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平成15年度 交通事故被害者支援事業報告書

第3章 パートナーシップ事業

I はじめに

 本章においては、平成16年度の「交通事故被害者支援事業」のうち、「パートナーシップ事業」について報告する。
今年度は、(社)秋田被害者支援センター(以下、「秋田センター」という。)及びNPO法人大阪被害者支援アドボカシーセンター(以下、「大阪センター」という。)における自助グループの立ち上げを支援するとともに、昨年度に立ち上げ支援を行ったNPO法人石川被害者サポートセンター(以下、「石川センター」という。)及び(社)いばらき被害者支援センター(以下、「いばらきセンター」という。)における自助グループの継続支援も実施した。
以下、その概要を紹介する。

II 事前研修・継続研修会(平成16年9月15・16日)

 2日間にわたって行われたこの研修会には、昨年度の自助グループ立ち上げ箇所である石川センター及びいばらきセンターと、今年度自助グループ立ち上げ箇所の秋田センター及び大阪センターから、それぞれ3名が、(社)被害者支援都民センター(以下、「都民センター」という。)に集まった。
 初日は、主として、今年度新たに立ち上げる自助グループのためのプログラムが組まれた。夕食を兼ねての交流会では、都民センターのスタッフも参加して様々な意見交換がなされた。
 2日目は、昨年度立ち上げた自助グループのための継続研修を主たる目的として、プログラムが組まれた。ただ、内容的には、今年度新たに立ち上げる自助グループにとっても、当然有用なものとした。
 事前研修と継続研修では、その対象者や状況が異なることから、研修会の構成、プログラムについては、来年度へ向けて検討が必要と思われる。
また、継続研修の参加者から、「継続研修を受ける者同士で意見交換をする時間があるとよかった」という意見があった。
 自助グループは、被害者・遺族の集まりであるから自由に話し合えばよい、という短絡的な考えから始めてしまうと様々な問題・弊害が生じるおそれがある。また、それに気づかないで行っている可能性もある。すでに自助グループを始めている所の全てに目を配ることはできないが、これから立ち上げようという場合、あるべき基本の姿、適切な運営の仕方などについて研修を受けてから始めることは非常に重要である。

内閣府自助グループ立ち上げ 事前研修及び継続研修会プログラム
平成16年9月15日(水) 開催場所:(社)被害者支援都民センター
時間担当内容
13:00〜13:30受付自己紹介
13:30〜14:30※1山上皓先生被害者支援の歴史、外国の自助グループ活動
14:40〜16:00都民センター自助グループとは、自助グループの進め方
16:00〜17:00※2吉田氏
※3照山氏
石川、いばらき:自助グループを始めるにあたって、自助グループを実施してみて−その感想と報告
17:00〜17:30
(準備・移動)
17:30〜19:30
交流会
※1 全国被害者支援ネットワーク会長・東京医科歯科大学教授
※2 NPO法人 石川被害者サポートセンター:事務局長 吉田詔子氏
※3 社団法人 いばらき被害者支援センター:事務局長 照山美和子氏
平成16年9月16日(木) 開催場所:(社)被害者支援都民センター
時間担当内容
9:00〜10:00都民センター被害者を取り巻く問題、二次被害、国の動き
10:10〜11:00都民センター相談員、ファシリテーターの役割と資質
自助グループの種類等について
11:10〜12:00 ※久保田氏
※小畑氏
※清澤氏
自助グループに参加して
12:00〜13:00
(昼食)
13:00〜15:00※安藤久美子先生 被害者の精神症状について
リラクゼーション
※都民センター自助グループメンバー:久保田由枝子氏、小畑智子氏、清澤郁子氏
※関東医療少年院 安藤 久美子先生

III 秋田センター:第1回自助グループ(平成16年10月7・8日)

(1)事前打ち合わせ

 秋田センターにおいては、自助グループとセンターが良い形で運営ができるように事前打ち合わせを行った。
出席者は、三浦氏(ファシリテーター、遺族)、秋田県警察(臨床心理士)の方、秋田センターの職員、都民センター職員であった。この研修には、毎回都民センターの自助グループの方に参加してもらった。第1回自助グループには、都民センターの研修生である検事も参加した。

 

○ 秋田センターの自助グループについて
秋田では、以前から秋田県警察の臨床心理士に相談をしながら、遺族の三浦氏を中心に、数人の遺族で試行的に自助グループを開始していた。そのため、秋田センターとしては、開催案内、会場の確保と準備、お茶等の世話を行う等、後方支援を計画していた。秋田という県民性(口が重い、第三者の存在への抵抗感等)を考慮して、秋田センターが積極的に関わるという考えには至っていなかった。また、遺族への個別の対応に関してもまだ不十分な支援体制であるため、今後の課題も大きい。これから、被害者のニーズに沿った支援体制を充実させていくには、より積極的な秋田センターの活動が望まれるところである。

○ 自助グループと秋田センターとの関係
試行的に行っていた自助グループの後には、ミーティングが行われ、その記録を残しているが、秋田センターのスタッフの間でそれにきちんと目を通していない等の問題が反省点として出た。また、支援員の中に専門的な資格を持つ人がいないことを懸念しているという発言に対しては、都民センターから資格等にこだわらず、被害者に対してその時期に応じた支援を考えていくことが大事であり、相互に連携を取り合い、被害者に何ができるかを共に考えていくよう助言がなされた。

○ 自助グループの運営について
専門家の有無に関わらず、できるだけ自助グループとしてのあるべき姿を目指し、三浦氏、秋田県警察、秋田センターで役割分担をすることが大切である。自助グループは、自己と向き合い、心情を吐露し、今後のことを考える場である。自助グループに参加して、仲間がいることを実感し、それぞれが自分の被害体験と向き合うことが大事である。 被害者支援活動を充実させるためには、ボランティアを募って、協力の手を増やすことが大切である。関係機関に対しては、被害者の現状や支援の必要性を理解してもらうため、秋田センターが広報活動を行うことも大事である。

○ 「私達は特別ではない。たまたま被害者になっただけ。」
この言葉は、打ち合わせの中で都民センターの自助グループの方が述べたものである。被害者は、いろいろな気持ちを負担として抱えていて孤立しがちになるため、自助グループへ参加することや被害者支援センター等の機関(以下、「支援センター等」という。)へ行くことも社会へ復帰するための訓練になる。そのため、どこかに自分の心の窓を開けておくことが役に立つ。自助グループにはそうした役割もある。支援センター等の姿勢としては、被害者を特別扱いしないようにする。被害者は、「『被害者』という目で見られることが一番辛い。私達は、普通である。」と考える場合が多いということを忘れてはいけない。

(2)自助グループの実際から
 秋田の自助グループは、ファシリテーターが、最初に会の約束事を紙に書いた用紙を配布し、秋田県警察(臨床心理士)の方が読み上げて確認している。その後に、自己紹介を行う。今回は、秋田センターの職員、都民センターの職員が参加し、他に青森県と岩手県から来た遺族も加わった。青森県では、支援センター等も自助グループも未設置である。岩手県の被害者は事故当時、身近な所での支援を得られなかったということである。

○ 27年前に遺族になられた方の参加
息子さんを亡くされたこの被害者の話は、全ての参加者の心に響くものがあった。事故からの年数に関係なく、被害者が心に抱えている悲しみや苦しみは同じであることが分かった。今でも、この被害者は、息子さんの友人に年賀状を出し、息子さんの話をしてくれた人には、「思い出させてごめんね。でも、話をしてくれてありがとう。」と伝えると語った。休憩の間に息子さんの作文の朗読もされていた。

○ 裁判に関して
家族を亡くして日が浅い被害者は、これから民事裁判を考えている者、刑事裁判を終えたばかりの者等であった。民事裁判そのものへの不安もあれば、被害者に理解のある弁護士をどのように探し、依頼するかという問題もある。現在係争中の方から、「どん底まで陥り、遺族である自分がなぜこんな思いをさせられるのか。」という嘆きの声が上がった。地域的な問題もあり、なかなか弁護士も思うように見つからず、最終的に東京の弁護士に頼むことになったという。理解ある弁護士を見つけることは重要である。それでもその遺族が頑張ることができたのは、「本人が一番悔しい思いをしたのだろうと思うと、黙っていられない。自分にできることがあったらやってやろう。」という思いからだと話された。大変でも、頑張ったと言い切れるまでやりたい、という気持ちは、遺された家族に共通のものである。

○ 家族との関係
被害者にとって、亡くした家族への思い、遺された家族同士の絆、親戚との付き合い等はどれも直面せざるを得ないもので、それに関する感情を吐露する参加者が多々あった。「亡くなった当時のままになっているカレンダーを眺めて来た。」、「3年半経って、寂しい、どうしてだろう、という気持ちになる。」、「みんなに落ち着いたと言われ、それはどういうことかと思う。」、「一周忌では、親族は久々の集まりを楽しんでいる。自分は違う思いなのに。」、「子供の中に夫は生きていると思う。」等の話があった。

(3)フォローアップ
 自助グループ後のフォローアップでは、まず感想を述べ合った。その後、秋田県警察(臨床心理士)の方及び秋田センターからの質問に対し都民センターが回答した。そこで、改めて自助グループの進め方や効果についての説明がなされた。

