第1章 高齢化の状況 


(高齢者が意欲をいかして自ら創業している事例)

○高齢者の持つ、指導者としての能力を活用している事例

 東京都中央区茅場町の株式会社「クオリス」(従業員40名)は、情報処理やシステム開発の事業を行う会社として平成15年9月に設立された。同社では、社内に経営や企画に携わる主要なスタッフ以外には技術者等をかかえず、それぞれのプロジェクトに必要な人材を適宜外部から調達するというシステムで業務を運営している。
 同社では、主に顧客の社内ネットワークシステムの構築や改修といった事業を受注していたが、その後、「組み込みソフト」と呼ばれる、携帯電話をはじめとする各種デジタル情報機器に内蔵されている制御プログラムの開発を手がけるようになり、現在、同社の主力事業に成長している。
 起業者は、外資系コンピュータメーカーに30年あまりシステムエンジニアや営業マンとして勤務していたが、55歳の時、ベンチャー企業に役員としてヘッドハンティングされ、転職したが、2年ほどで業績不振となり、責任をとる形で役員を辞任した。辞任時には57歳で別の会社を紹介してもらう話もあったが、小さくてもいいから自分の会社をつくりたいとの思いから起業を決意した。
 起業者である現在の代表取締役社長は、「経営者になってみると、サラリーマン時代とは考え方が一変して、何事もまず会社、次いで社員、最後に自分のことを考えるようになりました。特に、会社のことを考える中でも、資金繰りの大変さは予想をはるかに超えるものでした。公的な融資を受けるなどをして何とか事業を続け、事業開始から3年を経てようやく安定しましたが、本当に大変でした。」と話す。
 IT業界では、技術革新の速度が早く、持っている技術がすぐに陳腐化してしまい、最新の技術を習得しつづけなければならないため、加齢につれて技術水準を維持していくのが困難になっていく。このため、一般的には高齢者は敬遠されがちだが、同社では、逆に高齢の技術者を増やしたいと考えている。代表取締役社長は「当社では、韓国の大学と産学連携をしており、毎年100人規模で卒業生をプロジェクトスタッフとして受け入れることとしているため、OJTで指導できる者が必要なのです。高齢の技術者は、技能を持っているだけでなく、人材管理術など指導者として活用してもらう分野はとても多い。」と話す。しかし、60歳代前半でもハローワークや自社のホームページに求人を出しても応募がなく、以前の勤め先に紹介してもらっているのが現状で、高齢技術者の人材確保が課題となっている。
 代表取締役社長は、高齢者の起業について「高齢での起業は、確かにリスクが大きく、若い人と異なり失敗もできないなどハードルが高いことも事実です。もう5年早く起業すればよかったとも思っています。しかし、経営者として理想に向かって進めるという魅力は何にも変えられません。会社経営は大変ですが、理想に向かって頑張っていきたい。」と話している。

