第1章 高齢化の状況(第3節 事例集)

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第3節 前例のない高齢社会に向けた対策・取組の方向性

事例集

(勤務形態を工夫するなどにより高齢者の意欲や経験を活用している企業の事例)

○希望者全員を「エルダー社員」として再雇用し、柔軟な勤務形態で活用している事例

滋賀県東浅井郡虎姫町及び長浜市でプラスチック製品の製造を行っている「菱琵テクノ株式会社」(従業員135名)では、60歳の定年後、希望者全員を「エルダー社員」として65歳まで再雇用している。また、条件付きではあるが、65歳以上の再雇用についても道を開いている。同社の社員135名のうち60歳以上が13名であり、66歳の高齢者も2名在籍している。なお、現在は退職しているが、最近まで72歳の高齢者も在籍していた。

以前は、同社には定年を迎えた社員を再雇用する制度がなく、健康で働く意欲がある社員でも退職せざるを得なかった。

平成13年度に事業拡大や自社ブランド製品の創設を行うに当たって、どうしても技術力のある社員の確保が必要不可欠な状況となった。そこで定年を迎えた社員の再雇用を実施することとした。当初は、事業拡大等がその要因のため、技術等を持った社員を再雇用するとの条件を付けていたが、高年齢者雇用安定法の改正や社員からの要望もあり、17年度からは希望者全員を65歳まで再雇用することとした。

エルダー社員は、勤務形態について、フルタイム勤務、ショートタイム勤務を選択できる。ショートタイム勤務では、一日の勤務時間や週の勤務日数も組み合わせて各個人の希望に応じて勤務できるようになっており、自らのライフプランに合わせて意欲的に仕事をすることができる仕組みとなっている。

同社は、多品種少量生産で、その品種は1万点にものぼる。多品種少量生産体制では自動化はかえって問題が多く、人手中心の生産ラインを構築した。しかしながら、人手中心の生産ラインでは、技術力のある社員が多数必要であり、そのための人材の確保と人件費が大きな問題となっていた。

この問題の解決策として、誰にでも作業ができる工程を増やす「DDK(誰にでもできる化)活動」を平成12年度から行ってきた。

この活動は、作業を分別整理、ムダを排除して、DDK工程になりうる作業を決定したのち、初めての人にでもできるように作業標準を作成、異常があった場合の処置を事前に想定し、社員に教育・訓練を実施した上、DDK工程として社として認定することとしている。この過程のなかで技術を持ったエルダー社員は、指導役や教育・訓練の講師等として中核的な役割を担っている。現在、全作業の約2割をDDK工程として認定し、「1~2時間の教育・訓練でできるもの」、「半日程度の教育・訓練でできるもの」、「数日の教育・訓練できるもの」の3つ分類している。同社では、今後は、全作業の半分をDDK工程としたいと考えている。

エルダー社員のひとりは、「今まで、製造部門では仕事をしていなかったが、DDK活動のおかげで、作業はしやすく、即戦力として仕事ができるので、助かっている。自社ブランドの研究・開発にも携われるのでやりがいがある。働けるうちは働きたい。」と話す。

また、DDK工程が増えたことにより、今まで作業経験のない高年齢者をシルバー人材センターから常時7~8人派遣してもらうなど社外からの高齢者の活用にも寄与している。

さらに、同社では、自主改善活動も積極的に行っている。具体的には、月1回外部講師を招いての勉強会の開催や毎月改善内容を社員全員が発表する場の設定などを行っている。社員は、改善の成果を発表する必要があることから、作業をするに当たって常にどうすればより良くできるのかという意識が植え付けられている。この活動の中からエルダー社員や女性からの意見により体力が必要な作業の軽減化などが実現している。

一方、DDK工程に適さない技術の必要な工程では、技術を持ったエルダー社員が必要不可欠な存在である。同社幹部は、「エルダー社員の技術は必要だが、いつまでも頼っているわけにはいかないので、その技術を早く伝承していけるようにと常に社員に言っている。」と言う。今後、技術を持ったエルダー社員には技術を伝承する役割も期待されている。

(平成18年度高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣表彰最優秀賞受賞)

○健康で希望すれば70歳代まで勤務延長し、高齢者の経験を活用している事例

秋田県秋田市で金属製品の製造を行っている「千代田興業株式会社」(従業員135名)は60歳定年であるが、定年後も希望者全員を65歳まで正規社員として再雇用をし、健康で本人が希望すれば70歳代までの勤務延長も行っている。

同社の社員のうち11名が60歳以上の再雇用者であり、最高齢は、71歳である。

正式に制度化したのは平成15年度からだが、従来から定年後の再雇用は行ってきており、移行はスムーズに行われた。以前は、社員側に再雇用されるか不安を持つ者や自分から再雇用してほしいと言っていいものか迷っている者もいたというが、制度化された現在は、社員側にそのような不安もなくなり、定年後の計画が立てられやすくなったとされている。

同社の再雇用制度においては、本人が希望しない限り同じポスト・同じ持ち場で引き続き慣れた仕事ができるようにしている。例えば、課長であった者は、そのまま課長として再雇用されている。だだし、役職制度を導入してから比較的年数が経過していない同社では、管理職が定年を迎えるケースは少ないようであるが、今後、増えてきた場合に、その処遇が課題となると考えている。

同社は、昭和50年代前半から資格取得等を中心とする社員教育を行ってきており、再雇用者も何らかの資格をもち、自分の技術に自信を持っていることもあり、今までの再雇用者は全員、フルタイム勤務を希望した。制度上は、短時間勤務や隔日勤務も可能であるが、それを希望した者は今までのところいない。

現場で働く70歳代の高齢者のひとりは、「いつも若者とはコミュニケーションを図るようにしているので、他部署の若者からも助言などを求められる。自分が認められていることがうれしい。年齢を忘れて仕事をしている。」と語っており、自分に自信のある技術・経験を持つとともに、他の若い社員から信頼を得ていることが元気に働ける要因のひとつになっている。

同社は年齢や部署の垣根を越えての交流が伝統的に盛んであるが、そういった企業風土によって効果が上っているのが、高齢者を含めた社員全員が参加する「改善活動グループ(職場改善委員会)」活動である。

この活動は、部署・年齢・役職に関わらず全社員が20ほどのグループに分けられ、同社の改善すべき点等を話し合う場である。これにより部署間の連携の強化や他部署の業務も考えて仕事に取り組むなどの効果を上げている。ここでも高齢者はその経験から助言を行うなど存在感を示しており、必要とされる存在だという意識が社として共通にあるという。

同社において、今後の課題としては、高齢者の社員が増えることによる安全面・健康面の管理や役職等の処遇、外部からの高齢者の受入れ等が考えられている。

特に、外部からの高齢者の受け入れは、うまくいく場合とそうでない場合に差が大きいという。従来の経験では、うまくいかない理由として前の会社のやり方に固執し、周囲にとけこめず、力を発揮できないことが挙げられており、今後、こうした場合の対応が課題である。

(平成18年度高年齢者雇用開発コンテスト (財)高年齢者雇用開発協会会長表彰優秀賞受賞)

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