○ 自助グループを終えての感想より
(ファシリテーター)
・普段通りにしようと心掛けたが、参加者の顔に少々緊張が見えた。参加者の中には、自己紹介で精一杯の人もいた。いつも悩みながら進行している。
(秋田センターの支援員)
・ファシリテーターの話は、無理がなくスムーズで良かったと思う。自分自身は、とても重く受け止めている。被害者達は、周りの言葉をとても敏感に受け止めているのだということを実感した。これからは、被害者の声を受け止めなくてはと思った。 (秋田県警察)
・参加者は、緊張していると思ったが、帰りの名残惜しい様子を見て、参加して良かったと思っているようだ。遺族の様子を見て、今回の自助グループを行って良かったと思った。

○ 自助グループに関する質疑応答
Q.ファシリテーターが遺族の場合、自分のことについて話すべきか否か。
A.なるべく自分のことは話さない、というのがファシリテーターの役目である。体験を訊かれたら、参加者に話してもらうと良い。ただこれはあくまでも基本であって、場合によっては自分の話をしてもよい時もある。
Q.秋田は、話をなかなかしたがらない人がいるが、今回はどうだったか。
A.今日は、遺族以外の関係者が入っていたが、参加者は自分のことを話していたので良い進め方だったと思う。終了15分前になったら一人ずつ感想を述べてもらうことも大切である。
Q.27年前に遺族になった被害者は、自分の存在意義を認識したようだが。
A.自分は、年数が経っていてこの場にふさわしくないと思っていたようだが、いろいろな年数の被害者がいてよい。長年経った被害者の話は新しい被害者の役に立つ。

○ 自助グループの進め方へのアドバイス
・まず自助グループの目的を伝える。原則を伝えるためには、紙に書くことは良いことである。
・参加する時、役割があると遺族は参加しやすい。
・自助グループの役割は、被害者の傷ついた自尊心を回復し、壊れた人間関係・信頼関係を修復することでもある。
・ファシリテーターの負担は大きいので、それを相談員がサポートしていく必要がある。 これらの助言を受けて、秋田センターの相談員は、センターの役割の大きさ、被害者の真の声を聞く大切さを再認識したようだ。
さらに、ファシリテーター自身からも、以下のような要望が出された。
・秋田の被害者は、支援センター等から情報を得ることができない。
・遺族の中には、自分も支援の役に立ちたいと思っている人もいるため、支援センター等は遺族の声を生かす方法も考えてほしい。

○ フォローアップからの感想
都民センターの自助グループ参加者への質問に、「初めて自助グループに参加したとき、都民センターの人がいて違和感はなかったか。」、というものがあったが、「被害者だけでは進歩がないから、いてくれてよかったと思っている。」と答えられた。これに関して、ファシリテーターから、「秋田はセンターの支援体制が整っていないため、遺族から抵抗感を持たれてしまう。秋田センターとして遺族と信頼関係を作れる相談員を見つけてほしい。」という要望が再度出された。
その他に、以下のような感想があった。
・被害者の声を聞くことが一番大事だと思った。
・秋田センターの方針がしっかりしていない状態で、互いに遠慮していたためファシリテーターには、いろいろと迷惑を掛けている。
・支援員として関わっていたつもりではあったが、今日のグループの進め方を見て勉強になった。
・警察のできる支援は一部なので、自助グループやセンターは大切である。警察として、遺族と他機関との連携を取る役割も果たしていかなければならないと思う。
・秋田県警察が自助グループに最初から関わってきたことを大事に、被害者の求めているものや、自主性を大切に協力していきたい。
・ファシリテーターとして、都民センターと他県の被害者が来てくれて良かった。これからも秋田センター・秋田県警察と連携を取っていきたいし、被害者の方にその理解を得られるようにしていきたい。

(4)相談員への全体研修について
 今回は、自助グループ立ち上げの目的で来たが、この機会を最大限に有効活用するために全体の研修会を行うことにした。
この全体研修にも、ファシリテーターの三浦氏、秋田県警察の方が参加した。内容は、
・都民センター設立に至るまでの経緯
・実際の支援について
・他機関との連携のあり方
についてであった。都民センターの研修生である検事も参加していたため、裁判に関する質問も出た。その後、秋田センターの相談員から様々な質問を受け、意見交換を行った。秋田センターは、平成15年8月11日に社団法人化した。直接的支援等も開始しているというが、基本的な質問が多かった。支援員全員は気持ちだけでなく、支援に関連する刑事手続きや裁判に関する知識等を、ある程度同じレベルで持っている必要があると思われた。

○ 質問より
Q.他機関との連携は、具体的にどのような形でできるようになるのか。 A.急に連携を取るのは難しい。検察庁との連携は、被害者の代わりに連絡をとるときに、支援センター等の存在を認識してもらう。被害者の心身の状態によっては、保健所に連絡を取り病院を紹介してもらったり、その後に支援センター等のパンフレットを送り、センターの存在を認識させ理解を深めてもらったりして、積み重ねを通じて、様々な機関との連携を図ることができるようになる。

Q.弁護士を選ぶことも大変困難である。また、弁護士に理解を求めたい。
A.被害者支援弁護委員会が、各地の弁護士会にある。まず、そこへ出かけてみる。被害者の現状を伝え理解してもらう。情報を先取りして、支援センター等から訴え続けることが大事である。

Q.加害者に対応する時の注意点というのは何か。
A.交通事故の示談交渉のとき、(被害者がお花や香典を受け取ること等から)加害者が誠意を見せたと理解され、加害者側に有利に働くことがある。
和解・示談(お金のやりとり)宥恕(許す) 寛大処分

 和解や示談としてお金を受け取ることと、加害者を許したり、寛大処分を求めたりすることは別なので、注意した方がいい。

Q.刑事裁判と示談の関係はどのようなものか。
A.損害回復としてお金をとりあえず何とかしようというのが「示談」である。 「刑事裁判」とは、罪を犯したことに国が制裁を加えることである。

Q.起訴・不起訴の決定期間について。

A.事故発生-----------------送検----------------------起訴or 不起訴
      |        ※捜査	    |         ☆      |
      -------------------------------------------------
※「捜査期間」については、1ヶ月が目処になっている。 
☆ 起訴か不起訴かを決める期間の短縮については、非常に厳しくなったので、今は半年未満となっている。

Q.親族間の殺人について、支援の例はどのようなものがあるか。
A.基本的には関わらない。本当の家族間の場合は支援しない。事情が複雑な場合は、状況に応じて電話で対応する。いずれにせよ、都民センターではいろいろある事件を毎日検討してみんなで考え対応する。

Q.直接支援を始めたときの問題点及び改善経過について。
A. 都民センターも4年経って、ようやく皆が共通認識の下で対応できるようになった。被害者に依存されていることで相談員も信頼されていると勘違いして、「共依存」という最悪の事態もあった。ある程度相談員が距離を保って支援をする。一人の人間として、社会を良くするために行っているという認識で支援できる人に残ってもらった。

Q.直接支援に行くときは被害者の声を聞くことが大事だと聞いているが。
A.被害者は声を発しない。被害者は、「何をしに来たのか。」という態度を見せる。しかし、それも被害者としては当然のことである。それも受け止め、必要だと思われることを行う。被害者の声を聞くというのは、少し回復した被害者にすることである。事件当時は無理である。

Q.海外の研修を受けて得たことは何か。
A.確かにこれまで外国の真似をしてきた部分もあるが、これからは日本独自の道を探ると良い。ただ、ニュージーランドは進んでいて、各警察署にこうした民間被害者支援センターが置かれている。また、裁判所には相談員の部屋が常設されている。

○ 感想より
・被害者支援に関する講演等を増やし、関係機関と連携して相互の信頼関係も築いていけたらと思う。
・被害者支援の役割は年々大きくなり、関わるほど大変だと思う。交通事故は、交通「殺人」だと認識している。
・他機関と連携しながら、被害者の理解と信頼を得られるように、秋田センターとしての支援体制を整え、被害者支援を行ってほしい。
・研修で、相談員の共通認識の大事さを知った。早期援助団体の申請に向けて準備したい。秋田センターには、熱心な人が多いので頑張りたい。

IV 石川センター:継続研修(平成16年10月21・22日)

石川センターでは、昨年度に自助グループを立ち上げた。その後、継続して開催されており、今年度は9月の都民センターでの研修会を経て今回の研修となった。内容は、(1)自助グループ、(2)フォローアップであった。出席者は、石川センター職員、自助グループ3名、そして都民センター職員であった。
 石川センターの自助グループは、自助グループの参加者により「でんでん虫」と名付けられた。自助グループに参加できなかった人にも毎回手紙を出し、いつでも参加できるように工夫している。

(1)自助グループ
参加した被害者は3名であったため、都民センター職員もメンバーとして参加した。自助グループは、ファシリテーターが自助グループの目的と原則を一枚の紙にまとめ各人に配布し、その内容を確認した後自己紹介をするという基本に沿った形で進めた。また、精神科医も参加した。参加者が少なかったため、一人一人が十分に話をする時間を持てた。

○ 自助グループの内容から
被害者として講演等の活動をすることで、徐々に前向きになれる。ある被害者は、講演で加害者の罰則が不十分なことや、遺族は亡くなった人が今も生きていると思っているので、心ない言葉をかけないでほしいと訴えた。この話を石川センターの会報に載せる時、編集する相談員が読み、涙が止まらなかったという。しかし、被害者本人は地元では、親戚等の目もあり本心は言えないと語った。