○社会貢献への意欲を実現するため自ら創業した事例

 静岡県浜松市の株式会社Stellar Be(従業員26人)は、中高年スタッフが中心となり再就職支援、自己実現へ向けてのキャリア・コンサルティング、研修などの事業を展開する会社として平成15年4月に創業した。
 「キャリア・コンサルティング」とは、自分の将来のキャリアを考える上で、社内や家庭での問題、転進の可能性といった個人が抱く不安に対して客観的な視点からアドバイスをすることにより本人の意識改革に役立てるものである。また、「再就職支援」とは、自分の経験や特性を整理し、進むべき目標を設定してその実現のための活動を支援するものである。同社では、このような支援業務で豊富な経験や専門性を持つ高齢者が中心となり支援に当たり、しかも、社員全員が株主になって運営している。
 起業者である取締役は、会社起業の根底について、「私がこういった事業をしようと思った原点は、20年以上前のアメリカ赴任時の体験にあります。アメリカでは、寄付や慈善事業などによる社会貢献が自己表現の1つのあり方として定着しています。アメリカ赴任中は何とも思わなかったのですが、日本に帰国してから社会貢献を当然のことと考えるアメリカ文化の素晴らしさに気付き、私も社会貢献活動に関心を持つようになりました。しかし、当時は家族を養っていかなければならなかったので、理想は理想としてやるべき仕事をやってきました。しかし、5年ほど前に子どもも独立し、住宅ローンの支払いも終わって、ようやく自分のために活動できる環境が得られたので、社会に貢献する仕事がやりたいと思いこの会社を起業することとしたのです」と話す。
 自己実現の手段で始めた会社ではあるが、当初から経営面での苦労は多く、特に資金繰りには自ら心を砕いてきたという。
 「うちはコンサルティング業の、コストは主として従業員の人件費と事務所の賃借料が主たるものである。賃借料は固定経費なので削減は困難であるため、どうしても人件費の抑制が常に課題となっていた。報酬について経営者から低く抑えてきており、従業員についてもこれまでのキャリアを考えると必ずしも十分な報酬ではなかったという。
 取締役は、「社員は皆、『ひとを生かす』『後に続く世代の役に立つ』というこの事業の趣旨に賛同して活動してくれていますので何とか経営を継続しています。おそらく、ほとんどの社員は、給与も大事ではあるが、“やり甲斐”ある仕事に満足感を得ていると思います。」と話す。
 現在在籍するコンサルタントは26名であり、年間に多くの高齢者を中心にした相談に応じている。コンサルティングには1件あたり十分な時間をかけ、相談者の意向をしっかり確認しながら、顧客満足を第一に取り組み、実績を積み重ねているところだという。
 取締役は、「高齢者も社会を担う時代、60歳代でも元気な人はたくさんいます。高齢者は人生経験を積んだ広い視野の持ち主でもあります。また、高齢世代の者は自分に近い世代の気持ちがわかるので的確な対応が可能と思っています。人を相手とするこの仕事には視野の広さは必須の資質であり、良い人材がいれば呼びかけて、一緒に活動していきたい。」と話している。

○高齢者が自らの経験をいかして創業した事例

 大阪府南河内郡太子町の有限会社「栄光ドルフィン」(従業員10人)は、一般貸切バス事業を実施する会社として平成16年5月に創業した。
 同社では、主に中国や韓国の旅行代理店から観光地巡りを受注し、日曜日や行楽シーズンはフル稼働だという。他に、地元の幼稚園や小学校から遠足時のバス移動の依頼が来ることもある。
 同社を起業したのは50代及び60代の4人のメンバーで、これまで、観光バスの運転やバス会社に勤務した経験を有していた。
 起業者の1人である代表取締役は「私を含め、これまで、バス事業に関連のあるメンバーだったので、起業にあたって他の業種は考えなかった。起業のリスクはあるが、仲間のつながりもあり、採算の見込みは立っていた。」という。4人で出資をして中古のバスを数台購入し、マンション等を借りて、事務所として営業許可を取得したが、発足当初は予想外の苦労も多く、「最近は落ち着いてきましたが、当初は資金繰りに本当に苦労しました。経費の使い方、投資の仕方に最も気をつかいました。それでも、目的地にお連れしてお客さんに喜んでもらえることが私たちの喜びであり、それが元気の源となって経営を続けることができました。」と話す。
 現在は、大型バス4台、中型バス1台及び小型バス2台の計7台を使って操業している。運転手はバスの数と同じ7人で、基本的に担当するバスを決めてそれぞれが責任をもって運行を行っており、ほとんどが50代と60代で経験豊富なベテランである。
 代表取締役は「貸切バスの運転は経験が技能に反映されます。様々な目的地へ運行しなければなりませんし、お客さんの要望で当日にコースの入れ替えが必要になる場合もあります。また、観光名所に必ず駐車場がついているわけではないなど、不測の事態もよくあり、スマートにバスを運行するには業務経験がとても重要です。経験者とともにしっかり勉強して、経験をつんでいくように日々こころがけています。」と話している。


 第3節 前例のない高齢社会に向けた対策・取組の方向性

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