう、一人一人に応じた入出力装置の整備を併せて支援するとともに、1人1台端末の一層の利活用を推進するため、特別支援教育就学奨励費等においてオンライン学習に必要な通信費についても支援を行っている。端末の活用に当たっては、児童生徒の障害の状態や特性等に応じた取組として、例えば、視覚障害のある児童生徒の場合、拡大機能、白黒反転機能等を搭載した端末を活用することで、各児童生徒においてより文字を見やすい状況を実現できるほか、聴覚障害のある児童生徒の場合、発話をテキスト変換する端末を使用することで、授業のやり取りを視覚的に理解することが可能になる。このように、一人一人の教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援をするに当たっての強力なツールとなることから、端末を積極的に活用し、各教科等の学習効果を高めたり、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導に効果を発揮したりする取組が重要である。
また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(NISE)においては、障害のある児童生徒の指導における適切なICTの活用を目的に、各地域における指導・支援の充実を図るため、ICT活用について指導実績がある教職員に対し、特別支援教育におけるICT活用に関わる指導者研究協議会を実施している。加えて、学校現場に役立つ事例を紹介したリーフレットの作成等を通じて障害のある児童生徒のICT活用の支援を行っている。
さらに、教材・支援機器の活用に関する実践事例や関連情報を広く提供するため運用している「特別支援教育教材ポータルサイト」について、2024年度より、実際の教材・支援機器を使用した動画コンテンツを掲載することにより、具体的な指導事例や活用方法の提供を行っている。


1 本節において、小学校には義務教育学校前期課程、中学校には義務教育学校後期課程及び中等教育学校前期課程、高等学校には中等教育学校後期課程を含める。
2 通級による指導
小・中学校及び高等学校の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対して、大部分の授業を通常の学級で行いながら、一部の時間で障害に応じた特別な指導を実施。対象とする障害種は、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由及び病弱・身体虚弱。
3 通級による指導を受けている児童生徒の総数は、2022年度通年の数。
4 通級による指導は直近8年間。
5 文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針の策定について
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/mext_02599.html
6 教科用特定図書等
視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定済教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定済教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒等の学習の用に供するために作成した教材であって検定済教科書に代えて使用し得るもの。
7 学習者用デジタル教科書
紙の教科書の内容の全部(電磁的に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材。
例えば、以下のような活用方法により、教科書の内容へのアクセスが容易となることが期待される。
①文字の拡大、色やフォントの変更等により画面が見やすくなることで、一人一人の状況に応じて、教科書の内容を理解しやすくなる。
②音声読み上げ機能等を活用することで、教科書の内容を認識・理解しやすくなる。
③漢字にルビを振ることで、漢字が読めないことによるつまずきを避け、児童生徒の学習意欲を支える。
④教科書の紙面を拡大させたり、ページ番号の入力等により目的のページを容易に表示させたりすることで、教科書のどのページを見るかを児童生徒が混乱しないようにする。
⑤文字の拡大やページ送り、書き込み等を児童生徒が自ら容易に行う。
8 自立活動:個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基盤を培う。(特別支援学校 小学部・中学部学習指導要領(平成29年4月告示))
9 特別支援学校教諭免許状コアカリキュラム
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/173/mext_00001.html
10 特別支援学校教諭の養成は、2024年4月現在約170の大学で行われている。
11 特別支援教育を担う教師の養成の在り方等に関する検討会議報告
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/173/mext_00031.html
12 令和5年度特別支援教育体制整備状況調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/1402845_00013.htm
13 令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1411820_00008.htm
14 「学校施設のバリアフリー化の推進」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/seibi/mext_00003.html