○ 家族関係について
・被害者支援を理解している専門家は、遺族に最初に会った時「離婚しないように」とアドバイスすることからも分かるように、被害に遭った家族は崩壊しやすい状況にある。
・被害直後は感情の行き違いがありギクシャクしていたが、数年経ち、夫と一緒に、亡くした子を悲しみ、お寺周りをしながらその道々で子供の話をしている。
・亡くなった息子を思う気持ちは夫婦で同じでも、その気持ちの表し方は様々である。
・家族の中では頑張っているので、自助グループに来て思うままに話せると気持ちが楽になる。
・夫がもう少し支えてくれたら、ここに来ることもなかったかもしれない。
・周囲の「まだそんなことを言っているのか。」という目が辛い。
このような言葉からも、3〜5年間位は、家族間や夫婦間で考え方の相違を強く感じることがあっても、徐々にお互いを受け入れることができるようになるため、大きな決断は被害直後にはしないように遺族に伝える必要がある。

○ 参加者の感想より
今回の自助グループは、参加者全員が、静かな雰囲気の中でその時の気持ちを語り、少しずつ落ち着いていく様子が感じられた。参加者の感想は、以下の通りである。
・昨日の台風で亡くなった人も、それぞれのストーリーがあると思う。涙が出ても、優しく生きていきたい。この場にも感謝している。
・台風の片づけや家事をして、それでもここへ来ようと思った。1ヵ月後、また同じことを言いに来ます。
・もうここへ来られない気持ちでいたけれど、息子に来てもいいよと言ってもらった気がします。
また、感想の他に、周囲の心ない言葉に傷つけられたという話も出た。例えば「息子さんでよかったね(=夫であれば経済的に困ったでしょう)。」、「交通事故でよかったね(=病気で長患いされるよりよかったね)。」等で、これは、被害者が受ける二次被害である。

(2)フォローアップ
石川の県民性について問題があるという説明があった。 また、センターの相談員の中に交通事故で弟を失った遺族がいると分かり、この相談員に対しても適切なアドバイスがなされた。

○ 石川の県民性について
・親戚や友人から、傷つけられる言葉を掛けられて辛い目に遭う。
・金沢生まれでないと、「よそ者」扱いになり、このレッテルは一生変わらない。地元でメディアの取材に応じると、身内から中傷を受ける。
・他県からの参加者は、地元では参加できないため、石川センターの自助グループに参加している。
・自分の子供を亡くした苦しみを抱えながら、長男を亡くした義母の介護を10年間続けてきた。しかし、その義母の葬儀の時に親戚の人に心ないことを言われショックを受けた。気持ちを抑え頑張ってきた10年間は何だったのかと思う。
・石川センターと関わり合うようになり、当時示談を勧められた弁護士に再会した。本当は裁判をしたかった、という気持ちを告げるとその弁護士はすぐに反省してくれた。
・裁判官にも「よくやったね」と言ってもらえたのに、被害者の大会で講演をしようとしたが身内から止められた。すべてを否定されてしまったように思えた。

V いばらきセンター:継続研修(平成16年11月4日)

 いばらきセンターの自助グループは、昨年度立ち上げて、今日で12回目となる。今回は、いばらきセンターの職員、自助グループのメンバー3名と都民センター職員で行われた。(1)自助グループは赤塚駅近くの公共施設の一室で行われ、(2)フォローアップは支援センターがある常磐大学内で行われた。自助グループの参加者は、来る時は気持ちが重いが、来れば気持ちが楽になるという。相談員も、通知は毎回出すが、無理に参加者を集めず、参加しやすい雰囲気作りに心がけているという。

(1)自助グループ
 今年度の一連の研修では、都民センター自助グループのメンバーが毎回必ず1名参加しているが、いばらきセンターの自助グループにおけるその方(以下A氏)の存在は、とても大きい。今回の参加者と比べると、事件からの年数が経っているため、いわば被害者としての「先輩」であり、その姿勢や話の内容に、新しい被害者は、将来への希望や様々な思いを膨らませることができる。A氏からは、自分が真剣に裁判に取り組むことができなかったという思いが語られるが、まだ民事裁判中の被害者には、良いアドバイスとして受け取られている。 また、いばらきセンターのスタッフと自助グループの参加者が温かく迎え入れてくれる雰囲気の中で、A氏自身もいろいろと良い影響を受けているようである。自助グループの進め方は、自己紹介、参加者の話、最後の感想、と基本に沿って行われている。

○ 裁判に関わること
いばらきセンターの自助グループの参加者3名が皆、民事裁判が始まるか、すでに始まっているという段階にある。共通の発言として、裁判は大変なエネルギーを消耗するということである。「裁判へ行くのも辛く、精神安定剤を強いものにしてもらっているが、このようにしてまで裁判を続けるかどうか考えている。」、「刑事裁判は終わった。次を考えると気が重い。誰も知らない所へ行きたい気持ちと、裁判に向けてやらなければ、という気持ちがある。自助グループに参加すると、一人ではないから頑張ろうと思う。」、「薬を強めてもらうと副作用が出る。眠れないし、体中ぼろぼろで起きられない感じになる。」等が話された。スタッフは、これからも適切な支援をして役に立ちたいと語っていた。

○ 裁判での被害者
被害者への対応は、以前に比べると良くなってきたと言われるが、当事者になってみて思い知らされることは多いようだ。弁護士を決めるのも大変であり、また、裁判についても遺族は何も知らされていないという事例は多い。「それでも、やっていかないと何も進まないという現状は理不尽すぎる。」という発言に、A氏が民事裁判を起こさなかった自身の体験を省みつつ、次のように語った。「今の法律ではどうにもならないことであるが、きちんと今ある法律等を理解して言うべきことは言わないといけない。政治家は分かっていない。何事も分かれば分かるほど、そうだったのかと思うことばかりである。でも、それを実感したのは、最近のことである。結果はどうであれ、やれることはやってほしい。」
さらに、慰謝料について、「金額如何より、分割にして(=少しずつ支払いを続けさせて)、ずっと覚えておいてほしい、というやり方もあると思う。」という意見も出た。

○ 交通事故に対する周囲との認識のズレ
「事故の被害者になっただけでも辛いのに、国から全く守られていないから、当人が声を上げないとだめだ、ということは酷なことである。被害者にとって事故は、殺人行為と言える。その上、家族を守れなかったという自責の念に苛まれる。」このように語る被害者は、それでも地域で話をする機会を作ろうと努力をし、いろいろな苦労した上で、その機会を得た。ただ、それまでが大変すぎたのか、早く今の土地を離れたい気持ちがあるという。それでも、うつに悩まされながらも、「今、逃げ出すわけにはいかない。普通の人の意識が少しでも変わってくれることを願う。」という。この被害者の他にも、「あとで後悔しないようにしよう。」と述べる参加者もいた。この点は、A氏の体験談が、影響しているようである。辛い状況でも前へ進もうとしている被害者の姿がある。

○ 語ること
大変な思いをしている被害者に対して話をすることや文章にすることも有効であるということが助言として出た。A氏も「都民センターと関わって少しずつ文章を書けるようになった。息子を思う気持ちは変わらないけど、薄皮が少し剥けて軽くなったような部分もある。また、おしゃべりではなかった自分がすごく話をしている。」と、自身の変化を語る。他にも同様のアドバイスが出た。日記をつけているという被害者もいた。このいばらきセンターの自助グループは、A氏やスタッフの意見を真摯に受け止め、自分に活かそうとしているように思われた。スタッフもその気持ちを受け止め、できることをしていこう、という姿勢を示している。

(2)フォローアップ
 石川センターの自助グループと同様に、昨年度立ち上げたこの自助グループは、基本のスタイルに沿った進め方で行われている。フォローアップの時間でも、非常に真剣な態度がにじみ出ていた。まず、ファシリテーターにこの1年を振り返ってもらい、その後は様々な点に触れ話し合った。

○ 自助グループのこの1年(いばらきセンタースタッフから)
平成15年10月21日の研修では、A氏の存在は大きかった。被害者の対応に不安があり、A氏に居てもらえてよかった。とりあえず、気負わずやろうと思えた。メンバーにいろいろお知らせをしたが、家族から参加をしてはいけないと言われた人もいたため、決して無理強いはしたくなかった。11月に自助グループを開始し、精神科医も参加した。ある被害者は、遅れて1月から参加した。薬に頼った生活やこの先への不安が大きいと話したため、次の自助グループの時、被害者に見られる反応、起きてくる精神的な変化等を精神科医から講義してもらった。それを聞き、被害者はとても安心し楽になったようだ。
参加者は、刑事裁判での苦労、民事裁判に向けての大変さを抱えている。感情の波もあるため、しばらく自助グループに出席できず、電話に出る気にもなれない状態の被害者が、2ヵ月後に自助グループに参加できたことがある。薬への不安があったが、紹介された医師による投薬で、ようやく眠ることができた。その後、少しずつ回復している。
夏に子供連れでの自助グループを行った時、遺された子供をどう育てるかと、不安を打ち明ける参加者もあった。精神科医からは、子供は一人で育てられるものではないから、母親一人で責任を負うことはない、というアドバイスを受け、楽になったようだ。この自助グループでは、子供を亡くした被害者、夫を亡くした被害者も相互に支えあっている。

○ A氏が自助グループから受けた印象
支援の側に立ってみると、被害者はずいぶん自分勝手に話をしているものだ、と感じたが、これは第三者の立場になって初めて分かったことである。いばらきセンターは、去年より今年の方が自助グループのあり方が良くなっている。参加者の誰かが自分と同じ気持ちを言うと、そこですぐ自分も話したくなり、これを抑えるのが大変である。「自制できるかできないか」という点で、いばらきの参加者には良い変化が見られた。
「自制できるか否か」は大事で、これができないと参加しても疲れを感じてしまう。また、グループの中では、子供を亡くした被害者とご主人を亡くした被害者には違いがあり、相手の発言に動揺することもあるのではないかと思う。

○ 相談員として
被害者が被害体験を通して社会に働きかけていこうとする時、それを支援する役割も大切である。いばらきセンターのスタッフの中から、「被害者支援の大会に出ると、社会的な運動に積極的に参加し、アピールしている被害者がいるということを知り、相談員として、いろいろ考えさせられる。」という発言があったが、これに対して都民センターから、個々の被害者に応じた様々な支援を地道に行うことも大切である、と助言があった。自助グループもその一つであり、自助グループを何回休んでも、いつも変わりなく受け入れてもらえるという安心感と信頼感を持ってもらえることが大事である。

○ 遺された子供
自助グループは、参加する被害者の気持ちの浮き沈みが激しい。遺された子供を気に掛け、守らなければという思いが大きい。そのため、子供だけの自助グループを願っている人もいる。8月に開催した子供連れの自助グループの時は、順序を守って話すことができず、まず自分の話を聞いてほしいという参加者もいた。遺された2人の子供を持つ母親は、下の子供に目が行きがちなので、8月の自助グループでは、上の子供と二人だけの時間を持つことができて良かった、と感想を述べた。ファシリテーターによると、いばらきセンターは、刑事裁判の付添い等を行い、民事裁判の付添いはしないことになっているが、刑事裁判の時から付き添っている人は、民事裁判の付添いも行い、子供の面倒もみているという報告があった。

○ ファシリテーターとしてのこの1年
この1年、ファシリテーターに適していないのではないか、と思うこともあり、精神科医にアドバイスを受けた。ひどい話に一緒に怒ってしまったり、被害者の感情が揺れ動く大変さに、被害者の身勝手な態度だと思ったりした。しかし、薬を飲んで落ち着く様子を見て、本人の大変さを改めて理解した。ようやくいろいろな状況を受け止められるようになった。
その他の活動として、少年院で話をした時のことが報告された。入所者は、それまで被害者の話を聞く機会もなく、謝罪についても考えたことがない、ということがわかった。矯正教育についても、被害者への視点が無いことを知ったため、加害者が被害者の苦悩を理解し、更生してほしいという思いで話した。
さらに、事件が起訴されたばかりの被害者は、混乱し普通に対応できる状態ではないため、早期支援の必要性を感じている。そのため支援要請は、刑事裁判が始まる前であってほしいと思う。

○ 加害者の事故に対する認識への疑問
A氏から、「『加害者は、被害者の亡骸に触れることはない。だから遺体という悲しい姿を思い浮かべることもない。』という話を聞いたことがあるので、ひき逃げ、飲酒等、悪質な運転者でも、被害者の苦しみは何も理解されていないということを実感させられた。」という話があった。

○ 最後に
A氏は、「伝えたいことは言えた。こちらに来たことが、自分の回復にも役立った。スタッフが被害者の気持ちを理解しようとしてくれていることがありがたい。」と話した。また、いばらきセンターの相談員の一人は、「自助グループに参加している被害者が、一番頑張っているのだと思う。立ち上げの時のA氏の存在は大きく、自助グループのあり方を示唆してくれた」と述べた。

VI 大阪センター:第1回自助グループ(平成16年11月26・27日)

 大阪センターは、今年度新たに自助グループを立ち上げる対象であるが、被害者遺族の有志が、数年前から準備会を開いていた。近県からも参加者がおり、それぞれの地元で、別の自助グループを主宰する等の活躍をしている人も多い、という特徴がある。そのような個々の背景からの影響をできるだけ排して、大阪センター職員とともに、いかに基本的な自助グループにしていくか、という課題を抱えている。今回は、直接自助グループの運営に関わっていない、他の大阪センター職員との交流の意も含め、自助グループの前に、大阪センター職員との(1)全体研修会を行い、それから(2)自助グループ、(3)フォローアップを行った。

(1)全体研修会
 大阪センター職員とのミーティングの内容は多岐にわたった。全国どこで被害に遭っても適切な早期支援が受けられるようにするため、支援者の資質を向上することを目的にした、都民センターでの「直接的支援セミナー」に出席した相談員の感想を聞くことから始まり、早期支援について、支援のあり方、相談員の養成、これまでの被害者支援の経緯、大阪センターの活動、自助グループの重要性、被害者との距離の取り方について等に及んだ。都民センターから講義が行われ、それについての質問や意見交換が行われた。

○ 早期支援
都民センターにおいて、現在に至るまでの早期支援の歩みは平坦なものではなく、現在も悩みながら活動をしている。被害者の回復のために支援センター等が全てを行うことはできないので、関係機関との良い連携を考えながら支援している。時期に応じて被害者に必要な支援内容の判断を行い、時には積極的な助言をすることもある。早期支援は、粛々と実践を積み重ねることが大切で、被害者に真摯に向き合い支援する姿は、被害者に通じるのだと思う。
これらの説明を受けて、大阪センターが支援活動の現状を説明した。
ようやく月1回、弁護士の協力を得て、法的な支援を行っている。早期援助団体の指定を受けるということを全く視野に入れていないわけではない。平成13年以降は、大阪府警察から連絡が入り支援を行うこともある。
また、予算面で不安を抱えている。電話相談や直接的支援をメインにおきながら、組織の運営も考えなければならない。無理をせずできることを行い、被害者と対等な関係性を大事にしてやっていきたい、と述べた。

○ 直接的支援に関連して
今は、支援センター等、警察、検察等にいろいろなパンフレットがあり、それらが被害者の手に入ることは多い。しかし、被害者は大きな衝撃を受けているため、パンフレットをもらっても、読む気力も無く、読んでも何をどう判断したら良いのか分からない状況にある。
大阪センターも、このような被害者の状況を理解し、裁判の傍聴等に付添いをして、被害者の心の負担を少しでも軽くすることができるようになったことを実感しているという。都民センターからは、東京医科歯科大学の山上皓教授が、被害者の何パーセントが相談電話をかけることができるかを調査した結果、1%にも満たないという結果が出ている現状を伝え、相談員の顔が見える直接的支援の重要性を述べた。

○ 大阪センターの活動
大阪センタースタッフより、以下のような説明がなされた。
大阪センターの活動は、阪神淡路大震災の後に始まった。最初の養成講座まで2週間しかなかったが、メディアが取り上げてくれた結果、50名が参加した。当時、山上皓・小西聖子両先生の支えが大きかった。大阪センターの前身として、大阪YWCA(財団法人 大阪キリスト教女子青年会)において6名くらいの人数で始まった。その頃、被害者の直接の声を聞いたことがあり、支援の必要性と、何の支援ができるかという重みを感じたことがある。最初の頃の15名がずっと残り、中心になっている。今後は、若い人の養成をしようと思っている。電話相談のための養成講座は、年に1回、4週間をかけて行っている。大阪センターとしては、この活動に時間を割いてもらえる人でないと困る。最初の頃は、専門職の相談員をと考えていたが、今までの経緯から特にそのことにはこだわらないでよいと考えている。

○ 自助グループの重要性
自助グループに関与していないスタッフに、都民センターから基本的な説明がなされた。 事件後間もない被害者は、感情の麻痺が起きているため、自分でも何が必要なのか分からず、他の被害者と話してみたいとは思えない。被害に遭ったことを受け止めることも出来ず、日常生活も送れなくなるうえ、今後の刑事手続きに関する不安も大きい。 そのため、被害直後の被害者には、身の回りの支援、警察や病院、裁判への付添い支援等が必要である。また、心身共に麻痺状態になり、感情コントロールが出来ず、眠れず不安が大きく、このまま自分はおかしくなってしまうと感じるため、事件後起きてくる様々な症状は、被害に遭えば当然起きてくる正常な反応であることを伝えながら、必要な支援を行うことが基本である。被害から2〜3年位経過すると、同じような被害者と話してみたいという気持ちが出てくる。極限状態に追い込まれる被害者は、同じ家族であっても、供養の方法や回復方法の違いに苦しむ。その上、友人や知人からは頑張れと言われ、社会の人からの偏見や中傷にも苦しむ。しかし、そのような時、自助グループでは、安心して自分の思いを率直に話すことができるため、回復に役立つ。自助グループに参加している被害者は社会への信頼感を取り戻し、うつ的な症状が改善されるという調査結果も出ている。

○ 被害者との距離の取り方
大阪センターの相談員が、「初めて被害者と接したとき、何を話したら良いか、どう対応したら良いのか分からず緊張し、自分のことで精一杯で被害者のことを考えられなかった。その後、被害者と対等に関わる大切さを知り、少し楽になった。」と言う。これに対し、都民センターからは、「人と人との間には普通でも程よい距離というのがある。お互いに負担にならない距離感が大切で、あまり『相談者だから』と堅く考えないことである。被害者も事件前は普通の生活をしていたのだから。」と助言した。

○ 他のスタッフの感想
・センターで電話を取ることもまだ怖い。不安感がある。今日の話の中から、肩の力を抜いてやればいい、ということを聞いて少し楽になった。いい勉強になった。
・電話相談の積み重ねが直接的支援にもつながると思っていたが、実践するための意識改革も必要と分かった。また、直接的支援をするようになって被害者への理解が深まり、支援に対する姿勢も前向きになったという話も新鮮だった。
・大阪センターの相談員もいろいろと無理をしているが、みんなが少しずつ無理をしてでも頑張らないといけないのかなと思った。
・直接的支援もイメージばかりが先行していたが、自分達の関われる範囲でやれば良いと思えるようになった。自分の力量以上のことばかり考えてしまうが、できることをやればいいと実感した。
・自分は、交通事故の被害者である。父を亡くした後、何もきちんと話ができなかったが、こうした活動に関わる中で、兄弟や友人とも話せるようになった。

(2)自助グループの実践から
 都民センターからの参加者一同の自己紹介後、ファシリテーターから、大阪センターの自助グループ発足に関する説明がなされた。自助グループの必要性があることを感じていた平成14年に、4名の被害者と大阪センタースタッフで準備会が発足した。被害者のグループではあるけれど、楽になれるような、そして誰にでも覚えてもらえるように、という意味でippoと名付けられた。
 その後、参加者の自己紹介がなされた。参加者の被害体験も様々であった。ファシリテーターから、「いろいろ事件のことを話したり、他で活動していることを話したり、雑談も交えて行っている。この自助グループは、被害者の方に自由に話してもらっている。」と説明があったが、自助グループ内で話される内容はまさにその通りで、基本的な自助グループとは異なり、今後の軌道修正が必要な展開であった。

○ 新規メンバーの話
自助グループは、常に同じメンバーではなく、ときには新たな被害者が参加するようになるのが普通である。被害からの年数が違っていても、それぞれの参加者にとって役に立つ場所である。都民センターの自助グループ参加者からは、「自助グループは、自分を立て直し、自分を作り上げる場所となった。だから、新しく入る人にも、そうあってほしい。遺族として破綻するという危険があるので、自助グループで他者との関係を築くことが必要である。」との話があった。

○ 周囲の反応と本人の苦労
大阪の自助グループには、30年以上前の遺族が参加している。被害者への連絡制度も犯罪被害者給付金制度もなかった時代で、子どもを育てながら、民事裁判で大変な経済的負担を背負ったという。この話をきっかけに、他の参加者からも、近所の人の心ない話に傷つけられたこと、署名に地域をまわってみると事件を知らない人もいたこと、事件により障害を抱え、経済的負担が大きいことなどが語られた。また、「親族からも民事裁判を起こすことを反対されたが、裁判をして良かったと今は思っている。」という声もあった。 また、刑事裁判での判決は執行猶予つきだったが、その後加害者がインターネットで遺族への誹謗中傷を始めたため、名誉毀損で訴えたところ、執行猶予が取り消され刑務所に入った、との報告もあった。

○ 他の活動の話
大阪センターの自助グループメンバーの特徴としては、複数の自助グループに属している遺族もいることである。今回の自助グループでも、自分自身の心情を話さず「メンバーの中に自助グループに頼りきっていて、その対応に困っているがどうしたらいいか。」、「自助グループの中で話し続け、止まらなくなる人にはどうしたらいいか。」と質問が出た。自助グループの目的は、メンバーが自分自身に向き合い、心情や近況を話す場であり、他の支援センター等の支援事例や他の自助グループの内情を話す場ではないことを伝えたが、今回は、研修の第1回目ということで、各質問には一応答えた。

○ その他
今回の自助グループでは、上記の他に、弁護士や出所情報に関すること等が出た。

(3)フォローアップ
 ○ 大阪センターの自助グループの特殊性
準備会の段階から集まっているメンバーは、各人が自助グループを主宰していたり、他の支援センターで被害者支援に関わっていたり、あるいは被害者の実情を社会に訴えるなどの活動をしている。しかし、大阪センターとしては、新しい被害者を受け入れ、本来の自助グループを立ち上げたいと考えている。大阪センター側もメンバーと親しいがゆえに、相談員としての立場を強く出せない面もあり悩んでいる。
 以上の問題について下記のような助言を行った。
・今回は、自助グループなのか、研修なのか、分からない内容になりがちだった。自助グループの初めの自己紹介の中で、名前、被害体験、なぜ自助グループに参加しようと思ったのか等を、毎回話してもらうようにすれば、その中から共通の話題を見出せるので、そこに焦点を当てて自助グループを進める。そして最後の15分で全員に今回参加しての感想を話してもらえば、参加者にとっても良い形で終了できるのではないか。
・自助グループメンバーとは程良い距離を置き、大阪センターとしての自助グループの在り方を参加者に示しながら運営する。
・自助グループ活動として、社会に訴えるという姿勢は被害者の回復に役立ち大切だが、新しいメンバーが入ってきた場合の自助グループの進め方も考える必要がある。
・スタッフ自身が自助グループの運営のみならず、被害者に直接接することで支援の在り方も学べると良い。
・被害者に直接接する時は、支援者自身がなぜ被害者支援に関わろうと思っているのかを考え、自分自身を見つめ直すことも大事である。
こうした助言を受け、大阪センターの相談員から、「他の自助グループのやり方を検証せずそのまま行っていたが、大阪センターとしての運営方法や指針をしっかりしていかないといけないと思った。」との発言が出た。

○ 自助グループ参加者の様子から
自分自身の心情を語るのではなく、他の支援センターのことや他の自助グループのことを話すのは楽であるが、守秘義務の面からも問題がある。また、準備会当時からのメンバーでない新しい被害者は、時には居心地が悪く感じることもある。
長く話を続ける被害者には、適度なところで中断させることも必要である。対処方法として、自己紹介の時、もう少し各人が自己の話をする時間をとるようにすると良い。 毎回、被害者の状態は同じではないので、精神的に不安定な人には、自助グループの前後に面接をする時間をとることも有効である。被害者の回復状況によっては、講演等で被害体験を話す機会を提供することが回復に役立つこともある。
以上のようなことを相談員に助言した。
 また、年数の経った被害者であっても、今回初めて被害体験について話した、とのことである。このことからも、被害者は何年経っていても怒りや悲しみを持っていることが分かる。犯罪被害者等基本法(以下、「基本法」という。)が施行されるが、これは今まで声を上げてきた被害者の努力であることを知っておくことが大切である。その他、犯人が検挙されていない事件の被害者は、他の被害者が裁判の話をしているのを聞くのは辛かっただろう、と思いやる話も出た。

○ メンバーとセンターとの関係
自助グループを取り巻く事情は様々であっても、たくさんの遺族を集めることが出来るのは大阪センターに力があるからである。大阪センター相談員とメンバーとの関係では、遺族の方が少し強いように思えるが、他で活動していても大阪センターの自助グループに参加した時は一人の参加者として加わり、自助グループの基本や方針を守る必要がある。  また、被害者の精神的な回復状況に関しては、活発に外で活動していても感情の変化はある。被害者は、いつも元気ではないことを知っておくことが必要である。

VII 秋田センター:第2回自助グループ(平成16年12月1・2日)

 今年度立ち上げた秋田の自助グループの第2回目である。今回の自助グループは、初めて精神科医が参加した。全体としては前回と同様に、(1)事前の打ち合わせ、(2)自助グループの実施、(3)フォローアップが行われた。研修後に寄せられた感想文を最後に載せる。

(1)事前の打ち合わせ
○ 最初に
ファシリテーターより、今回の自助グループの進行について、以下の確認がなされた。 今回は精神科医、秋田県警察の方の参加があり、両者への質問も受ける。最後に都民センターから被害者のおかれている状況や基本法等について話す。

○ 精神科医との関係について
自助グループへの参加協力を依頼するため、ファシリテーターらが説明に行った際、予想以上に理解を示してくれたそうである。専門家に自助グループを理解してもらうことは今後のためにも大事であるため、積極的に質問等をするとよい。被害直後の被害者は、心身共に麻痺状態であるため、親切に対応してもらっても記憶にない場合もある一方で、不親切な対応は覚えていることも多い。このような被害者の心理状態を理解することが大事である。被害者は皆、様々な傷を抱えて生きているということを理解して、自助グループに臨むと良いという助言があった。

○ 秋田センターの自助グループの特性
・県民性のためか、自分のことを話せない。言葉に出してもうまく伝わらないと考え、敢えて話さない人もいる。
・自分が自助グループで話した内容が心配になり、会の後に電話をかけてくる人もいる。他の人がどう思っているかが気になり不安になるようである。
・自分は話下手だと思っている人でも、参加することは良いことだと思っている。他の人が話す中から自分にもプラスになることを得られる。
都民センターからは、年数の経った被害者の話は、新しい被害者の役に立つ。話をした被害者は自分の話が役に立つことを実感し、自尊心を取り戻すことができる。年数の経っていない被害者にとっては回復している被害者を見ることは自分の回復した姿を見つけることができ、希望につながるなどと伝えた。

○ 秋田センタースタッフについて
秋田センターの相談員、あるいは相談員の一般論について以下のような意見が出た。
・秋田センターの中で、支援に対する共通認識ができていないようだ。
・自助グループを支援できない支援センター等では、多岐に亘る被害者の支援には十分な働きができない。スタッフ間の話し合いを積み重ねていく必要がある。併せて自助グループをどう支援するかを秋田センターとして話し合い実践していくことが大切である。
・基本法も出来たことであり、支援センター等の活動を充実することが基本法に肉付けすることになるため、秋田センター職員一同で協力し合っていくことが大切である。
・被害者は感覚が研ぎ澄まされているため、支援センター等の雰囲気は見抜けてしまう。そのため、職員間の協調も大切なことを相談員は理解しておかなければいけない。

(2)自助グループの実践から
 今回は、精神科医の方が初めて参加した自助グループでもあり、基本法が成立した記念の日でもある。
前回と同様に、自助グループそのものは、ファシリテーターのリードも良く、自己紹介から始まり、最後に全員が感想を述べて終わるという基本に沿った自助グループであった。 参加者は自分の思いをそれぞれ語っていた。他県からの参加者のためには、もう少し話をする時間があれば良かったと思うが、限られた時間なので、止むを得なかった。ある被害者が、亡くなった息子さんのために作られた歌のテープを持参したので、最後に全員で静かに聞き終わった。

○ 精神科医の自己紹介より
「医者は、心の傷を魔法のように治すことはできないが、心の傷を語るのを聞いて、さらに加わる苦しみの話なども聞いていきたい。秋田は自殺者日本一である。減らそうというのではなく、生きる喜びを感じてもらえるようにしたいと思っている。今話を聞いても、被害者というのは重いと思う。生きているといろいろな重みを抱えている。それとどう関わり生きて乗り越えるかが大事だと思う。」

○ 他県からの参加者
岩手県から来た被害者は、前回も参加しており、今回は夫婦で参加した。もう1人は、宮城県からの参加者であった。両者とも、ファシリテーターと「生命(いのち)のメッセージ展」で知り合った。秋田からの参加者は、今回2人で、自己紹介の時からしっかりと話していた。年数の経った被害者から加害者の運転免許取得に関する話が出た。加害者は、大型トラックの免許を5年もかかって取得し、その1週間後に事故を起こしたという。なぜこういう者に免許を交付したのか、と運転免許制度に対する怒りを話した。

 

○ 遺された子どもの問題
遺された兄弟の養育に悩んでいるというある参加者の話に、精神科医から次のような助言があった。「お母さんにとって子供は皆大事でしょうが、遺された子供の立場になると、親は亡くした子供のことばかりを考えているように見え、見捨てられたという感情がわく。そのことで親がうつ的な状態になり、自分の殻に閉じこもってしまうと、余計見捨てられたと感じる。親に精神的な余裕がないと、家族で感情が分かち合えない。それぞれの思いを言葉にした方がいいのだけれど、辛くて口にできず、口にしない方がよい、と思ってしまう。事故に遭って悲しむのは当然のことであるので、無理をして元気なふりをしないで家族で悲しみを共有するとよい。また、子供が亡くなったことも認められない状態になるが、そのような時もなるべく言葉にして出すようにする方がよい」。
 精神科医に対し、カウンセリングを受ける先生をどうしたら見つけられるか、という質問も出され、精神保健センターに電話し相談するとよい、等のアドバイスがあった。

○ 基本法の成立について
日本では、犯罪者の権利は法律で規定されているが、被害者の権利は法律上規定されていなかった。そこで、被害者や支援者たちが理不尽に放置されている現状や法整備を必死に訴え続けてきた結果、超党派の議員立法で基本法ができた。
この基本法では、犯罪被害者支援は国・地方公共団体の責務であるとうたわれている。基本的な施策としては、(1)相談及び情報の提供等、(2)損害賠償の請求についての援助等、(3)給付金の支給に係る制度の充実等、(4)保健医療サービス及び福祉サービスの提供、(5)安全の確保、(6)居住の安定、(7)雇用の安定、(8)刑事に関する手続への参加の機会を拡充するための制度の整備等、(9)保護、捜査、公判等の過程における配慮等、(10)国民の理解の増進、(11)調査研究の推進等、(12)民間の団体に対する援助、(13)意見の反映及び透明性の確保である。
犯罪被害に遭ったら、すぐに支援センター等に連絡しようと思うように、支援センター等が社会に認知されなければならない。そのためには、被害者からだけでなく、関係者や社会からも信頼され支持される支援センター等になることが急務である。

(3)フォローアップ

○ 自助グループの感想より
(ファシリテーターから)
・初めて精神科医が参加したので心配していたが、かえって良かったと思った。悩みについても答えてもらい、場を和ませてもらった。
・前回より時間が短く感じた。みんなの悩みは、深いと思った。都民センターからは普段できない助言をしてもらえたので良かった。
・こうした自助グループを2回開催して、遺族以外の人が参加する形もできるのではないかと思えた。
(スタッフ等から)
・参加者の話す内容に深さが加わり、以前は話さなかったことを言うようになった。
・沢山の人がいる中でも話せる雰囲気があると思った。
・警察として、一つ一つ応えていけたらと思う。自分がここにいることを信頼して話しているのだと思う。真摯に対応していきたい。
・考えれば考えるほどいろいろ気付くことがあり、考えさせられると同時に、果たして何ができるだろうと思った。都民センターの話を聞き、秋田センターはこれからだと思った。 以上の感想に対し都民センターからは次のように助言した。
・参加者がそれぞれの思いを精一杯話していたことが伝わってきた。心の核心に触れる部分を語るということもある場なので、精神科医には今後も関わってもらうことが大切である。
・前回に比べ、参加者も自分の気持ちに向き合うことができて良かったと思う。精神科医から人としての温かさを感じることができよかった。
・検察庁の職員や他の機関の人にも初めから参加してもらおうとは考えず、時間をかけ、人脈を造りあげることも被害者支援の大切な要素である。
・時には遺族だけで行ったり、時には関係者にも入ってもらったりしながら、無理なく進めていくとよい。

○ その他
ファシリテーターから、各地の自助グループとの交流を持ちたいという希望が出された。情報交換の中から視野を広くすることができる交流会は、今後の自助グループ活動の在り方として、実施していきたいことでもある。

○ 精神科医の参加と存在意義
秋田センターの自助グループは、秋田センター相談員が入ることも問題と考えている節があった。また、ファシリテーターや秋田センター相談員も、専門家である精神科医が入ることに抵抗感や拒絶感があったという。しかし、結果的には精神科医に参加してもらって良かったとのことである。これについては、自助グループは遺族だけで支え合うことも大切だが、専門家が入り、適切な助言を得ることも必要なことであるとの助言がなされた。

○ 自助グループの継続
目的を持ち、基本に沿った自助グループなので、ファシリテーターを中心に秋田センターが協力する形で、現状のまま続けていけばよいと思う。今後の課題として、精神的に不安定な新しい被害者を受け入れるとき、面接やその他の支援が必要な場合も出てくるので、秋田センターでの協力体制を整えることが必要である、と助言した。

○ 基本法の成立
支援センター等により支援内容の充実度に差があるため、各地の支援センター等同士で連携を取り、良い支援を行っていかなければならない。被害者への相談体制が十分に整っているとは言えない状況であり、被害者のためには早く改善されるとよい。

(4)感想
※ファシリテーターである三浦氏からの感想を、以下にそのまま記す。
娘が交通事故の犠牲になり、自らの被害体験から秋田県内でも被害者が集って悩みを語り合う場が欲しい、癒しの場が欲しい、情報交流の場にしたいと思う気持ちから、今年4月に交通事故被害者自助グループの立ち上げ準備をした。
会の運営は、秋田センターのスタッフと秋田県警察とファシリテーターの私の3者が、毎回話し合いを持ちながら準備をします。自助グループ参加者は8名で、第4日曜日に例会をもち、これまでは被害者だけの語り合いが中心でした。
このたび秋田の自助グループは、10月と12月の2回にわたり都民センターのスタッフによるご支援を頂きました。2回とも平日だったので秋田の参加者が少なかったのは残念でしたが、支援事業では、都民センターのスタッフ、秋田センターのスタッフ、専門家の立場からは現役の検事、精神科の医師が参加して下さいました。また東北隣県の被害者3名の方にも参加して頂きました。
秋田の参加者には、支援事業を理解した上で参加して頂こうと説明をして準備を進めたのですが、いつもと違った雰囲気にはやはり緊張感があったようです。しかし、会終了後は他県の被害者や参加スタッフと話をしたりして打ち解けた雰囲気も見受けられました。感想としては、「どこまで話せばいいか戸惑った」、「専門家のお話は参考になった、また機会があればお聞きしたい」、「県外被害者の方のお話も参考になった」などと述べておりました。
 専門家の参加は、役に立つ情報や適切なアドバイスを頂く事が多く参加者に有益な事だと実感しました。これから徐々に、理解を得ながら参加をお願いしたいと考えております。
また、自助グループが出来るまでは被害者同士が知り合う機会は皆無と言っていいほどでした。県内参加者は被害から1〜2年の方がほとんどです。この中に20年以上経った方が1名参加しておりますが、この方のお話は参考になる部分が多く会にとってもありがたい存在です。被害者同士が知り合う機会の少ない当会にとって、今回他県の被害者の参加を頂いた事により、幅広い被害者同士の交流も効果的だと感じました。
事前事後研修では、自助グループの基本的な進め方や自助の求める意味などを学び、大変参考になりました。ファシリテーターとしては、被害者がその役目をするのに不都合が無いか、共依存になっていないかなど特に気を配っています。実際の会では、参加者の緊張感を和らげ、ゆったりした気持ちで話せるような場の環境作りも大切だと言う事を学びました。これからも勉強の機会が欲しいと思いました。
 自助グループの運営に関しては、事務的な対応や会場の確保、資金面など被害者だけの運営では負担が大きいという事もあり、秋田センターや県警の協力を頂きながら運営しております。
 被害者として支援センターに望む事は、自助グループを被害者支援の要ととらえ信頼関係を構築し、参加者が様々な効果が実感できるように益々連携を深めて頂きたいと思っております。
 2回のご指導を頂き、秋田の自助グループには大きな刺激になり大変有意義だったと感謝しております。

VII 大阪センター:第2回自助グループ(平成17年1月21・22日)

 今年度立ち上げた自助グループの第2回である。前回と同様に(1)全体研修、(2)自助グループ、(3)フォローアップの順で行われた。自助グループは、前回とほぼ同様の進め方であった。参加者の雰囲気も同様であったが、全部の日程を終えたところで、大阪センター相談員は、現在のメンバーでの基本形にしようという認識が出てきて、相談員間での確認・共有ができたようである。最後に、(4)大阪センターの相談員からの感想を載せる。
(1)全体ミーティング
 都民センター相談員により、被害者支援の基本及び自助グループを行う時に必要な講義が行われ、その後、意見交換をした。
また、都民センター自助グループの参加者からは、自身の被害体験や被害後の自分の精神面や日常生活上の変化を語ってもらった。被害者自身の話から、支援員が学べるものは計り知れず、非常に貴重な時間となった。

○ はじめに
被害者に様々な支援を行う時、身近なところで被害者の心情や現状を知ることができれば、その時期に応じた適切な支援を行うことができる。被害者が仲間の中で自分の気持ちを話す時は、飾ることなく正直に思うままに話すため、その場にいる相談員は、何が被害者に必要なのかを学ぶことができる。また、電話相談や面接相談等からは窺い知れない本当の被害者の姿を知ることもできるため、自助グループの存在は重要である。
以上のような講義の後、都民センターで行われた事前研修会に出られなかった多くの相談員ために、自助グループに関する講義と質疑応答が行われた。

○ 質疑応答
都民センターから相談員に質問し、それに解説を加えるという形式で行った。
Q.なぜ被害者は話せないか。
相談員:「遠慮がある。」、「話したことが伝わらないことがきっかけとなる。あるいは不安がある。」、「立場の違い。決して同じ気持ちにはなれない。本当の気持ちは伝わらない。」、「自分がしっかりしなきゃならないという気持ちがある。」、「どれだけ親しい人であっても、相手の反応が気になる。」、「重い。言葉に出せないくらいショックを受けている。」
A.全部その通りである。また、ストレス反応が災いする。「感情の麻痺」、「回避症状」、「感覚過敏」など、心身に起きた症状が様々に影響する。その点、同じ仲間といると、一言で分かってもらえると思い安心する。家族なら大丈夫かというと、そういう訳でもない。あまりにも辛い体験は家族の中でも話せないことが多い。参加時期については、今までの被害者支援の体験から考えると、日本ではあまり早い時期から自助グループに入ると、他の被害者の話を聞いていることが苦痛に思う人も多いように思うので、数ヵ月〜1、2年経ってからの方がいい。

Q.精神的支援と聞くと、どういうものを思い浮かべるか。
相談員:「話を止めないで、相手の言うことを聞かせてもらう。」、「音楽とか自然に触れる。その人が希望することを一緒にする。」、「自分の気持ちを隠さず話し、聞いてもらう。」、「安心して話せる場所を提供する。評価をしない。そのままの気持ちを受け入れる。」、「あるがままのその方の求めることをする。本人が情報提供を希望すれば与える。また、よく眠れなければ、精神科医を一緒に探す。」
A.大事なことは、安全で安心できる場所で、感情を十分に出してもらうことである。次に、これから起きてくることやそれに対処するための必要な情報を提供する。また、精神的に起きてくる様々な症状については、被害に遭えば当然の症状であることを教える心理教育が大切である。直接的支援を行うようになると、このような基本的な支援体制の大切さを実感するようになる。

○ 自助グループの説明
被害者の悲しみは、支援する側には理解できないことも多いが、被害者は自助グループ等に参加することにより、そこで回復し徐々に社会へ戻って行くことができるようになる。自分の悲しみを抱えた上で、その感情をコントロールしながら、これからどう生きていくのかを考えられるようになる。被害者自身も話すことで気づくことがある。人はそれぞれ、それまで生きてきた環境等によって、同じ被害を受けても、回復の度合いやかかる時間も異なる。同じケースは一つとしてない。このように、自助グループは、被害者支援の一つの方法でもある。こうした前提をもとに、さらに、自助グループの原則、二次被害、進め方等の説明を行った。

○ 都民センター自助グループ参加者(以下、B氏)の話より
毎月、都民センターに通って4年になる。途中で止めようと思ったこともあるが、行くと考えさせられることがあり、自分の中での発見もある。他の人が言われることで自分にも同じことがあったと発見できる。遺族としてではなく、おそらく自分の中に元々あったものに気付かされ、それが自分の再構築につながった。遺族になってもならなくても、被害の程度は違っても、何かを被ることは皆にある。自分は被害者になって一度に被るものが来た。
自助グループでは、新しい人が入ると、その人の状況を理解できるし、今の自分の中に回復している部分を認識することができる。ある程度幸せでいたら、気づかなかったこともある。辛いけど、痛みに向き合い、いろいろ整理したときにそれが自分の財産と思える。被害者にはなりたくなかったが、被害と向き合ったことで得られたものもあると感じている。同じ思いをした被害者にも、そうなってほしい。これは、4年経ったから言えることだと思う。

○ 講演の意味
B氏によれば、被害体験について講演することは、「自信の回復」につながる。普通に生活していたら体験できないことである。話をすると、自分の中で社会との接点が持てる。そして、自分は今後どうあればよいかに気付けるようになる。講演は、そうした良い循環作用がある。

○ 都民センターの姿勢
 B氏は、都民センターの姿勢についても、4年間全く変わらない雰囲気だったことの重要性を語っている。相談員のいつも変わらない姿勢は、被害者にとり大きな意味がある。遺族は距離の取り方が上手ではないので、相談員の方で距離を取ってもらわないと、うまくいかなくなる。遺族同士では、1〜2時間ずっと話し続けてしまう。それはそれで良い。  この「距離感」については、都民センターから、「共依存関係に陥らないこと、対等で、距離を置くことが大切だ」と助言した。相談員は、頼りにされると自分の力を過信してしまう場合もあるので注意を要する、という説明もあった。

○ 質疑応答
Q.自助グループ以外の場で被害者同士がコンタクトをとるときに約束事はあるか。
A.それは各人自由にしている。

Q.参加者で、合わないという理由で自助グループから外れてもらうことはあるか。
A.中に入っている人に出てもらうわけにはいかないので、入るときに面接をして決めている。

Q.人数の限界はどのくらいか。
A.10人から12、3人くらいが適切である。話が長くなる人には、よい訓練にもなる。普通の生活に戻るためにも、耐える力、相手に合わせる力を養うことも目的である。

Q.新しいメンバーが入るときに気をつけることは何か。
A.すでに参加しているメンバーに、「新しい人が入るのでよろしく。」と働きかける。

○ 被害者の五感について
B氏から、以下のような話があった。
植物が好きでいつも花を育てていたが、事件後、触った植物が「ウソ」のように感じられた。今は、自然に生えた雑草の方に共感する。遺族の精神状態は自分でも不思議だと思うが、ウソや偽善が見えてしまうため、その感覚に自分でも付き合っていくことは辛い。事件前と今の自分は違う。相手のわがまま、怒り等は許せるが、「ウソ」は許せない。特に周りは気づいていない中で、自分だけがウソに気づくと辛い。

(2)自助グループ

 ファシリテーターから開始が告げられると、約束事の確認が口頭でなされた。「この自助グループippoは、被害者としての共通の体験を語る場です。約束事、(1)他の被害者との比較をしない、自分の考えを押しつけない、(2)このグループが安心できる存在になるために、守秘義務を守る、(3)それぞれの違いを受け止める、皆違って当たり前、ということです。」
 その後、都民センターから自己紹介がなされ、参加者の自己紹介が続いたが、各人が、前回より多く被害体験についての話をしていた。その後、ファシリテーターが、いつも通りに「自由に意見をどうぞ。」、と言ったところ、一人の参加者が、本人としてはいつものように、自分のことではない他の被害者の話をし始めた。今回、それについては、都民センター相談員から他の人の話はあまりしない方がいい旨を伝え、後で情報交換のときに取り上げるとよいと助言した。

○ 出所情報、その他
今回の自助グループでは、出所情報の話題をきっかけに、刑務所の話と保護司の話が中心となった。年数の経っている被害者にとっては、出所その他を含めた情報というものが全然得られない時代であった。現在は、被害者が情報を得たり助言を受ける窓口があったりするのはいいと思う、と話していた。また、別の被害者は、裁判で加害者側と同室になったときの保護観察官の態度が気になったという。保護観察官は、周りへの配慮、加害者への指導など何もせず私達の隣に平気で座った、との話から、他の被害者からも、保護司への疑問が次々に出た。
 その後、休憩をはさんで刑務所の更生プログラムへの疑問が多数出る。年末にわざわざ悪いことをして刑務所に入るという。犯罪者にとって、日本の刑務所には居心地の良さがある。入りたくないという気持ちにさせないといけない。刑務所が生ぬるい、等というのが皆の感想で、この後しばらく刑務所の話が続いた。

○ 心情の吐露
上記のような状況の中で、自己の心情について、少しだが話をする参加者もいた。「加害少年が、結婚もして子供もいるという事実。少年事件は前科ではなく前歴だという。それを隠して生きていることが許せない。」、等の話が出た。
また、別の参加者は、「何をすることが正しくて、何がいけないのか、自分のすることの方がいけなくて、昔の考えなのか、と思うことがある。」、「今はできないことがありすぎて、元気だった頃に好きなことをさせてあげればよかった。」等と亡き家族への思いを語っていた。その後、2、3の話をはさんで会は終了した。

(3)フォローアップ
○ アドバイス
まずは、今回の自助グループに対して、都民センターからアドバイスがなされた。

 自助グループでは、自分に向き合うという意味で、他のグループの話や支援事例の話をする人がいたら、止めなくてはいけない。ファシリテーターが言っても良いし、大阪センターの相談員が言っても良い。最後に、参加者の感想も、一人一人必ず聞くことが大切である。A4の紙1枚に自助グループの約束事を書面にし、各人に回して、必ず毎回確認するといい。時計も、あと1つか2つ必要である。最初の自己紹介の時に、被害体験、なぜここに来たかを語ってもらうことが必要である。ファシリテーターは、もっと役割を果たすことが必要である。
 この時点では、まだファシリテーター自身にも、自助グループの運営に迷いがある様子だった。「基本は分かるが、大阪には大阪の流れがあるため、構造化を考えると難しい。」とのコメントだったが、このフォローアップの時間を経て、「少しずつ手を加えて、運営方法を変えていく必要があると思う。」、と考え方に変化が出た。

○ 自助グループの構造化
相談員からの、「大阪センターの自助グループ参加者は、自助グループのことを分かっていると思っていたが、実際にはまだ分かっていなかったので、今はこれを変えるときだと思う。」との発言を受けて、ファシリテーターからも同様に、「年が改まったのもいい契機であり、自助グループとしての姿勢をきちんと示していく。その方が支援者としての自分の精神上も良い。」との発言があった。こちらが主体的に実施すれば良い、という助言を受け止めたようだった。

 ○ 大阪センターの自助グループの参加者について
参加者が一番気にかけたのが、他の人の話を止め、自分の話を始めた参加者のことだった。個人ケアがまだ必要な回復段階にあるのだと思われる。支援者となるには、自分が他の人の被害体験を聞いても大丈夫な状態でなければいけない。
 以下は、大阪センターの自助グループへの感想及び助言である。
・本来の自助グループと違う点として、皆自分のことを語らず、他の活動でいやだったこと等を話している。しかし、それは自助グループの目的と異なっている。普通は、日常生活の中で生じる気持ちの揺れを語る所のはずである。
・他の自助グループや支援センター等で自分のことを語らないので、ここも同じで良いと思っており、自助グループに何を求めたらいいかも、分かっていないのかもしれない。
・何年経っても、ここの自助グループは、変わらない姿勢で存在していることが大切である。支援センター等のように安定した存在があれば、被害者はホッとする。被害者の悲しみや苦しみは永久に続くため、大阪センターはいつまでも変わらず被害者の拠り所となる存在でなければいけない。

○ 自助グループのあり方
大阪センターのスタッフから、今までは自助グループに遠慮があったけれど、参加者は、自助グループのことを理解していないことが分かったので、これからは、もっと積極的に実践していこうと思う、との意見が再度出された。これについては、自信をもって、この大阪センターのやり方を示し、基本通りの自助グループを運営していくと良いと助言した。ファシリテーターにも、同様の気持ちでいこうという話が出た。今回の自助グループは基本に帰るチャンスになった。

○ 最後に
ファシリテーター、大阪センターのスタッフに全体の感想を述べてもらった。
・今日は、言いたいことも言えたし、良かった。数年前と比べて自分も被害者支援が分かって来た。しんどい時もあったが続けてきて、良かった。
・運営が辛いと思っていたが、自助グループの枠組みがなかったことが原因だと気づいた。
・このグループを何とかしなければと思いつつ、自分たちでは気づけなかったが、今回の研修で気づいた。
・被害者支援の意義を感じ今まで活動をしてきたが、時には弱気になった。しかし、都民センターの相談員と話す中から希望の光が見えた。できることはできる、できないことはできないと時にははっきり伝える必要性も分かった。
・自助グループの原点について、考えさせられた。相談員として、後方支援に徹することがいいと思いやってきたが、ここのざっくばらんさ=枠組みのないことが問題と分かり、もう一度機会を与えられたと思う。

(4)大阪センターの実施スタッフからの感想
・支援活動に関わり始めた当初から、自助グループの役割の必要性を感じていました。理不尽な出来事によって被害を受けるという体験によって、多くの被害者の方々が社会に対する不信感を強め、孤立感に苦しみながら生活しておられる、そんな現状を目の当たりにし、このような被害者の方々が、安心して人とつながることができる場所が必要だと強く感じるようになりました。「自助グループ」とは、基本的には当事者グループですので、私はセンターのスタッフとして側面的な関わりを重視してきましたが、今回の研修を受け、これまでのやり方を見つめ直す貴重な機会をいただきました。自助グループを継続させていくためには、しっかりとした枠組みを持つことが不可欠で、そのことがメンバーを守ることにもなるのだということを、改めて認識させていただきました。今、大阪のグループはいわゆる「転換期」にあるのかもしれません。「ippo」の良さを活かしながらしっかり取り組んでいきたいと思います。
(前原真比子)

・私たちの前身である「大阪被害者相談室」を立ち上げる際も、被害者の方からお話を聞かせていただき、支援活動の必要性を認識し、大いに力づけられたことが思い出されました。今回、自助グループ立ち上げの研修において、交通事故遺族の語られた言葉一つ一つに、自助グループに助けられ、力づけられ、新しい自分自身を構築され、厳しい体験の中から得られた多くの問題を社会に発信されていく生き様があり、心を打たれました。 被害を受けられた皆さんにとって自助グループの場が、被害回復の心のケアの場となりました。併せて社会生活の復帰への道につながる情報提供なども含めた支援活動の場となるよう、共に協力しながら進めていきたいと思います。
研修の機会を与えてくださった内閣府、また都民センターの皆さんには、感謝でいっぱいです。
(堀河昌子)

・大阪センターでは、被害者の方からの要請を受け2年間の準備期間を経て、昨年4月から自助グループが始まりました。センター主導というより、後方支援(会場の提供など)という形でのスタートでしたので、今回の研修を通して、内閣府の助成を受けた他のセンターの自助グループや、都民センター自助グループのような支援センター主導型の自助グループ運営に、どうスライドさせていくかが課題である、と感じました。今までの自助グループ「ippo」の良さを活かしながら、少しずつ一人ひとりの気持ちに焦点を当て、自分の気持ちに気づき、同じ思いを仲間と共有していくことで、次なるステップに踏み出していけるような、本来の自助グループ活動のあり方に持っていくことができればよいのではないか。そのことが被害者の方の回復にも必要とされることではないか、とあらためて気づかされる良い機会となりました。
(楠本節子)

(5)今後の課題
・目的と基本ルールについて
フォローアップの際に指摘していただいたように、これまで曖昧になっていた枠組みをもう一度捉え直す必要がある。メンバーが安心して自己表現できる場としてグループが機能する為に、目的やルールの確認を毎回行い、メンバーの発言内容やその人間関係等に対しても適宜配慮していきたい。
・新メンバーの受け入れについて
新規に参加を希望する被害者の方々をどのような形で受け入れるか、慎重に検討する必要がある。まずは上述したように、現在のグループの枠組みをしっかりと作っていくことが、早急の課題であろう。新規のメンバーが抵抗なく安心して入れるような体制をメンバーと共に協力して作っていきたい。

IX おわりに

 平成16年度は、都民センターで自助グループ立ち上げ研修と継続研修を行い、その後各地のセンターに出向き、実際の自助グループと被害者支援に関する研修を行った。 都民センターでの研修会は、各支援センター職員の意見交換と交流の場にもなった。この交流は、自助グループ間においても、今後どのような形で取り組めるか、考えていく機会にもなった。都民センターでこのような研修会を開くのは初めてのことであったため、プログラムの組み方等には改善の余地があった。
 本年度立ち上げの各センターについては、現地での研修の際、単に自助グループの立ち上げだけでなく、各センターの相談員への研修も行った。このような研修を通じて、各センターの活動状況や、支援に対する認識、各センター内の雰囲気等を理解することができた。
前年度立ち上げた各センターも、それぞれの特徴を持っているためその特性や地域性を生かした自助グループ活動を推進することにより、さらなる被害者支援活動の充実を目指す必要があると思われた。
 自助グループは、支援センター等と車の両輪のような関係にあるため、今後も各地の支援センター等に自助グループを立ち上げていくことが重要であると考えられる。


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